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超能力体験イベント【でるた2】の波乱

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第10章 封印解除

 黒の十人衆は、生徒たちの大活躍のおかげで次々に倒されていき、いまや、残るは
カノンを包囲している3人のみとなっていた。
 だが、この3人が強敵だったのである!
 覚醒して新必殺技を使用した生徒は、使用後に力尽きてリタイアした者が多く、生徒たちに残された戦力は限られてきていた。
「私の名は、ミナ・コロシ。黒の十人衆の紅一点よ!!」
 唯一の女性であるミナは、くの一のようなファッションから繰り出される矢継ぎ早の攻撃で生徒たちを圧倒する。
「俺の名は、ストーカー・ジェラルド。ナンパが趣味だが、やるときゃやるぜ!!」
 威勢のいい口調のストーカーは、口ばかりでなく、超能力の技能もかなりのものだった。
 そして、黒の十人衆のリーダー。
「私の名は、仮に、鉄仮面とさせて頂こう。それなりの覚悟を決めてきた以上、カノンの生命はとらせてもらう!!」
 その名のとおり鬼のかたちをした鉄の仮面をかぶっているリーダーは、素顔がわからないことが、異様な迫力をかもしだしていた。
 また、戦闘能力においても、他のメンバーよりも抜きん出た力を持っていることは明らかだった。
 カノンも海人もいまだ健在ではあったが、これ以上闘いが長期化すれば、一般生徒への被害は広がるばかりだと、明確に予想できた。
 もっとも、精神が不安定になっていたカノンはそのような状況を「危機」とさえ認識しなかったが、海人の憂慮は相当なものだった。
 早急に悪漢を倒すべきだが、海人の強大な力を持ってしても、3人の強敵を同時に攻略することはできないし、また、超能力はその性質上、精神集中にコストを要するため、かく乱のため動きまわっているそれぞれの敵を1人ずつ倒すのも容易ではなかった。
 いや、1人ずつ、も不可能ではないかもしれないが、それでは結局時間がかかり、被害の拡大を防ぐことはできないし、他の不安定要素への対応がおざなりになってしまう。
 たとえば、精神が不安定なカノンは、またいつ暴走を起こして、一般参加者を襲わないとも限らないのだ。
 状況を総合すれば、いろいろな意味で「余裕」がないのである。
 海人としては、自分一人の力ではもちろん限界があり、生徒たちの活躍に期待していたのだが、その生徒たちも、疲弊してきたのである。
 何としても、黒の十人衆を速やかに倒さなければならない。
 そのためには、どうすればよいか。
 海人の超能力スキルがどちらかというと防御向きで、複数の強敵を同時に倒せるような性質のものではないことが、状況を余計難しくさせていた。
 決断のときが、迫られていたのである。

