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荒野の大乱闘!

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荒野の大乱闘!

リアクション

「オラオラオラオラーッ!!!」
 要と共に不良たちとケンカする者がいれば、要から離れてケンカする者もいる。それは協力者であったり、あるいは他人であったりするものだ。
 のぞき系硬派を自称する弥涼 総司(いすず・そうじ)は要の協力者として、この乱闘に参加していた。とはいえその戦闘方法は、厳密には拳や蹴りではなく、フラワシ「ナインライブス」によるものだったが。
「み、見えない攻撃は反則……」
「俺らコンジュラーじゃないよぉ〜」
 学ランの不良たちの戦闘方法は、もっぱら近接格闘攻撃であり、魔法や射撃を扱う者はいない。手に持った鉄パイプや石、あるいは自転車のチェーンやメリケンサックを使うこともあり、時にはそれを投げつけてくることもあったが、それはどちらかといえば――彼らにとっては邪道に分類される戦いだった。
 だからこそ日奈々の射撃や総司のフラワシ攻撃は彼らにとって非常に脅威だったが、それでも「数」を覆すのは困難だった。
「やれやれ、こいつらが弱くて助かってはいるが、こうも人数が多いと面倒だな……」
 フラワシに殴らせることでそれなりに優位を保ちながら戦えるが、人数が多くてはその内対処しきれずにやられてしまうだろう。
 この状況を打破するには、何かしら「ひと押し」が必要だった。
 そしてその「ひと押し」が向こうからやって来た。
「どけどけぇ〜! 要さまのお通りだぁ〜!」
 時に飛び蹴りを、時にパンチの嵐を、そして時には体当たりで不良たちをなぎ倒しながら、要が総司の方へとやって来た。もちろんアレックスも一緒である。
「ん、何だ要さんもこっちに来たのか。後アレックスさんも」
「いや〜、殴ってたらたまたまこっちに来ちゃったみたいだね!」
「その後ろをついていくだけだから楽でいいわ」
 不良たちと戦ってきたからか、さすがに要も無傷というわけにはいかないらしく、服の一部が少々破れている。アレックスの方は都合がよすぎるような気がするが完全に無傷だった。
「なるほどな。だが要さんよ、さすがにこの人数は厳しくないか?」
「うん、そうだね。まだまだ体力は残ってるけど、ちょ〜っとキツイかな?」
「だろうな、オレもそう思ってたところだ」
 そして総司はそんな要を見て何かを思いついたらしく指を鳴らす。
 ここにいるのは硬派な不良ども。そして要は「熱血硬派ごっこ」をやりに来た。ならば「あの技」を発動させることができるかもしれない。
 総司は要に近づき、その両肩を掴んだ。
「なあ要さん、ちょっと名案があるんだが……」
「ん、何?」
「そう、そっちの協力無しにはできない必殺技だ」
「必殺技!?」
 思った通り、要は総司の話に食いついた。彼女はこういった単語には弱いのである。
「そう、ここであの学ランどもをぶっ飛ばす技だ! つまり、『にんげんみさいる』!」
「おお〜!」
「というわけで、だ。投げられてもらうぜ」
 言いながら総司は要の胸倉を掴む。
 にんげんみさいる。それは2人の人間が行う連携技であり、1人が相棒を持ち上げ、前方に全力で投げ飛ばすというものだ。例えば倒れた敵であったり、あるいは味方であったりと、要するに他人を武器にして投げつけるというある意味危険な技である。
 そして総司は要を使ってそれを実行しようとしていた。要自身は体力と耐久力には自信があったため、別に投げられることそれ自体に依存は無かった。
 だが総司は1つ間違いを犯した。それは、要の胸に手を当てたということである。
「ん? てめー……」
 そして総司は不運だった。彼は要の性別を把握していなかったのである。
「女か……。それもまだションベンくせえ……」
「…………」
 普段からパンツルックの要はどちらかといえば中性的な外見をしているが、よく見れば女性であると判断はつくのだ。逆に言えば、一見してすぐに女と判断するのは難しいということである。
