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パーティーは大失敗で大成功?

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第四章 「闇を切り裂く波動」

「それでね――」
「よう!」
 華やかなドレスに身を包んだセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)が来賓の女性達と話をしていると、暇していたミッツが声をかけてきた。
「パーティー、楽しんで……あれ?」
 ミッツが近づくと女性達は話を切り上げて、引き攣った笑いを浮かべて立ち去っていく。
「なんか僕、避けられてないか?」
 自分が何かしたかと考えるがミッツには心当たりがない。
 セレンフィリティが薄化粧をした整った綺麗な顔でニッコリと笑う。ミッツは思わずドキッとしてしまった。
「うん。そうなるように噂流してるからね」
「は、え? 噂? 何の?」
「「ミッツはノンケを装っているが、その実は筋金入りの同性愛者で、さらに女性嫌悪の激しい人物である」とか」
「はぁ!?」
 言葉の意味を理解したミッツは、避けられた理由に納得し、頭を抱えた。
 セレンフィリティは腕を組むと、首を縦に振りながら唸る。
「こんなことしなきゃいけないなんて、お金持ちに生まれるってのもそれはそれで面倒ねえ」
「……ばら撒かれた間違った真実を正す方がよっぽど面倒だよ」
 ミッツは深いため息を吐いた。
「噂を流すにしても他の噂はなかったのか?」
「一応、「あたしはミッツに弄ばされて孕まされた!」とか考えたけど――」
「そんな噂を流されたら、嘘だとしても私がミッツを殺してしまうかもしれないわよ」
 ミッツとセレンフィリティが話していると、飲み物を取りに行っていたセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が戻ってきた。
 セレアナは両手に持ったグラスのうち片方をセレンフィリティに渡した。
 ミッツはセレアナの発言に不安を感じる。
「えっと、冗談ですよね?」
「……」
 セレアナは何も言わず、無表情でミッツを見つめている。
 ………
 ……
 …
「すいませんでした!」
 ミッツは腰をきっちり九十度に曲げて謝罪した。
 すると、セレアナは煌びやかなドレスに似合う上品な笑いをした。
「ふふ、冗談よ」
「そ、そうだよな」
「そうよ。直接手を下したら足がつくわ。やるなら社会的に抹消するわ」
「すいやせんでした!」
 ミッツは土下座していた。
 結局、ミッツはセレアナにからかわれただけだった。
 それでも一言だけ「本当にセレンフィリティに手を出したら、死ぬだけでは済まないわよ」と本気の目で脅された。
「さぁ、セレン行きましょう」
「う、うん」
 セレアナと腕を組んで歩き出すセレンフィリティ。
 セレンフィリティはセレアナが大切に思っていることが分かって、嬉しい気分になった。
「面倒そうだけど、お金持ちって羨ましいね。こんなパーティーが開ける別荘を持ってるんだもん」
「でもセレンがお金持ちに生まれたら、きっとすぐにでも散財して自己破産よ」
 もしも金持ちになったら、セレアナと幸せな時間を過ごすために使いたいと、セレンフィリティは思った。
 
