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白装束の町

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耶古


「さて、天守にまで来たはいいけども」
 さすが最重要人物がいるであろう場所だ。
 警備網が非常に厚い。
「熱感知ではあの御簾の裏が怪しいんだよね。微動だにしない熱源があそこにある」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)の心中は耶古を救うことでいっぱいになっていた。
 あのうつろな表情に隠された秘密、陰謀、悪事。
 それらをすべて暴き出してやる、と意気込んでいたところ、
「あなたも入信希望者ですか?」
 白装束をすっぽり着込んだ女性二人組がルカルカに声を掛けてきた。
「え? いや、その……」
 ルカルカは慌てふためく。
 誤魔化すべきか無力化するべきかの選択に迫られていた。
「私はですね。不治の病に冒された母を耶古様が奇跡で救ってくださって……」
「だから、あーどうしよっかなあー」
「ふふ、冗談です。私の目的もあなたと同じですよ」
「え?」
「私は度会 鈴鹿(わたらい・すずか)。こちらは……」
鬼城 珠寿姫(きじょうの・すずひめ)である」
「うん、よろしく」
「耶古様のところへ行きたいですか?」
「もちろん。彼女を救うために来たんだから」
「そうですか。なら私について来てもらえますか? 実は作戦があるのです」
「作戦?」
 鈴鹿が語った作戦はこうだ。
 敵襲されている最中の信者たちは今浮き足立っている。
 珠寿姫が流言を流し警備している者たちを混乱させている隙に乗じて耶古を救い出すのだ。
「では頼みます、たまきん」
「分かったのだ」
 珠寿姫は信者らの前に歩み出た。
 諸手を広げ、
「先日捕らえたエンヘドゥとは契約者ではなく、隣国カナンの要人らしいな。もし二国間の大事になれば、耶古の会もこのままではおれなくなるかも知れぬ」
 と演説をした。
 エンヘドゥが契約者でないと知れれば、耶古の会の教義の下に行った正義だとはいえない。
 ざわめきが天守を支配し、信者たちの連帯が取れなくなってきているようだ。
「今です」
 このときを待っていた。
 ルカルカと鈴鹿は足音を立てぬように部屋を渡り御簾をめくり上げ耶古の座す間に転がり込んだ。
 だというのに。
「…………」
「反応ひとつしないよ」
「それどころか瞬きもないです」
 耶古は身じろぎもしなかった。
 うつろな目は開かれたまま、座敷に正座をし続けている。
「これは……精神拘束剤だね」
「ナーシングで目覚めさせることはできるでしょうか」
「どうだろう。やってみる価値はあるんじゃない?」
 鈴鹿は耶古の手を手で包み込み、真心を込めて耶古の心に語りかける。
 だが、耶古は気づかない。
「……ダメですか」
「案外苦いお茶を飲ませればよかったりして」
 ルカルカが耶古の口を無理矢理開き、お茶を流し込む。
 すると、
「うげ! 苦い!」
「あ、目が覚めた!」
 意外な結果を生んだのだった。
「首尾はどうなったのだ?」
 珠寿姫が不意に御簾から顔を出した。
 どうやら信者たちは蜘蛛の子を散らすように逃げてしまったらしい。
「ついでに報告をすると、黒幕と思しきやつが見つからないのである。信者らに紛れて逃げたかもしれないのである」
「そうですか。いいでしょう。残念な結果ですが大鋸さんに伝えましょう……」
 鈴鹿はしょんぼりとした顔を見せた。
「ねえ、なにこれ! なんの罰ゲーム?!」
「君、意外と元気っ娘だったんだね」
 ルカルカは耶古の背中をぽんぽんと叩いた。
 事件は、実にあっけなく幕を閉じたのだった。