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【獣人の村】【空京万博】ドラゴンレース

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【獣人の村】【空京万博】ドラゴンレース
【獣人の村】【空京万博】ドラゴンレース 【獣人の村】【空京万博】ドラゴンレース

リアクション

 
 
 
  ■ レース ■ 波羅蜜多大農場 〜 イルミンスール武術 獣人村共同道場
 
 
 
 大きくなってゆく周辺の歓声で、吉永 竜司(よしなが・りゅうじ)はドラゴンが近づいて来ることを知った。
 今まではパートナーのアインを手伝ってうどんを作っていたが、こうしてはいられない。
「ヒャッハー! 超イケメンのオレがレースの応援をしてやるぜ。さあ『うどんリサイタル』の始まりだ!」
 農場の敷地内のある土管の上にひらりと飛び乗ると、竜司はもっとも美しく見える角度に構え、バチンとウインクを送る。
「じゃあ行くぜ。オレの美声をよーく聴けー!」
 すぅと胸一杯に息を吸うと、竜司は作詞作曲歌すべて自分の『うどんの歌』を歌い始めた。
「♪ うどんウドンUDONDOOON! オレのように人気だぜー! つるツルTURUUUN! ヒャッハー! うめーぞ ♪」
 竜司は自信たっぷりに歌い上げるが、周囲の人は慌てて離れてゆく。
 本人は超絶上手いと思っているのだが、竜司以外にその意見に同意する者はいない。
 足が竦んで逃げられない女性には、オレがおまえを守ってやるぜと、幸せの歌で強烈アピール。恐らくその女性が一番何から守って欲しいかといえば、竜司の歌声からに違いないのだが。
「オレに惚れてもいいんだぜ、グヘヘ」
 ディーヴァの実力を見よと歌い上げ、もちろん頭上を飛ぶドラゴンたちにも応援歌。
「ヒャッハー、オレの歌を聴いて優勝しちまえー!」
 レース参加者たちを励まし、奮い立たせている……はずの歌を竜司は喉も裂けよと歌い上げた。
 その上をドラゴンたちが猛スピードで駆け抜けてゆく……。
 
 
 
「まさかテスラがレースに参加するとは思わなかったぜ」
 メインドライバーを務めるウルス・アヴァローン(うるす・あばろーん)に言われ、ナビゲーターのテスラは小さく笑う。
「本当なら、私もキポリの森から観戦するつもりだったの」
 それが妥当だとテスラも思っていた。けれど、いざ獣人の村にやってくると考えは変わった。
「でも、折角関わった村だもの。そこで開催されるイベントがあったら、全力で協力しないと。勝ち負けじゃなくていいの。関わったのなら最大限関わってみたかったのよ」
 ドラゴンの上から見る村は、レースの興奮に沸き立っていた。
 多くの参加者がいるからこそ、レースは盛り上がる。自分が参加したことが、その一端でも担えているのなら嬉しい。
「乗り気になってくれるのは嬉しいけどよ、あんま無茶しねーでくれよ。何かあったらオレが殺されちまう」
 テスラが怪我でもしようものなら大変だ、とウルスは冗談めかした。
 ウルスとテスラは序盤は抑え気味に、村のお祭り風景を楽しんだ。
 が、キポリの森まで来ると、ウルスはよしと気合いを入れる。
「ここから本気出させてもらうぜ!」
 ウルスは、胸一杯に、開発に携わったキポリの森の空気をいっぱいにため込む。そしてキポリの森にある巨大彫刻たちを横目に、思い切ってスピードを上げた。
 目指すはトップ。
「さぁドラゴン、一緒に飛ぼうぜ!」
 ウルスの呼びかけに応えるように、フォレスト・ドラゴンは強く翼をはばたかせた。
 