 ミッツは壁に手をついて暗い表情をしていた。
「色々先行き不安だな……」
 すると、心配そうに遠野 歌菜(とおの・かな)がミッツに声をかけた。
「ミッツさん、まだ若いのにすでに人生が終わったような顔をしてどうしたんですか?」
「……なんだ。歌菜と羽純か」
 歌菜の後ろには月崎 羽純(つきざき・はすみ)の姿もあった。
 ミッツは歌菜達に自身が同性愛者の噂を流され、女性達に避けられていることを話した。
「そんなことがあったんですか。あの、元気出してください。人の噂も七十五日って言いますし」
「ありがとう。七十五日は結構長いけど頑張ってみるよ……」
 乾いた笑いを浮かべるミッツ。
「ステージでこれから俺が演奏して、歌菜が歌を披露するんだよ。よかったら、それ聞いて元気出してくれよ」
 二人の励ましを受けてミッツは少しだけ明るい気持ちになれた。
「ああ、そうするよ――って、おい、羽純。なんでそんな所にいるんだよ」
 羽純が避けるようにミッツから離れた位置で立っていた。
「……別に深い意味はないさ」
「目を逸らすな! 羽純、それは冗談でも怒るぞ!」
「そうだよ、羽純くん。例え噂が本当だとしてもそれは可愛そうだよ」
「お前ら、本当は信じてないだろう……」
 歌菜の言葉の追撃を受け、ミッツは再び落ち込んだ。
「あはは、悪い悪い。ちゃんとデマだってわかってるさ」
 羽純は意地の悪いを笑みを浮かべて近づくと、ミッツの肩をバシバシ叩いた。
「もういいよ。だから早く演奏しに行けよ」
 床に座り込むミッツは手を振って歌菜と羽純を追い払う。
 二人はミッツにちゃんと聞くように約束させて舞台の上へ向かった。
 舞台に立つと来賓の視線が中央に立った歌菜に集まる。
「こんにちは。魔法少女アイドル マジカル☆カナです! 今日は盛り上がって行きましょうね♪」
 アイドルコスチュームに身を包んだ歌菜が会場に向かって叫ぶと、来賓達から歓声が漏れる。
 歌菜とアイコンタクトを交わすと、羽純が手に持ったギターを弾き始めた。
 スピーカーを通して思わず踊りだしたくなるような軽快なリズムが響き渡る。
 歌菜は小さく息を吸うと、満面の笑顔で歌い始める。
「貴方と私 私と貴方〜♪♪」
 来賓の中には早くもリズムに合わせて足踏みしている人や、首を動かしている人もいた。
 羽純がギターを弾きながら前へ出る。
「手を取り 踊り 歌い 夢を見るの♪」
 来賓の女性達に向かって羽純がウインクをしている。
 女性達は羽純のサービスに黄色い声を上げた。
「一番空の高い所まで 今ならきっとジャンプ出来る筈……さぁ――」
 女性達と羽純が盛り上がる中、歌菜は複雑な気持ちになった。
 集中しなきゃいけないなのに気になって仕方ない。
 やばい。音外しそう……

「「一緒に行こう!」」

 歌菜に合わせて羽純が歌い始めた。
 羽純が歌菜に向けてニコッと笑いかけた。
 心配なんていらなかった。
「さぁ、皆さんもご一緒に♪」
 歌菜はマイク片手に歌にのせて心から楽しそうに踊った。
 
 その様子を目を輝かせてみていたあゆむに、海音シャにゃんになった富永 佐那(とみなが・さな)が話しかける。
「あなたも一緒に歌いたいんじゃないのですか?」
「あ、海音シャナさん。……でもあゆむは歌も踊りも得意ではありません」
 あゆむは恥ずかしそうに両手の人差し指をチョンチョンと突き合わせていた。
 そんなあゆむに海音シャにゃんが優しく笑いかける。
「気にしちゃだめですよ。パーティーなんだから楽しむのが一番です。ほら、行きましょう!」
 あゆむの手を引いて海音シャにゃんが舞台の袖に向かう。
 途中、ネコ耳メイドのあさにゃん(榊 朝斗(さかき・あさと))と目があった。
「やばいっ!」
「ほら、あさにゃんも!」
「や、やめてぇぇ〜」
 逃げるあさんにゃんの手も掴んで海音シャにゃんは袖から舞台に上がった。
「おっ邪魔しま〜す!! 彼女も歌いたいらしんだけどいいですか?」
 ちょうど歌い終わったばかりの歌菜は、羽純に視線を向けた。
 羽純はすぐさま笑いながら頷く。
「もちろん!」
 恥ずかしがるあゆむを無理やり中央に進ませ、両脇に歌菜と海音シャにゃんが並ぶ。
「では「猫娘娘(ねこにゃんにゃん)EX」オンステージと行きますよ!」
 マイクを手に高らかに宣言する海音シャにゃんの横で、あさにゃんはやるしかないのかと肩を落とす。
「猫娘娘かぁ〜。だったら、私もネコ耳をつけくちゃ駄目ね」
 そう言って歌菜は舞台袖から私物のネコ耳を持ってきた。
「そんなの持ってたのかよ。用意がいいな」
「ちゃんと羽純くんの分もあるよ」
「……」
 歌菜が羽純にネコ耳を手渡す。
 羽純はネコ耳と歌菜を戸惑いながら交互に見つめ、ため息を吐いた。
「……わかってます。拒否しても無駄なんですよね」
 羽純は渋々ネコ耳を付けた。
 歌菜は満足げな表情であゆむの隣に戻ると、歌う曲をどうするか考え始めた。
「とりあえず、あゆむちゃんが知ってそうな曲がいいよね。そうね……時期も近いですしクリスマスソングでどうかな?」
 歌菜とあゆむ、海音シャにゃんはその場で相談して歌う曲を決め、羽純が演奏できるか確かめた。
 羽純が舞台袖で控えていたアシスタントから楽譜を渡される。
「お待たせしました! では、一曲目は誰もが一度は聞いたことがある Wham!の『LAST CHRISTMAS』! 行きます!」
 羽純のギターから聞いたことのある楽しげなメロディーが流れ始める。
 歌詞を全て把握していなかったあゆむは、歌菜と海音シャにゃんに助けられた。
 あゆむは歌菜に手を掴まれて一緒に踊る。乗りのいい来賓が舞台に上がって一緒に踊ってきた。
 あゆむは歌うのを忘れ、緊張さえ忘れて、自然と笑顔をなりながら楽しそうに踊っていた。

