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学園祭に火をつけろ!

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学園祭に火をつけろ! 学園祭に火をつけろ!

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     ◆

「なんだ、隣は随分騒がしいな」
 健闘 勇刃(けんとう・ゆうじん)は自分たちの出し物の準備をしながら呟いた。
「朝から元気なのは良い事じゃないえすか。支度に差し障る程度の事でもないですしね」
 勇刃のパートナーである紅守 友見(くれす・ともみ)がテーブルクロスを敷きながらに、彼の言葉に返事を返した。
「それにしても、お隣さんは何をするんでしょうね」
 プレシア・アーグオリス(ぷれしあ・あーぐおりす)も友見に習ってテーブルクロスを広げて机に敷こうとするが、上手に出来ずに困っている。
故に彼女の口調は何処と無く詰まらなそうな、なんとなく面白くなさそうなそれになっていた。
「此処が飲食店のブースだから、恐らく飲食だと思うんだけどな、ウォウルさんたちの事だから恐らく何かしら面白い企画でもあるんじゃないかな」
 堂島 結(どうじま・ゆい)は何やら面白そうな事でも想像しているのか、にこにこしながら堂島 直樹(どうじま・なおき)と共に手を進める。
「彼とは数回面識があるけど、でも結の言うような面白い人ではなかった様に思うけどね。まぁ、確かにクセはあるけども」
「これ、何処に置いたら良いですか?」
 アニメ大百科 『カルミ』(あにめだいひゃっか・かるみ)が誰にともなくおろおろしながら尋ねるのを、直樹が近付いてきて手を貸す。
 彼らが支度を始めてから十数分――どうやらそれがそれぞれの役割になっているようだ。
「俺は殆ど話したこともないけどな。あぁ、友見、これは何処に置けば良いんだ?」
「ソーサーは此方に。カップはその台の上にひっくり返してください。ふぅ……あと二人くらい人手が欲しいですね」
「準備って確かに人手要るよね、お隣さんに相談してみようか?」
 勇刃と友見の会話を聞いていた結が提案するが、彼女の頭にぽんぽんと手を置き、直樹が笑いながら言った。
「それはもう少し頑張ってからの方が良いと思うよ。向こうも準備してるだろうし、どこも人手が必要なのは一緒だろうしね」
「そっかぁ、そうだよね」
 彼の言葉に素直に頷いた結は「じゃあもっと頑張らなきゃ」と意気込んで再び止めた手を動かし始める。
「あ、皆さん! 衣装の事でもちょっと相談があるんで良いですか?」
 近くの段ボールに頭を突っ込んでいたプレシアが声をかけると、彼らはひとまず作業を中断して彼女の元へとやってきた。
プレシアが徐に取り出したのはメイド服。彼ら、彼女らはこれからメイド喫茶をやるらしい。故にその衣装だ。
「一応おかしくなさそうな物にしたんですけど……これで大丈夫ですか?」
 恐らくは彼女が準備したのであろう。不安そうな表情で彼女はその場にいる女子を順番に見やる。
「大掛かりな支度はだいたい終わりましたし、もう着てみてはどうでしょう」
 友見の提案に一同が頷き、プレシアからメイド服を受け取った。その様子を見ていた直樹が、そこで漸く今している自分の格好に納得する。
「それでスーツなんだね、僕たちは」
「なんだ、聞いてなかったのか? 今日俺たちがやろうとしてた物」
「いやね、結が朝、出る前になって急に「これを着ろ」なんて言うもんだから着たは良いんだ。良いんだけど、結局何でスーツを着たのか教えてくれなくてさ」
 「それをちゃんと聞かないと……」勇刃はその言葉をのみ込みながら、直樹を苦笑ながらに見つめている。
二人がそうこうしていると、着替え終わった結、友見が二人の前に現れた。出てきた結がポーズを取って現れたのに対して、友見は直ぐ様近くにあった鏡に向かい、丈やら装飾品やらのバランスを伺っている。恐らくは慣れによる行動の差であろう。人前に出ることを踏まえた友見は身なりを完全に整えると、小さく「うん」と頷いてから勇刃たちの前に出ていった。
「似合ってるじゃないか、結。馬子にも衣装って感じだね」
「お兄ちゃん!」
「直樹さん、それは誉め言葉じゃない気がするんだが……」
 誉めようとして言葉の選択を間違えた直樹に突っ込みを入れる一同。と、友見が結に近付き、リボンやら丈やらを調整し始めた。
「全体的な丈は大丈夫みたいですね。あとは少しリボンの傾きとかを直せば……はい、出来ました!」
「わぁ、ありがとう!」
「いいえ」
「やっぱり友見ちゃんは慣れたものだね」
 結と友見のやり取りを見ていた直樹が感心しながら言うと、勇刃が後から出てきた二人に気付いた。が――
「うわぁーん、上手に着れなかったですよーう!」
「ちょ、カルミちゃん! まだお外に出ちゃ駄目ですよ!」
「うおっ!? プレシアにカルミ、お前たちまだ服っ!」
「はーい勇刃さん、見ちゃ駄目ですよー」
「お兄ちゃんもだからねー」
 肩やら何やらがはだけた状態で出てきたカルミと、それを懸命に止めようとして自分もまだ完全に着れていないまま出てきたプレシア。
結と友見がすかさず男子二人の視界を遮り、カルミとプレシアに早く戻るように促した。

「此方の皆さんも何やら元気ですねぇ」
 
 と、そこで突然、彼らのいる教室の出入口付近で声がした。間延びした、何処かに含みのある声。そしてその正体を理解した結は、殆ど条件反射と言って
遜色ない速さでもってその声の主へと叫ぶ。
「着替え中だからちょっと待って下さい!」
 扉に手をかけていたそのシルエットが、彼女の言葉に動きを止める。
「おやおや、これはこれは。僕としたことが、野暮ったい事をしましたねぇ。では、お手伝いさんを二人ばかり連れてきたので、僕はこのまま退散するとしましょうかね。今日は頑張って下さいよ」
「わ、わかったー! ありがとうですー! ウォウルさんたちも後で遊びにきてくださいね!」
 やや慌てた様子で結が返事を返す。
「あれ? ウォウル君が来てたのかい? 今声がしたようだったけど」
「ウォウル……? ああ、いつぞや誘拐されたって言う男か?」
「みたいですね。私、わからないんですけど」
 直樹が結に尋ねると、勇刃と友見が首を傾げた。
「うん、お手伝いしてくれる人を二人連れてきてくれたんだって」
「それは助かるな。入ってもらえば良いんじゃないか?」
 勇刃の言葉に頷いた友見が、しっかりとプレシアとカルミが簡易更衣室に戻っていったことを確認し、彼の目にかけていた自分の手を外す。
結もそれに習って直樹の目隠しを外し、二人で扉へと向かった。ほんの少し、顔だけ出せる程度に扉をあけた二人は、そこに顔だけ突っ込み、外を確認する。
「ご、ご機嫌よう……」
「………何やってんの? あんたたち………」
 外では何やら不思議そうな顔をして、顔だけ出している友見と結を見つめるティセラとセイニィの姿があった。