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リアクション
「あれまぁ、せっかくの布陣を崩してしまうみたいだぜ。やっぱり数を頼りの烏合の衆だったってわけだ」
【シェーンハウゼン】の急激な動きを見てほくそえんだのは、別口で攻略の計画を練っていた狩生 乱世(かりゅう・らんぜ)だった。
彼女は【隠行の術】で身を隠し、【千里走り】の術で一路目的地へと向かっていた。
今、左翼軍団と派手に暴れまわっている四方津坂彪女のマスターである。
途中で立ちはだかる敵は、【クビキリカミソリ】で容赦なく急所を突いて即死を狙い、仕留めきれなくても【毒使い】による状態異常で行動不能にする。
目指す先は平原の砦だ。
乱世たちは、ごくわずかな戦力で起死回生の策を実行するつもりだった。彪女たちが頑張ってくれているおかげで、時間はあった。敵の先陣は迎撃に必死で、しばらくこちらへは兵を派遣できまい。おまけに別の攻撃に変更すると来た。これは余裕で間に合うだろう。スキルを使って目的地まで一直線に走り抜ける。
先程第二軍団長のティベリウス・センプローニウス・グラックスの視界の先を通り過ぎたのは、彼女らだったのだ。
「他にも砦攻略の部隊が動いているみたいだね、上手く連携できればいいけど」
これは、乱世と共に作戦に参加した榊 朝斗(さかき・あさと)だ。
こちらも【ベルフラマント】、【光学迷彩】で気配と姿を消し敵に気付かれない様にしており、危険が迫ってくる事を考えて【イナンナの加護】で備えていた。彪女と同じく左翼軍団と戦っている、アイビス・エメラルドのマスターであった。
「は! どっちでもいいさ。こちらはしっかりと対策と準備は整えてあるんだ。やることをやるだけだぜ」
二人は無言で疾走する。
「? ……なんだ、ただの風か」
見張りの兵士たちですら、見逃すほどの速さだった。
「見えた。あれだぜ」
平原の砦を見つけて、乱世は口元に笑みを浮かべる。
「……ちょっと待って。守りが固められてるよ」
砦がしっかりと防備されているのを遠目に見て、朝斗が言う。
「関係ねえぜ。同じようにやるだけさ」
乱世は言うと、走る速度を上げた。
○
「伝令の情報どおり、怪しい敵集団が迫ってきているようですわね。あれでバレないとでも思っておられるつもりでしょうか」
平原に設置された砦には、【シェーンハウゼン】の第三十三軍団が配備についていた。
軍団長の名はマルクス・ポルキウス・カトー 。別名、『大カトー』の異名を取る、共和制ローマの政治家でもあり軍人でもある人物だった。
子孫に同じ名前の有名な元老院議員がいるため、区別するために、『大カトー』と呼ばれる事が多い。
ハンニバル戦争中は、ファビウスの下で軍団長を務めた。戦争終結後、ローマの政権を握ったスキピオ・アフリカヌスに危機感を覚え、彼を失脚に追い込んだ実力者であった。
その彼が、身体を借りているシャンバラ教導団のシャレン・ヴィッツメッサー(しゃれん・う゛ぃっつめっさー)の目を通して、双眼鏡をのぞいていた。
外見年齢40歳。数少ない熟女キャラであった。
平原の砦から眺めおろしているだけで、敵の動きが手に取るようにわかる。
手が空いたシャンバラ軍のいくつかの部隊がこちらに向けて迫ってくるのを見て取れた。
クィントゥス・ファビウス・マクシムスが軍団を呼び寄せた関係で、あちらこちらで起こっていた戦闘も区切りがついたようだった。
(案の定、やってきましたわね。兵の数では絶対的に劣る敵軍は、それを補うために様々な策略を巡らせてくる筈ですから。この簡易砦は、北側の平原一帯に展開する信長軍の要として、狙われる可能性は非常に高いはずとの見立ては間違えていませんでしたわ。周囲には大軍が布陣しているとはいえ、気を抜く事は出来ませんわ)
その予想通り、用心してこの砦の警備を強化しておいてよかった、とマルクス・ポルキウス・カトーは胸をなでおろす。
戦場における総司令官の判断に抜かりがあるとは思えないが、戦場では何が起こるかわからない。何らかの想定外の事態が発生し、砦が危険にさらされるような状況も考えられなくはない、と判断して要所要所も手堅く押さえてある。
