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終身名誉魔法少女豊美ちゃん! 3『こんな時こそお祭り、だよ!』

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終身名誉魔法少女豊美ちゃん! 3『こんな時こそお祭り、だよ!』
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『開催、イナテミス感謝祭』

●精霊指定都市イナテミス:イナテミス市街部

 突発ながら開催が決まった、魔族との共存を歓迎する『イナテミス感謝祭』。
 急ピッチで作業が進められ、そしていよいよ当日の朝を迎える――。

「君には話しておこうと思うが、我々は此度の感謝祭の件、何者かの意思が介在しているのではと考えている。
 無論、感謝祭を盛り上げ、成功に導くことは全面的に賛成しているが、小さな違和感があることを否定はしない」
 段取りの確認のため、町長室を訪れた閃崎 静麻(せんざき・しずま)へ、カラム・バークレーが自身の胸中を語る。
「なるほど、何か裏があるという噂は本当らしいということか。
 とりあえず今の所は、祭りが無事に済めばいいと考えるのが得策のように思うが?」
「ああ、その方向で構わない。私としても、このまま無事に感謝祭が行われればそれでいいと思っている。
 今日一日、よろしく頼む」

(さて……何から手を付けるか。露天の設置、ステージの進行、いざという時の避難計画の立案……やることが満載だ)
 町長室を出た静麻は、いくつかの書類に目を落としながら思案する。それぞれの項目は他にも担当者がいるだろうが、そうであればどのような手筈が整えられているか、確認しておく必要がある。
(まずは……そうだな、一番の協力者に挨拶をしておくか)

 静麻が『豊浦宮』本部となっている場所を訪れると、代表である飛鳥 豊美(あすかの・とよみ)の姿はなく、飛鳥 馬宿菅原 道真(すがわらの・みちざね)が事務作業に追われていた。
「俺も祭りの裏方をやらせてもらう、よろしく頼む」
「こちらこそよろしく。所属する魔法少女の行動計画を渡しておくわ。参考にして頂戴」
 道真から書類を受け取り、礼を言って静麻が次の場所へと向かう。
「そうそう、今日だけど。菫が『豊浦宮』設立一周年のパーティーを企画しているの」
「ほう、それは。もう一年経ったのか。おば……豊美ちゃんへはそのことを?」
「言ってないわ。サプライズだって言ってたから。あんたには先に伝えておこうと思って」
 道真の言葉を聞いて、馬宿はあぁ、と納得する。相馬 小次郎(そうま・こじろう)崇徳院 顕仁(すとくいん・あきひと)が豊美ちゃんと讃良ちゃんに付いていること、茅野 菫(ちの・すみれ)がこの場に居ないことはおそらく、パーティーの段取りを進めているのと、計画が豊美ちゃんにバレないようにするためだろう。
「心得た。……そうか、だから君は先程から、楽しそうに見えたのか」
「…………否定はしないわ」
 密かに用意していたクラッカーを仕舞って、何でもないように道真が業務を再開する。

「わー、おかあさま、きれいですー」
 更衣室から出てきた豊美ちゃんを、鵜野 讃良が羨望の眼差しで見つめる。小次郎が用意した一周年記念のプレゼントを兼ねた衣装(もちろん本人にはそのことは言っていない)、ゴスロリテイストを基調に少し和風テイストを混ぜた新衣装は、細部まで豊美ちゃん用に合わせられていた。
「豊浦宮として大きく関わる以上、衣装もしっかりしたものでなくてはな。不自由な点があったら言ってくれ」
「ありがとうございますー。いえ、どこもおかしい所はないですよー。動きやすくてぴったりですー」
 くるりと回って上機嫌の豊美ちゃん。
「じゃあ、出店の方へ行きますか。あっちはボクたちがあまりタッチしてない所ですから、どんな風になってるか把握しておかないといけませんよね」
「そうですね、行きましょうー」
 顕仁の提案で、一行は出店が立ち並ぶ区画へと足を向ける。
「……今の所はバレてないかな?」
「大丈夫だろう。そのためにわしらがおるのだ」

 ひそひそ、と話し合う小次郎と顕仁の思惑を知ること無く、豊美ちゃんと讃良ちゃんは間もなく開催の感謝祭を心待ちにしていた。
「楽しみですねー、讃良ちゃん」
「はい! おまつり、たのしみです!」

