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終身名誉魔法少女豊美ちゃん! 4(終)『ありがとう、母さん』

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終身名誉魔法少女豊美ちゃん! 4(終)『ありがとう、母さん』

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『ただ、壮絶に』

(さて、と……。彼らはどうするのかしらね)
 『メイシュロット+』中枢でふぅ、と息をついた高天原 姫子の耳に、軽い調子の声が聞こえる。

「やっほー姫子ちゃん。書面通り、手伝いにきたよー」

 そちらに視線を向けると、完全装備の牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)シーマ・スプレイグ(しーま・すぷれいぐ)ナコト・オールドワン(なこと・おーるどわん)ラズン・カプリッチオ(らずん・かぷりっちお)の姿があった。
「……そう。分かったわ。あなたの働きに期待する」
「期待に応えられるかどうかは、分かりませんけど。……あ、一つだけ、いいですか?」
 言い、アルコリアが姫子に近付き、口を寄せる。
「……事が終わった後、豊美ちゃんに伝えて欲しい言葉、あります?」
「ただ一言、「恨みはない」とだけ。それで豊美は全て理解するはずだ」
 淀みなく答えた姫子の反応で、意思確認を終えたアルコリアが身の丈ほどもある弓を構え、微笑む。
「では……参りましょうか」


「マジかよ……バルバトス、本当に蘇ったんだな……」
 純白から黒へ変化する羽を広げ、『生前』と全く変わらぬ姿を晒すバルバトスを目の当たりにして、白津 竜造(しらつ・りゅうぞう)は噂を信じざるを得なかった。――この地と似た地で最期を迎えた、特別な思いを抱いた魔神が、あの時と変わらない姿で俺の目の前に立っている――。
「フフ。あなたはわたくしのことを知っているようね」
 微笑を浮かべるバルバトスに、やっぱり俺のことは覚えてないか、そう思いながら竜造は口を開く。
「いつぞやの手紙の主、とだけ名乗っておくぜ。覚えてねぇなら、協力者ってことにしとけ」
「あら……あの面白い手紙の。フフフ……こんな所で会うことが出来るなんてね。嬉しいわ」
 どうやらバルバトスは覚えていたらしく、愉快そうに笑う。その決して見たことがない表情に、竜造は強い衝撃を覚えた。俺はバルバトスのことを何一つ知らないが、それでもこいつはこんな顔をするのかと。
「バルバトス。テメェはこんなクソッたれた茶番劇じゃねぇ場で、俺の全てを出し尽くして殺し、存在全てを奪うと決めた相手だ。
 これからやって来る勧善懲悪な三文芝居役者に、テメェは絶対殺させねぇ」
「フフフ……! いいわぁあなた、面白い人間。
 なら、やってみなさいな。もしわたくしが朝を迎えて、それでもまだ生きていたら……あなたの相手をしてあげていいわ」
 告げるバルバトスに背を向けて、竜造はケッ、と唾を吐く。――あいつは俺の意思に関係なく、この茶番劇の結末を決めてやがる。『魔神』としてではなく、『母親』として――。
「……覚悟しろ、魔法少女。テメェら全員、殺してやる」

「いやぁ、まさかあの竜造が、闘争だけが生き甲斐だった竜造が、それ以外のために戦おうとするなんて初めて見たよ。
 やっぱりバルバトスへの思いは伊達じゃなかったようだねぇ。ならおじさんも、それを後押しするためにがんばりますか!」
 竜造を遠目に、松岡 徹雄(まつおか・てつお)がうんうん、と喜ぶように頷く。その横でアユナ・レッケス(あゆな・れっけす)が、黒々とした笑みを浮かべて呟く。
「カグラお姉様……お姉様も、こちらにいらっしゃるでしょう?


「ねえあんたたち、何かいい方法ない? あたしとしては、全部終わってから姫子を回復させて、その後『豊浦宮』に所属させようって思ってるんだけど」
 姫子の元へ向かう道の途中で、茅野 菫(ちの・すみれ)相馬 小次郎(そうま・こじろう)菅原 道真(すがわらの・みちざね)崇徳院 顕仁(すとくいん・あきひと)に問いかける。姫子が豊美ちゃんのことを恨んでいると豊美ちゃんから聞かされてから、だったら彼女たちなら姫子のことを分かった上で適切な説得の言葉をかけられるのではと考えた上であった。
「ふむ……そうだな。外からちょっかいを出すより、中に入った方がよりちょっかいを出しやすいというのはどうだ」
「高天原さまもボクにとってはご先祖さまだからね。豊美ちゃんにしてきたように、丁寧な応対を心がければきっと大丈夫だと思うよ」
 小次郎と顕仁がそれぞれ意見を口にする、しかしどうにも首をかしげたくなるのは何故だろうか。
「私達が特に何かしなくたって、他の魔法少女が頑張って説得してくれるでしょ。こっちはそれまでに、姫子を法的に問題ないように所属させるための手続きをしておかないといけないわ」
「道真、なんだ、随分と熱心だな。お前にしては珍しい」
「私はいつでも熱心よ? ……姫子が
豊浦宮に入れば、事務の充実が図れるもの。今なんて私と馬宿の二人でやってるようなものよ」
「いやー、仮にも姫子さま、天皇だよ? 下働きみたいなことを素直に受け入れるかなあ」
「あら、本人の意思なんて関係ないわ。強制的に、よ」
 どことなく黒い笑みを浮かべる道真であった――。


