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続・悪意の仮面

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続・悪意の仮面

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第一章
 
 付けた者の欲望や悪意を増幅という悪意の仮面。
 空京中で騒ぎを起こしたそれは、一旦の終息をみせた。
 しかし、事件はとどまる事を知らず。

 再び合いまみえた仮面はヒラニプラへと舞台を移し、新たなる混乱を巻き起こす――



「あたし最近全然アイドルっぽいことやってないじゃん! ムカつく〜! 今日はめっちゃくちゃ唄ってやるんだから!!」
 悪意の仮面を興味本位で付けてしまったラブ・リトル(らぶ・りとる)は、パートナーであるコア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)龍心機ドラゴランダー(りゅうじんき・どらごらんだー)に視線を向ける。
「ドラゴランダー! あんた背が高いからステージになりなさい!」
「な、何を……!」
 ラブはドラゴランダーの頭に仮面を付ける。途端に湧き出る破壊衝動に、ドラゴランダーは咆哮をあげた。
「アンギャアアアアア!!!!」
 それに構わず、次にラブはコアへと仮面を向ける。
「ハーティオン! あんたもあたしのライブを手伝いなさいよ!!」
「ラブ! やめるんだ! この仮面は……うわっ!?」
 コアの制止に耳を貸さず、ラブは素早く胸元にあるクリスタルに装着してしまう。
 それに反応するように、コアの目とクリスタルは一瞬にして真っ赤に染まった。
「ワ……私ハ……。我ハ……破壊スル、全テヲ……。破壊スルノガ……我ガ使命……。使命……? 違う……私は……あ、頭が!」
 頭を抱えたコアは、ついに耐え切れないというように腕を壁に叩き付けた。
「ちょ、どうしたの? ハーティオン。なんだかイメージが凶悪になったような……」
 さすがに異変を察知したのだろう。
 しかしラブの声には応えず、街へと歩き出したドラゴランダーに続いてコアはそれを追っていった。
「ま、待ちなさいよ! 置いていかないでってばー!」
 ラブは慌てて二人を追う。
 これが、のちに大きな騒動となる仮面のひとつだ。



「これって、悪意の仮面じゃないかしら?」
 道に落ちていた仮面を拾い上げ、シオン・エヴァンジェリウス(しおん・えう゛ぁんじぇりうす)はパートナー達である月詠 司(つくよみ・つかさ)ウォーデン・オーディルーロキ(うぉーでん・おーでぃるーろき)アイリス・ラピス・フィロシアン(あいりす・らぴすふぃろしあん)に声をかける。
「みたいだね。確か、付けるとその本人の悪意が増幅するとかだっけ?」
 明るい口調からして今回はウォーデンの二重人格の内のひとり、ロキの方が外へ出ているらしい――が、思い出すように口にする。
「これ……どうする?」
 アイリスの疑問に、シオンは面白そうにパチンと手を鳴らした。
「そうだわ、せっかく見つけたんだもの。ツカサ、あなたこれ付けてみなさいよ」
「はあ!? 何を言うんですか! それがどんなものだと知っていて言っているんですか!?」
 司の抗議に、シオンはにっこりと微笑んだ。
「ええ、もちろん。でも心配ないわよ。ワタシ達がすぐに取ってあげるし。それにそうね。これ、付けてくれたらしばらくの間は女装しなくていいわよ」
「え!?」
 シオンの提案に司は目を見開く。よほど意外な内容だったのだろう。
「でも、一週間ですか……」
「それが最大の譲歩よ。これで受け入れてくれないんだったら、ツカサの女装写真をばら撒くってことで……」
「あーもうわかりましたよ! 付ければいいんでしょう!」
(女装を少しの間だけでも止めさせてくれるって言ってるんですし。それなら、少し被るだけでしたら安いくらいですよね)
 司はシオンから仮面を受け取ると、そのまま顔へと被せた。
「司どうー? 何か変わったことある?」
 数分後。
 仮面を付けてから固まったように動かなくなった司にロキが尋ねる。
「ふ、ふふ……そうですか、そうです。何で今まで気付かなかったのでしょう。私だけが恥ずかしい目に遭わなくても良いじゃありませんか。皆も恥ずかしい格好をすれば……!」
「司……?」
 突如、不気味な笑みを浮かべた司に、おそるおそるアイリスが声をかけた。
「そうと決まれば早速実行です! 皆の恥ずかしい格好を写真に収め、画像掲示板に投稿するとしましょう! アイくんっ、あなたの作った服をお借りしますね〜!」
 いつも以上に機敏な様子で司は去っていく。
 その後姿を、シオンは面白そうに見送った。
「シオン……企んでる……?」
 アイリスの言葉に、シオンは笑みを深める。
「あら、だってこんな面白いことないじゃない。ロキ、あなたはワタシを手伝ってくれるわよね」
「もちろん! じゃあさっそく取り掛かることにしようか。さて、何するつもり?」
「あー……」
 どうやら仮面を付けた本人以上に、悪意を滾らせた人もいるらしい。



「どうやら、また仮面が出回っているみたいですね。一度あの仮面を被った身からして、何とかしてあげたいと思うのですが……」
 噂を聞きつけ、鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)は自らの考えをパートナーである常闇 夜月(とこやみ・よづき)鬼龍 白羽(きりゅう・しらは)医心方 房内(いしんぼう・ぼうない)に伝える。
「犯人はいっぱいいるよ。誰に当たる気なの?」
「木本さん。面識もあるので、余計にそのままに出来ません」
 白羽の言葉に、貴仁はきっぱりと答える。
「それで夜月、白羽……と、ついでに房内。囮を引き受けてくれませんか?」
「わたくしは構いません」
「まあ、真面目にやってもエロいことは起きそうにないしのぅ。別に知らない者でもないし、協力するかのう」
 貴仁の問いに、夜月と房内は承諾する。
 ふと、返事のない白羽を振り返ると、貴仁の表情は途端に引き攣った。
「貴仁、これ着てみない?」
「え、それって女の子用のワンピース……」
「もちろん、ボク達だけを囮にするなんて許せないからね。貴仁にもリスクを負ってもらわなきゃ!」
「え、ええ……?」
 じりじりと後ずさる貴仁に、白羽は容赦なく近づいていく。
「着ないと鎧化しないけどね。それでも良いってなら……まあ、ボクは和輝が助けられなくても別に……」
 さすがにそれは困るのだろう。貴仁はやけくそ気味に叫んだ。
「着ればいいんでしょ! 着れば!!」
 貴仁の声は悲痛さを伴って響き渡る。
「憐れじゃのぅ……主様」
 房内の言葉は貴仁の叫びに掻き消えたのだった。

 
 仮面がもたらす第二幕。
 様々な悪意と想いが交じり合い、
 果たして、それはどのような結末を生み出すのだろうか――