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蛙の代わりに雨乞いを……?

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蛙の代わりに雨乞いを……?

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     ◆

 一方、買い物に向かっていた美羽、ベアトリーチェ、結和は途中で歩と別れて近くのホームセンターに到着してた。
「えっと、買う物のおさらいね!ホース、如雨露、ビニールシート、それから……」
「団扇が二、三枚と虫籠、それに虫取り網とスコップ、ですね」
「スコップ、何に使うんでしょうか…」
 美羽の言葉に補足を入れるベアトリーチェと、その補足の中に首を傾げる結和は、しかしホームセンター内に入り、分担してそれぞれの売り場へ向かった。
流石に分担作業の為に、全部を揃えるのにそれほど時間を有す事なく、三人は再び合流してレジへと向かった。会計もすんなり済ませていると、「あっ!」と結和が声を上げた。
「すみません、領収書…お願いします。ごめんなさい」
 申し訳なさそうに店員に言う彼女へ、二人が不思議そうな顔をした。
「“ウォウル・クラウン”宛てで、お願いします」
「かしこまりましたー」
 店員がすらすらと領収書を作成しているのを見て、二人が尋ねる。
「あ、えと…此処に来る前、ラナさんからご連絡いただいて、『必ず領収書を出すように』と…すみません」
「しっかり、してますよね」
「…うん」
 それを聞いた二人は、ひきつった笑いを浮かべて領収書を待っていた。

     ◆

 懸命に走る歩は、公園周辺を歩く人々に声を掛け続ける。
「あの、突然ですみませんけど…私たち、今雨を降らせようとしているんです。それで、もしお洗濯とか干してたら、取り込んだ方が良いですよ」
 一人の男性にその事を伝える彼女は、しかし彼から意外な言葉を聞く。
「あぁ、うん。降らせるんだ、了解。そうだよなぁ、ちょっと最近、雨降らないもんなぁ」
「え、あの…雨を降らせるって、変だと思いませんか?」
「何言ってるの?降らせるんでしょ、あれで。あぁ、だから今日、公園にあの人だかりがあったんだ。君たちかぁ…」
「…?」
 どうやら彼の青年、雨を降らせる祠の事を知っている様な口ぶりで、歩に返事を返している。だからだろう、歩は恐る恐る彼に尋ねた。
「あの――知っているなら教えてもらいたいんですけど…白いふわふわしたもの、ご存じですか?」
 男は暫く考え込んでから、ああ、と笑顔を溢した。
「知ってるよ、あれね。うんうん。そっかそっか、雨降らせるってなったら、出てくるかもねぇ」
 彼の言葉を聞き、歩は一路公園内に戻る事にした。何せ、“梅雨によく見る白くてふわふわしたもの”の正体がわかったのだから。
故に彼女は懸命に走った。

