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リミット~Birthday~

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リミット~Birthday~

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『さいごのしょうで、みんなでお祝いしましょう♪』


「ポミエラ、誕生日おめでとう」
 明かりを消した教室で、白波 理沙(しらなみ・りさ)達が作ったケーキに刺さる蝋燭が、ゆらゆらと幻想的な光を放つ。
 ノア・リヴァル(のあ・りう゛ぁる)の演奏で生徒達がポミエラの誕生日を祝って歌を歌った。
 ポミエラが数回にわたって火を消しきると、教室が拍手に満ちる。
 明かりが点けられ、教室をカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)が飛ばした千羽鶴が舞い、ポミエラが歓声を上げていた。
「ポミエラ、これはルカからあなたへの贈り物よ」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)はポミエラに用意していた花束を渡そうとする。
 だが、ポミエラの視線は花束ではなく、ルカルカが装備したたいむちゃんの制服に注がれていた。
「あはは、ごめんね。これはあげられないの。でも、ちょっとだけ付けてみる?」
 ポミエラは目を輝かせながら、花束そっちのけでたいむちゃんの制服姿を装着していた。
 楽しそうな娘の姿を見つめるポミエラの母親。
 そこへ笹野 朔夜(ささの・さくや)が花束を持ってやってくる。
「これは私とアンネリーゼさんからのポミエラさんのお母様への贈り物です」
 朔夜はプレゼントを贈ると、借りたままになっていた洋服を返した。
 すぐ近くでは花束を持ったポミエラの父親が、先を越されてしまったと苦笑いを浮かべていた。 
 すると、朔夜はポミエラの母親から熱い視線が注がれていることに気づいた。
 花束を贈られたかもしれないが、朔夜はポミエラの母親に気に入られてしまい、ファッションモデルとして一緒に出張について行かないかと熱心に誘われてしまう。
「い、いえ。僕はそういうのはちょっと……」
 朔夜が断ると、ポミエラの母親は借りていた洋服の借りがあるでしょうと、脅しに近い誘いしていた。
 それでも朔夜は必死に断り続けなくてはならない。
 そうしなければならないほどに、殺気に満ちたポミエラの父親の視線が、朔夜に突き刺さっていた。


「そういえば、あの人たちが探していたアイテムって、何だったの?」
 ルカルカの問いに父親はポミエラのトランクから、白い部分が黒に変わった巫女装束を取り出した。
「そんな所にありましたの!?」
 父親が伝えてあったはずだというと、ポミエラはすっかり忘れていたことに気づいた。
 ルカルカは≪黒衣の巫女装束≫を受け取ると、拡げながら眺める。
「なんか妙な色の巫女服よね。もしかしてルカが着たら何か起きたりして!?」
「起きないよ」
 一人盛り上がるルカルカの声を遮って、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)から渡されたネクタイスーツを着た男性教諭が告げた。
「その巫女装束は≪三頭を持つ邪竜≫に選ばれた奴が着ると、背後に紋章が浮かびあがり、そして封印を解くことができるようになる。言わば鍵の役目を果たすアイテムなんだよ」
 無理やり参加させられた男性教諭は、不機嫌そうな顔をしていた。
「あら、その服なかなか似合ってますわね。でも、ネクタイが曲がってますわよ」
「あ、おい」 
 ルカは男性教諭に近づくとネクタイを直し始める。
 止めようとした男性教諭だったが、結局抵抗するのをやめた。
 頬が赤く染まった顔を背ける男性教諭。
「……これは照れるぞ」
 ルカはワザと手間取った振りをして、ゆっくりネクタイを直した。


「さあ、召し上がれ」
 想詠 夢悠(おもなが・ゆめちか)想詠 瑠兎子(おもなが・るうね)は自分達が作った『たま☆るコーヒーゼリー』を生徒達に配って回った。
「やっぱり、これおいしい〜♪ おかわりぃ!!」
「いい加減にしないとお腹壊しますよぉ〜」
 次から次へと『たま☆るコーヒーゼリー』をたいらげるアニス・パラス(あにす・ぱらす)を、ルナ・クリスタリア(るな・くりすたりあ)が注意していた。

