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古代兵器の作り方

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古代兵器の作り方

リアクション

     ◆

 静麻からの連絡を受けた海、柚、三月は、ひたすらに通路を走っている。それは無理に体を動かし、再び息も絶え絶えなウォウルからの指示でもあった。故に彼は、何とも不機嫌そうに走っている。
「その……………海、君?」
「………………ん?」
「怒ってますか……………その」
「………ごめん、柚や三月のせいじゃない」
「海」
 三月が一度立ち止まり、海の腕を持って彼を引き留めた。その様子を不思議そうに見詰める柚と、眉間に皺を寄せている海。
「いい加減に割り切りなよ。ウォウルさんは海にみんなの命を託したんだ。自分がそうしたかったろう事を、君に預けたんだよ」
「……………………」
「み、みつきちゃん…………その、こんなときに喧嘩は――」
「一つ、言っておくよ。皆のためを思うなら、もっと色々と見なくちゃいけない。直接的な物だけが人助けじゃ、ないんだよ?」
「わかってるよっ!!!!!!!」
 我慢の限界だったのだろう。海は叫ぶ。
「俺だってそんなの知ってるよ!!! でも、あんな姿の人にまで心配されちまう俺って一体何なんだよ!!! これじゃあ、どっちが助けられてんのかわかんねぇよ!!!! 皆に助けられて、あのウォウルとかって人にも助けられて、だったら俺は――俺はなんで此処に!!!!!!」
「わかってない。全然わかってない!!!! そんな言葉、ウォウルさんが聞いたら悲しむよ!!! 皆も、柚も僕も、海、君自身も、みんな悲しむ」
「…………………………」
 三月の言葉に顔を背ける海。と、おそるおそるではあるが、柚が彼の袖を握った。
「あのね、海君。三月ちゃん、もっと皆に甘えていいんだよっ、て、そう言いたいんだと思うんです」
「……………………」
「柚」
 海は俯いたままである。反応はない。
「私、海君から電話貰って嬉しかったんです。ホントですよ!? 『私でも、ちゃんと海君に必要とされて、頼ってくれるんだ』って、そう思いました」
「………………………………」
「英雄に――ヒーローなんかにならなくったって、良いんです。皆で力を合わせて、みんなと仲良く、一緒になって何かを成し遂げたり、誰かが困っているとき、皆で支え合えたらそれでいいなぁ、って思います」
「柚……………」
「三月ちゃんも、きっと同じ気持ち。だから一人で背負い込むのは止めてください。悲しくなっちゃいますから」
「お前ら………………」
 三月は漸く握っていた海の腕を離し、今度は改めて、と手を差し出した。
「柚や僕がいる。カイさんだって渚さんだって、いるじゃない」
「…………あぁ、ありがとな…………その」
 差し出された手を握る海。握手を交わす二人の手を、柚は優しげな笑みを浮かべながら両の手でそれを包み込んだ。
「大丈夫です。海君は皆さんから、必要とされてますよ」
「ありがとう…………その、ごめん」
「良いんだよ。じゃあ、気を取り直して、行こう」
「あぁ、俺たちができる事をやりに、な」
「はいっ!」
 再び走り出した三人の足取りは軽い。


「ねぇ………真人。助け来るの、遅くない?」
 一方、真人とハイコド、プラム、竜斗、リアトリス、レティシアはモール内を歩いていた。
「確かに遅いですね。先程監視カメラにアプローチかけましたけど…………」
「やっぱり、希望的過ぎたのかなぁ………………」
 冷静に分析する真人の横、ハイコドは眉を『ハの字』にしながら地面にへたりこんだ。
「やっぱ、俺たちでこの人たち守りながら出た方が良いんじゃないか? ここまで待って来ないんじゃあよ」
「ですかね…………」
 立ち上がった彼等は、しかしそこで漸く声をかけられた。
「お久しぶりです、皆さん」
「ごめんね、今助けに来たからさ」
「やっと見つけたぜ」
 柚、三月、海が、彼等、彼女等いる通路の一番近い曲がり角から姿を現す。
「あれ――?」
「あの…………助けとは、お三方だけ、ですか?」
 リゼルヴィアが首を傾げ、ユリナが申し訳なさそうに呟く。
「二人とも、それは彼等に失礼だろう。人手が足りていないだろう状況で三人が来てくれたのだ。感謝せねばな」
 ミリーネが申し訳なさそうに言うと、柚は笑顔で返事を返した。
「あぁ、違うんですよ」
「今から外に皆を連れていくの。ね? 海」
「あぁ、安全なルートをナビゲートしてもらって、これから外に出る。みんな、本当に待たせたな!」
 海の言葉を聞いたその場の全員が、思わず歓声を上げた。ただ一人を除いては――。
「あぁ! ちょ、君! そっちは出口じゃないぜ!? おー…………………い、って行っちまった…………」
 竜斗の制止を振り切って、今まで歩いてきた道を反転し、全力失踪で走り去っていったのは七緒だった。
「どうしたんでしょうねぇ………あの子」
「彼氏とでも電話しに行ったんじゃねぇの? しゃあない。ユリナ、ミリーネ、ルヴィ。追いかけてって連れてくるぞ」
「あ、はい」
「わかったよー!」
「あ、主殿…………その、それはやめた方が…………」
 竜斗の言葉に返事を返したユリナとリゼルヴィアに対し、ミリーネは三人を止める。
「ん? どうしたミリーネ。体調でも悪いのか? だったらみんなと一緒に――」
「そ、そうではなくて………だな」
「んー? じゃあ早く行こうぜ、見失なっちまうよ」
 竜斗に手を引かれ、ミリーネも共に七緒を追い掛けた。
「あちゃー……行っちゃったね」
「まぁ、あの四人なら大丈夫じゃないかな」
 セルファが頭を抱えるのに対し、三月はほのぼのとそんな事を述べた。
「さ、俺たちは此処から出るとしましょう。海君」
「お、おう! んじゃ行こうぜ」


 一人走る七緒は、携帯を耳に押し当てていた。
「この路地を右……………後に直進百六十二メートル、合っているか?」
 誰かにナビゲートされながら、七緒はひたすらに走っていた。
「合流地点まであと三十メートル。先にはシャッターがあるぞ、壊せるか。――よし、撃ち破れ」
 そこで、そう言い終わった七緒が電話を切り、それをしまう。と、突然のようにその後ろの天井が砕け、その穴からシグルーン・メタファム(しぐるーん・めたふぁむ)が姿を現した。
「三………二……………一、此処か」
 何やらカウントダウンをしていた七緒は、突然の様にスライディングする。全力疾走だった為に慣性の法則で前進し、その僅か数センチ上をミサイルが通過した。ミサイルはそのまま、七緒が向かっているシャッターを撃ち破り、彼女はスライディングの勢いを殺さぬままに立ち上がり、流れるように駆け抜けるのだ。ブースター音が後方から距離を縮めたところで、七緒に向けて声が掛かる。
「あの、お待たせしました。マスター」
「いや、いいタイミングだった………行こうか。こんな機会は滅多にないぞ」
「…………はい!」
 二人が目指すは――ラナロック・ランドロック。