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リアクション
「リュイシラが空賊の先祖の住む村を滅ぼした……?」
無線を通じて届いた速報に、フリューネは首を捻る。
「真偽を確かめる方法はないし、でたらめなことを言って俺たちを撹乱させようとしているかもしれない。
まずなすべきことは、子供たちの救出だ」
後続隊として合流したレン・オズワルド(れん・おずわるど)は、フリューネにそう言って周囲を見回した。
「この先で間違いないようだな」
魔銃ケルベロスを構えたレンは、通路を曲がった先、扉を守るように立った二人の空賊を見留めた。
「私が先に行こう」
マスケット・オブ・テンペストを構えたザミエル・カスパール(さみえる・かすぱーる)が、レンとフリューネの前に立った。
ザミエルは通路へ躍り出ると、空賊目掛けて突撃する。そして賊が身構える前に連射体勢を取った。
「私たちが空賊の身柄は取り押さえます! レンさんとフリューネさんは子供たちの元へ急いで下さい!」
怯んだ空賊たちに、ザミエルの後に続いたノア・セイブレム(のあ・せいぶれむ)がサンダークロスボウから放った矢が突き刺さる。
「確保します!」
メティス・ボルト(めてぃす・ぼると)はそう言って、ノアの矢が突き刺さり焼け焦げた自身の服を見て戦意喪失している賊の武器を奪い、二人とも簡単にロープで縛っていく。
「特に罠もなさそうだ。行くぞ」
ザミエルが空賊たちの守っていた扉を蹴破った。その後をフリューネたちが追って駆け入る。
「動くな。動いたら子供の命はない」
この倉庫は先ほどの倉庫と対照的にがらんとしていて、ほとんど物資はない。
その部屋中央の床に胡座をかいて座った空賊の男が、膝の上に座らせた少年の頭にハンドガンを突きつけていた。
中央の男の他に、二人の空賊の女がハンドガンをレンたちに向けている。
「武器を捨てろ」
空賊の男は、少年に銃を突きつけながら低く唸った。
レンは素直に魔銃ケルベロスを床に落とした。ザミエルとノア、メティスもしばし戸惑った後、レンに倣う。
「おっと、動くなよ。大人しく両手を頭の後ろで組め」
賊の女たちは相変わらずハンドガンを向ける。フリューネは槍を下ろさない。
「フリューネ、武器を降ろすんだ」
レンは静かに、フリューネに声を掛けた。
「けど……!」
「……信じてほしい」
カラン、と音を立ててフリューネの槍が床に落ちた。胡座をかいた男が、満足そうににやりと笑う。
「お前らの目的は何なんだ」
レンは抵抗する素振りもなく、空賊の男に問う。
「未来を守ることだ。俺たちは未来でちょっとは名の知れた義賊でな。
空賊の被害に遭っている村から要請を受けて、警護やなんかにもあたっていた」
男は少年に銃口を突きつけてはいるが、少し口が軽くなったようだ。聞かれてもいないことまで、喋り始める。
「未来――。あなたたちが本当に未来からやってきたというのなら、何故この時代の家系図を要求したのですか?
未来の方が情報量は多いはずでしょう?」
「捏造された家系図に興味はない。本物の家系図は、この時代以降失われている」
メティスの質問にも男は上機嫌で答えた。
「頭領から処分方法の連絡が来るまで、こいつらを縛ってどこかに放り込んでおけ」
男は、二人の女空賊に命じる。
しかし、男は気付いていなかった。
先ほどレンが落とした銃の引き金が、一人でに引かれていくことに。
倉庫内は、瞬時にして目映い光に包まれた。
アクセルギアで加速したレンは、足元の魔銃ケルベロスを拾う。ディメンションサイトで子供の居場所を把握し、瞬時に奪還する。その間、僅か5秒。
ザミエルも武器を拾い、女空賊に銃を突きつけた。
もう一人の女空賊には、フリューネが槍を喉元に突きつけている。
「子供を攫って義賊を名乗るとは言語道断。俺もフリューネもこんな生き方をしていない。義賊を騙るなッ!」
先ほどとは打って変わり、魔銃ケルベロスを構えて強く出るレン。
しかし、空賊の男は意表を突かれたような素振りは見せたものの、ほとんど慌てることなく小さな冷たい笑みを零した。
「子供を攫った? ……ふ、愚かな」
「何?」
「そうか。お前らは知らないのだな。今日というこの日、あの村が滅ぶということを」
「今日、村が滅ぶ……」
フリューネは、先ほども聞いた情報を繰り返す。
男は優勢に立ったフリューネたちをじっと見ていたが、その目はどこか遠くを見るような目をしていた。
「ああ。俺たちは、あの村から子供を救い出したんだ。何も間違っちゃいないだろう?
