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盛夏のフラワーショー

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第9章 楽しいお祭りの終り


「……こんなに走ったのはいつ以来かしら……体育祭が最後だったような気がしますわ……」
 ベンチに身を預け、暮れなずむ夕陽をアナスタシアはぼんやりと眺めていた。
 琴理は何も言わず、彼女の足に薄いガーゼのケットをかける。
「足、投げ出してもいいんですよ?」
「そんなお行儀の悪い事……そ、そこまで言うならしてあげますわ」
 ヒールのあるパンプスで駆けまわったせいで痛んだ足。それを彼女はそうっと脱ぐと、解放感に、ケットの下でぶらぶらさせた。
 そうして無言でしばらく景色を眺めていた。
 高所にあるこのデッキからは、水平線に沈みゆく太陽も、藍色に染まる空も、一刻一刻表情を変えていく海も見渡せた。
「……聞きました、優勝?」
「いいえ、聞いてませんわ」
「ミスコンはタリア・シュゼット(たりあ・しゅぜっと)さんでした。植物に向けてのメッセージが良かったみたいですね」
「……そう、ですの」
「一般部門はこの街の庭師の方で、特別賞が天御柱学院からリュナ・ヴェクター(りゅな・う゛ぇくたー)さんたちのプリムラです。
 何でも、小さい花でもみんなで育てたこと、花がきちんと人の縁になっていることが嬉しいと評価されたとか……」
「…………」
「まだ飾ってありますから、後で見に行きましょうか。それから、会長──会長?」
 琴理が海から振り返れば、アナスタシアは既に安らかにすうすうと寝息を立てていた。
 琴理は肩をすくめると、その体を抱きかかえた。なんだか自分が男性になった気分だったが、契約者とはそういうものなのかもしれない。
「まったく、しょうがない人なんですから」
 ホテルへの帰り道、すっかり暗くなった空の下、彼女は都市を舞い散る花々に気付いた。

 ──翌朝。
 都市を訪れていた生徒達は信じられない光景を見た。
 一日だけの不思議な魔法が解けた都市には都市にはもう夏の花しか咲いていなかったけれど、その名残が、色が海面を埋め尽くしていたのだ。
 優しくも鮮やかな色の波の中を、花妖精たちを乗せた水媒花の花弁のボートが行き交っている。
 魔法の名残は、また来年と人々に告げながら、波間に漂いながら静かに消えていく──。

担当マスターより

▼担当マスター

有沢楓花

▼マスターコメント

 こんにちは、有沢です。
 シナリオご参加の皆様、公開が遅れまして申し訳ありませんでした。

 今回は樹上都市を舞台に花妖精を主役に書かせていただきました。
 皆さんと一緒にフラワーショーを見ているような気持ちで書かせていただいたのですが、特に花妖精の皆さんが可愛らしかったり、珍しい花だったりして、詳しく知らない花も調べ物を楽しませていただきました。
 少しでもほのぼのと、楽しんでいただけたなら幸いです。

 次回は、“原色の海”の海底都市と周辺を舞台にした冒険のシナリオを予定しています。
 今回(も?)活躍しなかった海軍の面々ですが、彼らと共に軍船に乗ったり海底に行けたら、と考えています。
 それではご縁がありましたら、次回もよろしくお願いいたします。