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結集! カイトー一味

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結集! カイトー一味
結集! カイトー一味 結集! カイトー一味

リアクション

 それは木造の家だった。
 保養地のやや奥、別荘やコテージが並ぶ中の一戸。
 壁面の一部を丸太で覆った中型のログハウスを気取る家だ。
 その家の周辺に人の気はなく、空間そのものが沈黙に及んでいる。
 が、そこに動く人の影が一つ現れた。
 全身緑色の服で身を纏めた青年の影だ。
 影は高速の移動でログハウスもどきに近づくと、入り口のドアノブに手をかける。
 二度回し、開かない事を悟った影は懐から鍵を取り出し、ドアの鍵穴へ挿入。苦もなく扉を開け中へ侵入する。
 静かに、音を立てずに家に入りこんだ曲者は目の前にある廊下を直進し突き当たりの部屋に辿り着く。
 その上で振りかえり、廊下から左右に通じる部屋を見つめ、
「ふむ、あの人達はいない、と。……昼食時にも関わらずやはりあの子は、一人なんザマスか。まあ、実の娘を道具として扱って政略結婚紛いまでさせる親だから当然かしら」
 いや、とその影は呟き、
「それだからこそ、こういう手段が有効なのよね。娘一人を残して昼食に出かけた親を避難という名目で縛り、騒ぎによって目撃の可能性を無くし、その間に行動をし終える。ディティクト様にはちょっと迷惑をかけたかもしれないけれど、菓子折り程度で済ませようかしら」
 言いながら、突き当りの扉を開けた。ノック無しのいきなりの行動で開けられたドアの向こうには一人の、小柄な少女が椅子に座っていて、
「!? ……だ、だれ、ですか」
 身に纏うサマードレスを揺らして怯えの表情を作る少女に緑色の影、ツブヤッキーは笑みを作り、
「――悪人が攫いに来たわよ、お嬢さん」
「え……」
 ツブヤッキーを見た少女の顔から怯えが消えた。その代わり驚きが表情に出ており、数秒沈黙。そして、
「え……と、な、何をしているんですか兄さ――」
 だが少女の口はツブヤッキーの手によってやんわり塞がれ最後までは言うことが出来ない。その後に彼は自分の唇に人差し指を当てるジェスチャーを見せ、
「――おおっと、いけないわよお嬢さん。アタシはツブヤッキー、悪事を成す限りその名前で有り続けると決めたものざんすから、決して君の兄であるなんて考えちゃいけないの」
 お分かり?との声に少女は頷く。それに満足したのかツブヤッキーは満面の笑みになり、
「オッケーオッケー、それじゃここからが本題。これからキミを攫っちゃうから、その辺り宜しく」
 そう告げた。
 少女にとっては驚きだったのか身を震わせ口を開き、
「で、でも私はこれから、やらなきゃいけない結婚儀礼が控えていて、嫌ですけど、それをしなきゃお父さん達が――」
 何かを言おうとするが、ツブヤッキーがまたも指で口を塞ぐ。
「――これから君の身柄を預かって貰うのはディティクトさんという悪い魔女なんざんすけど、根はやさしく人心にも聡い御方なので心配はいらないのよ」
 ちょっと間抜けなのもポイントなのよね、と彼は薄く笑い、
「資金の方も何処かの誰かさんが薄情な親の下で良い息子を演じ続けるから心配しなくてよろしいと仰ってたのでこれで問題は解決ざます」
「――で、でもそれじゃあ……」
 少女が口籠った。その時だ。
「すみませーん、何方かいらっしゃいませんかー?」
 玄関の方から人の声が響いた。
「……迷っている時間はないみたいね、お嬢さん」


 源と笹野、そして冬月はログハウスもどきの前に居た。
「……そんなに不審な人だったんですか?」
 神妙な顔をして笹野が問うと、源は眼を伏せ首を横に振り、
「いや、俺の考え過ぎなのかもしれないが、……あの騒ぎの中を逆走していくものだからやけに記憶に残ってしまっていてな。進行方向からすると、この家に入っていったようだが」
「まあ、いろんなことへの確認とすれば問題ねえだろ。――って、ん? 鍵空いてんぞこの家。不用心だな」
 冬月がノブに手をかけ回すと、扉は何の抵抗もなく開き、内部を見せた。
 すみません、ともう一度断ってから、源達は家の内部を捜索した。
 狭い家だ。五分間もあれば全ての部屋を回れ確認出来た。結果、彼らは人の姿を見つけなかった。そして家が荒らされた形跡はないという収穫は得た。
 が、彼らの疑問は止まることなく、家から出ても首の傾げは続き、
「……本当に火事場泥棒とかだったんですかね」
「さて、どうだろうか。しかし家主の一人もいないのだから、どんな判断も早計になるな。とにかく一旦帰ろう」
 そうして彼らは、もぬけの殻となった別荘を後にした。


 家から数百メートルの位置に、疾走する姿があった。それは小さな無機物にのる二つの人影で、
「……有り難う御座います。にい……ツブヤッキーさん」
「いいのよ、別に。これがアタシのしたかったことで、為すべきことだったんだから」
 二人の影は、森の奥へと消えていった。






 その日、ゴーレムの襲撃が解決した後、とある良家の娘が攫われたことが判明した。
 親は必死の形相で情報を集めたが娘を見つけることが出来ず、少しばかり出世が遅れるだけか、との一言を残して早々に諦めた。
 結果として、その一家の期待は全て長兄にのしかかるようになったものの、今でも件の長兄はそれに答え続けているという。
 時々彼が緑色の服を着込んで街や森に飛び出していく、というのはまた別のお話である。


担当マスターより

▼担当マスター

アマヤドリ

▼マスターコメント

 最後までお読み頂き有り難う御座います。避暑地へ逃げ込みたいアマヤドリです。さて、今回はビックリドッキリの役割を皆さまにお任せした訳ですが如何でしょうか。

 ヒントもどきも知ったことかと真っ向勝負を挑んだり、殴らない搦め手を選んだりと多種多様な破壊の仕方がとても面白かったです。まあ、正否という前提がありますがその辺りは天運なので、恐れず我を通して行くのも一つの道です。……結果に責任は取れませんが。

 そしてこの騒動の中心には目的が存在しました。その為書き方も少々変則的となりました。何故巨大な物を態々アピールしていたのか、その辺りを見ておられた方もいらっしゃって嬉しく存じます。あ、でも図らずとも虚を付いてしまっていても、そこは勘弁して下さい。

 さて、これから色々な動きが見えてくる可能性も出てきました。その動きを楽しんでもらえればワタクシは幸いであります。ここまで読んでいただいた皆様、本当に有り難う御座いました。