 隣ではヴァイス・アイトラー(う゛ぁいす・あいとらー)が口元に生クリームを付けながらケーキを食べていた。
「このケーキ、最高だな!」 
「ありがとうございます」
「おかわりだ!」
 皿を受け取ったノアがケーキを取りに行く。
 すると、隣に座ったセリカ・エストレア(せりか・えすとれあ)が笑いながら、ヴァイスに口を拭くように告げる。
「ヴァイス、ちゃんと食っておけ。後で今日の戦いの復讐も兼ねて、たっぷり鍛練の続きを再開するからな」
 
「チョコレートケーキがない」
「ごめんね。特大のショートケーキを作るので精一杯だったのよ」
 残念そうにするルカルカに、理沙が申し訳なさそうに謝る。
「仕方ないわ。デコレーション用のチョコをぶっかけて――」
「やめとけ。持ってきたお菓子にチョコレートがあっただろう。それで我慢しておけ」
 ルカルカはダリルに頭を叩かれ、仕方なく諦めることにした。
 すると、背後から雨宮 七日(あめみや・なのか)が呟く。
「チョコばっかり食べてるとデブデブになりますよ」
「なっ――!?」
 ルカルカが飛び退きと、慌てて言い返した。
「だ、大丈夫よ。ちゃんとその分動きまくるからっ!」
 七日が疑うような目を向ける。
 ルカルカは必死に抗議した。

 ベルの音がなり、皆が教壇に立った四谷 大助(しや・だいすけ)を見る。
「皆さん、今日はオレと七乃、そして雅羅から、サプライズとして見て楽しい、飲んでおいしいラテアートをご用意してみました。どうぞ味わってください」
 教室の扉が開き、メイド服に似た可愛らしい衣装に身を包んだ四谷 七乃(しや・ななの)雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)が恥ずかしそうにしながら入ってくる。
 そんな雅羅の姿を見た瑠兎子が鼻血を出して倒れた。
「……我が人生に悔いなし」
 辛うじて受け止めた夢悠の腕の中で鼻血を出した瑠兎子は、幸せそうな表情で瞼を閉じた。

 そんなこんなで生徒達に、可愛らしい動物が描かれたラテアートが配られる。
 七乃がポミエラにラテアートを持っていく。
「これ、七乃が作ったんですよ〜。どうですか?」
 七乃の用意したラテアートには可愛らしい猫が描かれていた。
「なんていうか。すっ〜〜〜〜〜ごっく、かわいいです!!」
 ポミエラが飲むのがもったいないと、楽しそうに笑いながら手に持ったカップを見つめている。
「こっちはマスターのです」
 大助の用意したラテアートには、沢山の花やプレゼントに囲まれたテディベアの絵と、『Happy Birthday』の文字を描かれていた。
「こっちはとぉぉぉぉっても綺麗ですぅぅ♪ これ、このままお家に飾りたいですぅぅぅぅ」
 ポミエラはぽわわ〜んと頬を緩ませて、起きながらにして夢の世界に旅立っているようだった。
 ラテの薫り高い匂いが教室を満たしていく。

 そんなのんびりした時間の中、氷室 カイ(ひむろ・かい)サー・ベディヴィア(さー・べでぃびあ)に尋ねる。
「あっちにおまえの前の御主人みたいなのがいたが、いいのか?」
「いいんですよ。だって、今の私の主人は貴公ですから」
 近くの席では戦闘が終わり、ルーシェリア・クレセント(るーしぇりあ・くれせんと)がのんびりくつろいでいた。
「アルトリアちゃん。私、疲れたましたぁ〜」
「やれやれ、戦闘以外だとルーシェリア殿はいつみても別人みたいですね」
 アルトリア・セイバー(あるとりあ・せいばー)はルーシェリアのそんな姿を見ていると心から安心できた。

