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【ぷりかる】幽霊夫婦の探し物

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【ぷりかる】幽霊夫婦の探し物

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 捜索の手伝いを終えた吹雪達は古城探検を始めていた。オルナには挨拶済みだ。
「再び、この地に降り立つ時が来るとは!!」
 吹雪は妙に感慨深く古城内を見回す。
「吹雪、まずは植物がある広間よ」
 コルセアが探検と捜索以外に果たすべき目的を挟む。
「では、恐怖の密林の今の姿を見に行くでありますよ!」
 吹雪は植物が生息する広間へと向かった。今回は霊体なのでひゅるりと飛んで。

 広間。

「普通の広間であるな」
 イングラハムは、乾燥と日陰に強いタイプの植物が二鉢あるだけの部屋を見回した。
「……これは何とか世話は出来ているみたいね」
 コルセアは少し安心したように言った。

 しかし、その安心は束の間だった。
「おぉ、奇妙な花が咲いているでありますよ!」
 吹雪が不気味な色合いの花を咲かせている植物を発見したのだ。
「……不気味な色をした花ね。これはオルナが何かしたのかも」
 駆けつけたコルセアはため息をつきながら大正解の予想を口にした。
「……任務が終わり次第、報告であります。次に向かうは」
 エース達への報告は会場に戻ってからで構わないので吹雪を先頭に葛城探検隊は城内の部屋を探検して回った。
 霊体のため短時間で終わり、ヴァルドーの頭が無い事も確認した。

 古城、入り口奥の通路。

「ここから新たな場所へ探検するであります!」
 吹雪は急に真剣な表情に切り替えた。
「新しい場所?」
「ここでありますよ」
 聞き返すコルセアに吹雪は床を指さした。
「地下か」
「そうであります!」
 察したイングラハムに答えるなり吹雪はするりと床下へ。コルセアとイングラハムも続いた。

 地下。

「本当、霊体は便利ね」
 コルセアは宙を飛びながらしみじみ。
「……ここには誰もいないのだな」
 イングラハムは先ほどの探検で嫌になるほど幽霊がいたにも関わらず、ここでは全く見かけない事に不信感を抱いていた。
「これは何かある証拠でありますよ! もしかしたら凄いお宝かもしれないであります!」
 吹雪のテンションは高まり、ますます探検に熱意が入る。
「……この地下の入り口はどこなのかしら」
 ふとコルセアは背後を振り返った。以前、探検に来た時はここの入り口を発見出来なかったのだ。

 吹雪達が辿り着いた先は、貯蔵庫などに使われていたと思われる小さな空間だった。

「……子猫と女の子が眠っているでありますよ! 新たな出会いであります!」
 吹雪の視線の先には、上品なドレスを着た長い巻き毛の愛らしい少女と小さな子猫が眠っていた。
「幽霊も眠るのね。うなされているみたい。何か悪夢でも見ているのかしら。とりあえず、ここに来ている他の人に知らせに行って来るわ」
 コルセアは苦しそうな表情が気になりながらもまずは甚五郎達に知らせに行った。
「我々はここに待機しているでありますよ!」
 吹雪達はここに待機。

 すぐにコルセアは甚五郎達を連れて戻って来た。
「……この少女か」
 甚五郎は7歳ぐらいの眠る少女を鋭く観察していた。
「先ほど得た情報と照らし合わせたところ、この少女が最初の犠牲者じゃな。特徴も一致しておるしのぅ」
 羽純はエオリアから手に入れた情報を頭の中で整理し、少女の情報を引き出した。
「こんなに小さいのに可哀想です」
 ホリイは少女の側に屈んで少女の寝顔を見ながら心を痛めていた。
「……確か、前の住人達が亡くなった日はバラバラなのよね。どれぐらいの幽霊がいるのかも把握していないみたいだったし」
 コルセアも古城についての情報を引き出して考える。
「何か共通点があるはずなんだがな」
 甚五郎は少女から目を離す事無く、考え続ける。
「……パパ、ママ、シャンヌ」
 少女はうなされながら両親や子猫の名前を洩らす。
「甚五郎、何とか出来ないでしょうか」
 少女をこのままにはしておけないホリイは立ち上がり、振り返った。
「そうだな」
 甚五郎もこのまま放っておこうとは思ってはいない。ただ、相手が幽霊だけにどうにもならない。
「起こしてみましょうか」
 ブリジットが少女を軽く揺するが、起きない。
「……怖いよぉ、助けてよぉ」
 辛そうな寝言を洩らすばかり。
「耳元で大丈夫だと励ましたり歌でも歌ってみるか」
 甚五郎は思いついた提案を口にした。皆、異議を口にする事は無かった。
「……ワタシがやってみます」
 ホリイが少女を助けたいという思いから立候補した。

 そして、ホリイは少女の手を握り締め
「……大丈夫ですよ。何も怖くありませんよ」
 優しく耳元でささやく。
「……パパ、ママ」
 効果があったのか少しだけ安らかな表情に変わっていた。
「……次は歌ですね」
 『博識』を持つホリイは優しく眠りを誘う歌を歌ってみた。
「…………」
 少女の寝顔は完全に安らかなものに変わった。
「……ご苦労だ、ホリイ」
 甚五郎は頑張ったホリイを労った。
 そして甚五郎達と吹雪達は一度、この場を離れ、地上に戻った。ついでに地下へ入り口も確認した。一見すれば、床と見分けが付かず、甚五郎達や吹雪達が以前発見出来なかったのは仕方の無い上にごみに紛れていたのだから。

