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ラムネとアイスクリーム

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ラムネとアイスクリーム

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第三章 順調な売れ行き

「冷たいラムネとアイスは如何ですか〜。この暑い時にさっぱりしたい人にはぴったりだよ〜!」
 ミリィ・アメアラ(みりぃ・あめあら)が行き交う人に呼びかける。ゆる族の着ぐるみ姿が人目を、特に子供の目を引く。
「こちらのお店では大量販売もやってまーす」
 セルマ・アリス(せるま・ありす)は、駄菓子屋の地図が入ったチラシを配りながら宣伝している。
 暑さもあってか、ラムネもアイスクリームも買う人は多い。また買わないまでも、セルマのチラシを受け取る人は少なくなかった。
「写真、良いですか?」
 ラムネやアイスを買った親子の中には、ミリィと一緒に写真を撮って貰うよう頼む人もいる。セルマがシャッターを押すと、喜んで帰っていった。
「この調子なら、駄菓子屋も繁盛してるぜ、きっと」
「うん、ワタシもそう思うよ」
 ますます商売に励むセレナとミリィ。そこに森田 美奈子(もりた・みなこ)コルネリア・バンデグリフト(こるねりあ・ばんでぐりふと)が通りがかる。
「あれは何? 美奈子、様子を見てらっしゃい」
「はい、コルネリアお嬢様」
 美奈子がチラシを手に戻ってくる。
「近くの駄菓子屋さんだそうです」
「そう、庶民の生活を知るには良い機会ね。行ってみましょう」
 効果は確実に駄菓子屋にも広まっていた。

 その駄菓子屋では、蒼空学園のエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)が、威勢の良い口上で道行く人の注目を集めている。藍染めの浴衣をたすき掛けし、よじった手ぬぐいを鉢巻きにしながら、手にしたハリセンで駄菓子屋の前に置いた台を音も高く叩いている。
「さぁさ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい! 夏の風物詩にして必需品、みんな大好きラムネにアイス! 今日は出血大サービスだよ!」
 駄菓子屋常連の子供達ばかりでなく、大人も物珍しそうに足を止める。
「不良品じゃないかって? 心配ご無用! なんてったって、信頼と愛情の、村木お婆ちゃんの駄菓子店からのご提供だ! こんなチャンスはそうそう無いぞ、さていつまで続くか……もしかしたら明日には終わっているかもしれないよ!」
 暑い夏にはピッタリの品物。ラムネもアイスも順調に売れていった。
「今年の夏はラムネが豊作だと聞きましたの。本当だったのですわね」
「豊作……はちょっと違うでしょ?」
「……冗談ですよ?」
 軽口を交わしながら駄菓子屋を訪れたのがリリィ・クロウ(りりぃ・くろう)ナカヤノフ ウィキチェリカ(なかやのふ・うきちぇりか)。駄菓子屋横に積み上げられたコンテナを見上げる。
「とりあえず1本、頂きましょうか」
 エヴァルトに「ラムネ2本くださいな」とお金を渡す。
「あいよ! きれいなお姉ちゃんに可愛い妹さんかな。よーし、オマケしちゃうよ!」
 エヴァルトはラムネと一緒に駄菓子を渡す。
「おまけで釣ろうとするのは安直ですわ。利益も減ってしまいますし、もっときちんとした商売を心がけないと」
「……リリィ、顔がにやけてるよね」
「そう言うチーシャこそ、緩みっぱなしですわよ」
 互いにフンと顔をそむけるものの、ラムネを飲み干して、どちらからとも無く「もう少し買っていこうか」と提案がある。
「あ、あたしは村木お婆ちゃんの手助けになればって思ったんだからね」
「わたくしだって同じですわ。それにカセイノさんへの差し入れにちょうど良いかなと思いましたの」
 リリィのパートナーながら、荒野で独自に研究を続けているカセイノ・リトルグレイ(かせいの・りとるぐれい)。リリィの巻き添えでイルミンスールを辞めることになってしまい、どこか引け目を感じている。
「そうだよね。差し入れにちょうど良いよ」
 相変わらず口上売りをしているエヴァルト・マルトリッツにケース買いを頼む。
「おっ! 美人で可愛いだけじゃなくって、気前も良いんだ! “天は二物を与えず”って言うけど、持ってる人は2つも3つももってるんだねぇ」
 エヴァルトは「ここから好きなの選んでよ」と、まとめ買い用のグッズを差し出す。もちろん各校長達の座右の銘が入った写真だ。
「ふぅん、このようなものがあるんですね。わたくしは……これを」
「あたしは、これー!」
 ケース買いしたラムネを背負うと、リリィはカセイノ・リトルグレイが研究を続けているシャンバラ大荒野を目指して出発する。
テクテク行けば、いずれは着くでしょう。途中で蛮族が出たら、チーシャ頼みますわ」
「はーい、あたしがやっつけるよ。……頼りないかなぁ」
 2人は駄菓子屋を後にした。


