波羅蜜多実業高等学校へ

葦原明倫館

校長室

空京大学へ

THE 合戦 ~ハイナが鎧に着替えたら~

リアクション公開中!

THE 合戦 ~ハイナが鎧に着替えたら~

リアクション



導入:超バグゲー

【三国信なgの野望・大後悔時代 〜二カ国モード〜 】

◆ プレイする武将を選んでください。
信なg <
ハイナ

◆ プレイするシナリオを選んでください。
涅槃編 <
混沌編

◆ マップを選んでください

 
◆ 難易度を選んでください。
ハード <
ハード
ハード 

GAME START!
Now Loading……

◇ ◇

 
「……」
 天御柱学院のコントロールルーム。
 ヴァーチャルシミュレーターの暴走により、訓練中だった天御柱や他校の契約者の意識が、バグに取り込まれてしまう事件が発生した。
何とか修復しようとしていた技師は、打つ手なしとばかりにキーボードの手を止め困惑した表情で振り返る。
(……)
 じっと様子を見ていた、コリマ・ユカギール(こりま・ゆかぎーる)は黙ってうなずいた。もう、ここからでは何も出来ることはない。後は、飲み込まれた契約者たちを救うべく果敢にもヴァーチャルシミュレーターに乗り込み、架空世界へと入っていった戦場の覇者たちに願いを託すのみだ。
 バグが構築した世界から脱出するためには、バグのコアを破壊しなければならない。
 取り込まれた生徒たちの運命は、彼らの双肩にかかっていた。しかも今回は、過酷な戦場……。
 大軍を率い、戦場を支配する第六天魔王・織田信長を倒さなければならない。さもなくば、彼らはアテもなく架空世界をさまよい続けることになるだろう……。
(頼むぞ、パラミタの誇る英雄たちよ。バグ信長を打倒し、戦国の世に平穏を取り戻してくれ)
 コリマは既に架空世界へと飛び込んで行った契約者たちに念を送った。彼の応援は届いただろうか……。