争いに巻き込まれて死ぬくらいなら、俺たちと新しい未来を作るために協力をしてもらった方がいい」
パン、とレンの撃った銃弾が男の耳を掠めた。
「新しい未来を作る協力? 幼い子供たちを人質にして、銃を突き付けて……それが協力だと?」
「子供に何ができる? 戦いに駆り立てるべきだとでもいうのか?
ただ保護するなどといって放置し、お前らのような、あの性根の腐り切った村長に雇われた連中に攫わせることが正しいというのか?」
「腐った村長?」
「俺は少ししゃべりすぎたかもしれんな。頃合いか」
パン、と一つ乾いた音がした。男が倒れ込む。その手には、隠し持っていたのであろう小型の銃が握られていた。
「分からないことがあるの」
フリューネはレンたちと分かれ、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)とコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)の三人でブリッジの制圧に向かっていた。
「子供たちの半分は救い出せた。この後はひとまずブリッジを制圧して要塞を動かせないようにしてから、内部の完全な制圧に移るのよね」
フリューネは要塞の屋上部へと向かう階段を駆け上がりながら、作戦を繰り返す。ブリッジを制圧した後、後続の突入部隊と合流する手筈になっていた。
「確かに作戦自体は至って順調なんだけど――どうして空賊があまり抵抗しないのか、分からなくて。
さっきの男もそう。どこか悟ったように、自分から死を選ぶなんて……」
「空賊の要求も態度も、何となくおかしい感じはするよね。ブリッジを制圧したら、そこにいる空賊から詳細を聞き出そう!」
美羽はそう言って、すぐ目の前へと現れたブリッジに続く扉に手を掛けた。
「僕もできる限りのことをするよ。今は、とにかく要塞を沈黙させよう」
スピアドラゴンを構え、コハクも美羽に同意する。フリューネは二人を見、無言で頷いた。
「行くよ、フリューネ!」
武器を持たないまま、美羽はブリッジに飛び込んだ。敵は四人と少ない。すぐさまブリッジ内の空賊たちが、美羽目掛けて発砲の構えをとる――が。
空賊たちのハンドガンは、フリューネの乱撃ソニックブレードによってはじき落とされた。
フリューネの背後から飛び出した美羽が、空賊に殴り掛かる。
空賊たちの目には、飛びかかってくるはずの美羽の姿が、ライオンや豹などの猛獣に見えていた。
それは、美羽の放つ百獣拳によって見せられている幻影だった。
すかさず、コハクが槍の柄で空賊のみぞおちを的確に突いた。そのまま、槍をぶんと振り回すようにしてもう一人の空賊の顎を突く。
二人の空賊は呻きを上げて倒れ込み、気絶した。
「指揮官は誰? 正直に言いなさい!」
残った二人の空賊の前で、美羽は問いかける。言葉の後に、沈黙が続いた。
――静寂を破るように、バキ、と嫌な音が響いた。悲鳴がブリッジ内に響き渡った。
フリューネが空賊の指を、曲げてはならない方向に容赦なく捩じ折っていた。
「白状しなさい。義賊を騙って攻撃を仕掛けるのは何故なの? 未来なんていう不確かなもののために、今ある命を奪ってもいいの?!」
「フリューネのような人を本当の義賊って言うの! こんな風に村を襲ったり子供を攫ったりするのは、義賊とは言えないのよ!」
「フ、フリューネ……!?」
空賊の顔色が見る見るうちに青褪め――そして、今度は紅潮した。
「あの村長……! フリューネ様のことまで利用しやがって――絶対に許さねえ」
「――フリューネ様?」
フリューネが首を捻る。
「どういうこと? まさか、フリューネのことを知っているの?!」
美羽の問いには答えず、空賊たちは顔を見合わせ、唾を飲み込んだ。
「孤児となった俺たちの祖先を義賊として導いて下さった方は『フリューネ』という女義賊だと、幼い頃から祖父に聞かされて来た……」
一人の空賊が、恐る恐るといった風に口を開いた。
「……もう少し詳しく、話を聞かせてもらえない?」
フリューネの心の中には、少しずつ疑問が湧いてきていた。
「頭領をどうにかして倒そうとは思っていたけど、その前に村長の言い分がどこまで正しいのか、真実を確かめる必要がありそうね……。
村にいる仲間に、村長のことについて調べてもらいましょう」
フリューネは尋問を美羽たちに任せ、村の仲間に向けて無線で連絡を取り始めた。
ちょうどその時、轟音と共に要塞を通り過ぎていく十台あまりの大型飛空艇がフリューネの目に映ったのだった。
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