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ローレライの音痴を治そう!

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ローレライの音痴を治そう!

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第八章 割り箸と携帯プレーヤー

 以前、ローレライにスキル清浄化を施した、リリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)ユリ・アンジートレイニー(ゆり・あんじーとれいにー)が再びこの地を訪れていた。
「では1人ずつ調べていこうか」
 あの時と同じように目隠しをさせると、リリ曰わく4オクターブまであるユリの発声を追うように、練習希望の学生達に声を出させた。
 シャンバラ教導団のセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)と引きずってこられたセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)
 空京大学の騎沙良 詩穂(きさら・しほ)。同じく空京大学でパートナーの音痴をなんとかしたいと思っている九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)と、当の座頭 桂(ざとう・かつら)
 そして治す側として参加したが、「念のために」と椎名 真(しいな・まこと)も検査を受けた。
「どうでした?」
 心配そうなラナに、リリは「問題なし」と首を振る。
「聴覚には異常なさそうだ。つまり単純な音痴なのだな」
「ちょっと待ってくれ! 俺は音痴じゃないよ!」
「私だって!」
 椎名真とジェライザ・ローズが抗弁する。
「あぁ、そうだったな。音痴かどうかは別として、全員聴覚には問題なしなのだよ」
「面白いものですね。見つかる時は見つかって、いないときにはいないとは」
「何か外見で共通性でもあれば良いのだがな。こればっかりは今後の研究課題なのだよ」

 その後は椎名真とジェライザ・ローズの指導の下、音痴の矯正を行うこととなった。
「割り箸発声法ってのを調べてきたけど、これは必要ないかな?」
 ジェライザ・ローズは止めようと思ったが、「楽しそうじゃない」とセレンフィリティが興味を持った。その横ではセレアナが『ああ、またか』と言いたげな顔をしている。
 結局、全員が割り箸を加えて発声練習をすることになった。なぜか椎名真とジェライザ・ローズ、そしてイングリットとラナまでも。

「あめんぼ あかいな あいうえお ハイ!」
「あめんぼ あかいは あいうえお」

 なぜかセレンフィリティが発声をリードしていた。

「セレンフィリティ ナイスバディ ハイ!」
「セレンフィリティ ナイスバディ」

「セレンフィリティ 宇宙一 ハイ!」

「セレンフィリティ 宇宙一 って、いい加減にしなさいよ!」
 とうとうセレアナに引きずり下ろされた。
「せっかくノッてたのにー」
 ぶつぶつ言いながらも、騎沙良詩穂に注目する。
「キャー、カワイイ! ね、ちょっと写真とって良い?」
 返事を待たずに、割り箸を加えた彼女の顔を写真に収める。
「止めなさいよ。断って良いのよ」
「いえ、このくらいなら……」
「そうそう若い頃は冒険しなくちゃ。割り箸はもう良いわね。ちょっと眼鏡を外してみようか」
「はい」
「可愛いわねー。今度は髪をかき上げてみましょうか」
「はぁ」
「暑いからネクタイ取っちゃおうか。胸元をグッと開けて、そうそう」
「……はぁ」
「もうちょっと胸があると完璧! お風呂でマッサージしてる? こうやって揉みあげると、バストアップの効果抜群なの」
「そ、そんな…………ぁあん♪」
 ガコン!と音がしたと思うと、セレンフィリティが頭を抱えてうずくまる。セレアナがランスの柄で思いっきり叩いていた。
「限度ってものがあるわよ。あなたも程ほどで断らないと」
「なんか流されちゃって、ところで……揉み上げると効果があるんですか?」
 詩穂はセレアナの胸をうらやましそうに見つめた。
「し、知らないわよ!」
 セレアナはそう言いつつも、セレンフィリティとのラブラブお風呂タイムが脳裏に浮かんだ。

「えーっと、そろそろ良いですか?」
 いくらか赤い顔をした椎名真が皆に呼びかける。
 次にジェライザ・ローズは、耳を塞ぎながら歌う練習法を紹介した。
「歌声を知ることが大事なんだって。本当はレコーダーで録音して聴くのが良いんだけどね」
「ありますよ。レコーダー」
 椎名真が携帯音楽プレーヤーを取り出した。
「メロディラインを携帯の着メロアプリで作ってきたので、これにそって音程の練習をしてみようかって持ってきたんです。あと録音もするので、自分の声を客観的に聞いてみると良いかと」
 早速やってみる。詩穂、セレンフィリティ、セレアナはそこそこの発声だったものの、座頭桂は壊滅的な発声だった。
「この声、なんとなく覚えがありますね」
 ラナがローレライの方を見る。自覚があったのか、ローレライも苦笑いした。
 しかし肝心の桂には、自覚が皆無だった。
「私が? 嘘やろー。ろーずからも一回もそんなこと言われたことあれへんよ。そうやろ、な、ろーず」
 矛先を向けられたジェライザ・ローズは「ごめん、言い出せなかったんだ」と顔を伏せた。
「私が、音痴……音楽でも食べてた私が……」
 ガックリと肩を落とす……かと思いきや、いきなり笑い出す。
「そんなもんどうでも良いわい。歌は楽しみながら歌うもんや。‘好きこそものの上手なれ’って言うやろ。諦めずに歌えば上手くなる。絶対にな。諦めない気持ちこそが‘才能’ってもんやで」
 その後にセレンフィリティも付け加える。
「ねえ、歌って歌う人のその時々の気持ちが恐ろしいほどストレートに反映されるんだよ。あなたが何かに凄く焦っているようだけど、一度それを全部吐き出すなり忘れてしまうなりして、気持ちを整理してごらん? きっと気分も楽になれて、いい歌が歌えると思うわ」
「ローレライさんの歌声が必要な事情って、何なんでしょう?」
 詩穂が尋ねたものの、詳しい理由が伝えられることはなかった。
「とりあえず今日は、また歌ってみませんか」
 ラナの提案でいろんな歌を歌うことになった。
 詩穂がベースギター、桂が琵琶を演奏する。あとは好き好きに歌っていく。ここしばらくの練習で上達してきたローレライも楽しそうに歌えるようになっていた。
「やる気あるの?」
 歌うことが苦手のセレアナが小声で歌っていると、セレンフィリティにハッパをかけられる。「ままよ」とばかりに大声を出すと、さすがにいくらか調子がずれるものの、椎名真が巧みにフォローした。他人にアドバイスをして行くうちに、彼自身も上達していた。

 ── 他人に教えることも勉強のうちか ──