「海、冬休みはどうするつもりだよ?」
 一緒のテーブルを囲って座る杜守 三月(ともり・みつき)高円寺 海(こうえんじ・かい)に問いかける。
「冬休み? まだ気が早いと思うけどな。……そうだな。特に予定はなかったが、雪山へスキーにでも行ってみるか」
「いいな、それ。ゲレンデに泊まったりしてな。なぁ、その時は一緒に行こうぜ」
「ああ、行くことになったらな。考えておくよ」
「おっけー。その時は柚も一緒な」
「え?」
 いきなり話を振られた杜守 柚(ともり・ゆず)は手に持ったカップを落としそうになった。
「た、楽しみにしています」
 柚は噛みそうになりながら、慌てて答えた。
 それから三人は、海が席を立つまで暫く他愛もない話をした。
「あ、すまん。ちょっと用事があるんで少し抜けるよ」
「おう、また後でな」
 海は教室を出ていく。
 その時にはすでに男性教諭とルカルカ達の姿も教室にはなかった。

「あ、あの雅羅。君に特別なものを用意したんだ!」
「え、何?」
 勇気を出して大助が雅羅に特別に用意したラテアートを渡そうとしていた。
「こ、これを――」
「きゃあ!?」
 大助が差し出すのと重なるように雅羅が小さく叫び声をあげる。
 大助が閉じていた目を開けると、雅羅が視界から消えていた。
 周囲を探すと、神豪 軍羅(しんごう・ぐんら)が雅羅を脇に抱えている。
「雅羅・サンダース三世の災難体質は私にとって有効なものだ! 彼女には私と一緒に――」
「ちょっと本人を前に気にしてること言わないでくれる!? というか、さっさと降ろしなさいよ!!」
 雅羅はジタバタとかなり抵抗していた。
 軍羅は今にも雅羅を落としそうになる。
 そこへ大助が軍羅に強い口調で叫ぶ。
「軍羅! さっさと雅羅を離せ!」
「ほお、四谷くんではないか、奇遇だな、まさか君とこんな所で合おうとはな……」
「……ああ、すごく作為的なものを感じるけどな」
「ふむ。ここで前回のリターンマッチと言いたい所だが、この小娘の身柄確保の方が優先でね。すまないが、お楽しみは次の機会に――!?」
 教室を出ていこうとする軍羅は、強い殺気を感じて咄嗟に顔を引くと、瑠兎子の放った本気の拳が頬の皮をうすく切り裂いた。
「あんた、ワタシのお姉さまに手を出してタダですむと思うんじゃないわよ!」
「いや、瑠兎子のじゃないでしょ」
「そもそも私の方が年下よ」
 夢悠と雅羅がツッコミを入れるが、頭にきている瑠兎子には声が届いていないようだった。
「くっ、こいつはっ、予想、外、だっ!」
 片手を雅羅で塞がれた軍羅はテーブルの並ぶ狭い教室で、瑠兎子の拳に段々と追い詰められる。
 仕方なく軍羅は教室の外で大助と一対一で勝負するという本来目的を破棄することにした。
「仕方ない! 四谷くん勝負!」
「は、なに!?」
 突如大助に向かって走り出す軍羅。
 何の準備をしてなかった大助に軍羅が近づく。
「今回は君に華を持たせよう……」
「は!?」
「きゃっ!」
 軍羅は通り過ぎ際に雅羅を大助に押し付ける。
「ぐはっ、すれ違いざまに一撃くらわすとは、やるな。……どうやら、私の負けのようだ。くっくっくっ、だが四谷くん……これで終わったとは思わないように」
 軍羅は暴れるだけ暴れて教室を後にした。
「あいつ、なんだったんだ……?」
「こんどあったら絶対殺す。間違いなく殺す」
 瑠兎子は呪詛のような言葉を吐いていたが、急にケロッと表情が戻した。
「っと、それはそうと雅羅、大丈夫?」
「ええ、怪我ひとつないわ。ありがとう瑠兎子」
 瑠兎子はいつの間にか言葉使いも戻っていた。
「まったくなんだったのかしら」
 雅羅は怪訝そうに軍羅が出て行った扉を睨む。
 大助が七乃に袖を引っ張られる。
「マスター、雅羅さんへのラテアート」
「しまった!!」
 大助は慌ててテーブルにおきっぱしにしたプレゼントの所に戻る。
 特別に用意したラテアート。
 触れると、生温くなっていた。
 落ち込む大助。
「これがさっき言ってた特別なもの?」
「うわっ!?」
 いつの間にか雅羅が傍に来て、ラテアートを覗き込んでいた。
「これってもしかして私の横顔?」
「う、うん、そうだよ」
「すごいわね。大変だったでしょう?」
 大助が用意したラテアートには精細な雅羅の横顔の自画像と、『To dear Friend』の文字が描かれていた。
「い、いや。そんな大したことはないよ」
「ねぇ、このラテアートと一緒に写真撮っていい?」
「い、いいよ」
 大助は邪魔にならないように離れようとする。
「どこいくの?」
「え、雅羅が写真を撮るから邪魔にならない場所に……」
「一緒に映りましょうよ」
「え、どうして――」
「七乃、お願い。ほら、早くしてよ」
 雅羅はカップを持ちながら、大助と並ぶ。
 七乃の要請で近づく二人。
 雅羅がまるで肩に頭を乗せるように、耳元に顔を近づける。
「さっきは私のために怒ってくれてありがとう」
「――!?」
 シャッターがきられる。
 写真には耳を赤くした大助の耳元で笑う雅羅が映っていた。