 コントロールルームのスクリーンにはゲーム開始を告げる画面が写っていた。
 事故により生み出された、学院最強の超バグゲーが、始まる……。
 
 さて、では。ゲーム世界での彼らの戦いにしばしのお付き合いを……。



「見よ、敵軍は圧倒的ではないか……!」
 西の山中に建てられた本陣の天守閣から戦場の様子を眺めていたハイナ・ウィルソン(はいな・うぃるそん)は、迫りくる信長軍の総勢を眺めおろしながら楽しそうに笑っていた。
 天守閣といっても立派なお城ではなく、さほど高くない壁に囲まれた空き地と、三層建ての砦が設置されているだけのつくりだ。この本陣に、ハイナはいた。
 そう、敵は笑うしかないほどの兵力を擁している。これから戦場になるであろう大平原がすべて人で埋め尽くされていて、数えるのも嫌になるくらいの大軍だった。
 ぎらぎらと照り付ける陽光に敵軍の携えた刀や槍の銀光が照り返し、目を眩ませるほどの輝きの塊がハイナの本陣に迫ってくるのが一目で見てとれた。血気にはやった兵士たちの闘気に充ち溢れた雄たけびとそれを率いる一騎当千の武将の自信に満ち溢れた号令の声が、地響きのごとく空気を震わせる。それは、ハイナの陣営に集まってきていた名だたる武将たちすら驚かせるほどの勢いだった。 
 なにしろ、想像していたよりも信長軍は遥かに多い。
 ヴァーチャルシミュレーターの暴走事故で取り込まれてしまった者、そんな彼らを救出すべく果敢にこの世界にやってきた者、それぞれが戦場に配分され今まさに雌雄を決しようとしている。
 バグ信長陣営で参戦している契約者たちは、真っ先に取り込まれてしまって、架空世界の現状を把握できていないのだろうか、それとも確信犯なのだろうか。
 いずれにしろ、双方まとめてあまりの戦力の多さにどう采配をふるっていいものやらハイナも決めあぐねているらしかった。
「わっちらシャンバラ軍が不利な状況にありながら援軍としてやってきてくれたのには、大変感謝するでありんす。しかし、わっちは……、皆に対して戦果に報いる報酬も用意していないどころか、生命の保証すらできていない現状でありんすよ」
 バグ信長軍を打つべく馳せ参じて来てくれた契約者たちを前にハイナは申し訳なさげに言った。敵軍は倒さねばならない。だが、味方側にも敵側にも顔見知りの強力な契約者が参戦しているのだ。ゲーム中のザコを無双するのとはわけが違うし、相手は悪の集団でもない。バグは善でも悪でもなく本来無機質なものだ。にもかかわらず、そこに感情が生まれ皆が巻き込まれていく。激しい戦いの末、双方に多大な被害と犠牲者が出るであろう。それを危惧しためらっている様子だった。
「状況によっては、信長陣営についた武将たちの首をハネなければならないかも知れず、わっちの側についてくれた武将たちも切腹の憂き目に会う可能性もある。想像しているよりも厳しい戦になるでありんすよ」
「ナンセンスだ。思考を無機質なものに変えないと、むしろ被害が大きくなることを覚えておいた方がいい」
 天守閣から双眼鏡で敵の様子を探っていたダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が冷徹な含み笑いを漏らしながら振り返った。彼は、今回参謀としてハイナの陣営に加わって戦況を優位に導こうとしていた。そのためには、戦場全体を把握・判断し適宜必要な指示を出せるようにしておくこと。
 その彼は、平原を一通り見渡し終わり、冷厳な口調でハイナに告げる。
「敵にも味方にも感情移入するな。これから我々が遭遇するのは、全て“ユニット”。兵力は“数字”。ハイナの元に集まってきた武将たちは“手駒”だ。我々も含めてな。そこに感情などない。デジタルなデータが並んでいるだけだ。今ある手持ちをどう活用し最大の効果を挙げるか、それが考えるべきことなのだ」
「そ、そんな無茶な……」
「マウスをクリックするように、ハイナはただ淡々と『行け!』と命令するだけの簡単なお仕事をこなせばいい。手勢は使い捨て感覚で十分。そこに意思を含ませるのは危険だ。後は、我々も含め、駒たちが必死になって応えるであろう……」
「……」
 ダリルの思いやりのかけらもない発言にハイナは納得いかなそうにむっとした。ダリルの言っていることが正しいのはわかっている。だが、それを感情的に受け付けない。そんな表情だ。
「嫌いたければ存分に嫌うがいい。他の連中は絶対に言わないであろうから、代わりに参謀の俺がもっと言ってやる」
 いきなり冷や水をかぶせられたように消沈するハイナにダリルは淡々と続ける。
「よく認識しておくんだ……戦場は奇麗事ばかりでは済まないということを。勝っても負けても……我々はこれから、多くを殺し、多くを殺されることになる。ハイナはそれを嫌というほど目の当たりにするであろう。その度に一喜一憂し、感情に流されて指揮が乱れるようでは、戦う側の足を引っ張ることになる。我々は遊びに来たのではない、戦争をしに来たのだ」
「……とりあえず口を閉じようか、ダリル」
 ハイナに代わって口を開いたのは、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)だった。
 今回、ハイナの友を自負して補佐に当たることになったルカルカは、笑みの中にちょっぴり怒りを交えてダリルを見つめる。
「それ以上説教を垂れるようだと、一人で竹槍を抱えて敵陣に突入してもらうわよ」
「それでシャンバラ軍が勝てるなら、突撃でも何でもするが。……俺は、この世界を甘く見るな、と言っているんだ」
「甘く見てなんかいないわよ。ハイナだって圧倒的劣勢の中から戦おうとしているんだもの。簡単に敵を倒せるなんて思っていないわ」
 ルカルカは、笑みを浮かべて敢えて気楽そうに言った。
「大丈夫よ、そういうときのために私たちがついているんだもの。みんなで力を合わせてこの戦いに勝ちましょう」
 ハイナを元気付け、ひいては軍の士気をあげる。そんな彼女の明るい様子に、ハイナも自然と笑みを浮かべた。
「軍の指揮は私に任せておいて。全軍を統括できる人物が必要でしょ? これだけの人数なんだもの。あなたの負担を減らすためにも全力を尽くすわ」
「それはありがたいでありんす、が……」
 そんな二人を見やりながらダリルは構わずに冷たい口調で続ける。
「いいことを教えてやろうか。のんびり会話などしていられなくなるぞ。敵側……信長側の陣営は総兵力がこちらの兵力の三倍だ」
「……いまさら言う事じゃないでしょ。誰だって知っているわ、それくらい」
「だが、具体的な総兵力数は知らないだろう」
 ダリルは頭上を指差すような格好をした。ルカルカとハイナがそちらを見るが何もない。
「……なんなのよ、一体?」
「気付いてないのか? ここはバグゲーの中の世界だぞ。それでも一応ゲームはゲーム。数値は算出されている。……あそこにステータスや兵力数などのデータが表示されているだろう?」
「……あ、本当だわ。よく見たらうっすらと文字が浮かんでる」
「読んでみな」
「……信長陣営、総兵力数……約10万?」
「どうしていつの間にそんなに敵側に兵力が集まったでありんすか?」
 ルカルカとハイナは頭上(外から見たら画面上部)にうっすらと映っている数値を見て目を丸くする。
「決まっているだろう。こちら側、ハイナ陣営にも3万以上の兵力が集まったからだ。その三倍で敵兵力も正確には99000。もしかして、与えられる兵力が1000対3000で三倍だなどと思っていたわけではあるまい。総兵力の三倍だ。こういうところだけは忠実に処理しているところが面倒くさいゲームだな」
 ダリルは言う。
 敵を知り己を知ることが戦いにおいて肝心なこと。漠然と戦うのではなく、両軍のデータを具体的な数値として把握しておく必要がある。
「ちなみに、内訳はこうだ」
 ダリルはタブレット端末の画面を切り替えるような仕草で空中に指を這わせた。背景が変わり、データ画面に移行する。