 多彩なオリジナルドリンクを用意したのが健闘 勇刃(けんとう・ゆうじん)とその一同。その他にも空き瓶5本で交換キャンペーンやお中元セット、まとめて買うとグッズプレゼントなど、独自のアイデアもたっぷり考えてきた。
「良いか、みんな! 売って売って売りまくって、俺達だけで在庫を空にしてやる……くらいの気持ちで頑張るんだ!」
 途中で中折れした感はあるものの、意気込みだけはパートナーの天鐘 咲夜(あまがね・さきや)セレア・ファリンクス(せれあ・ふぁりんくす)アニメ大百科 『カルミ』(あにめだいひゃっか・かるみ)に伝わった。
「セレア、まずは歌だ!」
「はい、健闘様」

 小さな時 あの頃 あま〜い一時
 それは〜 体を癒す ラムネ♪
 その幸せの記憶は ビー玉のように 澄み切っている
 もう一度 あの頃に戻りたい KYラムネ

 なり立てながらも、歌姫となったセレアの歌声は、行きかう人を引きつけた。
「次はカルミ、宣伝文句だ!」
「はーい、ダーリン」
 カルミは黄色いメガホンで集まった人にアピールする。 
「みんな、見てくださいのです! 新発売のラムネなのです! 今纏めて買うともれなくカルミのグッズがもらえるのですよ! 1本でストラップ、3本でうちわ、5本でクリアファイル、7本でポスターなのです! そしてお中元セットで買うと、なんと全部がもらえるのですよ!」
 何のことは無い。ごくありふれたものばかりだが、集まった人の中には「まぁ、買ってみるか」と購入する人が続く。
「そうそう、10本まとめて買うと各校長などの座右の名入り特製スナップショットも付いてきますよ! このチャンス、お見逃しなく!」
 それぞれの校長やそのパートナー達が、ラムネやアイスクリームを手にポーズを取っている写真が張り出された。こちらは隠れファンも少なからずいるようで、更に財布の紐を緩くさせた。
「あ、皆さん、そんなに急がなくても大丈夫ですよ! コンテナ10台分もあるので!」
 レジを担当した咲夜が、次々に客を捌いている。
 そんな横で暇をもてあましているのが、オリジナルドリンクを売っている健闘勇刃だった。
「なーんか売れゆきが悪いぜ」
 レギュラーに用意したメロン味ラムネ、いちご味ラムネ、ラベンダー味ラムネなどは、そこそこ売れた。しかしたこ焼きラムネ、キムチラムネ、わさびラムネとまでくると、なかなか手を出そうとする人は少ない。更にカレーラムネ、ラー油ラムネ、イカスミラムネと来れば、もう大航海時代のキャプテンなみのチャレンジスピリッツが必要だった。 
 仕方なく“空き瓶5本で1本交換”やミルカちゃんグッズの手配に回る。
「飲んでみるとうまい……はずなんだけどさぁ」
 しかし勇刃に同意するものは、なかなか現れなかった。
「ひとつくださいなー」
 ようやく勇刃に声をかけたのはミーナ・リンドバーグ(みーな・りんどばーぐ)達だった。
「はいはい、どれにします?」
 “どれに”と言いつつも、イカスミラムネやシャーク煎餅ラムネを強調する。しかし当然のごとく裏切られる。
「ミーナはいちごラムネ」
「私はオレンジ味ぃ」と高島 恵美(たかしま・えみ)
「フランカもいちごがいいですぅ」とフランカ・マキャフリー(ふらんか・まきゃふりー)
 立木 胡桃(たつき・くるみ)は手持ちのホワイトボードに「メロン味をください」と書いて見せた。
 勇刃はやや落胆しつつも、4つのグラスに注いで渡した。
「おいしーい!」×3+ホワイトボード1
 ミーナ達の反応を見て、やはり勇刃も嬉しくなる。しかしここで余計なことを言ってしまう。
「サービスするから、カレーラムネを試してみないか?」
 4人は顔を見合わせる。
「えーと、お小遣いもあるし、今度は普通のにしまーす」
 駄菓子屋の中に駆けて行った。
「あぁ……せっかくのお客さんが……」