「カノン、もう観念しろ。私たちも犠牲を払ったが、生徒たちも、大半が倒れた。もはや、残っている生徒たちの手の内も知れている。これ以上生徒たちを巻き込みたくないなら、自らその首を差し出すこともまた、賢明な選択だと思うが?」
 黒の十人衆のリーダー、鉄仮面は、カノンを追いつめるつもりで、いった。
 精神的には、自分たちが優位なはずだった。
 だが、カノンは、たからかな笑いをもって答えた。
「アッハッハッハ! ずいぶんふざけたことをいうんですね! たとえ、周囲の生徒がみな倒れて、私一人になってしまったのだとしても、闘い続けるに決まってるじゃないですか! このナタで、あなたたちの首を残らずはね飛ばしてみせます!!!」
 カノンは、目をギラギラ光らせて、鉄仮面に斬りかかっていった。
 その攻撃をきわどいところでかわし、驚いたといった風に息をつく鉄仮面。
「これはこれは。真の狂気に近づいているということか。あるいは、もともと周囲のことなど気にしない性格なのか。まあ、私たちも人のことはいえないので、構わないのですが。なら、あなたの生命を奪うまで徹底して闘いましょう!!」
 その鉄仮面の言葉を聞いたとき、海人は決心した。
 全てを収束し、例によってめちゃくちゃになってはいるが、それでも生徒たちの安全をどうにかこうにか確保するために、やむをえないと考えた。
 海人は、自己の責任において、最後のカードを切ることにしたのである。
 海人は、静かに念を凝らした。
 校長によって半年近く監禁されている間にためこまれ、増幅されていた力のありったけを解放する。
 そして。
 海人は、イベント会場内の、展示ブースの「展示」全てにサイコキネシスを行使した。
(みんな、聞いてくれ。一時的に、君たちの封印を解除する!!)
 檻やカプセルの封印が次々に解かれ、展示されている強化人間その他の者たちが解放されていく。
「おっ? 何だか知らないけど扉が開いたぜ! そんじゃ、寝ているのにも飽きたし、そろそろ活動させてもらうか!」
 解放された南鮪(みなみ・まぐろ)は、ニヤニヤ笑いながら、檻の床にあったパンツを一枚手にとって、歩きまわり始めた。
 そして。
(うん? よいのか。わざわざ我を解放するとは! だからといってうぬを殺戮の対象から外すつもりはないぞ?)
 須佐之男命にとりつかれている柳玄氷藍(りゅうげん・ひょうらん)もまた、拘束を解かれ、檻の外に出てきたのである。
 そのほか、解放された「危険」な強化人間の面々に、海人は精神感応で呼びかけた。
(みんな、勝手なお願いだとは思うが、どうか協力してもらえないだろうか。いま、このイベント会場は、鏖殺寺院から派遣された「黒の十人衆」によって蹂躙されている!! 罪のない一般参加者も巻き添えになっている状況は、どうにかしなければならない。君たちを一時的に解放したのは、力を貸してもらいたいからだ。君たちのその強大な力を、憎むべき暴徒のために使ってはくれないだろうか?)
 海人は、どう転ぶかわからない、大きな賭けに出ていた。
 何しろ、本当に勝手な「お願い」なのである。
(ほう。確かに寺院の連中がのさばるのも気にくわないから、倒してやっても構わない。だが、その後は、我らの好きにさせてもらうぞ。再度封印しないと約束するなら、協力しよう)
(その約束はできない)
(何だと!!)
 海人の返答に、「機密」の強化人間たちは穏やかならぬ心境になった。
(君たちが監禁されていたのには、それなりに事情があることだ。僕としては、解放するなら君たち全員を解放すべきだと思うが、一律にそんなことはできない。そうかといって、一部の人だけ別の扱いにするのも不公平だと思う。だから、僕のお願いを聞いてもらった後で、君たち全員を再度封印するつもりだ。勝手な話だとは重々承知だが、それでも、やってもらえないだろうか)
(ふざけたことを。見返りはない、という前提でボランティアをやれと?)
(そうだ。このまま学院がめちゃくちゃになってしまってもいいのか? 各自で考えて欲しい。頼む)
 さすがの海人も、この依頼がどう受け取られるかは、全く検討もつかなかった。
 そして、返ってきた返答をまとめてみると、以下のようなものだった。
(まあ、いい。一度解放してもらった借りがあるのは事実だ。単に鏖殺寺院の連中が気に入らないという気持ちもある。ふっ、ぶっちゃけ、監禁生活が長くて、何でもいいから暴れてみたかったんだ。とりあえず寺院の連中から片づける。だが、その後のことは、俺たちの勝手だ!!)
(わかった。だが、僕は君たちを再度封印するつもりだ。そのことはいっておく)
(ふん!)
 こうして、海人と、「機密」の強化人間たちの会話は終わった。

