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【獣人の村】【空京万博】ドラゴンレース

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【獣人の村】【空京万博】ドラゴンレース
【獣人の村】【空京万博】ドラゴンレース 【獣人の村】【空京万博】ドラゴンレース

リアクション

 
 
 
 ■ コース紹介 ■ 村の小さな鍛冶屋さん 〜 【蒼空王国機甲獣人の村本部】
 
 
 
 ドラゴンレースのスタートは、【村の小さな鍛冶屋さん】前だ。
 スタート位置には多くの見物客が押し寄せ、今か今かとスタートの時を待っている。
「現在、スタート地点上空よ。下にはレースに参加するドラゴンが並んでいるのだけれど、その周辺を埋め尽くす見物客もびっしりといるのが分かるかしら?」
 八王子 裕奈(はちおうじ・ゆうな)はドラゴネットとなったバル・ボ・ルダラ(ばるぼ・るだら)の背に乗って、上空からドラゴンレースのスタート地点をリポートする。
「ここでスタート地点から最初の曲がり角までのコースを確認しておくわね。まずは……」
 裕奈の実況にあわせ、バルは少し高度を下げた。
「スタート地点となるのは、【村の小さな鍛冶屋さん】。現在ここでは鍛冶の実演も行われているから、興味のある人は是非見学してみてね。なお、村の小さな鍛冶屋さんの様子はネットにも流されているから、今日、村に来られなかった人もそちらで見ることができるから要チェックね。その隣に見えてきたログハウス風の建物は【子供の家「こかげ」】。孤児院と児童館を併設した、子供たちのための施設よ」
「ではここで、村の小さな鍛冶屋さんの様子をお伝えするにゃう」
 プレゼントボックスをカタカタと走らせて、アレクスが村の小さな鍛冶屋さんへと入っていった。

 
 【村の小さな鍛冶屋さん】
 
「こんにちはにゃう。ここは何をしている施設なのかにゃう?」
 アレクスにマイクを向けられると、水心子 緋雨(すいしんし・ひさめ)は愛想良くそれに答えた。
「ここは【村の小さな鍛冶屋さん】。村の生活水準を上げる為の、鉄製の道具の製作・販売・修理を行う施設で、販売区画・作業区画・居住区画の3区画で構成されているの」
 説明する緋雨は魔鎧の姫神を身につけ、宣伝広告の力を借りている。
 こうしてドラゴンレースのインタビューに答える他、持ち込んだコンピューターやスマートフォンを駆使し、緋雨はネットを通じてこの鍛冶屋を宣伝しまくっている。パラミタでネット環境が整っている地域は限定されているから、どのくらいの人々がそれを見、見た人のうち興味を持ってくれるのかは分からないが、人の目に触れる機会が増えるのは間違いない。
「今も鍛冶をしてるにゃう?」
「ええ。まずは作業区画で実際の作業を見てもらうのが分かりやすいかしら」
 緋雨に案内されてアレクスが行った場所では丁度、天津 麻羅(あまつ・まら)が鉄の打ち方を見物客に説明しているところだった。
 炉の中で真っ赤に熱された鉄を、麻羅が小気味よい音を立てて叩く。
 鍛冶作業をする際には利き目のみで行うのが麻羅のならわしだから、左目は眼帯で隠し、右目のみの感覚でハンマーを打ち下ろす。
「やはり大切なのは日本のことわざにもある通り、『鉄は熱いうちに打て』その上で『その打ち方に細心の注意をせよ』ということじゃな」
 外見は12歳の麻羅だが、ハンマーをふるう腕に迷いは無い。
「見かけが可愛らしい幼女だからって、外見ばかり見ないで腕の良さの方もじっくり見ていってね」
「緋雨、いらぬことを言うでない」
 手元から目は逸らさずに麻羅が注意するが、緋雨はこたえた様子もなくにこにこと続ける。
「あら、マスコットキャラだって良い宣伝になるのよ♪ 今日はドラゴンレース見物にいっているから今は人がいないけど、普段は獣人の職人さんも多くここで鍛冶をしているの。あ、でももちろんここの鍛冶屋で作るのは生活用品だけで、武器は作ってないからその点は安心してね」
 そう言いながら緋雨がさしたところには、出来上がった道具が並べてあった。
 包丁やハサミ、斧や鎌。緋雨が言う通り、あるのは生活に必要な品ばかりだ。
「皆、熱心に鍛冶に取り組んでおる故、是非こちらの製品を購入してもらいたいものじゃ。それにしても緋雨……おぬしも修行の身じゃろう。ここの者の為に行動を起こす事は良いが、少しはここの者を見習って精を出しても良かろうにのう」
「麻羅はそういう枯れたこと言わないように」
「やはり整った環境での作業は効率も上がりますし、出来の良い物も多く出来ますからね。ですが、一番重要なのはそれを扱う腕。腕がなければどんな環境も宝の持ち腐れとなってしまうというものです」
 鍛冶の腕は精進あるのみ、という姫神に緋雨は姫神まで、と行った後、感慨深く鍛冶場を見渡す。
「でもそうね……いつかこの鍛冶屋さんで私が目指してる武器が出来るといいな」
 
