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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 8

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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 8

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第6章 幸せが妬ましいッ Story6

 北都たちが目を覚ました娘を家へ送り届け、被害者と思われる者を連れて、救護場へ向かっている途中。
 救護場では…。
 クリストファーのクローリスが、湧き水場に足を入れて遊んでいた。
「人が生活している水って、うちらが暮らしているところと、あんまりかわんないわね」
「珍しくないってこと?」
「そーねぇ、ぜーんぜん珍しくない。おにーちゃんはしっかり休んでなさいよ。精神力が尽きたら元の場所に、帰ることになっちゃうんだからね」
 待機中に何度か魔性に襲撃され、暗闇魔法を防いだせいでその度に、クローリスの力を借りてしまった。
「ふふっ、まだ帰りたくないってことだね」
「―…っ!…ふぅ〜んだ、おにーちゃんには教えない」
 少女は頬を膨らませて、プイッとそっぽを向いてしまった。
「(おやおや、気分を損ねてしまったかな?)」
 そこも可愛いな、って思ってしまったらますます怒られてしまいそうだ。
「ほら、おにーちゃんの仲間が戻ってきたわよ!」
「あ、お帰り」
「最後の一軒、終わったよ」
「この子も土気色の肌をしているね。出血はしていなさそうかな」
「今のところはね」
「じゃあ腐敗毒の解毒を頼むよ」
 クリスティーのほうに顔を向け、リストの被害者を治療するように言う。
 彼はポレヴィークに頼み、丸薬を3つ生成してもらう。
 その間に眠っている被害者たちを、涼介とミリィに邪気を祓ってもらっている。
「清泉くん、怪我とかはしてないみたいだね?」
「魔法攻撃は終夏さんのスーちゃんに守ってもらってもらえるからね」
「そうだったんだね。…ぁ、治療が終わったみたい」
「じゃあ家に送ってくるよ」
「うん、気をつけてね」
 被害者たちを民家に帰宅させようと、離れていく彼らを見送った。