放火や破壊、毒の投入などといった工作の類にも細心の注意を払っている。補給物資の蓄えてある倉庫などにも、過剰なほど兵員を張り付かせていた。
そのため、この第三十三軍団は攻撃に加わらない。守りきるだけで勝ちだった。
まさに鉄壁で、誰も攻め落とせないだろうとの内心の自負を隠せないように、マルクス・ポルキウス・カトーは小さく微笑む。
「せいぜい、お手並み拝見と参りましょうか」
「……同感ですネ。あなたのお手並み、とくと拝見させていただきます。この砦に不備がないか、しっかりとネ」
背後から、ルイス・フロイスがやってきた。
マルクス・ポルキウス・カトーはあからさまに嫌な顔をした。あることないこと嗅ぎまわって、したり顔で文句をつけてくる。各軍団も辟易しているようだった。
「どうぞ、お好きになさいませ」
マルクス・ポルキウス・カトーは顔も見たくないといった様子で去っていく。
「……無駄が多いですね」
ルイス・フロイスは砦内部を見回して真面目な顔で呟く。
彼自身に他意はなく、与えられた軍務に精励している忠実な軍監だったのだ。
○
「あ〜あ、どうせなら信長の本城攻略したかったぜ。ダリルの野郎……、俺たちは捨て駒かっての!」
ぶつぶつと文句を言いながらも平原に陣取る【シェーンハウゼン】の大軍に向けて部隊を進めていたのは、ルカルカのパートナーのカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)だった。
ドラゴニュートの彼は、そのまま自分が大きくなった姿のイコンカルキノスを鎧として装着し、上空から出撃していた。本人が空を飛べる上に、イコンも飛行形態なため地上戦をする必要がないのだ。
★……というのは、グラフィック上の演出であって、当たり判定は普通の歩兵と同じなのであった。このゲームには飛行ユニットはないのだ。
「ふっ、見よ……! 地べたを這いずり回る兵士たちが虫けらのようだぜ、ゲラゲラゲラ……!」
ゲームの中ということもあって、ちょっとイメージ崩れ気味なカルキノスに、地上からルカルカが笑顔で手を振ってくる。
「オレがちびっこいからって見下ろしてくるんじゃねぇ!」
軍勢を率いて進軍していた夏侯 淵(かこう・えん)が見上げながら怒鳴りつけてくる。
彼は、【行動予測】や【英霊のカリスマ】といったスキルで兵を統率指揮していた。ルカルカたちがハイナの傍に張り付いているので、結局彼とカルキノスが敵陣に突撃することになったのだ。
「ずいぶんと派手なことになってるが、これ敵から見たら俺たちバカだろ? 待ち構えている所正面から突っ込んでいくんだからさ!」
【シェーンハウゼン】が大きく動き出したのを見て、彼らはその隙を突くことにしたようだった。とにかく敵陣に突入して引っ掻き回してくれと頼まれたのだが、どう見ても多勢に無勢。相手にダメージを与えるのは難しいのではなかろうか。
「他の部隊は、それぞれ特徴があって無駄に使うのがもったいないんだとさ。自前の兵なら使いつぶせるって参謀ドノの考えらしいぜ。まあいい、やってやるぜ」
同じパートナーの提案なのに今日に限っては酷評の淵。勝ち戦に参加したかったのに、敗戦処理みたいな役目で不満たらたらだ。
「しかし……。ハイナも早く逃げろよ。敵が陣形を変えて迫ってくるのはわかってんだからさ!」
空の上から地上の状況を眺めながら(歩兵ユニットである!)カルキノスが暢気な口調で言った時だった。
「探しましたわよ。少し付き合っていただきましょうか」
「……」
声の主に気付いた時、カルキノスもまた、いつの間にか取り囲まれていた。
それは……、先ほど登場した島津ヴァルナを始めとした、イコン殲滅部隊のメンバーであった。
自身もイコンを装備しており、ソツなく身を固めた戦闘集団。
カルキノスの装備するイコンの魔力を察知して駆けつけてきたのだ。
「なんだ、来たの可愛い女の子ばかりじゃねえか、一人は男だけどそれもまたよし! なんだか、みwなwぎwっwてwきwたwな」