「以上、【村の小さな鍛冶屋さん】よりお伝えしましたにゃーう」
 
 
 
 【子供の家「こかげ」】
 
 
 
「ではお隣の区画にある【子供の家『こかげ』】に行ってみるにゃう」
 村の小さな鍛冶屋さんを出たアレクスは、次に子供の家『こかげ』を訪れた。
 ここは、親のいない獣人の子供が暮らす孤児院と、誰でも利用できる児童館を併設した可愛らしいログハウス風の施設だ。
 まだ完成して間もない為、木造の建物はやさしい木の香りとぬくもりに溢れ、大きな木陰に護られているかのような場所となっている。
「ねじゅちゃん、ねじゅちゃん、取材の人……というか、にゃんこさんが来ましたよ」
 アレクスに気づいた高天原 水穂(たかまがはら・みずほ)が、ネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)を前に押し出した。
「えっ、あたし?」
「ええ。ねじゅちゃんが紹介するのが一番良いと思います」
 水穂にそう言われ、ネージュはアレクスの差し出したマイクに向かって話し出した。
「ここは児童館と孤児院が一緒になってるんですよ。1階に多目的室、事務室、遊戯室、お手洗いがあって、2階には孤児のための子供部屋やお昼寝部屋、図書室があります。休憩やお手洗いのご利用だけでも大丈夫なんだけど、設備のほとんどが子供用でちっちゃいので、大人の方は特に気を付けて、清潔に使ってくださいね」
「今日はここでは何かやってるにゃう?」
「はい。レース見物に来た方の為に、子供好きな職員とあたして水穂さんでお子様をお預かりしてます。それと、お庭には今日だけ特別に、私たちのイコン『コノハナサクヤ』を展示しています。百合園女学院の第一世代イコンのフルスクラッチなんですが、珍しいキツネ型のイコンなんですよ。操縦席には入れないんですけれど、写真パネルで公開してます。大人の方から子供さんまで、興味をもってご覧いただけると思います。あとは……これ」
 そう言ってネージュが見せたのは、獣人なりきりしっポーチ。この施設で開発されたものだ。
「今日は限定版の、水穂さんバージョンのしっポーチの特別頒布も行います。この機会に是非、手に入れて下さいね」
「可愛いにゃーう!」
「これくらいかな……あ、最後にレース参加者にお願いです。子供たちが怖がりますので、超低空飛行やスタートダッシュのソニックブーム、大きな音のするものは、スタート地点の近くではどうかどうかご遠慮くださいね。みなさんのご健闘、スタート地点のそばから子供たちといっしょにお祈りしています!」
 ネージュがそう言うと、インタビューを見守っていた子供たちも歓声を挙げてカメラに向かって手を振った。
 