 その理由は簡単だ。胸元の2つのふくらみが、同年代の女性と比べて「小さい方」だからである。完全なまな板ではないのだが、それでも小さめであることには変わりは無い。
 総司が知らなかったのは「要も女だった」ということ、つまり女性としての羞恥心があったということである。いきなり胸をペタペタ触られて嫌がらない女性は「普通は」いやしないのだ。
「やれやれだ……」
 そんな事情を総司が知っているわけが無く、そのまま要を持ち上げようとする。
 だがそれは失敗に終わった。顔を真っ赤に染めた要が、いきなり総司の腹に蹴りを見舞ったのである。
「ぐふうっ!?」
 腹にめり込んだのは要の右膝だった。足を伸ばさなかったのは総司との距離が近すぎたためである。
「よくも人の胸をじっくりいじってくれたね……」
 膝を下ろすと要は1歩下がり、今度は右足を振り上げ、男性にとって最大級の急所に一撃を入れる。
「ほっふあぁっ!?」
 肺から息を無理矢理出され、総司は前かがみの姿勢になる。そこに今度は要の左足が飛んできて、総司の顎に直撃した。
「私にだって恥じらいとかはちゃんとあるんだよ!」
「げほあっ!」
 3発の蹴りを受け、総司はその場で仰向けに倒れた。
「あ〜あ、やっちまったよ……。こんなんでも要は『女』なんだからさ……」
「ホントだよ、まったく!」
 結局3連打を止めようとしなかったアレックスの呆れた声をバックに、要は総司の体を持ち上げ、そしてそのまま勢いよく投げ飛ばした。
「くらえ〜! にんげんみさいる〜!」
「のわあっ!?」
 ミサイルと化した総司は、数人の学ランを巻き込み、そのまま再起不能(リタイア)となった。

 そんなひと騒動もあったが乱闘はまだ続く。少なくとも200人以上の人間が殴り合いを演じているのだ。
 そんな中にあって日比谷 皐月(ひびや・さつき)は要をターゲットに動いていた。彼は元蒼空学園の生徒だったが、かつて十二星華が絡んだ事件において重要人物の誘拐未遂事件を起こし、ツァンダ家から指名手配を受け、パラ実送りにされた男である。
 そのような経緯もあって、今の彼はパラ実生。だからこそ「今の」仲間であるパラ実生が襲撃を受けるのを良しとしなかった。
「いやまあ、喧嘩は男の華だって言うし、それは悪くねえんだけどな。ただこれは……」
 少々一方的過ぎやしないだろうか。皐月は暴れに暴れる要を見てそんなことを思った。何しろ要が拳を振るう度に学ランが殴り飛ばされ、蹴りを見舞う度に蹴り飛ばされるのだ。学ランどもが意外と弱すぎるというのも原因ではあっただろうが、それを抜きにしても要には奇妙な強さがあった。
 戦闘経験だけで言えば要は非常に弱い部類に入る。それこそ皐月が真っ向から対立すれば、単なるパワー馬鹿の要などあっさり倒せる。先だってリカイン・フェルマータやシルフィスティ・ロスヴァイセが倒されたのは、協力者がいたことに加え、偶然の要素が絡んだことが大きいのだ。
 だがそれで怯むような皐月ではない。目の前で仲間が倒されていくのを放っておくわけにはいかなかった。
「死人は出さない、そして仲間は守る。そうするためには、まずあいつを倒す必要がある」
 光条兵器であるリバースフライングV――ギターの形をしたそれを片方しかない腕で持ち、要に突撃した。
「ん!?」
 突撃してくる皐月の姿が目に入ったのか、要はすぐさまそちらを向く。ギター片手に殴りこんでくる人間を見たならば、要としては応戦せざるを得なかった。
 だがこの両者の戦いは始まらなかった。
「ヒャッハー! なんか面白そうな事やってんじゃねぇかァ! D級四天王のこのオレも混ぜろやコラァ!」
 荒ぶる原始の力で気合を入れ、スパイクバイクを乗り回し、自他共に認めるD級四天王の吉永 竜司(よしなが・りゅうじ)が乱入してきたのである。
 彼がここに来たのは単なる暇つぶしだった。暇を持て余し、あても無く荒野をバイクで走っていたらどこからともなく聞こえてくる喧騒。見ればケンカやバトルの雰囲気が漂っているではないか。ならば、参加しない手は無い!
