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ラムネとアイスクリーム

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ラムネとアイスクリーム

リアクション

 シャンバラ大荒野を突き進むトラック。伏見 明子(ふしみ・めいこ)が運転し、パートナーのサーシャ・ブランカ(さーしゃ・ぶらんか)が周囲を警戒している。と、サーシャが瞳を凝らす。少し離れたところで土煙が上がっている。
「明子、誰か蛮族に襲われてるみたいだよ」
「ええ? ここまで無事に来たんだから、あんまり関わりたくないんだけどね」
「でも……助けに行くんだろ」
「まぁね」
 ハンドルを大きく切ると、サーシャのナビで土煙の元へと向かう。
「女の子2人か。よくこんな所まで来たものね」
 明子の視線の先では、リリィ・クロウ(りりぃ・くろう)ナカヤノフ ウィキチェリカ(なかやのふ・うきちぇりか)が、襲い掛かる蛮族から懸命に逃げている。
「チーシャ、逃げるばかりでなく、なんとかなさい!」
「そんなこと言ったって、こんなに多くちゃ無理だよー」
 間近に迫った蛮族が飛び掛かろうとした瞬間、けたたましくクラクションを鳴らしたトラックが突っ込んでくる。間一髪、両者の間に割り込んだ。
「乗りなよ!」
 明子がリリィに手を貸す。サーシャはナカヤノフを抱えて助手席に引っ張り込む。明子がサイドワインダーを叩き込んで、トラックのアクセルを吹かすと、蛮族は追ってくるのを止めた。
「これで一安心。大丈夫かい?」
 リリィとナカヤノフは口々にお礼を述べる。
「もうダメかと思いました」
「どこに行く気か知らないけど、こんなところをたった2人で歩いてるなんて、自殺行為も同然だよ」
 しょげる2人に、サーシャが助け舟を出す。
「まぁ、無事だったから良いじゃないか。それよりどこまで行くの?」
 結局、明子のトラックでリリィとナカヤノフは送ってもらえることになった。
「ま、旅は道連れってヤツだよ」
 やがてカセイノ・リトルグレイ(かせいの・りとるぐれい)のところに着く。連絡を受けたカセイノが、一行を出迎えた。
「元気なようでなによりですわ」
「リリィこそ、わざわざ尋ねて来てくれるなんてすまないな。ちょうど良い物を用意しておいたぜ」
「わたくしも素敵な物をお土産に持ってきましたの」
 互いに「ジャーン!」と取り出したのは…………ラムネ。
「どうしてあなたがこれを持ってるんです?」
「いやー、通販で見つけたんで面白そうだなって、村木の婆ちゃんが困ってるってあったもんでさ」
「わたくしも駄菓子屋の店先で見かけたので、お土産に良いと思って買ってきましたのに」
 一呼吸おいて、ナカヤノフと共に3人で笑い始める。
「同じこと考えてたのですね」
「らしいな」
 カセイノのところで一休みすると、明子とサーシャは当初の目的通りツァンダに向かう。
「完売するように願ってますわ。でも通販があるそうですし……」
「その時はその時さ。あなた達も帰り道は気をつけてよ」 


 エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)を責め立てているのが、パートナーのクマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)
「にゃー!? ラムネって何にゃー!? 駄菓子屋さんって、そんな魅惑のスポットをオイラに黙っているなんて何の陰謀だよエース。いぢめだぁ。わーん」
 もちろん嘘泣きであって、エースもそれは分かっているが、黙っていたのは事実であり、後ろめたさはあった。
「ほら、ここだぞ」
 駄菓子屋に着いた途端、クマラの泣き声が止まった。
「今まで黙っていたお詫びに、オイラにお菓子を奢ってくれるよね」と、その目がキラーンと光る。
「ああ、好きにしろ」
 エースが言うや否や、店中を走り回って食べまくった。
「やれやれ、財布が軽くなりそうだ」
 そこで和泉 絵梨奈(いずみ・えりな)が野菜ラムネを売っているのに気付く。
「ひとつもらえるか?」
「はい、どうぞ」
 お金を払うと、グラスを一気に飲み干した。
「炭酸は程よい感じで、口当たりも良いし、栄養もありそうだ」
「はい、いろいろ考えたので。でも名前が良くないみたい。小さい子は避けるんですよ」
「そりゃあ仕方が無いか。でもアイデアが素敵で美味しいです」と、どこからか取り出したバラ一輪を手渡す。
「ナンパ……と言うわけでは無いようですね。それならありがたくいただきます」
「それでも良かったんですが……」
「そうですの? でもムードがちょっと……」
 相変わらず店内では、クマラを含めて子供達が賑やかだった。
「エース、これ買ってー買ってー」
 絵梨奈が楽しそうに笑い、エースは苦笑いする。
「またか、いい加減にしないと、お腹を壊すぞ」
「オイラ10歳だもん。おやつ食べ盛りの10歳10歳ー」
「それなら……」
 エースはクマラを抱えると、火村 加夜(ひむら・かや)のところに連れて行く。
「すみません。こいつにちょっと勉強を教えてやってくれませんか? なにせ10歳なもんで」
「はい、良いですよ。何か苦手なところがあるのかしら。一緒に勉強しましょうね」
 いきなり地獄に落とされたクマラは机に突っ伏した。
「うん、よく学びよく遊ぶのが子供の本分だ。どれ、私が見てやろう」
 加夜と共に、と言うよりは、なぜか子供達に混じって勉強していたアトゥ・ブランノワール(あとぅ・ぶらんのわーる)が、クマラの前にドリルを広げる。
「私と競争しようじゃないか。点数が上だったら、アイスを買ってやらないこともないかもしれない」
 アイスと聞いて、クマラが起き上がる。
「買ってくれるの?」
「かもしれない」
「どっち?」
「よーい、スタート!」
 アトゥが取り掛かると、クマラもあわてて鉛筆を握った。
 そんな2人をエースと加夜が楽しそうに見守っていた。


