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学園祭に火をつけろ!

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学園祭に火をつけろ!
学園祭に火をつけろ! 学園祭に火をつけろ!

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     ◆

「へぇー! 初めて来たけど……なかなか凄いものだねぇ!」
 校門前で一人、何やら辺りを見回しながら独り言にしては随分と大きな声をあげていたのは永井 託(ながい・たく)だ。
「ウォウルさんからいきなり連絡が来たからビックリだったけどねぇ、こりゃあ来て良かったよ。うんうん」
 行き交う人の流れに、呼び込みに精を出す生徒たちを見て、何やら満足そうに託が呟く。
「こんな事なら、誰かと来た方が良かったかなぁ。独りで回っても良いんだけどねぇ」
 校門付近にある全体図を見ながら立ち尽くしている彼に、女性の声が掛かった。
「ちょっとそこの青年っ! 何してるのかなっ!?」
「え? あぁ、僕かな?」
「そうだよ、僕だぁ! そこの掲示板、大きくて分かりやすいのは良いんだけど見てると首、疲れるっしょ!」
「ま、まぁ……(この元気なお姉さんは一体……誰だろう)」
「って事で、この優しいお姉さんが君にこれをプレゼントしちゃうぞっ! はい」
 何ともテンションの高い女性が託に手渡したのは、学校の見取り図と出し物が纏めてあるパンフレット。
「もーさー、こんなお祭り騒ぎ、一年に一度しかないのに楽しめないんだよね。お客さんにこれ配らないといけないから」
「は、はぁ……」
「ってな訳で、あたしゃ一日中校内ウロウロしてるから、迷ったり困ったことがあったら声かけちゃってよ!」
「あ、どうも………」
 その女性の無駄に高いテンションに圧倒される彼に、彼女はにやりと笑って距離を縮める。
「青年。君、結構お姉さんのタイプだから、もしもあたしが先に見つけたら声かけちゃうかんね! うっしっし」
 思わず顔を赤らめる託を見て、満足そうな笑みになった彼女は踵を返した。
「んじゃ、今日は一日楽しんじゃってっ! じゃねー」
 終始『元気印!』と言った女性は、託に手を振り去っていく。呆然とその後ろ姿を見送る託は、手にするパンフレットに目を落とた。
「大学生って……何だか凄いねぇ……」
 それから彼は、近くにあった植え込みの淵に腰掛け、パンフレットに目を通す。
「確か……ウォウルさんたちがやってるお店って、喫茶店だったよねぇ。名前は…ああ。これだ、『スカイホリディ』」
 最初の目的地を確認した彼は立ち上がると、そこで動きを止める。どうやら何かを発見したらしく、うーん、と何やら考え始めた。
「うーん、彼って確か……でも、人違いだったら恥ずかしいよねぇ、やっぱ」
 どうやら見かけた事のある人物を発見したらしい。暫く悩んだ挙げ句、決意を固めて歩みを進める託。
「君たち、蒼空学園の人たちだよね」
 託に声を掛けられたのはヴァイス・アイトラー(う゛ぁいす・あいとらー)セリカ・エストレア(せりか・えすとれあ)。不思議そうな顔で託を見る二人に、彼は慌てて弁明する。
「あぁ、怪しい者じゃないよ。僕も蒼空学園の生徒でさ。何処かで見かけたことがあるなぁ、って思って声を掛けただけなんだ。人違いだったらごめんね」
 丁寧に説明した託に、「成る程」と言った表情を浮かべるヴァイスとセリカ。
「オレはヴァイスってんだ。ヴァイス・アイトラー。よろしくな」
「セリカ・エストレアだ。お前も文化祭の様子を見に来たのか?」
「永井 託だよ、よろしくねぇ。文化祭の様子を見に? うーん、まぁ此処の文化祭には初めてだからね、確かに様子見って言えばそうなるかなぁ。厳密に言っちゃうと、知り合いに呼ばれて来たんだ」
「へぇ、じゃあ託君は結構慣れてる感じなのか?」
「(慣れてる……?)うーん、どうだろうねぇ」
 意図していなかった質問を投げ掛けられた託が返事に困りながらも言葉を返すと、どうやらセリカの方がそれに気付いたらしい。彼は託に向かって顔色一つ変えずに言う。
「実はな、俺たちはこの文化祭っての自体が初めてなんだ。いきなりの質問を許してくれ」
「そうなんだぁ。そっかそっか、じゃあさ、今日は一緒に回らない?」
「お! ホントか?」
 思いがけない言葉に、ヴァイスとセリカに笑顔が灯る。
「うん! ほら、やっぱり慣れないと楽しいには楽しいけど、不安でしょ。僕で良かったら付き合うよ」
「で、でもだな……お前にも予定や誰か他の者と回るとか」
「大丈夫、今日はひとりだから、そこら辺も心配要らないよ」
 笑顔で答える託に、やや申し訳無さそうにするセリカ。が、その辺りはヴァイスの方が適応は早いらしく、セリカの方を数回叩きながら心配そうな顔をすうるパートナーに言葉をかけた。
「セリカ。人の善意は受け取っとこうぜ。託君もこう言ってんだし、甘えとこうぜ」
「……そうだな。それで託、俺たちはまずどこにいけば良い?」
「行かなきゃいけない場所はないと思うけど、とりあえず行きたいところ言ってみてよ」
「そこら辺は託君に任せるぜ」
「じゃあさ――」
 託はまず、自分が行こうとしていた目的地を二人に提案してみる。
「そうだな、知り合いのところに行けばいいか」
「いいじゃん。行こうぜ」
 三人は一路、ウォウルたちの出している店、『スカイホリディ』へと向かう事にした。
「それにしても良かったな、ヴァイス。今日は思いの外楽しめそうだ」
「だな、思わぬ誤算ってやつだ。に、しても。ほんと凄いな、文化祭って」
「あぁ、人が凄いな。祭りと言うだけの事はある」
「よっし、今日は目一杯楽しむぜ!」
 元気よくヴァイスが言うと、隣を歩くセリカも力強く頷いた。そして数歩前、パンフレットと格闘している託の隣に並ぶ。
「改めてよろしくな、託君」
「うん、よろしくねぇ」