 
 ドルンドドルンドッドッド。
 ドラゴンの背中にバイクが乗るというシュールな見た目も気にせず、ハーリーは高鳴る胸を表すようにエンジンを吹かす。
「ヒャッハァー! フォレスト・ドラゴンども、これが空京大分校に至る茨の道だぜェ〜! ……ぬっ?」
 エアポート野衾まで来た南鮪の目がぎょろりと見開かれる。
「あれは……レースゲームお約束の、スピードアーップポイントーッ!」
 設置されている巨大トランポリンを目敏く見つけると、鮪はドラゴンをそちらへと走らせるようにハーリーに指示した。
「多分あのネットを使って勢いをつけて飛ぶんだな。みーみーみみみー辺りまでショートカットするとしようか」
「ドルンドルンブォォン、ドルン」
「ちいっ、しょうがねえなあ。じゃあ真面目にルートを守るとしようか。そら、ヒャッ、ハァァァァーッ!」
 イコン用巨大トランポリンに飛び乗って、鮪はフォレスト・ドラゴンをテイク・オフ。空高くへと跳躍する。
「あー、高い高い」
 トランポリンを設置した湯島茜は、空に跳ね上がったドラゴンにぱちぱちと手を叩き。
「……ていうか、空に向かってじゃなくて、前方に飛ばないと意味ないんじゃない?」
 推進エネルギーというよりは位置エネルギーを得たドラゴンを、茜は棒読みでガンバレー、と見送った。
 
 
 
「ふむ……このままではまずいですね」
 とてとてと走るドラゴネット『巨大マナ様』の背に掴まりながら、クロセルは呟いた。堅実に手堅くゴールを目指してはいるものの、このままでは上位入賞は難しそうだ。せっかく頑張っているマナの為、できれば喜ばせてやりたいと思うのが、モンスターペアレント、いや、パートナー心というものだ。
「この手は使いたくなかったのですが……ちょっとその施設に寄ってもらえませんか?」
 クロセルはマナに頼むと、『よくしゅ百穴』に寄った。
「レース途中でどうしたのネ?」
 大きめサイズたいむちゃんに答える暇もなく、クロセルは展示即売されているよくしゅヒルを鷲掴みすると、あらかじめ用意しておいたに代金入りの封筒を代わりに放った。
「一体何なのネ?」
 瞬時に商品と交換された封筒を、たいむちゃんは手にとってみた。そこには、『釣りは要りません。キミのパートナーに美味しいモノでも買ってあげなさい』と記されている。
 素速く中身を確かめると、たいむちゃんは……余分に入っていた分の代金をさっとポケットに入れた。これがパートナーの為に使われるかどうか……それはまあ、たいむちゃんの良心にかかっている。
 口笛でも吹き鳴らしたそうなそぶりのたいむちゃんだったが、そこに。
「あああ、何があったのネー!」
 見物客が何かしたのか、慌てふためいたコウモリが一斉によくしゅ百穴の洞穴から飛び出した。
 バサバサと飛ぶ黒い一群がドラゴンの目の前を横切り、あるものはぶつかって落ち、それに驚いたドラゴンや乗り手がバランスを崩し、とレースはいきなり乱された。
 それだけでなく、
「どいてどいて、危ないわよー!」
 空飛ぶ魔法で飛び回りながら、伏見明子が大声で注意した。
 トラック航空ショウのトラックがドラゴンレースと交錯する。
「意外に良く出来てンなこのポンコツブースター」
 デコトラから煙幕を吐き出しながらレヴィが感心したように呟く。
「っ、とと……こいつはかなり危険だな」
 横手から来たドラゴンをレヴィは交わしたが、そのすぐ後ろを飛んでいた獣人の運転するトラックはそう上手くはいかなかった。
「うあっ……!」
 避けようもなく、ナークトがまともに目の前に飛び出してきたトラックとぶつかった。
 トラックの運転手もナークトもこの村の住人だ。たちまち村人からは悲鳴が挙がる。
 が、ナークトは不屈の闘志でフォレスト・ドラゴンに与えられたダメージを抑え、慎重に着地させた。
 衝突のショックで跳ねたドラゴンの身体からパートナーのフィッツは空中へと放り出される。が、こちらも万が一の為に用意していた魔法の箒を使い、素速く安全な脇に逸れる。
 明子はトラックの体勢を立て直そうと試みたが、こちらは地上へと落下した。
 壊れたトラックから運転手を引きずり出して、明子は歴戦で培った回復術を施して治療した。
「そっちのドラゴンも治療が必要そうね。あなたたちは大丈夫?」
「うん、オラは何ともないよ」
 ナークトはドラゴンの背で汗をぬぐい、フィッツは空飛ぶ箒でその横にすいと降りてくる。
「僕も怪我はしてないよ。ちょっと驚いたけどね」
「その人は大丈夫……?」
 ナークトが心配そうにのぞき込むと、トラックの運転手はやれやれと顔をしかめた。
「ひっでー目にあった。頭ン中、お花畑が見えたぜ」
「ふふ、その分なら心配なさそうね」
 明子は笑って空を見上げた。
 レースはまだ続いている。パフォーマンスを終えたレヴィは、トラックの窓から出した片手に応援の段幕を流しながらドラゴンと並走している。
「でもこういうのいいなあ。トラックとドラゴンが並走するとか、しっちゃかめっちゃかでパラミタっぽい。何でもありってのがこの大陸の好きなとこよね」
「俺はもうこんな目に遭うのは御免だがな」
 はあっと大きなため息を吐いて、トラックの運転手は道路に大の字にねそべった。
 
