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リアクション
それからしばらくして、ドラゴン討伐チームはついに禁じられていた第33坑道に到達しようとしていた。
坑道の奥からグルルルル……という低い唸り声が聞こえ、生ぬるい風とともにふわりと甘い香りが漂ってきた。
「この香り……間違いない。モールドラゴンですね」
先ほど村を出る前にニケとリースが彼らのもとを訪れていた。
長老たちから聞いたモールドラゴンの話以外の弱点のようなものは見つけられなかったが、『ドラゴンの近くで甘い匂いがしたら気をつけて』と資料から読み取ったと教えてくれた。
「お前ら、準備はいいか?」
フェイミィが『イナンナの加護』を願い、皆の状態異常耐性を強化する。
「これでちっとはマシになるだろ。俺の足ひっぱるんじゃねぇぞ」
にやりと笑って甘い匂いの元へと走り出す。
それに続いて他のメンバーも匂いの元へと走り出した。
落盤によって開かれた第33坑道はとても広く、村の広場ほどでもないが天井までの距離もあり、戦うにも逃げ回るにも都合がいい。狭い坑道内で戦うことになったのでは戦うのも考え物だったがこれほどに空間があるのなら武器を振り回しても問題なさそうだ。
「匂いが強くなってきたな……」
段々と強くなる甘い匂いに反射的に鼻を押さえてしまう。
マーガレットが火術を使いぽつぽつと明かりを灯して慎重に辺りを確認しながら進んでいく。
奥に進むにつれてぱきり、ぱきりという音とともに足に嫌な感触がする。骨だ。土や岩に混じって所々に骨が転がっている。
マーガレットの短い悲鳴にナディムが振り返ると、どうやら頭蓋骨につまづいたようだった。
メシエが壁に触れてサイコメトリでドラゴンの位置を確認している。
「どうだメシエ、近いか?」
「っ、来ます!」
ヒュッという風を切る音とともにドラゴンの尻尾が先ほどまでメシエがいた壁を打ち付けていた。
――グルルルルル……
「皆さん大丈夫ですか?!」
「なんだ、そんなに大したスピードじゃねぇなぁ」
ドラゴンとの対峙にフェイミィは胸が高鳴るのを感じる。
マーガレットはドラゴンをよりはっきりと見えさせるために炎をより強くした。
落ちてくる岩にも耐えられそうな硬く厚みを持った皮膚。長くはないが俊敏に動く尻尾。口元の大きな牙は岩盤さえ砕いてしまいそうなほどで、そこ隙間からちろちろと覗く赤い舌は枝分かれしていて不規則に動き回っていた。
「これじゃまるでトカゲだわ」
リネンがドラゴンを見て溜息を吐く。
「でも、さっさと片付けて帰りましょう!」
「叩き落してシチューにでもしてやろうぜ!」
リネンとフェイミィが二人同時に走り出す。
バーストダッシュとハイランダーズ・ブーツの力を使いドラゴンのスピードを凌駕し、一撃離脱の攻撃を加えていくリネン。
リネンがドラゴンを引き付けた所で思いっきりバルディッシュを叩き込む!
「ぐっ……!」
一度態勢を立て直すためにドラゴンから離れるフェイミィとリネン。
「アイツ、思ったより硬いわね」
「こっちもバルディッシュを叩き込んだ感じが全然しねぇ」
「はああっ!」
メシエが間髪いれずにパイロキネシスを唱え、ナディムがコクマーの矢を放つ。
――ゴガアアアアァァァァ!
少しは効いたかと思ったものの矢は硬い皮膚にはじかれ、パイロキネシスの炎もそんなにダメージを与えることは出来ないようだ。
ドラゴンは分かれた舌で先ほど尻尾を打ちつけたときに出来た瓦礫を掴み思いっきり放り投げてくる。
「危ないじゃないの!」
ソニックブレードで岩を真っ二つにしながらマーガレットは叫んでいる。
そんな様子を光る箒に乗りながら七尾はドラゴンの死角である遥か上部から見下ろしていた。
「さすがに地底で暮らしていただけあって皮膚は硬い……どこまで地下に潜っていたのか知らないが熱に対する耐性も高そうだな……。地下、洞窟……闇……」
七尾が知識をフル稼働させてドラゴンの弱点を探している間、リネンやフェイミィたちは変わらずに攻撃を続ける。
「あー、くそ! イライラするなぁこのトカゲ野郎は!」
フェイミィがバルディッシュを振り回しながら忌々しげに叫ぶ。
低い唸り声を上げながら攻撃のタイミングを図っているドラゴン。
「はあああああああっっ!」
エースも乱撃ソニックブレードを繰り出すが食い込むものの、ほとんど深く切れることはなくその硬い皮膚に押しやられてしまう。
「皆、光だ! 長い間地下で暮らしていたこいつは目が退化しているはずだ!」
七尾が上から叫ぶと声のした方向を聞き取ったのかドラゴンがギッと七尾を睨み、その長い舌を伸ばして捕捉しようとする。
「なるほどな。その分聴覚はするどくなってるみたいだが」
――ドガアアアアアアンとつんざく音を立てて、ドラゴンの顔の辺りにメシエのサンダークラップが直撃した。
「耳など、聞こえなくしてしまえば何の問題もないんですよ、エース」