 ルーシェリア・クレセント(るーしぇりあ・くれせんと)アルトリア・セイバー(あるとりあ・せいばー)は子供達を引き連れて駄菓子屋を訪れる。
「いーい、食べ過ぎてー、晩御飯が入らなくなったりー、お腹を壊しちゃダメだからねー」
 子供達から「はーい!」の声が挙がる。
 とりあえずラムネとアイスクリームを一つずつ。あとは希望する駄菓子を順に買い与えた。
 昼間、2人して野球やサッカー、剣術や護身術を教えた。基礎からみっちり、と言うわけにはいかなかったが、中には才能の片鱗を垣間見せる子も居て、ルーシェリアとアルトリア刃満足だった。
 そしてひと休みを兼ねつつ、駄菓子屋に来た。
「これがー、村木お婆ちゃんが引き受けてしまったコンテナですかぁ」
「自分には考えられませんが、それを引き受けてしまうところに村木お婆様の人望もあるのでしょう」
「うん、なんとなく分かるよぉ。だから私達もー、何とかしたいって思うんだよねぇ」
「自分達も飲みましょうか、ラムネ」
「うん」


「うーん、読みが外れたみたい」
 万博の準備会場でラムネとアイスクリームを売っていた小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は、腕を組んで首をかしげた。そこそこ売れたことは売れたが、どちらかと言えば物珍しさで買っていく人が多く。作業をしている人達向けにはあまり売れなかった。
「皆さん、自分で飲み物を用意してましたから」
 3日目になっても、どこかコンパニオン衣装を恥ずかしがっているベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)。ミニスカートで体の線を強調したコンパニオン衣装。美脚自慢の美羽は大好きだったが、引っ込み思案なベアトリーチェには、どこか抵抗があった。もっともその“恥じらい”が受けて、ラムネとアイスクリームの売り上げにも、いくらか貢献したのではあるが。
「全部売れたよーって、お婆ちゃんに報告したいんだけどねぇ」
 考え込む2人の前にカメラを持った男性が来る。
「あの……写真、撮っても良いですか?」
「そう言うのはお断り……」
 ベアトリーチェが断りかけたところで、美羽が「ラムネとアイスを買ってくれたら良いよー」と冗談交じりで答えた。
「ああ、はい、買います」
 男性はお金を払うと、カメラを向ける。ニコッと笑った美羽にシャッターが切られた。
「そっちの人もお願いします」
 男性はラムネとアイスクリームをもう1つずつ買った。
「えっ? わ、私も、ですか?」
 美羽にうながされるままに、ベアトリーチェもカメラに収まった。
「これは使えるかもね」
 
 ラムネとアイスクリームのセット購入で写真撮影できます

 窮余の一策に思えたが、意外に需要は多く。売れ行きはグンと伸びた。
「美羽さん、私もですか?」
「これも村木お婆ちゃんのためなんだから」
「うーん、そうですけどぉ……」
 客からの求めに応じて、ポーズを取ることもあった。中には「3つずつ買うから」「5つずつ買うから」と、大胆なポーズを希望するものも出てくる。
 美羽は「良いですよー」と、ベアトリーチェは「そんなぁ」と言いながらもポーズを決めていた。
 そして何十人目かの客。ラムネとアイスを3つずつ買って、ポーズの注文をする。
「こんなポーズできますか?」
「どんなの?」
「アイスをくわえながら、ラムネを胸に挟んで……、あ、無理か」
 魅惑の足技使いと呼ばれた美羽の足刀がカメラを蹴り上げた。