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リアクション
――教室棟屋上へと続く扉にて。
「……やはり居ますわね」
「ええ、時折何か投げてきてますわ」
「そうか……どうしたものか……」
廊下から階段の様子を伺う島津 ヴァルナ(しまづ・う゛ぁるな)と三田 麗子(みた・れいこ)の言葉に、クレーメック・ジーベック(くれーめっく・じーべっく)が唸った。
――屋上へと続く階段の上、扉の前にはルカルカ・ルー(るかるか・るー)とダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が立ちふさがっていた。
時折階段上から牽制しているのか、ダリルの【空飛ぶ箒ファルケ】による魔法などが放たれてくる。
「あいつに捕まるな……大変なことになるぞ」
「……それは捕まったせいなのか?」
氷室 カイ(ひむろ・かい)がクレーメック達を見て言った。
クレーメック達は服には蛍光塗料、顔にはクリームが着いていた。『カラーボール&パイ投げ』のペナルティによるものだ。
「いや、これは別の奴に受けた奴だ……あいつの場合、捕まったら終了後建物周りを50周させられる」
「……それは厳しいな……しかし扉はあそこしかないみたいだ……強行突破は難しそうだし、どうする……?」
カイが言うとおり、屋上への道は一つしかない。
「俺達に任せな」
クレーメックとカイ達の後ろに、朝霧 垂(あさぎり・しづり)が立っていた。
「任せろ、とは?」
「まぁ見てろって……行くぞ」
垂の後ろにライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)と朝霧 栞(あさぎり・しおり)、夜霧 朔(よぎり・さく)が続き、階段前に躍り出る。
「あ、やっと誰か来たよ」
垂の姿を目にし、ルカルカが嬉しそうに言う。
「俺達が奴ら狩るから、その隙におまえらは鍵を開けな……行きな」
垂に促され、クレーメックとカイが階段を上がり始めた。
「ここは誰であれ通さないよ! ダリルやっちゃって!」
「任せろ!」
ダリルがクレーメック達に照準を定める。
「こっちだよ!」
ライゼが放つ【光術】に、ルカルカ達が一瞬目を覆った。
その直後、朔の【ワイヤークロー】が放たれた。
「うわっ!?」
その攻撃を、ルカルカ達は辛うじて避けた。
「よそ見している余裕なんてあるか?」
「そうそう、相手はこっちだぞ」
挑発するように、垂と栞が言う。
「……へぇ、やる気満々だね」
「ああ、お前怖くないからな」
垂達がニヤリとした笑みを浮かべた。
彼女達は、もっと恐ろしい目に遭っている――団長のハリセンフルスイングを食らって地面と平行に飛ぶくらい吹っ飛ばされるという目に。
思い出しただけでガタガタ震えてロッカーの中とかに引きこもりたくなるくらい、恐ろしい。
「「「「あの人に比べりゃ大抵怖くないんだよ!」」」」
「……あの人? 何あったの?」
「うるせぇ! このまま追い掛け回してロッカーの中でガタガタ震えるマナーモードみたいにしてやる! 覚悟しろ!」
垂達がルカルカに飛び掛かった――
「……よし、開いた!」
カイが鍵を開け、屋上への扉を開く。
――外の空気が、扉から入り込んでくる。
そこは宵闇の世界。僅かな月の明かりが屋上を照らしていた。
「……柵があるな」
「ああ、だがあれくらいなら飛び越せる」
一歩踏み出し、屋上の縁にある柵を見てクレーメックとカイが言った。柵は大体人の胸の辺りの高さまでだ。
「……あら、あれは何かしら?」
「……本当、何かいますわね」
ヴァルナと麗子の言葉に、皆目を凝らす。
――柵の向こうに、影があった。その影は夜景でも眺めているのか、柵に寄りかかっている。
その影――アシェルタ・ビアジーニ(あしぇるた・びあじーに)が振り返る。そして見るものを不安にさせるような、しかし本人は愉快そうな笑みを浮かべた。
「な……なんで居るんだ!? 確かに鍵はかかっていたのに……」
「それはアシェルタが【ピッキング】で開けたからだよ」
頭上から声が聞こえ、見上げると隠れていたミリー・朱沈(みりー・ちゅーしぇん)とフラット・クライベル(ふらっと・くらいべる)がカイ目掛けて落ちてくる。
「くっ!?」
それを避けようと、一歩踏み出すカイだったが、
「なッ!?」
足元に撒かれていた【エステ用ローション】に足を取られ転倒する。
「「つーかまーえたぁー」」
ミリーとフラットが、愉快そうに笑みを浮かべカイを見る。
「……次はそっちかしらぁ?」
そしてフラットが、その笑みのままクレーメックを見る。
「俺に構うな! お前だけでも逃げろ!」
「……くっ、すまん!」
カイの言葉に、クレーメックが駆け出す。ローションを飛び越え、柵まで一気に駆け寄ると手をかけて飛び越える。
「ヴァルナ! 麗子! 飛ぶぞ!」
「「了解!」」
落ちる直前、同じように飛んだヴァルナと麗子がクレーメックの両脇を抱え、背中の翼を放つ。
そして、ゆっくりと地面に向かって滑空していった。
「……あーあ、逃げられちゃったよ、アシェルタぁ」
「……私のせい?」
「そうよぉ、なんで今回は捕まえなかったのぉ?」
「……夜景見てろ、って言われてたし」
「あー、失敗したなぁ」
「……ところで、いつまでそうしているんだ?」
下敷きにされたカイが、抗議する様に言う。
「ああ、そうだった。ペナルティだったね」
「何でもいいから早くしてくれ……」
「それじゃ、鼻割り箸ね」
ミリーがにっこりと、割り箸をカイに見せ付けた。
――その頃、扉前。
「……卑怯だぞ、武器なんて捨ててかかってこいよ……」
「いや、それちょっと無理だと思うなー」
ボロボロになった垂に、ルカルカが苦笑する。
「しづり〜……僕達もうだめ〜……」
同じくボロボロになったライゼががっくりと倒れた。その後ろでは栞、朔が既に気絶している。
「に、人数的にはこっちの方が上だって言うのに……」
「火力の差だな」
ダリルがポツリと呟いた。彼の言う通り、垂達は人数では上回っていたが、武器など火力では下回っていた。
「まぁ、それでもルカ達に向かってきたっていうのは敬意を表するわ」
そう言って、垂の肩を叩く。
「とりあえず、これ終わったらこの建物周り50周走ってね♪」
そして超いい笑顔でペナルティを言い放った。
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