 
「ふふ、なんとかやり過ごせましたね」
 事故に巻き込まれずにその場を過ぎたクロセルは、マナに気づかれぬよう、後続のドラゴンへとよくしゅヒルをばらまいた。
 投げ上げたヒルは、マナのすぐ後ろに迫っていた『緑のウサちゃん』に乗っている葦原めいと八薙かりんに当たる。ほとんどは地上に落ちてしまったが、その一部がラビット隊のパイロットスーツから覗いている素肌に貼り付く。
「わっ……ちょっと、何するのよ!」
「妨害は禁止行為でしょう?」
 抗議の声をあげためいとかりんに、クロセルは涼しく笑う。
「ドラゴンへの攻撃ではありませんから、禁止事項には抵触してません」
「緑のウサちゃんにもくっついてるよ! はい、失格!」
 めいに言われても、クロセルは尚も言い張る。
「いえいえ、ヒルはそもそも悪い血を吸ってくれる益虫です。治療にだって使われる、由緒正しき……うわっ」
「っ! 何かくっついたのだ!」
 かりんが自分の肩から引きはがして投げつけたヒルが、マナにぴとっと貼り付いた。マナが事情が分からず慌てふためいているうちに、緑のウサちゃんは悠々とクロセルを追い越していった。
 
 
 
「あら、またトラブルかしら?」
 レースの途中でコースを外れ、牙の広場に一旦て止まったフォレスト・ドラゴンに気づき、ディミーアはそちらへと向かった。ドラゴンのメインドライバーは呀雷號、サブにパートナーの鬼院尋人が乗っているが、どうやら操作を交替しているらしい。さすがに猛スピードで飛んでいるドラゴン上では入れ替われないから、一旦止まって交替しているのだろう。
 位置を入れ替わると、ドラゴンは再び飛び立ってコースへと戻った。
 これなら大丈夫そうだと、ディミーアは実況に戻る。出来るだけ多くの人が無事にゴールできるようにと願いながら。
 
 雷號と交替し、尋人はフォレスト・ドラゴンを走らせる。
「ごめん。結構いいところにつけてたのに……」
 操縦者を交替する間に他のドラゴンに抜かれ、順位は下位に落ちてしまった。詫びる尋人に雷號はふっと笑う。
「自分でやってみたくなったんだろう。だったら後悔するより、全力で走らせたらいい」
「うん。どれだけ出来るか分からないけど……やってみる」
 尋人がそんな気になった理由を、雷號は分かっている。レース前、尋人は今は他校に移った先輩である黒崎天音と話しているうちに、賭け勝負をしようということになった。
 そして、レースに負けた方が勝った方に『1日相手の言うことをきく』という意味のリクエスト券を発行することに決めたのだ。勝った方は負けた方に、好きなときにその券を見せて権利を行使できる。
 そうなると、最初はドラゴンの操舵は雷號に任せて自分はもっぱらレースの様子を見ることに専念しようと考えていた尋人も、のんきには構えていられない。
 憧れでもありいつかは超えたいと思っている存在の天音との勝負となれば、雷號の後ろに乗っているだけではなく、自分の力でやってみたい。そう考えて、尋人はレースの途中ではあったが、雷號に頼んで替わって貰ったのだった。
 馬とはまた違った乗り心地だけれど、風を切る爽快感や、自分とはまた違った生き物との一体感は共通している。
 時折、背後から雷號にアドバイスをもらいながら、尋人はいつしか賭のことも忘れ、ドラゴンと空を駆ける楽しさに夢中になっていったのだった。