 林田 樹(はやしだ・いつき)の放った弾丸が、的確に羽持つ魔族の装備する鎧の隙間を撃ち抜き、損害を与える。
(ここの魔族は御し難い……致命的な損害を与えられない。これは後々、苦労しそうだな)
 中枢に辿り着く前に出来るだけ数を減らしたかったが、この調子では姫子の他、多くの魔族を相手しなければならなくなりそうだった。
「ジーナ、魔鎧、張り切り過ぎてガス欠起こすなよ。中枢に辿り着いてからが本番だからな」
「はいっ! 心得ました、樹様!」
「確かにな。さららんとひめにょんのタイマン張らせんのに、邪魔モンはいらねぇし」
「タイマンじゃなくて話し合いです、バカマモ!」
 新谷 衛(しんたに・まもる)に言葉を飛ばしながら、ジーナ・フロイライン(じいな・ふろいらいん)が視界の向こう、飛鳥 豊美に守られるように同行する鵜野 讃良を見る。

「さて鵜野様、どうなさいますか? 貴女様の分身がこの騒動を起こしてらっしゃるそうですが、貴女様はどうしやがりますですか?」
「わたしは、おかあさまとみなさまといっしょにいきます!
 ひめこさまとおはなしがしたいです!」

 どうするかの意思を問うたジーナに、讃良は真っ直ぐな瞳でそう答えた。
(であるならば、是が非でも連れて行かねばなりません!
 高天原様が消える必要なんて、これっぽっちもありやがりません!)

『豊美様、中枢までもう少しです。……ですが、複数の強大な力を感じます。どうか、お気をつけ下さい』
「はい、ありがとうございます、ウマヤド」
 馬宿からの報告を受け、讃良ちゃんを連れた豊美ちゃんが頷き、最後の区画を守っていた魔族を『陽乃光一貫』で蹴散らす。

「クス……来たわね、豊美」

 そして、開けた場所に出た豊美ちゃんを始めとした魔法少女たちは、中央奥に姫子、その手前両脇にバルバトスとパイモン、さらに手前にアルコリアと竜造の姿を認める。どうやらこの五組を倒すか説得するかしなければ、この事件は解決しなそうであった。
「高天原様! どうして消える必要があるのでしょうか? どうして鵜野様だけが存在せねばならないのでしょうか?」
 早速、ジーナが最奥の姫子に説得を試みる。しかしそれは届くことなく、最前の竜造に撥ね退けられる。
「わざわざ最前線まで来て説得? さすが愛と平和の魔法少女。虫唾が走るぜ。
 ここまで来たんなら、やる事は闘争だけだろうが。だったらそんな悠長な事してねぇで、とっととかかってこい。
 それでもまだお花畑全開な発言する輩がいるなら――」
 竜造が背中越しに、バルバトスを見て言う。
「バルバトス。今すぐイナテミスに兵をぶちこめ。あそこ潰せば多少はやる気出すだろ」
「フフ、もうやってるわ。流石にイナテミスまで兵は割けないから、姫子さんに頼んだの。ね?」
 バルバトスの視線に、姫子がこくり、と頷く。
「……何をしたと言うんですか」
 豊美ちゃんの声を聞いて、讃良ちゃんがぞくり、と身を震わせる。
「聞きたくば、我を倒して聞け」
 言外に言うつもりはないと口にして、姫子がゆっくりと立ち上がる。今まで簡単にやられていたのが嘘と思えるほど、吹き出す魔力は圧倒的に感じられた。そしてバルバトスも、メイシュロットで対峙した時以上の力を溢れさせ、槍を携える。姫子に復活させられ、力を与えられている影響であった。
「豊美、無駄とは思うがあえて聞く。……引いてはくれないか?
 そうすればアルは本気で戦わないだろうし、ボクも手を抜ける」
 シーマの問いに、『日本治之矛』を掲げ、豊美ちゃんが答える。
「あなたが私なら、ここで退くと思いますか?」
「……済まない、今の言葉は忘れてくれ」
 首を振ったシーマが、槍と盾を構える。
 ――あぁ。どうやら、本気で戦わねばならないようだ――。
「シーマ・スプレイグ、推して参る」

 今ここに、魔法少女の壮絶な戦いが幕を開ける――。