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パーティーは大失敗で大成功?

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「てぇぇい!」
 レティシア・トワイニング(れてぃしあ・とわいにんぐ)が緑焔翼剣を一振りすると、空気を引き裂く音が鳴り響く。
 ≪灼熱の猿王――タル≫は確実に攻撃を避け反撃に蹴りを打ち込む。レティシアはそれを剣で防御しながら、牽制に剣から緑色の炎を放った。
 後ろに跳ねて回避した≪灼熱の猿王――タル≫。地面に着弾した緑色の炎は雪を溶かし、芝生を黒に染めた。
「追撃、いっくよぉ!!」
 地面に着地した≪灼熱の猿王――タル≫に緋柱 透乃(ひばしら・とうの)が拳を叩き込む。
 腕を交差して止める≪灼熱の猿王――タル≫に透乃が連続で攻撃を仕掛ける。
 反撃の隙を与えず、連続して繰り出す攻撃。
 透乃は意外と楽に終わってしまいそうな気がしてがっかりした気持ちになった。
 すると、気を緩めた瞬間をついて≪灼熱の猿王――タル≫は屈みこんで拳を避けた。
 そして、虚空に拳を打ち込んだ透乃の腹に、≪灼熱の猿王――タル≫の重い一撃が入った。
「……まだ、だよっ!」
 勝った気で動きを止めていた≪灼熱の猿王――タル≫の顔面に透乃の炎を纏った拳が叩き込まれる。
「ゲホッゲホッ!!」
 透乃は軽く血を吐いて口元を拭う。白銀の上に赤い斑点が描かれる。
 離れた位置で鼻血を垂れ流す≪灼熱の猿王――タル≫がよろよろと立ち上がった。
「この程度じゃ、私はまだまだ余裕だよ!」
「つまらん戦いだ。さっさと本気を出してもらおうか」
 透乃とレティシアの挑発に≪灼熱の猿王――タル≫が潰れた顔でニヤリと笑った。
 
 ――≪灼熱の猿王――タル≫が奥義を発動した。
 業火が≪灼熱の猿王――タル≫の全身を覆い。身体が何倍も大きくなり、全身の毛が濃くなる。
 灼熱の猿王と呼ばれる所以になった姿に変化した。

「やっと面白くなってきたよ♪」
「ふむ、あれがあやつの本気か。……面白そうだ。我は全力で挑ませて貰おうぞ!」」
 透乃とレティシアは楽しそうに笑いながら構える。
 灼熱の猿王が雪が降り注ぐ空に向かって雄叫びをあげた。
「と、透乃ちゃん!!」
 緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)の慌てた声に透乃が振り返ると、倒されたはずの≪猿魔エシュ≫達が次々と立ち上がっていた。
「何これ!?」
 ≪猿魔エシュ≫達は灼熱の猿王の雄叫びによって身体を薄らと炎が覆い、折れた足を引きずってでも本人の意志とは関係なく戦わされる戦士となっていた。
 ≪猿魔エシュ≫達は苦しそうな声を上げながら、生徒達に向かってくる。
 透乃は一斉に向かってきた≪猿魔エシュ≫達に次々と拳を叩き込む。
 抵抗する力もなく簡単に殴り飛ばされるだけの敵を前に、透乃は苦虫を噛みしめたような表情をしていた。
 そこへ灼熱の猿王が拳を振り上げながら、地響きのような音を立てて走ってくる。
 透乃は≪猿魔エシュ≫達を振り切ってギリギリ拳を躱したはずだった。
 だが地面に直撃した拳は、爆発が起きたかのように周囲に高熱と共に土砂を撒き散らした。
「……っ!」
 透乃の身体を吹き飛ばされる。
 水分を含んだ雪を削りながら転がった透乃の元に、灼熱の猿王が追撃を狙ってくる。
 立ち上がろうとした透乃の足に≪猿魔エシュ≫がしがみ付いてきた。
 焦って≪猿魔エシュ≫を引きはがそうとする透乃。
 ≪猿魔エシュ≫をどうにか引きはがし立ち上がろうとする透乃に、灼熱の猿王の振り上げた拳が迫る。
 避けきれないと思った時、透乃の腰をフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)が引っ張った。
 どうにか灼熱の猿王の一撃を回避したフレンディス達。焦げた匂いと共に熱風が頬を撫でる。
「大丈夫ですか! ここは一端、引きま――」
「おねーさま、後ろ!!」
 魔鎧化しているアリッサ・ブランド(ありっさ・ぶらんど)に言われて振り返ったフレンディスは、拳の形をした炎が背後から飛んできていることに気づいた。
 フレンディスはステップ回避を試みるが、追尾され回避しきれない。
 アリッサと透乃は【龍鱗化】等を発動させて守りを固めた。
 地面に叩きつけられたフレンディス達に≪猿魔エシュ≫が迫る。

 その時――高速の剣が空から振り下ろされた。

 フレンディス達の前にワイルドペガサスに跨ったリネン・エルフト(りねん・えるふと)が舞い降りる。
「『シャーウッドの森』空賊団。灼熱の猿王を打ち取るため、今から加勢するわ!」
 リネンはカナンの剣を灼熱の猿王に向けて高らかと宣言した。
 《天空騎士》の異名を持つ『シャーウッドの森』空賊団の名に灼熱の猿王は歯をむき出しにして威嚇してきた。
 リネンが手綱を引く。
「ヘイリー、皆さんをお願いね」
「任せて!」
 リネンが灼熱の猿王に向かっていき、ヘイリー・ウェイク(へいりー・うぇいく)が入れ替わるようにフレンディス達の元へやってくる。
「それほどひどい怪我ではないわね。これならすぐに治せるわよ」
 二人の怪我の具合を確認したヘイリーはすぐさま【歴戦の回復術】を発動させた。
「おらおらおらぁ! やらせねぇぜ!!」
 フェイミィ・オルトリンデ(ふぇいみぃ・おるとりんで)が素早い動きで奔走しながら≪猿魔エシュ≫を光輝のバルディッシュで切り裂いて行動不能にした。
「てめぇら、しっかり働けよ!!」
 空から次々とオルトリンデ少女遊撃隊が降りてきて、≪猿魔エシュ≫達に囲まれていた陽子を助けた。
「助けていただきありがとうございます」
「気にすんな。これくらい大したことじゃないぜ。でも、どうしてもお礼がしたいってんなら後でオレのベッドに――」
「遠慮します」
 陽子がニッコリ笑顔で断った。
 フェイミィはショボンとしながら戦いに戻っていく。
 陽子が凶刃の鎖【訃韻】を構えなおす。
「さて、私達も反撃をさせてもらいますよ!」
 リビングアーマーが≪猿魔エシュ≫に突撃する。
 陽子はリビングアーマーの背後を取ろうとした≪猿魔エシュ≫に鎖で抑え込むと、【エンドレス・ナイトメア】によって攻撃した。
 向かってくる≪猿魔エシュ≫を陽子は【地獄の天使】を発動して空中に飛翔して回避した。
 すると≪猿魔エシュ≫が投げた棍棒から、レイス【朧】が陽子を守った。
「ありがとうございます、朧さん。この調子で協力していきますよ」
 
 ――雪夜の空に火明かりに照らされた不気味な翼が生えた陽子の姿が浮かび出された。