波羅蜜多実業高等学校へ

葦原明倫館

校長室

空京大学へ

か・ゆ~い!

リアクション公開中!

か・ゆ~い!

リアクション


第4章 サニーと遊ぼう

「さあ、無事煙さんも助かったことだし、今度こそハート型の砂を探そうよ!」
「え〜、面倒ぉ」
 元気よく手を上げる奈月を、パートナーのヒメリ・パシュート(ひめり・ぱしゅーと)が即座に否定した。
「もう、そんな事言わないで! 後でかき氷買ってあげるから、さ」
「かき氷?」
 ヒメリの目が輝いた。
「むぅ……食べたいかも」
「じゃあ、探そ」
「しょうがないなぁ……」
 ぶつぶつ言いながらも重い腰を上げるヒメリ。
「砂探しですか? 私もやってみたいです。ね、サニーさんもどうですか?」
 杜守 柚(ともり・ゆず)が、サニーの方に顔を傾ける。
 友人の言葉に、サニーは腕捲りをするような仕草で笑って答える。
「そうそう、がんばって探さなきゃって思ってたのよ」
「忘れる所でしタ」
 サニーの側に、ちょこちょこと小さな少女がついて来た。
 サニーに良く似た面差しの少女、サリーだ。
 そんなサリーに声をかけた人物がいた。
「お久しぶりですー! 外の世界は如何ですか?」
「あッ、結和さン!」
 サリーの顔がぱあっと輝く。
 以前、彼女を助けた恩人の一人、高峰 結和(たかみね・ゆうわ)だった。
「サニーさんも、元気そうで良かった。今日は私、頑張ってきたんです」
 結和は大きなバスケットを取り出した。
「わあ、何ですカ?」
 中は……【グロ画像につき閲覧注意】だった。
「これ……ハ?」
「お弁当。ちょっと形は悪いんですが、味は普通なんですよ。皆で食べてくださいね」
「……あ、ありがとウ、ございまス……」
「ありがとう! ま、いざとなったらナースの奈月さんもいるしね!」
「あ、僕は本業ってわけじゃ……」
「ほ、本当に大丈夫ですから! 今度こそ!」
 額に大きな汗粒をつけ返事をするサリーとサニーに、慌てて答える結和だった。
「そちらの方ハ? はじめましテ?」
「……」
 結和の陰に隠れるようにしてくっついているエリー・チューバック(えりー・ちゅーばっく)に、今気づいたようにサリーが声をかける。
「……なんだからね」
「はイ?」
「あのね!結和はボクの!ボクのお姉ちゃんなんだからね!」
 それだけ言ってのけると、結和の背中から顔だけ出してサリーに大きくあっかんべーと舌を出すエリー。
「そうなんですカ?」
「ちっきしょ、結和と同じ色の髪と目だからって余裕ぶっちゃって! いーい? ハートの砂だってボクの方がいっぱい見つけるんだからねー!」
 それだけ言うと、砂浜に向かって駈け出した。
「あ、ちょっと、エリーさん!」
「気合入ってますネー」
 小さくなっていくエリーを慌てて追いかけようとする結和と、少しズレた方向で納得するサリー。
 そんな所は、サリー似なのかもしれないとふと思う結和だった。

「砂探しだってさ。どうする、橘田?」
「うおー、波を制覇したぜー!」
「ふふふ。じゃあ次はスイカ割りなんてどうでしょうかぁ?」
「スイカ! よし割るぜ! そんでもって食うぜ!」
 奈月たちの話を聞いて、一応ひよのに声をかけるでぃる。
 しかし、ひよのはすっかりでぃるたちの存在を忘れたかのように、ヴィサニシアと共に海ではしゃいでいる。
「ふわ!?」
 ふいに頬に冷たさを感じて、でぃるは思わず変な声を出す。
「あっ、ごめん、驚かせちゃったかなぁ?」
 両手に炭酸飲料の缶を持った煙だった。
「お友達もお楽しみのようだし、こっちはこっちでのんびりしよっかあ」
 片手に持った缶を差し出す。
「あ……悪いな」
「いやいや、さっきは皆に迷惑かけちゃったしねぇ」
 でぃると煙は、楽しそうにはしゃいでいる友人たちを肴にジュース缶を開け、軽く乾杯する。
 かこん。
 青空に鈍い音が響いた。