「以上、【子供の家『こかげ』】からお伝えしましたにゃう」
 
 
「ふぅー何とかインタビューに答えらました」
 ネージュはほっと一安心したが、これで終わったわけではなくここからが大忙しだ。
「ねじゅちゃん、バザーのしっポーチは多目的ホールの方がいいでしょうか? 入り口の近くがいいのでしょうか?」
「うーん……どっちがいいでしょうねぇ……やっぱり目に付きやすい入り口近く?」
 水穂に聞かれたネージュが考え込んでいるところに、ユーミーに荷車を牽かせた佐野 亮司(さの・りょうじ)がやってきた。
「ここに実況が来てるって聞いたんだが……」
「ついさっきまで来てたけど、もう次の施設に行きましたよ〜」
「そうか。少し先回りしてみようかな」
 ユーミーの方向を変えているところを水穂がのぞき込んで、その荷台に置かれた商品ににっこり笑う。
「これはこの施設で売っている『獣人なりきりしっポーチ』ですね」
「ああ、ここで仕入れさせてもらった。他にも、『霊獣のストール』に『キポリの守り』、あと少しだけど『動物顔の蒸しパンケーキ』も手に入ったから、それも載せて来た」
 亮司は獣人の村土産になりそうな物品を荷車に満載し、村に来た観光客向けの移動販売をしているのだ。
「実は今日は限定版の『水穂さんパージョンしっポーチ』があるんですよ」
 ネージュがさっきアレクスに見せたしっポーチを亮司に見せる。
「限定か。そういうのに惹かれる客は多そうだな。良かったらこれ、委託販売させてくれないか? 委託手数料はこれくらいで……どうだ?」
「あら、せっかくのお祭りですからそこはもう少し……こうですよね。その代わり、動物顔の蒸しパンケーキを少しいただきますから」
 水穂の交渉に亮司はちょっと考えた後、OKを出した。今日の商売の目的には村のPRも入っている。商人としては利益の追求は大切なことだけれど、自分も開発に関わった獣人の村の初イベントとなれば、その辺りは少しだけ横に置くとしよう。
「気合い入れて売ってくるからな」
「はい、お願いしますね」
 笑顔で亮司を見送ると、水穂は自分がしなければならない手配に気づいてネージュを振り返った。
「ねじゅちゃん、今日のお昼はお子様カレーにでもします? 預かった子も食べるでしょうからたくさん作らないといけませんね」
「うん。あっ、イコンに登るのはいいけど、落ちないように気をつけてね〜」
 水穂に答えながら、ネージュは急いでイコンの方へと走っていって、小さな子たちの様子を見守る。
「では私はカレーの用意を……あ、託児受付ですか? 入り口そばの事務所でお願いしますね」
 水穂も耳やしっぽをぴこぴこさせながら、『こかげ』内を走り回る。
「忙しそうですね〜」
 様子を見に来た非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)が、駆け回っているネージュたちを見てしみじみと言う。
「それだけ利用されているということなのだよ」
 有用な施設となったものだとイグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)は感心したが、アルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)は落ち尽きなく辺りを見回す。
「しかし本当に忙しそうでございますね……」
「カレーの用意とか聞こえましたけど、それどころでは無さそうですわ」
 ユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)は『こかげ』にやってくる人々を目で示した。今の中継を見ていた親たちが、託児があるならと子供を連れてきたり、遊び場所を求めた子供たちがやってきたりと、一層慌ただしくなりそうな気配だ。
「あたし、調理室を手伝ってきますわね。カレーも大量に煮ないといけないようですし」
「お子様カレーなら辛くはないから、アルティアでも大丈夫でございます……か?」
 ユーリカとアルティアは調理室を手伝ってくると建物の中に入っていった。
「ボクは事務室で受け付けの手伝いをしてきます」
「では我は子供たちの様子を見るのだよ」
 近遠は日を避けて建物内へ、イグナはイコンの回りで遊んでいる子供たちのところへ。
 職員たちに申し出て、大盛況の【子供の家『こかげ』】を手伝うのだった。
 