【ハイナ軍 凹】

* 注意1)兵力数を見るためだけの画面なので、アクションとは関係なく兵を配備されたMCのみ(一部例外あり)を表示。
* 注意2)与えられた兵力の1000はMC、LC合わせて1ユニットとしての数値。それぞれのキャラに1000ずつ与えられたわけではない。

≪シャンバラ軍PC勢力(順不同)≫
凹1000 国頭 武尊(くにがみ・たける)
凹1000 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)
凹1000 戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)
凹1000 遠野 歌菜(とおの・かな)
凹1000 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)
凹1000 御神楽 舞花(みかぐら・まいか)
凹1000 ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)
凹1000 匿名 某(とくな・なにがし)
凹1000 神崎 零(かんざき・れい)
凹1000 相田 なぶら(あいだ・なぶら)
凹1000 レティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)
凹1000 紫月 睡蓮(しづき・すいれん)
凹1000 セリス・ファーランド(せりす・ふぁーらんど)
凹1000 桜葉 忍(さくらば・しのぶ)
凹1000 氷室 カイ(ひむろ・かい)
凹1000 榊 朝斗(さかき・あさと)
凹1000 鳴神 裁(なるかみ・さい)
凹1000 高崎 朋美(たかさき・ともみ)
凹1000 桐生 理知(きりゅう・りち)
凹1000 狩生 乱世(かりゅう・らんぜ)
凹1000 龍滅鬼 廉(りゅうめき・れん)
凹1000 東 朱鷺(あずま・とき)
凹1000 セフィー・グローリィア(せふぃー・ぐろーりぃあ)
凹1000 奥山 沙夢(おくやま・さゆめ)
凹1000 柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)
凹1000 鵜飼 衛(うかい・まもる)
凹1000 テラー・ダイノサウラス(てらー・だいのさうらす)
凹1000 猿渡 剛利(さわたり・たけとし)
凹1000 笠置 生駒(かさぎ・いこま)
凹1000 シャノン・エルクストン(しゃのん・えるくすとん)
凹1000 日向 茜(ひなた・あかね)

≪シャンバラ軍NPC勢力≫
凹1000ハイナ・ウィルソン(はいな・うぃるそん)
凹1000 辻永 翔(つじなが・しょう)

