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【じゃじゃ馬代王】秘密基地を取り戻せ!

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【じゃじゃ馬代王】秘密基地を取り戻せ!

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3章 秘密基地の正体

「ほんっと、キリが無いわね」
 次々と襲い掛かるコボルトを倒しつつ、理子たちはひたすら奥へと歩を進めていた。行く先行く先でまるで狙ったかのように現われる。大して強くないとは言え、こうも数で攻められると厄介なことに代わりはない。巣を作ったのかと言う疑念も最後まで捨てはしなかったが、こちらの動きを読むかのような動きだ。コボルトにそこまでの知能があるとは考えがたい。
「少し、雰囲気が変わってきたな」
 レオンの呟きは理子も思うところだった。静寂が沈殿したような坑道内は空気まで凝固したように奇妙におだやかで、凪いでいた。それが、僅かではあるが、じりじりと波立っているのを肌で感じる。乱されていると言ったほうが適切だろうか。
「理子っち、あそこに誰かが」
 レオンが声を潜め、すぐさま灯りを細めた。
 ガツンガツンと何かがぶつかる音がする。まるで、何かを掘っているような――。
 ビンゴか。理子がレオンを見上げると、レオンも少年のような顔で理子を見下ろしていた。どうやらコボルト以外の“何か”が巣くっているようだ。
 しかし、灯りを持たずに暗がりで作業するなんて無謀すぎやしないだろうか。ただの炭坑夫ではなく、ダークビジョンなど心得のある人物だとしたらあまり油断はできない。

 不意に音が止んだ。姿までは確認できないがこちらへ近づいてくるようだ。気付かれただろうか。捕まえて根掘り葉掘り吐かせるのでも理子からすれば構わないのだが――僅かな灯りに照らされた、つるはしを担いでいる人物の顔に、理子たちは驚いた。
「あんた――!」
「ああ?」
煩わしそうに振り向いたのは国頭 武尊(くにがみ・たける)だった。振りかぶったつるはしを壁に打ちつける。灯りを強くしたレオンの懐中電灯が眩しいのか、目を眇めている。
「何をやってるんだ」
「見りゃ分かんだろ、石掘ってんだよ」
 纏まった金が欲しいとネットのアングラサイトを見ていたとき、ヒラニプラ郊外での短期バイトを見つけたのだ。契約者と言う事で、一般人よりも肉体労働には向いている。ダークビジョンもあるから灯りも必要ない。雇い主にも喜ばれ即採用となった。
「こっちは仕事なんだ、邪魔すんじゃねーよ。お前等が報酬以上の金を支払ってくれるってんなら、話は別だけどな」
「採掘許可は? 廃坑とは言え、ここは私有地だろ」
「さあな、オレはそんなことまで知らねえよ。雇われただけだから」
 雇い主がどんな人物であれ、こっちは仕事して報酬さえ貰えればそれで充分だ。余計な事まで詮索する必要は無い。募集を見つけた経緯を考えれば、後ろ暗い物件だなんて考えるまでも無い。
「アングラサイトの掲示板か?」
「……知ってんのかよ。そういうの軍人の悪い癖だぜ、レオン」
「その話、聞かせてもらえるか」
「どうせお前等が知ってるのと同じことしか知らねーって。教導団さまのほうが、色々調べられるだろ。それとも協力すると金が出るのか」
「そちらの態度次第だな」
レオンの問いを掌で犬のようにあしらった武尊だったが、白竜の一言に気を引かれる。
「この依頼の結果にもよるが、あるいは教導団からの報酬も――検討しよう」
 真偽を確かめようと、武尊は白竜の顔を見た。もったいぶった口ぶりに武尊は顔を顰め、舌を打った。

「酷いよな〜、あいつら。せっかく俺様が差し入れまで持ってきてやったのによ〜!」
 秘密基地というロマン溢れる響きに誘われやって来たゲブー・オブイン(げぶー・おぶいん)は『差し入れ』を持って坑夫たちに仲間にしてくれと詰め寄った。しかし全く相手にされず、うなだれていたのだ。そこにコボルトが現われた。イカすモヒカンに仲間意識を覚え、一緒に差し入れを楽しんで居たところだ。光るモヒカンとガハガハという笑い声に、理子は怖気を感じ足を止めた。嫌な予感ほど的中するのは何故だろうか。
「あ、あいつ……」
 理子は思わず顔が引きつらせた。耳ざとく聞きつけたゲブーは爛々と目を輝かせる。
「おっ推定Aおっぱいちゃんじゃねえかっ!」
「その呼び方止めなさいよ!! ていうかドコで人のこと判断してんのよ!」
 喜色満面に近寄ってくるゲブーへ、これ以上近づくなと引き抜いた剣を突きつける。目を吊り上げる理子に、ゲブーはにんまりと嫌な笑みを浮かべる。腕を組みうんうんと感慨深げに首を縦に振る。
「そうかそうか〜、俺様にモミモミされてレベルアップしたんだろ。秘密基地にまでついてくるなんて、案外カワイイとこあんじゃねーか! 推定Aちゃん!」
「はあ!?」
「まかせておけっ俺様にかかればなあ……」
ギラリ、とゲブーの目が光る。嫌な予感に思わずあとじさる理子へ、手をワキワキさせながら地面を蹴った。こういう時だけ異常な跳躍力を見せるのは何故だろう。
「BどころかCも軽いぜ! うお〜! モミモミさせおぶっあばばばばばばばば!!!」
「大丈夫ですか? 理子様」
「あ、ありがとう……すごいわね、それ」
「しっかりお守りするように言われてますから」
 にっこり微笑むその足元では、ゲブーが体中に走る電撃に悶えている。ティーがスタンスッフで電撃をお見舞いしたのだった。さらにイコナが「追い討ち!」といわんばかりにモヒカン目掛けて魔砲ステッキを振り下ろしていた。
悶絶した拍子に落ちたのだろうか。本のようなものが散らばっている。拾い上げてみると漫画にしては薄く、サイズも大きい。見ればゲブーがコボルトと(一方的に)慰めあっていた場所にも似た形の本が数冊広げられていた。
「なにこれ? 漫画?」
「手土産なんだぜ! それで俺様も秘密基地に入れてもらおうと思ったんだぜ!」
「ふうん……」
 ぱらぱらとめくっていく理子の手がすぐに止まった。肩もワナワナと震えている。どうしたのだろうと覗き込んだレオンも目を丸くした。ティーは顔を背け、同じ様に覗き込もうとしたイコナの両目を覆い隠す。
「やっぱり秘密基地といえばエロ本! エロ本といえば秘密基地だろっ!」
「バっカじゃないの!? 何考えてんのよアンタ!!」
「お。おおおお!? 推定Aちゃん、おっぱいはAなのにキックの威力はメガトン級だぜ……っ!」
 ゲブーの手土産とは――同人誌『秋葉原四十八星華』だった。