「アンネリーゼさん、ちょっといいですか? 朔夜も一緒に来てください」
「なんですの?」
 ポミエラに呼ばれて朔夜、アンネリーゼ、夢悠、瑠兎子が集まる。
 ポミエラは恥ずかしそうに話す。
「皆さんはわたくしが落ち込んでいる時に慰めてくれました。だから、その、お礼がしたくて……」
 ポミエラは生徒達が誕生日パーティーを楽しんでいる間に、母親に作ってもらったという簡素だが綺麗な花ヘアピンを取り出した。
 余った生地で作ったという、白と黄色の花びらが交互についたガーベラの花を模した花ヘアピンは、ポミエラの手に六つあり、全て同じものだった。
 ポミエラが意を決して口する。

「わたくし、皆さんとずっと、ずっと、お友達でいたいです!!」

 ポミエラの真っ直ぐな想いに、否定の言葉を口にする者はいなかった。
 ポミエラは自分の頭に一つつけると、友情の証として一人一人の頭に自ら付けていった。
 朔夜は優しく笑いながら感謝を述べた。
 アンネリーゼは嬉しそうに何でも、触れていた。
 瑠兎子は笑いながら回転して感想を聞いてきた。
 夢悠は笑いを漏らす瑠兎子に耳まで真っ赤になりながらも、ぎこちなく笑って感謝を述べた。
「それにしてもカルキノスさんにも渡したかったのですが、一体どこに行ったのでしょう?」
 

「へぇ、これが話に聞いた書物かぁ」
「ルカ、あんまり乱暴に扱って破るなよ」
「わかってるわよ」
 ルカルカはカルキノスに注意されながらも、興味深そうに≪三頭を持つ邪竜≫に関して書かれた書物を眺めていた。
「その内容のほとんどがまだわかっていない。今は≪三頭を持つ邪竜≫の封印場所を探っている所なんだとさ」
 男性教諭の代わりに海が現状を話した。
「ところで≪三頭を持つ邪竜≫を見つけてどうするんだ」
「さあね。どうするかは僕らが考えることじゃないよ。もっと偉い人が決めることだよ」
 ダリルの問いに男性教諭は笑って答えた。

地下に造られた研究室は冷たく、静かで別世界のようだった。

(おしまい♪)

担当マスターより

▼担当マスター

虎@雪

▼マスターコメント

 初めまして、またはお久しぶりです。
 『リミット〜Birthday〜』のリアクション製作を担当しました。虎@雪(とらっとゆき)です。

 今回は結構派手にぶっ飛んだ感じがしないこともない感じです。
 久しぶりにやったからか、こんなんだったかなと少々不安を感じつつ、とりあえず完成しました。
 楽しく読んでいただければ幸いです。後、素直な感想が聞ければ嬉しいと思っています。

 今後も頑張りたいと思うので、また機会があれば皆様どうぞよろしくお願いします。
 この度はありがとうございました。