「大地さん、ほれ、出展する出店のリストだべ」
「ありがとうございます、コルトさん。すみません、このような仕事をさせてしまって」
「なんのなんの、うちらが食材提供する以上、どの出店が何を出すか把握しとく必要があるべ。
 ほんじゃ、今日一日盛り上げていくっぺな!」
 コルト・ホーレイから、本人と『イナテミスファーム』のスタッフがまとめたリストを一読して、志位 大地(しい・だいち)が各出店に調達する食材の量と価格を素早く計算する。出店の管轄は町長と五精霊が主だが、出店の生命線である食材の管理を担っている大地が実質的な責任者でもあった。
「うーん、なんかここ、伸びてきちゃったかなー。この服も長く着てるからなー。いっそ新衣装でも考えるのってどうかな、アシェット?」
 給仕服に着替えたプラ・ヴォルテール(ぷら・う゛ぉるてーる)が胸の辺りを気にしつつ、アシェット・クリスタリア(あしぇっと・くりすたりあ)に問うが、その本人から返答はない。
「……わたしの、全然伸びてない……」
 しゅん、とうなだれるアシェットへ、やはり給仕服に着替えたメーテルリンク著 『青い鳥』(めーてるりんくちょ・あおいとり)が歩み寄り、そっと肩を持つ。
「今の私は、あなたと同じ気持ちだわ……くっ……」
 視線の先には、同じ服を纏うシーラ・カンス(しーら・かんす)の姿があった。
「諒ちゃんも着ましょうね〜」
「ぼ、僕は着ませんってば! た、助けてください〜」
 薄青 諒(うすあお・まこと)にも女性用の給仕服を着せようとするシーラ、たゆん、と胸が上下に揺れる。
「……アシェット、大事なのは心よ。あなたよく言ってたじゃない、想いが大切だって」
「千雨さん……そうですね、わたし、負けませんっ」
 互いの肩を持ち、強く頷き合う千雨とアシェットを、プラが「?」と疑問符を浮かべて見やる。
 持っている者は、持たざる者の悩みを知るのは難しい。

「これが、劇の内容になります。846プロダクションには、舞台・音響設備の設営を手伝ってほしいと思います」
 蓮見 朱里(はすみ・しゅり)から、企画しているという劇の内容を記した書類を受け取った日下部 社(くさかべ・やしろ)が一読して、うん、と頷く。
「ふむ……これはええな♪ じゃあ、ちょっとレオンさんに聞いてみるな!」
 社が端末を取り出し、846プロ企画『846ライブ』の裏方業務を担当するレオン・カシミール(れおん・かしみーる)に、音響設備の配慮をお願いする。
「オッケー、了承取れたで。俺も楽しみにしとるんで、頑張ってくれや♪」
 ありがとうございます、と礼を言って部屋を後にする朱里と入れ替わるようにして、ルーレン・ザンスカール(るーれん・ざんすかーる)フィリップ・ベレッタ(ふぃりっぷ・べれった)を連れてやって来た。
「おはようございます! 今日はよろしくお願いしますっ」
「おぉ、来たか〜。もう間もなくステージの準備が出来るで、ビシッと決めたれ〜!
 なんならそのまま歌っても構わんのやで♪」
「あはは、考えとくよ〜。それじゃ、また後でね〜」
 手を振ってルーレンが部屋を後にし、社はその後も部屋を訪れる者たちの応対に追われる。今や彼は『846プロダクション』の社長でありプロデューサーである。雑誌やテレビ等のマスコミを始め、別のプロダクション関係者とも社は笑いを交えつつ応対する。本人の持って生まれた性格は、これらの仕事に大いに役立ってくれていた。
「おっ、もうこんな時間か〜。んじゃ一つ、アイドル達にゲキ飛ばしてこか」
 人の流れが途絶えた頃には、開会まで数分といった所だった。社は立ち上がり、アイドル達が控える部屋へと向かう。

「今日、イナテミスはまた新しい一歩を踏み出します。魔族という仲間を加え、人間と精霊と魔族がそれぞれ手を取り合い、共存する街へと生まれ変わろうとしているのです」
 ステージでは、開会の言葉を述べるルーレンの姿があった。格好こそ“前”のルーレン、ボーイッシュな格好だったが、言葉遣いは大勢の人々の前だからなのか、丁寧なものになっていた。
「感謝祭を盛り上げようと、本当に多くの方々が今日まで力を貸してくれました。そのことにわたくしは感謝しています」
 言葉を舞台袖で聞いていたフィリップは、姿と口調とのギャップに違和感を覚える。
(ルーレンさん、どうしたんだろう? どうして前の格好に戻ったのかな?)
 考えてみるも、結論は出ない。結局の所、本人にしか分からない何かがあるのだろう、と思う他なかった。

「皆! 緊張しとるのは分かる! けどそれは悪い事やない! それだけ皆にこのライブが大きい意味を持っとるっちゅう事や♪」
 今日のライブに登場するアイドル達を前に、社が激励の言葉をかける。今日がアイドルデビューの者もいれば、既に一線で活躍しているアイドルもいる。それらが今日は等しく、魔族を歓迎する感謝祭を盛り上げるのだ。
「ええか、成功や失敗に拘らんで『自分も楽しめるステージ』にする! これが846プロのアイドルや。それを忘れんといてな」
 はい、複数の了解する返事が部屋に木霊する。
「では、『イナテミス感謝祭』の開会をここに宣言します。これからステージでは、『846プロダクション』所属の皆さんのライブや、劇の上映が予定されています。
 皆さんの素敵な歌と踊り、芝居をどうぞお楽しみください!」
 ルーレンの声が聞こえ、盛大な拍手と歓声が沸き起こる。
「ほな、開幕や! いってこい!」
 そして社も、一際大きな声を張り上げ、アイドル達を送り出す。

 いよいよ、『イナテミス感謝祭』が幕を開ける――。