「どわっ!?」
「わきゃ〜!」
 割り込んでくるスパイクバイクを必死で避ける皐月と要。皐月はその場で何とか持ち直したが、要はそのままいずこかへと消えた。
「ちっ……、逃がしたか」
 だが追いかけている暇は無い。バイクの上から竜司が皐月をターゲットにしたのである。
「お、なかなかいい目をしてるじゃねえか、兄ちゃんよぉ。どうだい、このイケメンのオレと喧嘩してくれねえか?」
 皐月が鈍器を持っているのが見えたのか、竜司もバットを握り締める。ちなみに竜司の「イケメン」とは自称であり、実際の彼は「トロール」というあだ名がついていたりする。
「まったく……、オレはパラ実に襲撃に来た奴を相手にするつもりだったのによ……」
 これではどう見てもパラ実生である竜司の相手をしなければならなくなったではないか。相手がそれなりの熟練者であることを見て取った皐月はギターを握る手に力を込める。
「とりあえずおまえを倒したら、次はさっきの女だ。さっさと倒れてもらう」
「おいおい男は女に優しくするもんだろうが。それならオレはその女を守るためにてめえの相手をしなけりゃならねえわけだ。それに……」
 周囲を見ればどこかで見たような学ランの群れ。そうか、ここは硬派番長のテリトリーだったのか。以前からその存在を知っており、いつかは拳を交えてみたいと思っていた硬派番長のげんだ。竜司はいつか訪れるであろうケンカの光景を胸に、バットを握りしめる。
「というわけで、行くぜオラァ!」
 一声と共に飛び出したのは竜司だった。皐月はそれをギターで受け止めようとするが、力だけで言えば竜司に分があり、そのまま押し切られそうになる。
「ちっ!」
 皐月とて戦闘に関しては素人ではない。それなりの防御術はわきまえている。だがこの巨漢を相手にするのは少々骨が折れる。
「負けるわけには……、いかねえんだよおっ!」
 何とかギターでバットの軌道を逸らし、皐月は反撃に出る。それを竜司は体をひねって、左腕でガードする。
「おおっと、なかなかやるじゃねーか。だが、ちょいとばかり力が足んねーな。鍛えた方がいいんじゃねえか?」
「オレが弱いって事なんて、端っから承知の上なんだよ……。でもな、だからって指銜えて見てる訳にゃいかねーだろうが……!」
 再び両者の得物がぶつかり合う。
 無くした左腕の服の袖をフェイントに利用する皐月。特に細かい技術を考えずにただひたすら攻撃し防御する竜司。そのまま互いに急所を「狙わない」戦いが続く。これはあくまでも「ケンカ」であって「殺し合い」ではないのだ。
 途中で殺人的な「恐れの歌」が竜司から発せられたのは気のせいに違いない……。

「あうう……。さすがにちょっと入り乱れすぎだよ、これ」
 先ほどの乱入のせいでアレックスと離れ離れになってしまった要は、向かってくる学ランを殴り倒しながらうろうろと荒野をさまよっていた。大きな負傷はしていないが、さすがにどこかでアレックスのヒールが欲しくなる――剣の花嫁は総じてプリーストの技を知っている者が多く、アレックスも例外ではない。
 だがそんな彼女を邪魔するかのように更なる襲撃者がやって来た。フィアナ・コルト(ふぃあな・こると)と、フィアナを守るように動くパートナーの相田 なぶら(あいだ・なぶら)である。
「見つけましたよ要さん!」
 元々斧だったものを剣に打ち直した「ランドグリーズ」と名付けた大剣を背負い、フィアナが要に迫る。
「要さん、遊びたいなら私と一緒に遊びませんか?」
「ふぇ?」
 要に近づけたフィアナは、彼女と相対し、正面からそのようなことを口にする。
「いえね、遊びと言うのならルールを決めて正々堂々やった方が楽しいと思いますよ? 幸い私と貴方のクラスも得物も同じものですしルールも決めやすいです。そっちの方が楽しいと思うのですがどうでしょうか?」
「えっと……、それってつまり、1対1の勝負ってこと?」
「ぶっちゃけそういうことですね」
 フィアナがこの乱闘に参加したのは、要と1対1の勝負をするためだった。自らの父を殺した仇敵を打ち倒さんがために、力を求めるヴァルキリーはこれを機会に乱闘ではなく「勝負」をもって要の遊びに付き合おうとしていたのだ。
「え、でも、今は光条兵器持ってないよ?」
「えっ? 手持ちの武器は無いんですか?」
「だって他の武器なんてみんな小さいし」
 要は大剣士ではあるが「自分の武器」は全く持ち歩かない主義だった。それというのも、アレックスが呼び出す光条兵器よりも「大きい」ものが見つからなかったからである。