「やったあ、一番!」
「わあ、奈月ちゃんもう見つけたの?」
「本当にハート型してるんですね」
「わー、かわいい!」
「そうですね」
「むぅ、めんどい……」
 ハート型の砂探し。
 一番最初に見つけたのは、言い出した奈月だった。
 小さな小さなその砂を、サリーの手を取ってそっとその上に転がす。
「はい、あげる」
「えッ、いいんですカ?」
「いい事がありますように、ってね」
「ありがとウございまス!」
 喜ぶサリーを見て、奈月は優しそうな瞳を細め笑う。
「そういえばハートの砂を見つけると、いい事があるっていう噂があるんでしたっけ」
「そうそう。恋愛とかね」
 柚の言葉に、笑いながら杜守 三月(ともり・みつき)が付け加える。
「も、もぅ……」
 三月の言葉に顔を赤らめながら柚が口を尖らせる。
「素敵な噂ですね」
 結和が穏やかに微笑む。
 そんな少女たちの様子を、サニーは何故か落ち着きのない様子でもじもじと見ていた。
「ん?」
 サニーの様子に気づいたのは、三月。
「どうしたの、サニーちゃん?」
 三月の声に、サニーは赤くなって頭を下げる。
「ごめんなさいっ! 恋とかいい事なんて考えないで、これを売れば元手ゼロで儲かるなーって事しか考えてなくって!」
「商業主義ニ、毒されてテ、すみませン……」
 サニーの隣でサリーもぺこりと頭を下げる。
「あ、いいんだよ気にしないで。サリーちゃん達が楽しければ、それでいいんだから」
「そうですよ。それより、こうやって皆でお話できるだけでも楽しいですよ」
 奈月と柚が慌てて慰める。
「ありがと。私も、皆とお話できて嬉しい! こんな風に、同世代の女の子と話す機会なんて、全然なかったから……」
「あれ、サニーさん、学校には?」
「行ってないの。ここに来てからすぐ両親がいなくなって、残されたお店を私達でやっていくのに必死で」
「そうなんだ……」
 しんみりした空気が漂う。
「そうだ、サニーさんには好きな人、なんていないんですか?」
「え?」
 空気を払拭するように、柚は突然攻撃を仕掛けてきた!
「好きなタイプの人って、どんな人なんでしょう?」
「え、え、えーっと…… 今までそんなの考えた事なかったし…… そ、その……」
 僅かに顔を赤らめ、俯いて小さな声で答える。
「や、やさしい人、かなぁ」
「まあ」
「そうなんですか」
 結和や柚が身を乗り出す。
「も、もうっ! 私は言ったんだから、じゃあ柚ちゃんも言いなさいっ!」
 赤くなって、照れ隠しのようにわざと乱暴に命令するサニー。
「え!? えっと、私は……」
 こしょこしょこしょ。
 サニーに耳打ちをする。
「えっ!? そうだったの?」
 意外そうな顔で柚を見るサニー。
「わあ、そうなんだ。全然気が付かなかった……あ」
 驚いた様子で何度も頷いていたサニーは、はたと手を打つ。
「これはアレかしら? お友達として恋のお手伝いをさせてもらわなきゃいけないかしら?」
「ええっ、いえ、そんな訳では……」
 瞳を輝かせるサニーに、言い知れぬ不安を覚えて手を振る柚。
「二人とモ、何の話をしてるんでしょうカ?」
「さぁ〜。ちょっとした内緒話かな」
 首を傾げるサリーと、苦笑する奈月だった。
 しかし女の子たちの恋愛トークは止まらない。
 次に犠牲になったのは、結和だった。
「わわわ、私ですかっ!? 私は、この夏でこここくはく、できたらいいなっ……って……!」
 結和の言葉にサニーや柚がきゃーとかわぁとか歓声をあげる。
 真っ赤になって手で顔を隠す結和の元へ、エリーがぶっきらぼうな様子で握り拳を差し出す。
「ほらっ! 結和、見つけたよっ!」
 拳の中には、ハート型の砂。
「まあ、ありがとう」
「えへ。視ててねっ、僕まだまだいーっぱい見つけるもん! 来て!」
「あっ」
 サリーをひと睨みすると、結和の手を取り駆けだすエリー。
 どこか砂探しの為の秘密の場所があるらしい。
「ねーねー奈月。かき氷まだぁ?」
「もー、しょうがないなぁ。そこのお店で売ってたから、先に買っておいでよ」
 奈月は吹雪らが営む屋台を指差す。
「わぁー」
「気を付けてねー」
 ふらふらと屋台の方に走り出すヒメリを苦笑しながら見送る。

