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渚の女王、雪女郎ちゃん

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渚の女王、雪女郎ちゃん
渚の女王、雪女郎ちゃん 渚の女王、雪女郎ちゃん

リアクション

「おい、あっちの方何か騒がしくないか?」

 浜辺の一角で何やら騒ぎが起きていると聞いてMKY親衛隊はその現場へと急行した。

「こ、これは……何ということだッ……!」

 距離を取りにらみ合う和輝と刀村、そしてその間でおろおろとしたアルビノの少女。
 そろそろ頃合かと岩場から降りてきた賢狼に乗った手のひらサイズのルナに親衛隊は目を奪われていた。

 おおおっ、と親衛隊にざわめきが起こり、ようやく辺りの異様さに気付いた和輝が顔を向けると、岩場を囲むように男たちしかいないギャラリーが出来上がっていた。

「か、和輝、知らない人がいっぱいいるよぉ……」

 せっかく引っ込んだ涙が再びこんにちはしそうになりながらアニスはびくびくと和輝の後ろに隠れる。

「もしかしてお前の仲間か?!」

 刀村の見れば違うと首を振る。
 そこでようやく降りてきたルナが事情を説明して和輝の誤解であることが判明した。
 刀村に頭を下げれば、一緒にお茶をしてくれたらそれでいいと言われ、アニスやルナとともに和輝も座った。

 ご機嫌でお茶を入れる刀村はルナにお茶の説明をしているようだ。
 和気あいあいと和んでくる雰囲気に対して、ぽつんと親衛隊だけが取り残されたようだった。

「まったくどうしてすぐに言わないんだアニス」

 少し困った顔で頭にポンと手を置くと、少し潤んだ瞳を和輝に向けて口を開いた時だ。


「これは一体何の騒ぎなの?」

 少し低く、だが幼さの残る凛とした声が響き、親衛隊の群れが真っ二つに割れる。
 割れた先から背筋をぴんと張って歩いてくるのは。

「ゆ、雪女郎ちゃん?!」

 そう、今この浜辺を独占している張本人、雪女郎だった。
 堂々と立つ小さな少女の青みがかった銀色の髪は肩をすぎるほどに伸びて風に揺られ、涼しげな白い帽子とワンピースに身を包み、右手には暑さで溶けかけたアイスが握られていた。足元は夏らしくなのか可愛らしいデザインのビーチサンダルを履いていた。
 紫外線には弱いのだろうかけていたサングラスをくいっと上げて和輝たちを見る。

「おおおおっ! 君が雪女郎ちゃんかぁ! ささっ、座って座って! おじちゃんたちと一緒に涼しく一休みしよう!」

 一際輝いた笑顔で刀村が声を上げて、雪女郎は戸惑いながらも手際よく案内され冷たいデザートを出されれば悪い気はしなかった。

「む、これ美味しいわね」

 もぐもぐとアイスケーキを頬張って、雪女郎はパクパクと口に運ぶ。

「美味しいだろう? おじちゃんが愛を込めて作ったデザートだからね。冷たいお茶やジュース、アイスクリームにシャーベットもあるよ」

 雪女郎に次々とデザートを出し、好感度を上げていく刀村。
 これだよこれ。自分はこの瞬間を楽しみにしていたんだ!
 心の中でガッツポーズをとってどこまでもにやけてしまいそうな顔に歯止めをかけるのだった。


「おい、あいつらは何なんだ? 雪女郎ちゃんとあんなに楽しそうに……」
「あんなに可愛い子たちと一緒にお茶しやがって……世の中は平等じゃないよ……」

 親衛隊の方に見向きもしない和輝たち一行に、ぶつぶつとあちこちから文句の声が上がり始めた。

「せやせや、世の中平等なんてない。あるのは勝ち負けだけや」

 ひょいっと瀬山が顔を出して文句を言っている親衛隊に語りかける。

「そうだよなぁ……俺たちゃいわゆる負け組み、社会の歯車なんだよな」
「歯車にすらなれない低脳だもんな」
「やっぱり自宅が一番だよ」

 はああああ、と重苦しい溜息をついたのをみて瀬山は口角を上げて話し始める。

「でもやっぱ悔しいやろ? あの子と最初に会うたのがあんたらだったら、今、あのちびっ子の隣にいるのは自分やったかもしれないんやで?」

「なん……だと……?!」

 三人とも驚愕に顔を浮かべ、まるで漫画の描写のようにたらりと汗が頬を伝い落ちる。

「そしたら、今あそこに座って雪女郎はんと楽しゅう会話してたのは自分やったかもしれんで」

 ゴゴゴと嫉妬の炎が渦巻いているのが見て取れ、瀬山はすかさずチラシを取り出した。

「そんなあんさんたちにはこれ! わが妬み隊で嫉妬の炎を力にぶつけようキャンペーン中や! 万年二位も脱出出来るほどの力が手に入るかもしれんで!」

 さっそく営業トークへとうつる瀬山の口は途切れることなく言葉を紡いでいった。