 通常の光条兵器よりも威力が大きい武器は存在する。単純に「強化型」となればそれなりの攻撃力は保障されるのだが、要には「大きくなければ威力は小さい」という思い込みがあったため、「小さいが高威力」といった存在には見向きもしないのだ。
「……困りましたね、どうしましょうか」
 相手が巨大剣を持っていないのであれば勝負がしにくい。そう考えたフィアナだが、そこに都合よくアレックスが追いついてくれた。
「おい、こんなところにいたのかよ!」
「あ、ちょうどよかった。アレックス、また剣出して」
「あん? 今度は誰を相手するんだよ。……ああ、そういうことね」
 言いつつ巨大剣を取り出し、要に渡すアレックスは、その場にいたフィアナとなぶらの説明を受け納得した。
「ルールは簡単です。ここに2本、線を引きます」
 言いながらフィアナは要と自身の背後に線を引く。
「この線の間でお互い向かい合い、死力を尽くしただ打ち合うのみです。線から出たら負け、膝を付いても負け。単純でしょう?」
「動かずにただ剣を振り回せってこと?」
「そういうことですね」
「うん、それならいいよ〜」
 そうして2人は線の間で構え、互いに大剣を振り上げる。
「それでは、正々堂々……、死合いましょうか!」
 そして振り下ろす。2人の剣が頭上で重なり合い火花を散らした。
 一旦剣同士を離し、両者とも横向きに構え、薙ぎ払うように振る。要とフィアナの力はほぼ互角だったが、剣の扱いという点においてはフィアナの方が分があった。
「なかなかやりますね……」
 接触した剣をまた離し、フィアナは再び薙ぎ払うようにして振る。それを要は飛んで回避し、上段から斬りかかる。上からやって来る3メートルをフィアナは剣を盾にして受け止め、力ずくではじき返す。
 そして今度は両者共に、斜め上から振り下ろし、鍔迫り合いの体勢に持ち込む。どちらかが力を抜けばその時点でバランスが崩れ、勝負はついていたかもしれないが、要もフィアナもそれをせず、あくまでも自分の方が力があると主張せんばかりに押し続ける。
 だが、それはいつまでも続かなかった。フィアナと要の勝負の邪魔をさせないようにと、2人の周囲で不良たちの足止めを行っていたなぶらの悲鳴があがったからだ。
「あぁ、やめて攻撃しないで、ちょっとだけでいいから待って〜!」
 不良たちには恨みは無いので、できるだけ攻撃はせず説得に専念していたなぶらだったが、ついにその堤防が決壊したらしい。
「まったく、なぶらは何をしているのです――え?」
 鍔迫り合い状態のままフィアナはなぶらのいた方を向き、要もそれにつられて同じ方向に顔を向ける。
 そこにあったのは、学ランを着た不良2〜30人ほどがなぶらを押しつぶして殺到してくる光景だった。
「な、なんですかこれはあああああああ!?」
「ひえええええええ〜〜〜〜〜!?」
 簡単な話だった。なぶらが不良たちを抑えていたのはいいのだが、今回のメインターゲットである要が――フィアナとの勝負のため、その場から動いていないという情報が知れ渡ったため、そこに不良たちが集まってきたというだけである。その数が非常に多かったためなぶらでも抑えきれなかったのだ。
 結局、津波のごとくやって来た不良たちから逃げるため、要とフィアナは勝負を中止せざるを得なかった。2人とも大剣を持っているため、それを振り回せば2〜30人くらい薙ぎ倒すのは簡単だったのだが、それよりもその光景に対するショックの方が大きかった……。

 不良の波から逃れられたのはいいが、それとは別の波が要に襲いかかっていた。
「ああもう、ホントにキリが無いよ〜!」
「そりゃあ、推定200人だしな……」
 フィアナとの勝負があやふやとなったため、また剣をアレックスに回収してもらい、要は素手で不良たちと戦っていたが、向かってくる人数の多さには辟易していた。そしてこの間もアレックスは全く襲われていない――ここまで来ると本当に彼は無視されているだけなのか、それとも実は「奴にはかなわない」と不良たちが認識しているのか怪しくなってくるが、実際は前者である。
 そんな状況下において更なる乱入者がやって来た。荒野を疾走するアーマード レッド(あーまーど・れっど)と、その肩に乗った緋王 輝夜(ひおう・かぐや)の2人である。
「ちょっと待ったー! 事情は良くわからないけど襲われてるなら手助けするよ!!」
