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最後の願い エピローグ

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最後の願い エピローグ

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幕間・説得交渉
 
 高根沢 理子(たかねざわ・りこ)は、ヒラニプラにある、シャンバラ教導団校長室を、非公式に訪れていた。
 教導団団長、金 鋭峰(じん・るいふぉん)は、理子を前にしてむっつりと黙り込んでいた。眉間のしわが深い。

「そんな難しい顔しなくてもいいじゃない。
 損害額は、慰謝料分を上乗せして請求して、全額返済されたでしょ?」
「金額の問題ではありません」
「前に、教導団は国軍に含まれるけど、国軍イコール教導団ではない、とかどこかで言ってたじゃない」
「そういう発言を、都合よく曲解されては困るのですが」
「女王の防衛力も強化されるし、あと、飛空艇も一隻接収できるのよ!
 ちょっと普通の飛空艇と動力システムが違うらしいから、修理に時間がかかりそうではあるけど」
「…………」
「報告では、神子探索の時に多大な貢献もしてるし、パラミタの崩壊を目論む巨蛇モルダヴァイトの討伐にも協力してるんだって」
「……時間です」
 鋭鋒は、ちらりと時計を見て立ち上がった。
「10分間話を聞く、というはずでした。予定が詰まっているので失礼します」
 言い放つと、ちら、と傍らの羅 英照(ろー・いんざお)に視線をやり、彼はさっさと部屋を後にする。
「ちょっとちょっと!」
 理子が呼び止める声も聞かず、ドアは閉じられた。
「もう、ちょっとくらい大目にみてくれたっていいじゃない!
 頭固いんだから!
 これくらいのこと、笑って許せる度量はないのっ?」
「これくらいのこと、ではないでしょう」
 終始鋭鋒の横に控えていた英照が、口を開いた。
「まあ、そうだけど」
 理子は溜息を吐く。
「ねえ、何とかあの人説得できない?」
 理子の言葉に、羅は首を横に振った。
「回答ならば、始めから決まっています」
「え?」
「ですが、それを容易く口にすることは、業腹というものでしょう」
 理子はぽかんと英照を見上げた後で、ぷっと笑った。
「そっか。ありがと。
 金団長にも伝えておいて。すっごくありがとう!って」


◇ ◇ ◇


 鏖殺寺院襲撃者によって破壊された、王宮敷地内にある礼拝堂の修繕も進められている。
 流石にまだ、立ち入り許可はされていないが、礼拝堂の近くでその様子を見ながら、葉月 可憐(はづき・かれん)は祈りを捧げた。

「……百年足らずしか生きることを想定していない矮小の身に、五千年は長すぎますよね。
 そこに生じるものは、歪みではなく、磨耗です。
 主よ、彼が望む彼自身の死を与えられぬというのなら、せめて削れきった魂を癒すだけの時間を与え給え。
 叶うならば、女王の側で眠りにつけますよう……」

 鏖殺寺院に与する者として戦った、クトニアのことを思い出す。
 彼は戦いの果てに斃れたが、長く生きていると言った彼に、叶うならば聞いてみたいと思った。
「クトニア様は、女王には眠って貰うと仰っていましたが、ウーリア様が乗っ取るという方法以外に、何か策はあったのでしょうか。
 もしも長き眠りにつかせる方法があるのなら、伝授していただきたかった」
 そして、それを理子とオリヴィエに伝えれば、彼の望みも叶ったのではないだろうか、と。
「あとは……魔法で石化させるという方法も、あるかと思いますが」
 けれどその方法は、女王の意向的にはどうなのだろうという気もしている。

「石化かあ」
 パートナーの剣の花嫁、アリス・テスタイン(ありす・てすたいん)が、それに答えた。
「それって、同じようなことをした私達も、他人事じゃない気がするけど……。
 まあ、それならそれで、仕方ないか」

 そして、祈りを終え、立ち去る前に、可憐はその場で、クトニアへの鎮魂の歌を歌った。