「(さすがにアニス1人で、探知も浄化も任せるのは大変か)」
 和輝は応援要請をするべくグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)にテレパシーを送る。
「(こちら和輝。ショップへ合流し、被害者の救助を行っていただきたい)」
「(…宝石使いが足りないのか?)」
「(現在、アニスのみだ。茶色の屋根の店にいる)」
「(……分かった)」
 治療の協力しようとショップへ向かう。
「ここか?」
 テレパシーで伝えられた特徴を確認してショップに入る。
「グラキエス様、テレパシーがつながったままなのでしょう?なぜ呼ばないのですか」
「―…ぁあ、こちらから呼びかけたほうがよいか」
「まだ気にしていらっしゃるのですね」
 和輝に到着を知らせようとしない様子に、エルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー)が言う。
「(憑依された挙句味方を傷付けてしまったからな…)」
「幼い考えの者が相手なら、説得もしやすいですが。どうやら魔性の中にも、ずる賢い者たちがいるようです。今後も、そのような輩と遭遇する可能性もあります」
 ホームセンターで遭遇した子供のような、いたずら思考の魔性ばかりではない。
 思考を巡らせて仕掛ける者もいるのだと告げる。
「もっと残酷な手段を使ってくる輩も現れることでしょう」
「分かっている。だから、守る力も得なければな…」
 アークソウルで的確に探知すること以外にも、魔性から守れるようになりたい。
 ペンダントを握り、淡く輝く宝石に目を落とす。
「グラキエス様、お供いたします。時間が経過しておりますので、今から発見する被害者は症状がより深刻になっているでしょう」
「昼間は海側を担当したが、すでに危険な状態の者がいたからな」
「えぇ、一度治療する場所に運ぶのでは手遅れになる可能性もあります」
「外で毒の治療を行えるものが待機しているようだ。発見次第、和輝にテレパシーで呼んでもらおう」
「では、私たちの到着を知らせましょう」
「そうだな。(…和輝、到着した)」
 連絡用に切らずつながったままのテレパシーに、到着を知らせる。
「(こちらから出入口へ移動する)」
 彼はそう告げるとテレパシーをいったん切った。
「念のため、護符を貼っておくか」
 グラキエスは祓魔の護符を壁や床に貼る。
「(くっ、主を魔性に乗っ取られるとは!)」
 魔性の影響とはいえ味方を傷つけてしまったことを、やはり主は気に病んでいたようだ。
「(エルデネストと仲間の方が治療してくれたが、すぐに行動するとは…。いや、止めても無駄か…)」
 すでに治療したとは言え、魂を侵食された毒のこともあり、御体を労って頂きたい。
 だが休むように言っても、言うことを聞いてくれそうにない。
 同じ失敗を二度と繰り返さぬよう、さらに力を磨きたいと望むのなら、アウレウス・アルゲンテウス(あうれうす・あるげんてうす)も鍛錬を積まねばと考える。
 主であるグラキエスの望みは、彼の望みでもある。
 そして二度と主を魔性の好きにはさせまいと、主に密かに誓う。
「主、なにゆえ護符を貼っているのですか?」
「不可視でもこれに触れたりすれば、起爆音で進入されたことが分かる」
「なるほど!」
「全ての場所に貼るのは時間がかかる。憑依対象になりそうな物の近くに貼っておこう」
 機器類や時計などの周りに護符を貼る。
「エンドロア、到着したようだな」
「ついさきほどな。探知役は俺がやれるし、治療はエルデネストが出来る」
「それは助かる。アニスを少し休ませたかったんだ」
「(む〜、アニスはまだいけるよ!)」
「(そうはいっても1人でひきうけるのは大変だ。それは他の者も同様のことなんだぞ)」
 ずっと働かせっぱなしだったパートナーを休ませようと精神感応で話す。
「(じゃあ、じゃあね…。グラッジの気配を探したりするのはいい?)」
「(…無理しない程度にな)」
「(うん!)」
 大切なお仕事を和輝にもらい、嬉しそうに返事をする。
 やる気満々の少女に休めと言ってもきかなさそうだ。
「こちらはアニスにも魔性の探知を行ってもらう」
「頑張ってくれ、俺のほうも逃さないようにする。(被害者が大人しくしているはずがないし、こういう場所に出歩いている可能性もある…)」
 グラキエスは仲間の気配を頭の中で省き、客の気配を探す。
「手法を変えてみるか…。探知能力がもっと鋭ければ、範囲内にぽっかり“探知できない箇所”が発見できるのでは…」
 アークソウルの宝石に意識を集中させ、感知不能なエリアを探してみる。
「……グラキエス様。何か分かりましたか?」
「いや、何も分からない」
「探知の対象となる者が密集していない場所では、若干厳しいように思われます。逆に、対象者が密集している地帯で、そこだけ気配がなければその者は憑依されていることになりますね」
「そういう使い方もあるのか」
「今は客もまばらですし、通常通りの手法でよろしいかと」
「なるほど…ありがとう」
「(むむ〜……、和輝!外から何かくるよっ)」
 グラキエスが探知の方法についてエルデネストと話している頃。
 アニスはショップに侵入してきた気配を感知する。
「(むぅ、あの方向はレジがあったような…)」
「(店員か、それとも客を狙う気か?)…皆、アニスが侵入者の気配を発見した。レジのほうへ向かっているそうだ」
 そう告げた和輝は会計エリアへ急行する。
「店員の傍に、目に見えない者がいるようだ」
 そこでグラキエスとアニスが感知出来る気配は2つ。
 探知エリアにかかった気配の主は、内1つは不可視の者だ。
「…店員、そこから離れろ」
 避難させるべく和輝が言うが…。
「私がろくに仕事が出来ないからということでしょうか?」
「違う、そんなことは言っていない」
「いえ…わかっています。はぁ〜何もかもめんどくさい。いっそ死んじゃったほうがマシ」
 深くため息をついて人生を諦めたセリフを吐く。
「毒のせいか?」
「(和輝、なんか肌の色がおかしい。日焼けしてるって感じじゃないよ)」
「(腐敗毒まで進行しているのか)」
 グラッジは死にかけの店員を狙ってきたらしく、止めの憑依しようとしているようだ。
「リオン、退けろ」
 パートナーの言葉に小さく頷き、哀切の章の術で追い払う。
 あまり力をこめていなかったが、悪霊はぎゃあぎゃあ過剰に騒ぎ立てる。
「ナニ、フツウ、ノ…マホウトチガウッ」
「ここに貴様の玩具はない、立ち去るがいい」
「イ、…ヤ」
 魔性は逃走せず憑依するものを探す。
「こりずに憑けそうなものを探す気でしょうか」
「あなたは店員の治療を頼む」
「かしこまりました、グラキエス様」
「わ、私は、ここで護衛します…っ」
 憑依されないように結和は襲撃に備えて待機する。



