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リアクション
「……やっかいな森に入っていった様だな。周辺にはいないようだが」
廉は木の上から園児を捜索しつつ歩き回る土塊達を確認していた。
「……不気味な森ですね……うぅ、怖い……」
慶司は木の下で不安を洩らしていた。これも神からの試練と思い、侵入したが怖いものは怖い。
「……心配するな。多少、変なのがうろついているが、ただの森だ」
廉は木から飛び降り、慶司の不安を少しでも和らげようとした。
「……視界が下がると別世界ですし、獣もいるんですよ」
慶司は周囲を見回しながら言った。
「そうだな。園児達が怪我をする前に見つけ出すぞ」
廉は『ディテクトエビル』を使い、周囲を警戒しながら動き始めた。
「はい。早く見つけましょう」
慶司は不安に満ちていた表情を引き締めた。怖がってばかりはいれない。この間にも子供達は迷子になって泣いているはずなのだから。
捜索してしばらく
「やあぁぁぁ」
勇ましい少年の声が廉と慶司の耳に入って来た。
「慶司、行くぞ」
「は、はい」
廉を先頭に声がする方へ急いだ。
辿り着いた先では、狼の尻尾に巻き付く蛇に変身した少年がいた。
「なかなか、勇ましい少年だな」
廉は子供なりにも戦っている少年に感心するも行動は素早かった。
「慶司は子供を頼む。俺はこいつの相手をする」
廉は子供を慶司に任せ、敵の眼前に飛び出た。
「はい」
廉が注意を引きつけている間に慶司は子供救出に急いだ。
「……もうだめだぁ」
尻尾に巻き付いていた少年は力尽き、落下してしまう。
「あ、危ない!!」
慶司はとっさに落下地点に行き、身をていして少年を受け止めた。
「……大丈夫ですか」
慶司は子供が怪我をしていないかを確認する。
「うん。大丈夫。ありがとう、兄ちゃん」
少年は慶司から離れながら、礼を言った。
「……いえ」
慶司は子供が無事である事に安心するも子供の方はもう慶司を見ていなかった。
目の前で展開される狼と蛙の戦いに釘付けだった。
「おおお、あの姉ちゃん、すごーい」
舌をチロチロしながら、興奮気味に声を上げる。
「……エドルくん、少し離れましょう」
感動して動こうとしないエドルには慶司の声は聞こえていない。
仕方無く、こちらに攻撃が来ないように『歴戦の防御術』で来るかもしれない攻撃に備えたが、結局は必要は無かった。
慶司が園児を救出している間。
「蛙だからと言って戦闘が出来ない訳ではない」
相手の出方を見つつ身軽な体型を生かし、敵の攻撃を避け、伸びる足で敵に蹴りを入れ、とどめに『疾風突き』を命中させて追い返した。狼は見事に倒れた。
「……終わったか」
廉は、すっかり戦闘が終了したのを確認してから戦闘態勢を解いた。
「すごかったよーー」
いつの間にか助けられ戦闘を見学していたエドルが廉の元に駆け寄って来た。
「……無事なようだな」
廉はエドルに怪我が無い事を確認。
「うん」
興奮が冷めないまま元気良くうなずいた。
「それで何があったんだ?」
廉はエドルに念のため事情を訊ねた。
「あいつが来たんだ。ちょっと、怖かったけど。負けたくなかったから」
エドルはぴんと姿勢良く答えた。
「そうか。見上げた心構えだ」
泣かずに頑張った事はしっかりと褒める廉。
「へへへ」
エドルは褒められて嬉しそうに照れ笑いをした。
「ただ、他の人に心配させるのは反省しなければならないな」
「……うん」
当然、褒められない事もある。そこはしっかりと言う廉。エドルは少しショボンとした。
「とにかく、無事で何よりです。早く行きましょう」
慶司がまた襲われないうちにここを離れようと廉とエドルに言った。
そして、三人は森の出口に向かって急いだ。
道々、
「……兄ちゃん、もしかして怖いの?」
エドルは周囲を頻繁に警戒する慶司に少し意地悪な事を言う。
「いえ、周囲を警戒しているのですよ」
慶司はエドルに言われ何とか怖さを隠した笑顔で固まっていた。
「ふーん。ねぇ、どうしたら姉ちゃんみたいに強くなれる」
全く慶司の言葉を信じていないエドルは、すっかり憧れてしまった廉に強くなる方法は無いかと訊ねた。
「心と訓練だ」
廉はエドルにも理解出来るように話す。