「うん? この気配。すさまじい力の持ち主たちが、こちらに? まだこれだけの戦力があったのですか? まさか、『展示』を解放したのでは? そんな無謀なことを、本気でやるとは」
 黒の十人衆を統べる鉄仮面は、強化人間たちの襲来の気配を敏感に感じ取った。
「うがあああああ!! 殺してやる!!」
「暴れたくてたまらなかったんだよ!! 一方的に監禁しやがって!! 教育? コントロール? 大きなお世話だぁっ!!」
 もともと、ただ性質が危険なだけではなく、周囲に甚大な被害を及ぼす強い力をコントロールできないという理由で監禁されていた面々である。
 それらの「危険人物」がいっせいに襲いかかってくるというのは、黒の十人衆にとっても脅威だった。
「アハハハハハハハハ! アハハハハハハハ! 急に愉快な仲間が増えましたね!」
 カノンは大喜びで、ナタを振りまわす。
(横島沙羅。君の目の封印も、一時的に解除しよう)
 海人は、目に拘束具をつけられていた横島沙羅(よこしま・さら)の拘束も解いた。
「あはは。みえる、しばらくぶりにみえるよ! ありがとう。御礼に、いっぱい暴れてあげる!!」
(いっておくが、後で再び封印を行う)
「何でもいいよ。暴れられるなら!!」
 横島は束の間の解放感に狂喜して、非物質化により隠し持っていたナタを物質化すると、他の「危険」な存在とともに、黒の十人衆に斬りかかっていた。
「うーん、沙羅は、監禁されないだけマシだけど、要するに今回『展示』されてる人たちと同じタイプなんだなあ」
 西城陽(さいじょう・よう)としては、パートナーの元気な姿をみられるのは嬉しいが、複雑な心境だった。
「ちいっ! 弾いても弾いても、襲いかかってくるわ!」
 ミナ・コロシは、サイコキネシスで投げ飛ばしても、剣で斬りつけても、火炎攻撃を行っても、しぶとく立ち上がって襲いかかってくる強大な敵を前に、途方に暮れつつあった。
 そんなミナの前に、あの男が襲いかかってきた!
「パラミタパンツ四天王【パンツ愛の電動者】見参! いやあ、寺院にも、べっぴんさんがいらっしゃるとはな! ワクワクしちゃうぜ! ヒャッハー!!」
 解放されてハイテンションになっている南鮪がミナの下半身にしがみついてきた。
「な、や、やめて! 変態!!」
 ミナは顔を真っ赤にして、南の顔面に肘打ちをくらわせるが、監禁生活が長く、新しいパンツに飢えていた南はびくともしない。
「ワハハハハハハ!! たまりにたまった性欲の圧力をもとに、いまこそ覚醒する!! パンツ性拳奥義パンティーサイコメトリ!!
 南は、ミナの衣に手を突っ込むと、そのパンツを剥ぎ取り、頭からかぶって、そこに封じられた記憶を読み取ったのである!!
「みえる、みえるぞ、お前の全てがぁ!! 精神的にも丸裸だぁぁぁっ!!」
 よだれを垂らして絶叫する南。
 ミナは、ついに我慢の限界に達した。
「い、いや。いやいやいや。イヤァァァァァァァ!!」
 ボーン!!
 超能力の暴走による大爆発が巻き起こり、南をモロに巻きこんだ。
(※ミナの覚醒技:ハイパーイヤボーン
「お、おわあ!! せっかく手に入れたパンツがぁ!!」
 ミナのパンツが、そこに封じられた記憶とともに散り散りになっていくのを目のあたりにして、南は断末魔の悲鳴をあげた。
 そして。
 爆発がしずまったとき、そこには、全身黒こげになって倒れている南の姿だけが残されていた。
 どうやら、ミナは、恥ずかしさのあまり、どこかに消えてしまったようである。

 黒の十人衆の8人目を倒した! これで残るは2人! 次は誰が倒れるのか?

(海人といったか。我と対等にやりあおうと考えるとは、面白い奴だ。だが、奴も裏切りの子の一人。後でじっくり殺してやろう)
 須佐之男命にとりつかれている柳玄氷藍(りゅうげん・ひょうらん)は、殺戮の対象を求めてイベント会場をさまよう。
 もとより、須佐之男命としては、海人にいわれたとおり黒の十人衆から先に倒すつもりはなく、最初に目についた者から片っ端に襲って、徹底的に暴れるつもりだった。