 時計に入り込もうとしたグラッジだったが…。
「ギャッ!」
 グラキエスが壁に仕掛けた祓魔の護符に触れてしまった。
 それでもめげずに通りがかった客の中へ侵入する。
「気配が消えた…、人に憑いたということか。アウレウス、毒が進行してしまう前に器から追い出そう」
「はい、主!」
 器にされた者から祓うべくアウレウスはグラキエスと共に、祓魔の護符を憑依体へ投げた。
 …しかし、相手はよろけただけで、中から出て行こうとしない。
「祓うのはハイリヒ・バイベルにある章だな」
 強い祓魔の力を扱えるのは、本の魔道具に記された章だけだとリオンが告げた。
「これは護身用ということか」
「うむ、そのようだ。…やつめ、魔法を使う気だな」
「俺から離れないでいてくれ」
 アークソウルの力を引き出し、アンバー色の光の防壁でエンドレス・ナイトメアの魔法を弱める。
「ゥゥウ、シャイセッ!」
 怒ったグラッジはカタクリズムの念力で、そこらじゅうの品物を彼らに投げつける。
「アウレウス、品物を守れ」
「―…承知しました、主っ」
 強化光翼で店内を飛び、品物をキャッチして回収していく。
「オマエ、邪魔っ」
 グラッジは憑依体を操り、アウレウスの頭部を掴もうとする。
「体を元の持ち主に返すがいい」
 それを幻槍モノケロスで防ぎ、操られた器を取り押させる。
「ヤ、ァアアアッ」
 リオンの祓魔術で追い出され、憑依する力を削がれてしまった。
 グラッジは反省する様子を見せないまま店から逃走した。
「逃げてしまったか…」
「グラキエス様、呪いと精神の治療を終えてまいりました」
「あ、あの。毒の影響で体自体が、危険な状態でしたので、治癒しておきましたー。…ですが、毒を治癒したわけではないので、早く取り除かないといけません」
「治療を行える者は、外で待機しているんだったな」
「テレパシーで救助を要請した。まもなく連れに来るだろう」
 北都たちに運んでもらおうと、パートナーが魔性祓いをしている間、テレパシーで呼びかけておいた。
「この方は軽症のようですね」
 憑依されてから時間が経っていないため、精神の治療と呪いの解除が早く終わった。
「彼らは俺が取り押さえておこう」
 店内で死のうとしたり、暴れたりしないようにアウレウスが取り押さえる。
「主、もし不可視の者が進入してきてしまったら、教えていただけますか?」
「あぁ、窓の外にいるようだ」
「な…なんと!」
「入ってくるわけでもなく、ずっとそこにいるな」
 店に入らずグラキエスの探知エリア内をうろついてるようだ。
「様子を見ている、ということですか」
「…進入してきたな」
 ふらふらとうろつきつつ近づいてくるグラッジを警戒する。
「ナ、…ニ、アソンデル?」
「俺たちは遊んでなんかいない」
「ゥ…?」
「主、離れてください。私が追い払います!」
「アウレウスのほうへいったようだが…」
「なぜっ!?くっ、やつらめ…。何をしようというのだ」
 殺気看破で気配を見つけようとするが、何も感じられない。
「…気配がないだと?」
「たぶん、敵意がないのかもな。あぁ、アウレウスが遊んでいるように見えたのか」
「な、なぜ…?」
「そういう遊びだと思ったのかもな」
 毒に侵食された者を取り押さえている様子が、グラッジたちには遊びに見えたようだ。
「魔性は人と違う思考をしているみたいだ。人と関わっていれば、それが遊びと思えるのかもな」
「なんというおおざっぱな判断っ」
 ざっくりとしすぎたグラッジの思考回路に、驚いたアウレウスは思わず声のボリュームを上げた。
「…清泉たちが到着したようだ」
 テレパシーでショップの場所を伝えていた和輝が、彼らの到着を告げる。
「私が被害者を引き渡してこよう」
 アウレウスは2人を立たせて彼らが待つ入り口へ向かった。
「その人たちを治療してもらえばいいんだね?」
「片方はまだ軽症だが、この者は腐敗毒まで進行していそうだ。出血の治療はしてもらえたが、毒を取り除かねばまた内部出血してしまうかもな」
「え、分かった。急いで運ぶね」
 北都たちは被害者を連れ、クリストファーたちが待機している救護場へ駆けていった。