綺麗な少女たちの丁重なお出迎えに、カルキノスは陽気な笑みを浮かべる。特にそういう趣味があるわけではないが、たまにはこんなのもいいだろう(?)。
彼が余裕をかましていられるのも当然だった。現在、恐らく最も強いキャラの一人だからだ。
「淵、お前兵士たちを連れて先に行っていてくれ。こいつら片付けたら追いかけるから」
「結局一人で合戦かよ! いいぜ、全部潰してやる」
淵は、カルキノスには特に気にもかけず、陣を変えようとしている信長軍へとまっすぐに進路をとった。
さてと、と向き直るカルキノス。
(おいおい、どうするんだこれ……? 俺、レベルもステータスも成長限界の頂点まで達してるんだぜ。イコンも最強クラスだし。ぱっと見、リーダーの子以外は三人とも50レベルくらいなんだが、下手したら殺しちまうぞ。……仕方ねぇ、軽く追い払うか……)
出来たら、ゲーム内ということでLV修正がついていないといいな、などとカルキノスが余計な心配をするより先に、ヴァルナ、麻衣、亜衣、ヘルムートの四人が容赦なく襲い掛かってきた。先程のような甘さはない、隙のない連係プレーだ。
「ぐはあああぁぁぁっっ! 痛ててててっっ! ……何しやがるんだ!」
全力で攻撃を食らい、全身から血を噴出しながらカルキノスは吹っ飛んだ。空中を切りもみしている間に四人が無言で止めを刺しにくる。
「くっ、やべぇ……!」
予め敵とはこう戦おうとスキルを使ってのシミュレーションまで済ませていたカルキノスは、つい条件反射でそのまま攻撃してしまった。
「……【神降ろし】+【疾風怒濤】+【ドラゴンアーツ】+【インテグラルアックス改】で薙ぎ払い攻撃。【咆哮】+【百獣拳】も追加で!」
ドドドドドォォォォォ! とカルキノスの超スゲェ本気攻撃がイコン殲滅部隊の四人に命中する。
「きゃあああああっっ!?」「わあああああっ!」
少女たちの悲鳴が響き渡った。殲滅部隊の四人は、まともにカルキノスの攻撃を受け悶絶する。
「しまった、やりすぎた!? ……って、【咆哮】返ってきたじゃねえか!」
カルキノスは目を見張った。
ヴァルナは装備していた【空飛ぶ箒パロット】の効果で、一つだけ自分の食らったスキルの効果で反撃できるのであった。
「ぐはっ……、いいカウンターを食らっちまったぜ」
自ら放ったスキルの威力をかみ締めながら、カルキノスは空中をよろよろと旋回する(あくまで歩兵ユニット!)。しばらくそうしている内に、全力攻撃を食らわせてしまった少女たちのことが心配になってきた。
「あいつら、無茶しやがって……。死んでねえだろうな……?」
姿が見えなくなった四人を案じて、カルキノスが様子を見ようとすると。
「!?」
ドン! という衝撃音と共に、彼の背後から痛烈な攻撃が加えられた。
「これで、二体目ですわ……」
体勢を立て直していたヴァルナの【レジェンドストライク】を用いての攻撃は、カルキノスに痛烈なダメージを与えていた。
「ぐ、お前ら……!」
敵を視認しようと身体をよじるカルキノスの横合いから、光条兵器を手にヘルムートが攻撃してきた。
「イコンアビリティ、【急所狙い】!」
カルキノスはなりふり構わず反撃する。
「ぐああああ!」
吹っ飛ぶヘルムートだが、彼に構わずヴァルナ、麻衣、亜衣が攻撃を仕掛けてきた。
ガッ! とカルキノスは受け止める。
「……おいおい、どうしたよ? ずいぶんと手こずってるじゃねぇか」
遅れてやってきた尾瀬 皆無(おせ・かいむ)が、イコン『畏怖王:バイラヴァ』を装備して合流してきた。
彼は、乱世を手伝いに砦に向かっていたのだが、こんな所で面白そうなことに遭遇するとは思っていなかったのだ。少々くらいは油を売っても大丈夫だろう。
「ひゃっっほーい! オレもイコン持ちだぜ、ほらほらかかって来いよ!」
くいっくいっと指で挑発する皆無に、イコン殲滅部隊の四人は警戒しながら身構える。敵が二人になってどう戦おうか間を取っているようだった。
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