PC兵力:31000
合計兵力:33000


「ちなみに、信長陣営はこうだ」
 ダリルは再び画面を切り替えた。


【信長軍 凸】

 *注意1)注意2)はハイナ側と同じ。1000→3000

≪信長側PC勢力(順不同)≫

凸3000 クレーメック・ジーベック(くれーめっく・じーべっく)
凸3000 マーゼン・クロッシュナー(まーぜん・くろっしゅなー)
凸3000 ゴットリープ・フリンガー(ごっとりーぷ・ふりんがー)
凸3000 ハインリヒ・ヴェーゼル(はいんりひ・う゛ぇーぜる)  
凸3000 ケーニッヒ・ファウスト(けーにっひ・ふぁうすと) 
凸3000 ヨーゼフ・ケラー(よーぜふ・けらー)    
凸3000 エミリア・ヴィーナ(えみりあ・う゛ぃーな)
凸3000 オットー・ツェーンリック(おっとー・つぇーんりっく)
凸3000 アルフレート・ブッセ(あるふれーと・ぶっせ)
凸3000 シャレン・ヴィッツメッサー(しゃれん・う゛ぃっつめっさー)
凸3000 ギュンター・ビュッヘル(ぎゅんたー・びゅっへる)
凸3000 サオリ・ナガオ(さおり・ながお)
凸3000 佐野 ルーシェリア(さの・るーしぇりあ)
凸3000 リブロ・グランチェスター(りぶろ・ぐらんちぇすたー)
凸3000 武崎 幸祐(たけざき・ゆきひろ)
凸3000 葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)
凸3000 ロレンツォ・バルトーリ(ろれんつぉ・ばるとーり)

≪信長側NPC勢力≫
凸3000 呂布
凸3000 張飛
 その他、モブNPC武将が率いる勢力。後ほど登場。

PC兵力:51000
合計兵力:99000


「これだけの兵力が衝突するのだ。普通の戦では終わるまい」
「……なるほどね。こちら側の兵力に合わせて向こう側も増えちゃったわけか……。モブNPC武将が率いる兵力だけで4万以上なわけね。まあ、この連中は持ち込んできた近代兵器で一掃して突撃する戦法で倒すとして……」
 呆れた様子でため息をつきつつも、ルカルカは持ち込んできた自慢の装備の数々を確認する。射程400mの個人携行無反動砲、ライフル、機関銃、クラスター弾、etc……。これは余裕で勝てるわ」 
「そう上手く行けばいいがな」
 こちらが近代武器を使えるってことは、向こうも使ってくるんだぞ、とダリル。
「忘れてはいけないことは、何度も言うがここはバグゲーの内部だということだ。何が起こっても不思議ではない。正攻法は無謀だな……」
 まずは、更に正確な情報分析だ。とダリルは身を翻す。
「ちょっと周辺探索してくる。地形くらいは把握しておかないと酷い目に遭うぞ。……どうせこのバグゲーのことだ。マップすらまともに出来ていないに違いない」
 彼は、珍しく不満げにぶつぶつ呟きながらも、連れてきていた【親衛隊員】をハイナの護衛として傍に張り付かせると、お供を引き連れて姿を消してしまった。
「う、うむ。ゲーム導入部の仕切りおよび注釈説明、大儀であった。集まっていた皆も理解できたであろう。感謝するでありんす」
 ハイナは力強い口調でダリルを見送る。改めて、この世界は普通ではない、一筋縄ではいかないバグゲー内であることを強く認識したようだった。
 彼女は、もう一度天守閣から合戦の平原に視線を戻し、三倍の兵力差とどう渡り合おうかと表情を引き締める。
「兵力の差が、両軍の決定的戦力差でないことを教えてやるでありんす」
 本陣で戦況を眺めているだけというのは趣味に合わない、とハイナは立ち上がる。
「え?」
「わっちはこれから兵を率いて野戦に打って出るつもりでありんすよ。もちろん、ルカルカも来るであろう?」
「本陣を空にするのはあまり良くないと思うんだけど」
「なら別に本陣で留守番していても、わっちは何も困らぬ。砦など欲しくばくれてやる。わっちがいる所が本陣でありんすよ」
 不敵に笑うハイナに、ルカルカも頷いた。
「そうね……。じゃあ、いきましょうか。私たちの戦場へ……」
 ルカルカは、瞬く間に兵をまとめ出撃の準備を整えた。
 兵は巧緻よりも拙速を尊ぶ。
 ゆっくりと丁寧に事に当たるよりも、少々雑でも素早いほうがいい。相手よりも先に仕掛けるほうが勝機を掴みやすいらしい。
「では、全員出撃!」
 ルカルカの号令とともに、ハイナ軍は本陣から出撃し、野戦に打って出ることにした。
 兵を率いる大将のハイナは、自信ありげありげだが、果たして、圧倒的大軍を相手に少数兵力でどう戦うのか。
 このバグゲーをどう攻略するのか。彼らは無事にバグを倒し、この世界から脱出できるのだろうか。