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契約者の幻影 ~暗躍する者達~

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契約者の幻影 ~暗躍する者達~
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第6章(2)

「ふむ……どうやら男性の方が脅威のようですな。そちらから先に片付けましょう」
 和泉 猛(いずみ・たける)東雲 いちる(しののめ・いちる)の複製体を相手にしている陳宮 公台(ちんきゅう・こうだい)が周囲にそう告げる。複製体相手の為に残った陳宮や龍滅鬼 廉(りゅうめき・れん)はまず最初に近距離での攻撃を控え、相手がどんな出方をするかを伺っていた。
「陳宮おじちゃん、何でなのー?」
「あちらの方が雷を使用して来る分厄介ですからな。当然脅威な方から対処するべきでしょう」
「のー、良く分からないけど、分かったのー」
 ロード・アステミック(ろーど・あすてみっく)肩に乗っているキャロ・スウェット(きゃろ・すうぇっと)の疑問にそう答える。複製体であるは放電させる技能を、いちるは主に氷結系の技能を持っていた。どちらも水場の多いこの地形では厄介な物になり兼ねなかったが、その中でも水を使えば直接的かつ広範囲な威力を持つ猛の方が、対処するには重要度が高かった。
「相手も水場に連れ込めば機動力を落とせると思ったが、雷使いが相手ではそう上手くはいかんか」
「そうやな。ジュディに氷術で足場作らせたろかと思うたけど、あいつを何とかしないとな」
 陳宮の方針に乗る廉と七枷 陣(ななかせ・じん)。問題はその少ない足場でどう追い込むかだ。その疑問に辿り着いた緋桜 霞憐(ひざくら・かれん)が周りに尋ねる。
「向こうが来てくれるなら楽だけど、来ないだろうな……どうする気?」
「んー、チャンスがありゃ一気に近づくんやけどなぁ。雷を何とかせんと狙い撃ちされるか」
「ふっふっふ。陣よ、我の手が氷術だけと思うなよ」
「何やジュディ、手があるんか?」
「うむ、『われのかんがえたすごいさくせん』では無いからな。ちゃんとした物じゃ。まずは皆が奴の逃げ道を塞いでじゃな……」
 ジュディ・ディライド(じゅでぃ・でぃらいど)が皆に作戦を伝える。それを受けて霞憐やロードなど、直接攻撃に関わらない者達はが逃げ道に使いそうな方向の足場に予め陣取っておく。
「……ねぇ遙遠。乗り気じゃないのは分かるけど、せめてこのくらいは協力してイタダケマセンカ?」
 移動の際、霞憐はただ自分に付き添ってきただけの緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)をジト目で見る。遙遠は身内の事にならやる気を出してくれるのだが、如何せんこう言った直接自分に関係の無い事では働いているように見せかけて何もしていない事もしょっちゅうだった。
「大丈夫ですよ霞憐。ヨウエンはこの足場をしっかり護らせて頂きますから。それはもう、ここから動かない勢いで」
「何その自宅警備員みたいな……はぁ、まぁいいか」
 諦めて他の場所を封鎖する為に移動する霞憐。次第にへの包囲網が完成しようとしていた。
「ふむ、包囲作戦か? 不用意に近づけば雷の餌食なのは変わらないと思うがな」
「ならば餌食になっても平気な者をぶつければよいのじゃ。行け! アルト、ネーゲル!」
 ジュディの合図に従い、二匹のレイスがへと向かって行く。
「なるほど。だが残念な事に俺は炎も扱える。この程度で代わりは――」
「気を取られれば十分じゃ。行け! リーズよ!」
「うん!」
 ジュディの狙いは一瞬でも雷を放つ手を止める事だった。が炎熱系の魔力を高めている間に、リーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)がバーストダッシュですぐ隣の足場にまで到達する。
「それから、これ!」
 更にリーズは大剣をその場で思い切り水に叩き付けた。その勢いで飛ばした水しぶきがにかかり、火術の勢いが弱まると同時に電撃の使用を不可能にする。
「よっしゃ、もう自爆が怖くて雷は使えんやろ」
 反対側の足場にはリーズの直後にバーストダッシュで移動した陣が着地していた。このチャンスを逃さぬよう、禁じられた言葉とヒロイックアサルトで魔力を強化して行く。
「唸れ、業火よ! 轟け、雷鳴よ! 穿て、凍牙よ! 侵せ、暗黒よ! そして指し示せ……光明よ!」
 五つの属性の魔力波が掌へと集まり、次第に炎熱を象徴する赤へと変わって行く。極限まで高まった魔力をファイアストームへと変換すると、陣は跳躍し、至近距離からの一撃をへと叩き込んだ。
 