 広間。

「……何て事だ」
 ヴァルドーを救い終えたエースが不気味な花を咲かせている植物の前で立ち尽くしていた。
「彼女がこのような花を咲かせる事は無いはずだ。何をしたんだ」
 そう言うなりエースはすごい勢いで実験室で資料をまとめているオルナの元に文字通り飛んで行った。

 実験室。

「……少しいいかな。確認したい事があるのだけど」
「……え、えと何?」
 突然現れたエースに驚きながら事情を聞くオルナ。
「植物に何か悪い物でも食べさせたんじゃないかと思ってね。咲くはずのない色の花を咲かせていたから」
 エースは早速不気味な花の事を問いただした。

 問われてもすぐに答えは返って来ず、
「……んー、何か、何か」
 飛んで消えた記憶を何とか見つけ出そうとオルナは必死に頭を巡らせるもなかなか拾えないでいる。
「……仕方が無いね。思い出すのは後にして彼女を救う栄養剤を作ってくれないかな。ご覧の通り俺は霊体だから」
 植物が気になるエースはオルナが思い出すのを待っていられず、協力を頼んだ。
「任せてよ!」
 オルナはニカッと元気に引き受け、エースの指示の元、オルナは栄養剤を無事に作り上げた。
 その瞬間、
「あっ! 思い出した。多分、失敗した薬を捨てようと思って、でも近くのごみ箱がいっぱいだったから一時しのぎにと近くのコップに入れたら何か無くなってたから水と間違えてあげたのかも」
 思い出した記憶はやはりオルナらしかった。その失敗した薬と言うのは無色無臭なのであっさり薬だと忘れて植物に与えてしまったのだろう。それを飲んだ植物はすくすくと影響を受け不気味な花を咲かせたと。
「そういう事か。次からは気を付けてくれよ。彼女達は繊細だからね。ほら、忘れない内に」
 エースはオルナを促し、植物に栄養剤を与えに行った。

 植物の世話後、
「一週間、こまめにこの栄養剤をあげれば、元気を取り戻すはずさ。協力、ありがとう」
「そっか。それは安心だね」
 エースの言葉に呑気にほっとするオルナ。自分が撒いた種だというのに。
「これは心配だな。悪いが、君の親友にこの事を伝えておいてくれないだろうか」
 あまりの呑気さと彼女の激しい物忘れから途端に心配になるエース。そこで思いついたのがオルナのしっかりしている親友の存在。
「あー、そうだね。そうすれば安心だ。あたしがダメでもササカがいれば」
 オルナは言葉が終わるなり親友ササカに連絡し、エースに言われた事をきちんと伝えた。すっかり親友に頼り切っている。以前、汚部屋から救い出して貰ってから少しだけ自立はしたが、やっぱり最後に頼るのは親友らしい。
「ところで、ここを離れるつもりは無いのかい? 幽霊もいて変死の伝説もあるというのに」
 エースはふと疑問に思った事を訊ねた。
「それはここを買う前から分かってた事だし、だから格安で買えたんだけど。何より引っ越しになったらすごく大変だし」
 オルナは肩をすくめながら答えた。面倒くさがりなのか剛胆なのかとにかく呑気だ。
「……確かに」
 エースは引っ越しの様子を想像し、苦笑を浮かべた。掃除でも大変だったので引っ越しもそれと同じかそれ以上に大変な事は容易に想像出来る。

 とにかくこれでエースの用事は終了した。エースはここを離れる前に他の訪問者達に会っておこうと急いだ。
 ちょうど、甚五郎達と吹雪達が地下の少女について話し合いをしていた時だった。

「まぁ、賑やかなお城ですわ」
「そうですわね。でも、汚いですわ」
 グィネヴィアは楽しそうに麗は渋い顔をしながら見回した。グィネヴィアの身を魔料理から引き離すために頭探しに参加したのだ。何度か聞き込みをした後、ここに来たのだ。住人であるオルナの了解はきちんと取ってあるので何も心配は無い。
「グィネヴィア様、近くの部屋を見てみませんか?」
「そうですわね」
 麗を先頭にして二人は植物がいる広間に入った。

 エースの世話後、広間。

「麗様、ここには誰もいませんわね」
 グィネヴィアはぐるりと広い室内を見回した。今いるのは自分達だけ。幽霊はどこにもいない。
「そうですわね。何人かここを調べられる方がいましたから、もしかしたらそちらに行っているのかもしれませんわね」
 ふと麗は古城にも調査員達が行っている事を思い出した。もしかしたらその人達が幽霊達を集めて事情を聞いているのかもしれない。

「麗様、とても変わった花がありますわ。どこか悲しそうに見えますわ」
 グィネヴィアが吹雪達も発見した植物を見つけた。
「……グィネヴィア様、そうですわ。ここの住人の方に教えて差し上げましょう。そうすればきっとこの花も元気になりますわ」
 麗が悲しそうなグィネヴィアを元気にしたくて少しだけ目的を変更した。
「はい」
 グィネヴィアはぱっと花から顔を上げ、元気に返事をした。
 麗とグィネヴィアは広間を出てオルナの元へ向かった。
 その途中、甚五郎達や吹雪達にエースに遭遇する事に。