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ローレライの音痴を治そう!

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ローレライの音痴を治そう!

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第十二章 去りし後

 その場にいたのはラナ・リゼットとイングリット・ネルソンだけだった。
「するとローレライの音痴の矯正は?」
 ラナはローレライにして上げられる練習は終わったと告げる。
 薔薇の学舎の大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)フランツ・シューベルト(ふらんつ・しゅーべると)、蒼空学園のグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)ベルテハイト・ブルートシュタイン(べるてはいと・ぶるーとしゅたいん)は気落ちした様子を見せる。
「ごめんなさい。せっかく来ていただいたのに」
「ああ、しゃあないな。もうちょい、はよぉ来れたらよかったわ」
「ローレライとの対面は楽しみにしてたんですけどね」
 泰輔とシューベルトは苦笑いした。
 それはグラキエスとベルテハイトも似たようなものだった。
 仕方なく帰るかと思ったところで、シャンバラ教導団の佐野 和輝(さの・かずき)アニス・パラス(あにす・ぱらす)スノー・クライム(すのー・くらいむ)が、 蒼空学園からテスラ・マグメル(てすら・まぐめる)が、薔薇の学舎からはクリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)クリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)が到着する。
「よろしければ、この方達と一緒に歌っていきませんか? ローレライではありませんが、教わりたい人もいますから」
「はーい、教えて欲しいでーす」
 元気よく手を挙げたアニスに、その場の雰囲気がなごむ。

 まずテスラが腹式呼吸やボイストレーニングなどの基本的な声の出し方を教えた後、グラキエスとベルテハイトが発声練習を行う。
 それらを聞きながら、大久保泰輔とシューベルトが歌いやすい曲を選択する。
 最後にクリストファーとクリスティーのリードで歌うことになった。

「先生がいっぱいだぁ。アニスが間違っても、あんまり怒らないでね」
 アニスの可愛らしい反応に、教授陣からドッと笑いが起こる。

「そう、自然にお腹で呼吸をして声につなげるの。無理をしちゃダメよ」
 テスラは機晶シンセサイザーで、アニスの声を引っ張っていく。優しく丁寧に指導していくことで、アニスは次第に声の出し方を理解していった。
「あなたにはあなたの持ち味があるの。そしてあなたにしか歌えない歌があるの。わかるかな?」
「うーん、ちょっとわかんない」
 クスッとテスラが笑みを浮かべる。
「そうね、ちょっと難しかったかも」
 再び声をリードする。
「誰かを真似しようなんて考えないでね。あなたのままで良いの」
「うん、アニスのままで良いんだね」

「テスラさんも女性だったんだね」
 アニスの練習の終わったテスラにクリスティーが話しかける。
「何か目的があって?」
「別に……無理に男性の格好をしていると言うわけではないのですけど」
 ややもすると冷たいと思われがちなテスラの物言いだったが、クリスティーは素直に謝罪した。
「ごめんなさい。ローレライやボクのように何か訳があると勘違いしたもので」
「いえ、謝ってもらうと私こそ……ごめんなさい」
「ボクもクリストファーも声楽が大好きなんです。この後の演奏が楽しみですよ」
 
 ベルテハイトの演奏にグラキエスが発声をリードしていく。テスラが削った玉が、2人の手によって磨かれていく。
 アニスはスポンジが水を吸い込むように、グングン能力を開花させていった。
「こうまで反応が良いと、教えがいがあるぜ」
「やれやれ、こんなことくらいで……こっちは付き合いで来ているだけだからな」
「そう言うベルテハイトも指がいつにも増してスムーズじゃないか」
 鋭く指摘されると無茶苦茶に演奏するが、アニスの「わかんなーい」の言葉であわてて元に戻す。
 一通り練習が済むと、「そろそろティータイムにするか」と皆を誘った。
「アニス、ハーブティを作ってきたよ!」
 ベルテハイトとグラキエスは、敵わないなとばかりに肩をすぼめた。

「あれ? 和輝は?」
「疲れて寝ちゃったみたい。そっとしておいてあげましょう」
 アニスとスノーの2人でお茶の準備をする。
「和輝の寝顔って、こんななんだねー」
「可愛いけど。他の人に見られるのは面白くないわね」
「じゃあ、ハンカチを被せとこうか」
「それは……ちょっと」
 それでも結局、ハンカチを目の部分にだけかけておくことになった。
「お待たせー」
 アニスとスノーがハーブティーを配る。
 ティータイムでは、泰輔とシューベルトが選曲の発表をした。
「無難と言われればそれまでだけど、童謡や民謡を選んでみたんです」
 シューベルトが曲名を書いた紙を回す。「歌曲の王」と呼ばれた彼が選んだだけあって、誰からも文句は出なかった。
「まぁ、楽しく歌うちゅうんが一番ちゃうか? あんまりガチガチにならずにいこか」

 シューベルトとテスラとベルテハイトとが楽器を担当。クリストファーとクリスティーがアニスをリードしつつ歌う。他のメンバーも好きなところで歌うことになった。もちろんラナは竪琴を弾きながら歌声を響かせる。
「では、行きます」
 前奏が始まる。そしてクリストファーとクリスティーに導かれるようにアニスも歌う。スノーやイングリットもタイミングを見ながら参加した。
「これは撮っても良いわよね」
 まゆりは放送部員にキューの合図を出した。

「退屈しなかったろ」
 振り向いたグラキエスはベルテハイトの顔を見る。
「まぁ、悪くはなかったな」
「素直じゃないなぁ」
「誰かさんに似てるんだろ」

「そうか、いつの間にか寝ちゃってたから」
「アニスの歌声、和輝に聞いて欲しかったのに」
「これから何度でも聞けるでしょう?」
 アニスとスノーは困った顔をする。
「それが……アニスったら、もうコツを忘れちゃったみたい」
「えーっ、今日の練習は何だったの?」
「さぁ、ローレライの奇跡かしら」

「ラナさん、お疲れ様です」
「いえ、おふた方こそお疲れでしょう」
「今日はお手伝いもあったんですが、もうひとつお願いしたいことがあったんです」
「……お願い?」
「俺とクリスティーをラナさんの弟子にしてもらえませんか?」
 ラナはちょっと驚いた顔をしたものの、ゆっくり首を振った。
「俺達じゃ、足りないものがあるんですか?」
「いえ、そうではないんです。そのような上下関係になるのはあまり…………。音楽を楽しむのに不必要だとは思いませんか?」
「そうかもしれませんね」
「またご一緒する機会があるとうれしいです。その時も音楽を楽しみましょう」