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「せっかく地上への道の脅威は去ったって言うのに、今度は大規模な落盤事故なんてついてないな」
「本当です。本来ならばすぐにでも外へ皆さんを案内したいというのに。これじゃ朱鷺たちがいつ帰れるかも分からないですし……」

 一度は繋がった第33坑道。
 しかしメアリーが起こした事故によって坑道自体が塞がってしまい、奥に行くことができなくなってしまったのだった。
 村の年長者たちともすっかり打ち解けた東と鉄心が深い溜息をつく。

「実はそれなんだがのう……」

 第33坑道の近く、他の坑道の隙間に小さな抜け穴が顔を出していた。
 人が二人立って通れるかどうかという大きさの抜け穴は、昨日の落盤事故でその姿を現したようだ。

「だいぶ昔に掘られたようだが、作りはしっかりしとる。ご先祖様が掘ったのだろう」

 奥を覗きこむと顔に当たるふわりとした風の感触。
 空気が流れているということは外に繋がっているということだ。

「昨日、ここを見つけたものが一番奥まで進んだらしい……外と繋がっていると言っておったよ」

 これでようやく村から出られると皆大喜びだ。
 出発は明日。せめて今日くらいはゆっくりしていってくれと、夕食が終わってからも宴会が朝まで続いていた。
 その話を聞きつけた若いドワーフたちが外に出たいと大勢で頭を下げて頼み込んだところ、今まであれほど頑なに外と接触することを禁じていた長老が首を縦に振ったのだった。
 ルルドをはじめとする若いドワーフたちはその話を聞くと一目散に家に飛びかえって荷物の整理を始めるのだった。


「昔、何があったんですか?」

 東と鉄心が杯を交わしながら尋ねる。

「なに、よくある話だよ」

 まだ大戦が行われていた頃、この村はもっと地上に近くにあり外とも交流をしていた。
 多くの旅人が村に立ち寄り、様々な物資や情報などを交換しあう、ずっと交易の盛んな村だった。
 ある日村に旅人が訪れた。
 旅人は村で取れる鉱石を売ってほしいと取引を持ちかけた。
 もちろんドワーフたちに断る理由などない。近くで大量に取れる鉱石を使いたいというのならと旅人の取引に快く応じた。
 だが、その旅人は鉱石を採りにドワーフたちが村を開けている隙に村のあちこちを物色していたのだった。
 その様子を目撃して旅人を咎めようとしたドワーフは彼の持っていた剣によって倒れ、また同じように鉱石の研究で村に立ち寄っていた人間も、見つかったときにはすでに息を引き取っていた。
 ドワーフたちが採掘から戻ってきてみたのは、そんな二人の変わり果てた姿と、散々に荒らされた村の中。
 そして旅人は忽然と姿を消していた。

 村中が疑心暗鬼になり外との交流が少しずつ減っていった頃、村の近くにドラゴンが現れるようになった。
 ドラゴンが現れるようになってから近くを通る旅人もぱたりと途絶え、ドワーフたちはより地中深くへと村ごと移動することにしたのだ。
 ドラゴンが坑道内をうろつくようになりドワーフたちがより深い場所へ逃れるように生活している間に、地上への扉は時間とともに静かに埋まってしまったのだった。
 
 だが、今回こうやって地上との扉は再び繋がり、止まっていた時間は動き出した。
 今でも小競り合いこそあるが、大戦の頃に比べたら平和になった世の中。
 お互いの技術を磨きあい切磋琢磨し、よりよい世界を創っていこうとする世界。

「きっともっといい村になると朱鷺は思うよ」
「そうじゃなあ」

 ――その時は、また遊びにおいで。

 優しい顔で笑う長老に、東も鉄心も笑顔で頷いた。