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汝、己が正義に倒れるや? ~悪意の足跡~

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汝、己が正義に倒れるや? ~悪意の足跡~

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第三幕:ライアー・フィギア

 クエスティーナたちが野盗の潜伏方法に気付いた頃。
 御凪 真人(みなぎ・まこと)は久瀬のもとを訪れていた。
「ライアー・フィギアさんですか……」
「彼女のことが気になりますか?」
 久瀬は言うと棚からファイルを取り出す。
 どうやら祭りの警備に関する書類のようであった。
「いえ、祭りの前から来ていたとすれば街に入るのは楽なのかなと」
「そうですね。普段ならば警備なんて門にしか配置しませんから、挨拶するだけで通れますよ」
「平和ですね」
「このあたりは治安がいいんですよ。怖いのは野生動物くらいのものです」
「ということは野盗は別の地域から来たということですかね?」
 久瀬は頷くとファイルを開く。
 中には警備のマニュアルらしきものが見えた。
「これだけ探していないということは顔を隠している可能性がありますよね」
「……なるほど。ちょっと待ってください」
 久瀬は棚から別のファイルを取り出す。
 表題には申請書一覧と書かれている。夏祭りに関するものらしい。
「ありました」
「なにがですか?」
「仮面の販売や仮装に関する申請書を見た記憶があったので……これですね。ちょうど脱走した翌日に仮面の配布を希望していた人が――」
 そこで久瀬は言葉を切った。久瀬の視線は書類に向けられている。
 御凪からはどのようなことが書かれているのか確認はできなかった。
「なにかありました?」
「いえ、なんでもありません。仮面の販売ないし配布をしている人にはお話を聞く必要がありそうです」
「それなら俺が行きますよ」
「いつも御凪クンにはお願いしてばかりで悪いね」
「慣れましたよ。それじゃあ行ってきます」
 部屋から出ようとした御凪に久瀬は声をかける。
「……待った」
「なんです?」
 振り向いた御凪に久瀬は苦笑する。
「いえ、ルーノクンたちのことお願いしますね」
「わかりました。迷子になっていたら案内しますよ」

 御凪が部屋から消えた後、久瀬は机の中から機械を取り出した。
 画面上には街の東部から森の方角へと△マークが点滅しつつ移動している様子が映っている。久瀬が冒険者時代に手に入れた発信機だ。
「冒険者の頃に一度使って以来ですが……まだ使えたのですね」
 懐かしむように機械を撫でる。
「嫌な予感って的中しやすいから嫌になりますね」
 久瀬は呟きながら身支度を整えた。
 近所にお出かけというには重装備だ。どちらかといえば遠出するような印象の格好である。
「街中で見つけるに越したことはありませんが、祭りで人が多いし不可能でしょうね。早くて森の中でしょうか……最悪、向こう側ですか」
 久瀬は最後に手紙を机の上に置くと部屋を後にした。