「楽しそうですね……」
 アイビス・エメラルド(あいびす・えめらるど)は手拍子をする人々の中からあゆむ達の楽しそうな踊りを眺めていた。
 すると、一人の男性が一緒に踊りにいかないかと誘ってくる。
 遠慮するアイビスにしつこく迫る男性。
 あまりにしつこくイラッとしたアイビスは【その身を蝕む妄執】を発動させた。
「私に近づかないでください、オキャクサマ」
 腰を抜かした男性が立ち去っていく。
 アイビスがため息を吐く。踊りに限らず、本日何度か男性から誘いを受けていた。
「クリスマスが近づくとなぜ皆さんうかれるんですかね……」
 そう言ったアイビスの顔は本人も気づかぬうちに笑っていた。

 あゆむ達の歌と踊りで盛り上がる中、会場の反対側で声を潜めて会話をする怪しい女性二人をモーベット・ヴァイナス(もーべっと・う゛ぁいなす)が見つけた。
「こちらモーベット・ヴァイナス。怪しい女性二人を見つけました。近づいて確認してきます」
『了解した。くれぐれも気をつけてくれ』
 モーベットは源 鉄心(みなもと・てっしん)と通信機で連絡を取ると、清泉 北都(いずみ・ほくと)と共に女性二人に近づいていく。
 すると、長身の方の女性が北都達に気づき逃走を図ろうとした。
「待て!」
 追いかけようとするモーベットに、もう一人の女性がスカートからナイフを取り出して襲いかかってきた。
 だが、モーベットの目の前でナイフを持った女性の手が、背後から近づいたエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)によって掴まれた。
「レディがそんな物騒な物を持ってはいけないよ」
 エースは女性の手を軽く捻ってナイフを落とさせると、そのまま拘束した。
「ありがとうございました」
「いいえ。お気なさらず」
 エースがモーベットに笑って答えた。
 鉄心はもう片方の女性を止めるべく、銃を抜いた。
 だが、会場の来賓が歌に夢中になっているとはいえ、発砲すれば間違いなく気づくだろう。
 そうなれば会場内は騒然とし、ミッツを危険にさらすことになるかもしれない。
 一瞬、躊躇した鉄心の視線が羽純と交差した。
「よっしゃ、次はちょっと激しいのを行くぜ!!」
 羽純は激しい曲の演奏に切り替え、派手な演奏で会場を魅了する。
 会場内を大音量が響き渡る。
「助かる!!」
 鉄心が相手の足に向けて銃弾を放った。
 だが、銃弾が女性に命中することはなかった。
 代わりに射線に飛び込んできたメイドに当たった。
 メイドは倒れ際にナイフを投げつけ、鉄心は辛うじて交わした。
 すると会場内外にいた十数人の来賓やメイド達がナイフを生徒達に向かってくる。
 女性は彼らに指示を出して、生徒達が対応に追われている間に会場を脱出する。
 生徒達と交戦するナイフを持った来賓やメイド達は、全て感情を無くした≪機晶ドール≫だった。
 どうやら女性は≪機晶ドール≫を統率人物だったらしい。
「おっと、女性の顔に傷がついてしまう所だったな」
 エースとエオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)は≪機晶ドール≫の攻撃から来賓を守る。
 ティー・ティー(てぃー・てぃー)はミッツの前に出て周囲を警戒した。
「大丈夫ですかミッツさん?」
「おかげさまでね。でもこのままだと来賓にまで被害が出るな」
「大丈夫です。だから一番にご自分の安全を考えてください――!!」
 ティーは向かってきた≪機晶ドール≫達を【ゴッドスピード】で確実に気絶させていく。

 鉄心は彫像の陰に隠れてナイフを避けながら銃弾を撃ちこむ。
 すると好戦的だった≪機晶ドール≫達が急に撤退し始める。
「どうしたんだ急に……」
「鉄心、ミッツさんが!!」
 鉄心が振り返るとティーの背後に先ほどまでいたはずのミッツの姿が消えていた。
「あの人は!!」
 近くの扉が開いている。
 ミッツは一人で会場の外へと出て行ったのだった。