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汝、己が正義に倒れるや? ~悪意の足跡~

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汝、己が正義に倒れるや? ~悪意の足跡~

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幕間:探し人

 祭りで賑わう街の雑踏を掻き分けて進む男の姿がある。
 紫月 唯斗(しづき・ゆいと)だ。彼は行き交う人々の顔を一つ一つ、素早く確認をしながら進む。しかし目的の人物は見当たらない。
「――運よく見つけたはずだったが」
 紫月は自分の失態を恥じた。
 久瀬から聞いたライアーなる人物の特徴からそれらしき対象を見つけて監視していたのだが……。
「まさか路地裏から姿を消すとは思わなかったな」
 ライアーを追跡し角を曲がったら壁だった。ありえない話だった。
 抜け道などない。家の窓は割れていなかったし、隠れる場所もない。
 可能性をあげるとすれば壁を走ったか、または空を飛んだかだ。
「気付かれてはいなかったはずだ。それでも偽装をしたというなら、最初から警戒していたってことか。用心深い女だな」
 久瀬から話を聞いた時点でライアーを怪しんでいた紫月はその疑念をさらに深める。
 普通じゃない、ということが分かっただけでも収穫だった。
「無作為に探しても無駄だな」
 紫月は辺りを見回し警備をしていそうな人物を見つけ、声をかけた。
「――な感じの女を見なかったか?」
「――な感じの女性を見ませんでした?」
 声が重なった。
 振り向き、聞いてきたのは柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)だった。
「なんだ俺と同じか」
 紫月がため息を吐く。
「同じってことはおまえもライアーを?」
「ああ、探してる」
 疲れている様子の紫月を見て柊は悟る。
(ああ、見つからなかったんだな)
 自身も探していたが見つけられていない。もしかしたらすでに街を出ているかもしれないと、一つの可能性が頭をよぎる。
「もしかしたらもう街を出てるかも」
「だとしたら追いつくのは厳しいな」
 辺りを見回して紫月は答えた。
 周囲は人、人、人の海だ。この中を移動するのは時間がかかりそうである。
「その辺にいればなあ」
 柊はきょろきょろと辺りを見回す。
 しばらくしてクエスティーナとサイアスが近くを通りかかった。
「二人とも何をしてるのですか?」
 クエスティーナの問いかけに二人は答える。
 だが残念なことにクエスティーナたちはライアーを見かけてはいなかった。
「そんな運の良いことはなかったか」
「私たちからも聞きたいことがあるのですが」
「何かな?」
「仮面を配ったりしている人を見かけませんでした?」
 紫月は首を横に振る。だが柊には思い当たるところがあったようだ。
「それならあっちの路地で――」
 言い終える前にクエスティーナとサイアスは柊の指差す方へ向かって走り出した。
 去っていく彼女たちの背中を見送っていると手を振り出した。きっとお礼のつもりなのだろう。
 目的の人物が見当たらず途方に暮れることしばらくして柊は立ち上がった。
「手伝いでもしようか」
 柊の提案に紫月は頷く。二人はその場を後にした。
 街の喧騒は先ほどよりも大きく感じられた。祭りの夜はまだ続くようである。