「訓練は分かるけど、心は?」
エドルは、さらに訊ねる。
「自分より小さい者を守り、先生や家族を大切にする。そして、自分を甘やかさない。どんな敵が自分の前にいようと恐怖と勇気を持って立ち向かう」
武士道を重んじる廉は、何とかエドルが理解出来るように言葉を選びながら話す。言葉の裏に無茶をするなとナコや両親を心配させるなという事を含めながら。
「怖いと思いながら勇気を持つ?」
エドルは疑問をぶつけた。
「……恐怖があれば、相手の動きを警戒出来る。無ければ、ただの無茶だ」
廉はそう言いながら厳しい目を向けた。先ほどの様な事はもうするなと。
「……うん」
廉の言葉に込められた気持ちを察したエドルはしっかりとうなずいた。
そして、三人は森の出口まで無事に辿り着いた。
「……土に襲われないのはいいですが、これは完全に先行したのが仇になりましたね」
夜月達に先行して侵入した光秀は、無我夢中で森を捜索するもふと自分の姿が気になり立ち止まっていた。姿は黒目の白猫だ。
「……猫。まずいですよね。戻り薬も見つかっていないというのに」
改めて自分がしてしまった事に気付き、戻り薬も見つかっていない事も思い出す。もう穴があったら入りたい気持ちでいっぱいだ。
「と、とりあえず合流地点に急ぎましょう」
何とか気持ちを切り替え、光秀は合流地点へと急いだ。
合流地点。
『銃器』を持つ渚は襲いかかる土塊達をシングルアーミーで撃ちながら無事合流地点に到着すると見覚えのない先客がいた。
「……お前、明智か」
ここを合流地点と知っている者で思い当たるのは一人だけだ。
「……はい」
光秀は、恥ずかしそうにこくりとうなずいた。
「……何て言うか大変だな。とりあえず、到着を知らせておくか」
渚は何とも言えず、当たり障りのない事を言い、夜月に『精神感応』で到着を知らせた。
「……他の奴らも頑張っているみたいだな」
森に入るなり夜月は、『人の心、草の心』で近くの植物から手当たり次第、情報を得ていく。園児達の事や他の捜索隊の事など。
「……あいつらと合流するか」
夜月は、得た情報を元に使い魔:カラスと二匹の使い魔:狐を放ち、園児達を見つけ出そうと捜索を開始した。
「……急ぐか」
夜月は、土塊に襲われる前に『バーストダッシュ』で合流地点へ急いだ。途中、渚から『精神感応』で自分と光秀も合流地点にいる事を知らされた。
「で、全員揃ったと聞いたけど、光秀ちゃんはどこに……猫……?」
到着した夜月は、いるはずの光秀の姿が見当たらず、周囲を見回す。渚は光秀が猫になっている事をまでは伝えなかったのだ。
そして、気付く。
「えっと、もしかして、光秀ちゃん?」
足元にいる猫に。
「……そうです。私です」
夜月の問いかけに縮こまりながら光秀が答えた。
「お前、変身してたんだな。とりあえず……」
次の行動を話し合おうとした時、後方から自分達を呼ぶ声が聞こえ、三人は振り返った。
「あ、アニス!! と佐野和輝」
渚は白鳩を見るなり嬉しそうになるも傍らにいる人物を見て嫌そうな顔になる。
「あれは、佐野殿御一行? しかもあれは、松永久秀」
光秀は久秀の姿を見るなり不機嫌な顔に変わった。
「あれ、佐野じゃん。アイツ等もこっちに来てたのか。ついでに手伝ってもらうか」
夜月が言い終わらないうちに渚は白鳩のアニスに向かって走っていた。
「アニス!! 何て可愛い姿になっているんだ!!!」
アニスの眼前に立ち塞がり、目を輝かせ、両手は愛でたさにウズウズさせる。もうテンションが最高潮。
「うにゃ!? 渚お姉ちゃん? なんか顔が怖いよ」
渚のテンションにアニスは動けず、怯えた目を向けた。
「心配無い。アニス、可愛すぎるぞ。これは全力を持って愛でなければ!!」
そう言うなり光秀は白鳩アニスを手で優しく掴み、頭や羽を撫で始めた。
「うにゃああああ!?」
アニスは渚の容赦ない愛で攻撃に悲鳴を上げていた。
「ふふふ、次はどうやって愛でようか。そうだ、もっと可愛くしてあげなければ」
挙げ句にもっと可愛くしようと近くに咲いている花を摘んでぐったりしているアニスの頭に飾ったりした。
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