「リオ! 大変だよ。『展示』がいっせいに解放されちゃった! どういうことなのかな? とにかく、全員連れ戻さなきゃ!」
 展示会場の警備をしていたフェルクレールト・フリューゲル(ふぇるくれーると・ふりゅーげる)は、突然の事態に驚き、パートナーに呼びかけながら走り出していた。
「わかってる! 誰かがサイコキネシスで解放したんだろうけど、どういうつもりなんだろ? 僕たち警備スタッフとしては大迷惑だね。とにかく、一緒に探してまわろう!!」
 十七夜リオ(かなき・りお)もまた、あまりの緊急事態に頭がくらくらしたが、何とか自分を取り戻して、職務を遂行すべくひた走った。
「特に、あの、柳玄って人が暴れ出したらやばいよ!! あっ」
 フェルクレールトは、目を大きく見開いて、立ち止まった。
 行く手に、別人のような目つきの柳玄がたたずみ、フェルクレールトを睨みつけていたのだ。
「どうしたの? あっ!!」
 追いついた十七夜は、瞬時に状況を理解した。
「さがって。ここは僕がやる!!」
 十七夜は銃を構えると、茫然としているフェルクレールトの肩をつかんで、後ろに追いやった。
「どうして? ワタシがリオを護る!」
「パートナー助けるのに理由なんて必要?」
「ワタシも同じ気持ちなの! だからリオを!」
 フェルクレールトは、いっこうに逃げる構えをみせない。
 十七夜は、ため息をついた。
「まったく。頑固なんだから」
 そして。
(まとめて、食ってくれよう。覚悟するがいい!!)
 須佐之男命にとりつかれた柳玄が、2人に襲いかかってきた。
 その勢いたるや、獅子のようなものだった。
 十七夜はハンドガンで、フェルクレールトはヒートマチェットで反撃するが、おされるばかりだ。
 そこに、さらに別の生徒が駆けつけてきた。
「うん? あれは!!」
 見覚えのある人影をみて胸騒ぎがし、死闘が繰り返されるイベント会場を駆けてきた神条和麻(しんじょう・かずま)は、友人である柳玄の変わり果てた姿を目撃して、愕然となった。
「氷藍、やめろ! 聞こえないのか?」
 神条は、十七夜たちを襲う柳玄に呼びかけるが、意識を他のものに占領されている友人は、聞く耳を持たない。
 ぶしゅっ!!
 そうこうするうちに、十七夜が負傷した。
 肩に負った傷をおさえて、うずくまる十七夜。
「リオ!」
 フェルクレールトは、切ない声をあげた。
「逃げて。お願いだから!」
 十七夜の言葉を無視して、フェルクレールトは、十七夜をかばうように、柳玄に立ち向かっていった。
「リオを傷つけた。絶対に許さない!!」
 フェルクレールトは、怒りに燃える瞳で、柳玄を真っ向から睨みつけた。
(いい目をしているな。だが、汚れたその身を、生かしておくわけにはいかん!)
 柳玄にとりついている須佐之男命は、フェルクレールトを第一の標的として、食い殺そうと、飛びかかっていった。
「フェルーーー!!」
 十七夜の絶叫が、イベント会場に響きわたる。
(力が欲しい! リオを護れるくらい強い力が!!)
 その瞬間、フェルクレールトの目がギラギラとした光を放ち、覚醒が起こった。
「はああああああああ!」
 フェルクレールトのかざした両手からまばゆい光がほとばしり、必殺の電撃が柳玄を包み込む。
 バチバチバチ!
 サンダークラップの巻き起こす火花の中で、柳玄は全身がしびれるような感覚に襲われ、身動きできなくなった。
(ぬう、力が増しただと!)
 柳玄にとりついている須佐之男命は、思わぬ反撃に戸惑った。
 そして。
 フェルクレールトの技は、まだ終わりではなかった。
「くらええええええ!! ヴォルケイノ・ライトニング!!!
 どごーん!
 柳玄の足もとから、灼熱の炎が吹きあがる。
(う、うわあああああ!!)
 須佐之男命は、悲鳴をあげた。
 力尽きたフェルクレールトは倒れ、十七夜の膝の中で失神した。
「フェル、よくやった」
 十七夜は、倒れたフェルクレールトに呼びかける。
「やったのか? これで、氷藍はいまいましき存在から解放されたのか?」
 神条和麻は、倒れた友人が以前の意識を取り戻すことを期待した。
 だが。
「和麻……ダメだよ……まだ……」
 倒れた柳玄の口から、神条に呼びかける声がもれたのである。
「氷藍! 本当の『氷藍』の声なの?」
 神条は、半信半疑で呼びかけた。
「スーは、まだとどまっている。和麻、俺を斬って欲しい……」
「斬る!? そんなことをしたら氷藍は!!」
「和麻なら、できるはずだ。俺の『心』を斬って、スーを追い出して!! でなければ……また、その人たちを襲ってしまう……うっ」
 柳玄は口をつぐむと、再び目を開けて、無言のまま起き上がった。
(まだだ。まだ……クワセロ)
 須佐之男命は、十七夜たちを再び襲う構えに入った。
「くっ。ここでやらなきゃダメか。わかったぞ、氷藍。お前の心を斬って、悪しきものを駆逐する!!」
 神条は、三尖両刃刀を構えた。
(うがああああああ!!)
 須佐之男命が再び襲いかかってきたとき、神条は意を決した。
「覚醒!! 神刀流最終奥義【神魔一閃】!!!
 神条の目がギラギラと光り、刀身がすさまじいオーラの光をおびて輝く。
「はあっ!!」
 すぱっ
 神条の刀の一閃が、須佐之男命にとりつかれている柳玄の頭部を一刀両断にしたかにみえた。
 だが、鮮血が吹き上がることもなく、柳玄の身体は無傷だ。
 しかし、須佐之男命は、確実な一撃を受けて、悲鳴をあげた。
(なに!? あ、あああああああ! 天の災厄よ! 真に邪悪なのは汝なりー!)
 すさまじい絶叫とともに、須佐之男命は消滅した。
「和麻……ありがとう……」
 そういって、柳玄の身体は倒れた。
「お友達なの?」
 十七夜は、神条に尋ねた。
「ああ。すまないけど、氷藍を医務室に運ぶ手配をしてくれないか。もう暴れる心配はないはずだ。そして……俺も」
 バタッ
 神条もまた、力尽き、倒れ伏していた。