 その時、事件は起こった。

「きゃ」
「きゃああ!」
「きゃあア!?」
 悲鳴を上げたのは、柚とサニーとサリーだった。
「柚、サニーちゃんサリーちゃん、どうしたの!?」
 慌てて駆け寄った三月は、見た。
 3人の足に、ピンクのハート型をした細長い物体が巻き付いているのを。
「は、ハートを見つけて近づいてみたら……」
「やっ、何コレうねうねしてるぅ!」
「これハ、イソギンチャクらしいですネー」
 見ている間に、触手は3人の足から腰へ、胸へと全身に絡みつく。
「今助けるっ!」
「わ、私は大丈夫ですから、サニーさんを……あっ」
「あ……んんんっ」
「噛まれましター」
 噛み付いたことで満足したのか、触手から解放され砂の上に放り出される3人。
「よ、よかった……皆大丈夫?」
「え、ええ……あ、あぁああ……やぁあ……」
「はぁ……んっ」
「どどど、どうしたの?」
 動揺する三月の前で、サニーと柚が悶えはじめた。
「……すごク、痒いでス……!」
 サリーの言葉に良く見ると、3人は自分の体を掻きむしっていた。
「一体どうすれば……あ、海、いい所に! 助けてくれ!」
 困惑しながらも、三月は知った顔を見つけて慌てて声をかける。
「何だ、三月たちも来てたのか」
 高円寺 海(こうえんじ・かい)が驚いた様子で三月を見る。
「いいから、こっちへ!」
「って、何なんだ、これは?」
「は、あっ、痒くて、痒くて……」
「あんっ、か、痒いぃ……」
 悶える少女たち。
 いきなりの惨状に目を丸くする海。
「そんなわけで、柚にこの薬をお願い!」
「は!?」
 薬を海に押し付けると、三月はサニーの方に向き直る。
「サニーさん、大丈夫!? 具合が悪いなら、病院にでも運ばないと……」
 サニーをお姫様抱っこで抱える。
「あっ、そこ……痒いっ」
 サニーの、黄色のビキニで包んだ身体が三月の腕の中でびくりと跳ねる。
「え、ええとごめん! サニーさんは、僕がきっと助けてあげるから!」
 思わずサニーをぎゅっと抱きしめる。
「……ん……」
 腕の中で、サニーの痙攣がゆっくりと納まっていくのが分かった。

「ご、ごめんなさいっ。このお薬、効くかどうか分からないけど……んんんっ」
「……あ、あぁ。これを塗ればいいんだな」
「ひゃ……ん」
 海の指が、患部に触れる。
 柚の肌に、薬が塗り込められる。
 次第に、柚は全身の痒みがすうっと引いていくのを感じた。

「サリーちゃん、大丈夫?」
「痒いノ……治りませン……」
 奈月がそうっとサリーを抱きしめた。
 なでなでなで。
 優しく優しく、頭を撫でる。
「んッ……」
 サリーの体から力が抜けていった。