「セット! クウィンタプルパゥア! ――爆ぜろ!!」
 
 一瞬にして炎がの身を包み、影へと変える。炎が消えた時には既に彼の姿は無く、完全に魔力の塵へと還っていた。
 
「おやおや、出遅れてしまいましたね。私達も早くしないと」
 既に複製体の片方を倒したのを見て、月詠 司(つくよみ・つかさ)が援護に入る準備をする。それをシオン・エヴァンジェリウス(しおん・えう゛ぁんじぇりうす)は何かを企んだ笑顔で見送った。
「ふふ、行ってらっしゃい……さて、と」
 実は司の身体には宿屍蟲(アギト)と呼ばれる寄生虫が宿っていた。体内の宿屍蟲が活発化すると司の意識が宿屍蟲の物に変わるのだが、シオンは事もあろうにそれを強制的に発動させると、おまけに変身携帯たるたろすを使って司の服装を魔法装女の物へと変身させた。
「題して『ヤンデル魔法装女★』。さて、皆の反応はどうんな感じかしらね」
 性質の悪い事に、シオンは自分が楽しめるかどうかしか考えておらず、調査の結果などには特に興味を持っていなかった。その為宿屍蟲化した司は敵味方の区別無く手当たり次第に襲い掛かる。
「また俺に……罪を重ねろというのか。俺に罪を……罪を感じさせてくれよぉっ!」
「つ、司さん!? どうしたんですか!?」
 突然知り合いに襲われた篁 八雲(たかむら・やくも)は動揺を隠せない。更に状況を混乱させる元凶として、ケイオース・エイプシロミエル(けいおーす・えいぷしろみえる)強殖魔装鬼 キメラ・アンジェ(きょうしょくまそうき・きめらあんじぇ)の二人までもが乱闘に加わって来た。
「司おにぃさま、何だか楽しそう。私も皆に愛を教えてあげなくっちゃ」
「わ〜い、アンジェも遊ぶ〜★」
「な、なんだよこいつら……うわっ!?」
 八雲同様、いきなり起きた乱闘に混乱していた霞憐が司に襲われる。元々防御主体で来ていた為にとっさに防ぐ事は出来たが、司の行動は遙遠を動かすのに十分だった。今までのやる気のない状態とはまるで別人のごとく素早く霞憐の場所まで辿り着き、そのまま安全な位置へと連れて行く。
「霞憐、怪我はありませんか?」
「う、うん」
「それは良かったです。危ないですからちょっとここにいて下さいね……行きましょうか、遥遠」
「えぇ、遙遠」
 紫桜 遥遠(しざくら・ようえん)を引き連れ、笑顔と言う名の怒りを浮かべながら遙遠がなおも暴れている司へと向き直る。その手には極限まで魔力を高めた冷気が渦巻いていた。
「――! 皆様、急いでこちらへ!」
 危険を察知したロードがとっさに周囲へ警戒を促す。次の瞬間、遙遠から放たれたブリザードが司を中心に、敵味方関係無く飲み込んで行った。乱闘が乱闘を呼ぶこの状況に、本来唯一の敵側と言えるいちるは完全に混乱してしまっていた。
「え、えと。私はどうすれば良いのでしょう……」
「安心して下さい。すぐに皆さんと同じ場所に連れて行って差し上げますよ」
「え?」
 どこからともなく聞こえたその声の主を確認するよりも早く、上空の死角から飛来した遥遠がいちるを消滅させた。そのまま彼女は遙遠と一緒に乱闘へと加わって行く。
「……どうするんや、この状況」
「怖いのー。みんな暴れてるのー」
 何とか安全圏まで退避した陣達は呆れた目で乱闘を見ていた。
「とりあえず、この状況を治めるにはどうすれば良いと思う? 陳宮」
「乱闘の元凶となった男とその仲間を大人しくさせるしか無いかと」
「それしか無いか……」
 廉がため息をつき、刀をしまう。向こうでは司と遙遠が乱闘を続けていて、いつまたこちらに被害が出ないとも限らない状態だった。廉や陣達は互いに頷くと、飛び交う魔法などの隙を縫って司達に近づいて行く。
「きゃはは、ケイオースちゃん、楽しいね〜」
「えぇ、司おにぃさまも本当に楽しそう。ふふっ」
「俺を……こんな俺を許してくれよォ〜!」
 好き放題に暴れるアンジェ、ケイオース、司。その三人が気付かぬうちに接近した廉達は数人がかりで掴みあげると――
 
「一回」
「反省して」
「きぃやっ!!」
 
 ――水の中に投げ落とした。全力で。容赦無く。
「はぁ……これで反省してくれればいいんだけどな」
 両手で埃を払いながら霞憐が水中を見る。いや、そっちだけじゃない。乱闘の一員を作った家族もある意味問題といえば問題か。幸い司達を投げ込んだ事と、霞憐が再び魔法の範囲に進入して来た事から二人共攻撃を止めてくれているが。
 遙遠が今回の行動を取った理由が自分が狙われた事だと分かっているだけに、霞憐はどうやって今後無差別攻撃を止めさせるべきか悩むのだった。
 
(あらら、三人とも派手にお仕置きされちゃったわね。でも面白そうだからこのまま浮かび上がるまで撮影してましょ)
 元凶でありながら全く被害を受けない場所に隠れてスパイセットによる撮影を行っていたシオン。一番反省するべきは、彼女なのかもしれない――