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ムシバトル2021

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ムシバトル2021

リアクション


開会式

 カッ――!
 スポットライトがリングの中央で交差し、ビキニ水着の美女を浮かび上がらせる。
 そのスポットライトの中央にすっくと立つ美女、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)が、マイクに向けて高らかに叫ぶ。
「地上最強の虫を見たいかーッ!」
 ワアアアアッ!
 満席の観客達が拳を振りかざし、セレンフィリティのマイクパフォーマンスに答える。
「あたしも! あたしもよみんな!」
 両手を振って歓声を受けるセレンフィリティ。その隣にすっくと立ったセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が、会場の立体ビジョンを示す。
 物々しい音楽と共に、金色の文字がビジョンに躍る。その字があるべき場所に配置され、タイトルを作り出す。
 その文字をセレンフィリティが高々と読み上げた。
「ムシバトル2021! ただいまより開催いたします!」


 イルミンスールの森特設会場。
 森の木々を可能な限り有効に利用するというエコな目的とともに作られたその立体的なリングと、魔力を利用して並べられた空中観客席。新技術を惜しみなく投入した立体ビジョンが作られ、さながら自然と魔法と技術の三位一体を押し出した、新時代の競技場だ。
 その特設リングを見下ろす実況席で、茅野瀬 衿栖(ちのせ・えりす)は身を乗り出してマイクを掴んだ。
「皆さんおはようございます! 自分のムシがナンバーワン! そう自負するブリーダーがここ、イルミンスールに集結しました。ムシバトル王の栄冠に輝くのは果たしてどの選手なのか!? 今年の夏、最後の祭典! ムシバトル2021の開催です!」
 拍手と歓声が会場を満たす。立体ビジョンにはその観客席が映され、観客の興奮の様子を映している。
「実況は私、846プロダクションの茅野瀬 衿栖です! 朱里さん、カメラこっち」
「オーケー!」
 茅野瀬 朱里(ちのせ・あかり)が、担いだカメラを実況席へ向ける。ビジョンに映されたアイドル実況員に、わっと歓声が上がる。輝くスマイルで手を振ってから、衿栖は隣にカメラを向けさせた。
「ゲスト解説員として、エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)校長をお招きしています。どうですか、今年の選手は?」
「今にも沸騰しそうなほど、会場に熱気が満ちているですぅ。今年も、大きく、強いムシがたくさん集まってくれたようですぅ」
 3年目にしてすっかりこのポジションにも慣れてきた、という表情でエリザベートが告げる。内心、早くはじめろと思っているのはおくびにも出さない。
「本大会では例年よりもエキサイティングなバトルを楽しんでいただくために、様々なルール改訂が行われてますぅ」
 エリザベートの言葉に、衿栖が大きく頷く。
「特に、今回はムシに二人までが騎乗してバトルに参加することができます。これにより、ブリーダーとムシの絆がより試合結果に影響するものだと言えます! 高度な戦略! ムシとブリーダーの全てを書かけた戦い! それこそがムシバトル!」
 今度は、歓声に混じってムシの羽音や鳴き声までもが会場から響いてくる。
 空は快晴。絶好のバトル日和だ。
「では、ルールを確認していきましょう。本大会はトーナメント形式になっており、AからDブロックのそれぞれにエリザベート校長の推薦したシード選手が一匹ずついます。それから……」


「よし。動作に問題は無いようだな」
 レオン・カシミール(れおん・かしみーる)が立体ビジョンに映された衿栖やエリザベートの姿に大きく頷く。
 イルミンスールの森の景観を保護しようとする一派をなんとか説き伏せ、技術官僚としての力を最大限に発揮して用意したビジョンである。
 ムシバトルは、観客にも危険が及びうる競技だ。自然、観客席はリングから遠くなる。そうなると、今度は観客のエキサイトを減じてしまう。
 だからこそのビジョンだ。朱里のカメラで至近距離からムシバトルを捕らえ、大迫力の画面で楽しませる。
「衿栖にとっても、いい宣伝になるだろう。さて、私はゆっくり観戦に回らせてもらうか」