 レッドから降りて、要の前に立ち塞がるかのように輝夜は不良たちと相対する。人数差から考えて要の方が不利だと判断したのだ。
 立ち塞がった輝夜は自身のフラワシ――鋭く大きな爪を持つ鼬の姿をした「ツェアライセン」を呼び出し、ミラージュも発動して不良たちの駆逐にかかった。
「どわ〜! また見えない攻撃か〜!」
「痛え! 殴られるのはともかく斬られるのはマジ痛え!」
 輝夜がここにいるのはある人物を探し出すためだった。元蒼学生で現在パラ実生をやっていた片思いの相手――日比谷皐月である。当の彼は、輝夜が家族と認識しているパートナーエッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)が殺したということになっているが、本人はそれを信じられず、このようにシャンバラ中を放浪しているというわけだ。
(見つけたら、あたしの気持ちを伝えなきゃ……。皐月……)
 結論から言えば、輝夜はまさかその皐月が割と近くで戦っていることに気づかず、会えずに終わる。
「おいおい、女子供を相手に何てこずってるんだお前たち」
「む、むらかみさん!」
 そんな輝夜と要の前に現れたのはE級四天王の1人、むらかみだった。その手にはもちろん何も持っていない。
「それがむらかみさん、あの女結構強いんですよ。それにあっちの子供は見えない攻撃ばっかりしてきますし」
「ちょっと、子ども扱いしないでよ! あたしは19歳よ!?」
 子供と言うが、輝夜の見た目は14歳程度である。まあ身長145cmというのも手伝って子供っぽく見えてしまうのだろうが……。
「ふん、まあどっちでもいい。本当は女子供を相手にケンカはしたくないんだが、相手が全力でかかってくるなら仕方が無い。2対1でも構わん。このむらかみが相手になってやろう……」
「おお〜、中ボス戦だね!」
 ようやく訪れた四天王とのバトルに心が躍る要だが、残念ながら彼女の希望は叶えられなかった。
 輝夜は一体どうやってこの場に登場したのだろうか。そう「アーマード レッドの肩に乗って」である。
 このレッドは機晶姫なのだが、その身長はなんと4メートル、体重は6900キロにもなる。しかも全身に物々しい武装が施されており、まず左肩には口径105mmのレールキャノン砲、右肩には6連装ミサイルランチャー、左腕は隠し武器という形で携行用パイルバンカーが内蔵されており、右手には口径30mmの大型レーザーガトリング、両の脛にはミサイルポッドが3連装ずつ取り付けられ、特殊複合結界装甲と長距離偏差射撃プログラム、ダッシュローラーで固められているのだ。
 はっきり言って、重武装にも程がある。
「救援行動開始……。援護シマス」
 機械音声のため、表現上は漢字とカタカナによる表記だが、そんなことはどうでもいい。レッドはその言葉と共に、まず右手のガトリングを乱射する。
「ぎゃあああああああ!?」
「が、ガトリングは危険すぎ〜!」
 その射撃により不良たちは1箇所に集められる形となる。もちろんむらかみも例外ではない。
 集まったところでレッドは右肩、及び両の脛に装備されたミサイル12発、そしてついでと言わんばかりに左肩のレールキャノンも連射した。
「NOOOOOOOooooo!!」
「無理! これは絶対に無理〜!!」
「つーか、俺、出てきただけかYO〜!!」
 そのような断末魔を残しつつ、集められた不良たち及びむらかみは全員その場でぶっ飛ばされた。これで死者が出なかったというのは奇跡に近いといっても過言ではないだろう。

「うっひゃ〜、これはすごいや……」
 レッドの一斉砲撃によって倒された不良たちの惨状には、さしもの要も唖然とするしかなかった。
「だが、これでまあ少しは楽になったってとこだな」
「うん、そうだね! やっぱり大きさは正義!」
 次の瞬間には要の目は不良ではなく、4メートルのレッドに向けられる。確かに人間離れした体格と装備の彼を見ていると、大きければ何でもできるような気がしてくるのも肯ける。とはいえ、いくら4メートルのレッドでもイコンが相手では勝ち目は無いのだろうが……。
「それじゃ、あたしは皐月探さなきゃいけないから」
「うん、じゃあね、てるよちゃん!」
「字が同じだからっててるよとか言うな!」
 そして要とアレックスは輝夜たちと別れ、まだ戦っている不良や契約者たちを置いてげんだの方へと向かっていった。