     ◆

 公園の西側出入り口付近に到着したウォウル達一行は、歪な光景を目の当たりにしていた。小さな祠が、それは見事に、と言うよりは若干気味悪く並んでいる。
「まぁ、確認しなくてもわかりますが、多分此処ですね…」
 近遠が苦笑ながらに呟いた。それを横目にセレンフィリティ、セレアナが近くにあった祠を適当に開けてみる。自分より小さな祠な為に、体を入れるわけにはいかないが、どうやら中腰になって覗き込めば、中が見える様である。
「あれ…なんかスイッチあるね」
「普通こういうのって『ご神体』かなんかが入ってるんじゃないのかしら…スイッチって」
 思わず苦笑を浮かべる二人に習い、全員が順々に近くの祠を開けて中を覗いてみる。
「あ、ほんとだ、スイッチあるね」
「これを押せば…よろしいのですか?」
 直樹とユーリカが最後に見ると、一同に振り返った。
「だろうな…つーより、露骨にスイッチってのも、なんかあれだな…」
「そうだよね…でも、ちょっと怖い像とかじゃなくて良かったなって思うよ」
 龍矢の言葉に頷きながら琴乃が眉を顰める。
「ところでさ。祠、五個あるね! ねっ! 誰が押す?」
 朋美が何処か嬉しそうに、はしゃぎながら言った。
「待て! そなたたち待て! まぁ待て!」
 突然、朋美の視界に手が伸びる。しかもかなり近い距離で。
「きゃっ!?」
 驚いた彼女が、思わず短い悲鳴を上げた。
「朕が! 朕が押そう。皆の代表として。…寧ろ押したい! ちょっと押してみたい!」
「こらこら、またそんな我儘を」
「何故だシンイチ! 何故そなたは朕の行く手を阻もうとするのだ! もうっ!」
 頬を膨らませて怒るトゥトゥを見て、樹が苦笑しながら進一に言葉を投げかける。
「まぁ、良いじゃないか。こんな機会滅多になさそうだし、押したいやつが押せばいい。だろ?」
「こ、こた…こたもすいっちおしたいろ…」
 樹の肩からひょっこり顔をだしたコタローがもじもじしながら言う。
「うわぁ、近くで見ると可愛いねぇ」
 その姿をまじまじと見た託が、樹の元へやってくるとコタローに目線を合わせた。
「こんにちは」
「こ、こんちゃ…」
「コタロー君、だよね」
「こ、こた…おにゃのこ…」
 もじもじとそんな事を言うコタローを見て、託は笑顔のままに首を傾げる。
「あぁ、ごめんな。コタローは女」
 樹が苦笑しながら、今コタローが述べた言葉を伝えた。
「そうだったんだぁ…ごめんね、コタローちゃん」
「うぅ…」
 コタローが思わず顔を赤らめながら樹に隠れてしまった。
「あらぁ、託。コタローちゃんに嫌われてしまったんのちゃうの?」
 優夏が苦笑しながら託の肩に手をやった。
「えぇ、僕何もしてないんだけどなぁ…まぁ、男の子と勘違いしてたのは悪かったなぁって、思うけどねぇ…」
 彼の言葉に一同が笑った。
「さて、それでどうするのさ? スイッチ、押す人決めなきゃいけないんでしょ」
 一区切り、とでも言う様に白羽。
「じゃあ……押したい人ぉって、挙手して貰えばいいですの」
「手っ取り早くて良い」
「ですわね」
 ユーリカの提案に、イグナとアルティアが賛同した。
「じゃあ聞いてみよう。押したい人ぉ!」
 ルクセンがユーリカにならってそう言うと、ちらほらと挙手が見えた。
「私はちょっと、押してみたいよね、やっぱり」
 やや照れたように笑いながら、結が口を開く。
「私も押したい! なんか面白そうじゃない」
 セレンフィリティは威風堂々、と言った様子で手を上げている。どうやら彼女、結構乗ってきた様だ。
「駄目よ、あんたあんな小さい物押そうとしたら、絶対壊すわ」
「えー! 嫌よ! 押したいのっ」
 慌てて制止するセレアナだが、しかしどうにもセレンフィリティはあのボタンが押した様子である。
「私も押したいなぁ!」
 と、どうやら先程の発言、自分が押したかったから、と言うのもあったらしく、朋美も手を上げている。にんまりとした笑顔。
「お、四人かぁ…じゃあじゃあ、昴も押そうよ! 一緒にさ」
「私は…良いです。皆さんで、押してください…」
「えー、詰まんなーい」
「では…」
 すっ、と、何とも優雅に上がる腕。その主は、リオン。
「これで五人、ですね」
「リオン、実はちょっと押したかったんだよねぇ」
「…北都、それは言っちゃ駄目ですよ」
 凛々しい表情を浮かべる彼だが、どうやらスイッチに随分興味があったらしかった。と――そこで。

「…ん? あれは――」

 今までほぼ口を開かなかった昴が、そこで何かに気付き、空を見上げる。
「…あれって」
 ルクセンは、信じられない様子で、眉を顰めながら昴よろしく空を仰いだ。
「うわぁ、可愛いですわねぇ、てるて――」
 空に浮かび、彼女たちの上を横切ったのはほかでもない。――てるてる坊主。
その何とも愛らしい姿にユーリカが顔を綻ばせると、しかし次の瞬間、何とも悍ましい光景が空一面に広がる。故にユーリカの笑顔は、そのままの状態で硬直している。勿論、彼女だけではなくその場にいた全員が、言葉を失い、ただただ呆然と空を仰いでいた。