 
 
 再び上空
 
 
 
「その隣に広がる緑の地帯が【もふもふ農園】。上空からでも緑が茂っているのがよく分かるくらいだから、収穫もたくさんありそうよ。その隣にある3階建ての木造の建物は【レストラン・シュクレクール】。もふもふ農園の新鮮野菜も使っているのかしらね。そして、【ラビッツベース】、【蒼空王国機甲獣人の村本部】と並んでいるのは、巨大建造物だからよく分かるわね」
 裕奈は上空からリポートすると、地上へと中継を振った。
「では、アレクス殿、お願いね」
 
 
 
 【レストラン・シュクレクール】
 
 
 
「では、いい匂いがするお店に行くにゃーう」
 アレクスは裕奈が紹介した【レストラン・シュクレクール】へと入っていった。
「いらっしゃい……じゃないか、取材ご苦労さま」
 入ってすぐのレジにいた正光・シュクレール(まさみつ・しゅくれーる)が、客の会計を終えてレジから出てくる。
「レストランの紹介をして欲しいにゃう」
「獣人の方やこの村に遊びに来た人に楽しく食事をしてもらえる店、それがレストラン『シュクレクール』なんだ。1階部分に喫茶スペースと調理場やスタッフルームがあって、2階部分は従業員用の休憩室と個室の宿舎になってる。3階はうちの家族の住居スペースで、新メニューの開発をしたもりするんだ」
「何が食べられるのにゃう?」
「和食と洋食がメインだけど、ラーメンもやってるよ。獣人用のメニューも充実してるから是非食べに来てほしいな。あ、いらっしゃいませ!」
 そこに入ってきた客が、カメラに気づくと少し照れたような顔をしてそそくさと席についた。
「いらっしゃいませー♪ メニューはこちらです」
 普段は男っぽい喋り方をするステア・ロウ(すてあ・ろう)だが、今日はメイド服を着ての接客手伝いだから、客に対する言葉は丁寧にするように気を付けていた。注文を取るのと配膳が主な仕事だけれど、料理を作るアリア・シュクレール(ありあ・しゅくれーる)も会計をしている正光もがんばっている。自分もその足を引っ張ることのないようにがんばらないとと、笑顔ではきはきと客に接する。
「感じの良いお店にゃう。このおいしそうな料理を作っているところも見たいにゃうー」
「調理場はこっちだよ」
 正光が案内した調理場では、アリアが飛び回る勢いで料理を作っていた。
「あ、おにーちゃん。お店の方はだいじょうぶ?」
「ああ。みんなおいしそうにアリアの料理を食べてるよ」
「よかった。来てくれたお客様に喜んでもらえるのは嬉しいね」
 料理をする手はまったく止めないまま、アリアは嬉しそうに笑った。
「ドラゴンレースはもうすぐなのかしら〜?」
 チャティー・シュクレール(ちゃてぃー・しゅくれーる)はビデオの用意をしながらアレクスに尋ねる。
「もうすぐ出発するのにゃう」
「場所柄、スタートしたらすぐここの前を通り過ぎるのよねぇ。失敗しないように撮らないと〜」
 調理や接客に忙しい皆の為、チャティーは店の前を横切るドラゴンたちをビデオに収めるつもりだ。撮っておけば店が終わった後、皆でゆっくり見られるし、良い思い出の記録にもなるだろう。
「記録は私に任せて、みんなはお店をお願いねぇ。正光くんも何か決意したみたいだし、いっそ『食の変態』を目指させようかしらー」
「母さん……今さりげに何言った? 確かにアリアに教えてもらって料理は上達してるけど! 食の変態って何だ? そんなもの目指させるつもりなのか?」
「ほらほら、そんなことよりお客様がお会計よ〜」
 チャティーははぐらかして正光をレジへと追いやった。

「お店もビデオもがんばってにゃーう。レストラン・シュクレクールでしたにゃう」