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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 8

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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 8

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第8章 海で遊べる者なんか呪ってやるッ Story1

 エースとクマラ、綾瀬のリトルフロイラインに逃げ場を奪われ、オメガに憑依したグラッジはどうにか逃れようと逃走方法を考える。
「あともうちょいで殺せるっていうのにっ」
「誰も…殺させません。弄んでいい命なんてないんですから!」
 砂浜に侵入させた光の波を、憑依されたオメガの足元から噴出させ、魔女の体を飲み込む。
「淵、祓って」
「いや、まだ…」
「他の悪霊のことはまだ分からないけど。こいつはオメガさんを…いえ、命あるものを苦しめて平気な顔をしてる。ルカはこいつを許せない」
「だがルカ…」
「やらないならルカがやる!…あっ」
 哀切の章を唱えようとした瞬間、ダリルがオメガの中から魔性を祓ってしまった。
「残念ながら滅してはいないがな」
「でもダリル!」
「その変わりに、消滅しない程度にとどめてやった。回復するまでだいぶ時間かかるだろうな。それまで不自由な状態が続くだろうが、罰として当然のことだ」
 冷静に言い放つ彼の発言に、カルキノスが“おっかねぇ夜叉だな”と呟いた。
「というわけで、こいつはまだここにいるはずだ。どうする?ルカ」
「ぇ…」
「ルカルカ、オメガ様の魂は時期に回復しますわ」
 マヌグスエクソシストの状態を解除し、リトルフロイラインに作らせた丸薬をオメガに飲ませた綾瀬が告げる。
「ですが、物理的な箇所はそちらで治療していただきませんとね。早く治療しないと手遅れになってしまいますわ」
「そ、そんなっ。やっと魔性が離れたのに…」
「死なせはしないっ」
 腐敗毒の進行の影響で、内部の血管破裂や体内の出血で裂けた部分の外傷を、命の息吹で淵が治癒を試みる。
「オメガ殿、オメガ殿!目を覚ましてくれっ」
「淵さん、もう傷は感知してるって!あとは精神の浄化やね」
 美羽に石化解除薬をかけた陣が、淵に傍に寄り彼の肩を軽くぽんと叩く。
「そんじゃ3人でちゃちゃっと治しますかっと。まずは精神のほうからやな」
 砂浜にしゃがみこみ歌菜と羽純の3人で、精神の邪気を祓う。
「わぁ〜。かなり大量に黒い霧が出てきたね、陣くん」
「まー、2度も憑かれたんやし。あとは呪いやな…」
「深く入り込んでいるみたいですね」
「…蛇のようなものが出てきたぞ」
 ホーリーソウルの浄化の光にたまらず蛇を模した影が首筋から現れた。
 影は大口を開けて喉元に噛みつこうとする。
「こいつ、噛み砕こうとしているのか?」
「んや、たぶん呪いで不幸を呼び込もうとしてるんやね」
「(もっと強く祈らなきゃ!)」
 オメガにかけられた呪術を解こうと歌菜は目を閉じて祈り続ける。
「……影が剥がれていくぞ」
 ホーリーソウルの光に包まれ、奇声を上げながら影が浄化されていく。
「はぁ〜〜…治療完了やな」
「陣くん、オメガさんが目を覚ましそうだよ」
「おっ、もう起きられそうなんか?」
「―………」
 ゆっくりと目を開けたオメガの瞳に、見知った顔が映りこんだ。
「わたくしは何を…」
「いいんや、なんもなかったんやから」
 憑依されていた時のことだ。
 思い出すことはないだろうと何があったか告げなかった。
「そうよね。オメガはただこの町へ遊びにきただけなんでしょ?」
 美羽はスカートについた砂をパタパタと手で払いながら言う。
「だったら何も気にすることはないわ」
「本当に…?」
「(辛い思いさせててすまぬ…)」
 もしかして傷つけてしまったのでは、と不安に思うオメガに淵は手を伸ばし…。
「オメガちゃん、用事を片付けたら海で遊ぼうね!」
「その後はボクたちとお風呂だね♪」
「(そ、そんな…っ)」
 ―…てみるが、ちみっこ2人組に先を越されてしまい、行き場のない手が宙を掴む。
「どうしたの淵?その手をどうしようとしたのかしら」
 ルカルカもオメガにはぐはぐし、にんまりと笑みを浮かべた。
「分かっているだろにっ」
 やはり行き場のなかった手をぎゅっと握り、悔しそうに肩を震わせた。
「(憑依のことは伏せとくとして。やっぱり何が起きてるかくらいは言わなきゃいけないかにゃ?)」
 再び狙われてしまうかもしれないし、傍に置いて守るなら簡単に説明くらいはしておくか、とオメガを見る。
「あのねオメガさん。ルカたち今、悪い子にお仕置きしてるの。ちょーっとだけこの中に入ってもらえる?」
「こちらへどうぞ、オメガ様」
 綾瀬はリトルフロイラインにマグヌスの通常モードになってもらい、祓魔のシャボン玉を作らせた。
「なんですか、これは…」
「悪い子たちが暴れててね、危ないからこの中にいてほしいの」
「ルカルカさんたちはどうするんですの?」
「この中にいたらお仕置き出来ないから、オメガさんのための特別製よ」
 オメガの背を押してシャボン玉に入れる。
「(これ以上、被害を広げるわけにもいかないしな)」
 魔法で穴だらけにされた砂浜をエースが見る。



「マスター、あの魔性…グラッジさんですが。私、囮として彼らに狙われる行動をしてみたいのです」
 人々に憑依してしまったり、標的を探してたりしてるのなら、囮になり引き付けたほうがよいのではとフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)が言う。
「な、囮だと!?」
「私たちに注意を向けた方が被害者も少なくて済みますし、彼らも私をリア獣と勘違いしておりましたので丁度良いと思うのです。しかしリア獣っぽく見せるのはどうすればいいのでしょう?やはりここは耳と尻尾を主張すべきでしょうか?」
 しかし、いまだにリアジュウを何か理解しておらず、リアルな獣の略語を言う。
「あー、フレイ、リア充っつーのはお前が考えてる獣とは違うぞ?簡単に言えば恋人同士などをさす」
「―…?」
 フレンディスはベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)の言葉に思考を停止させる。
「恋人同士……」
「ってことだ」
「……の獣でしょうか?」
「だぁああーっ、どうしてそうなる!リアル…つまり現実が充実してるやつってことだ。略してリア充だな」
「へ、…え?ぇええ!!?」
 初めてリア充の意味を知ったフレンディスは、恥ずかしそうに顔を真っ赤にする。
「つー訳でリア充っぽく一緒に土産物屋へ行くためにも、さっさと片付けるぞ!」
「は、はい…」
「で……、フレイ。囮やるのか?」
「…そ、それは…っ」
「そこにもいるんだし、構わないだろ」
 照れながらもベルクはフレンディスの傍に寄る。
 ルカルカとダリルのほうは完全に偽カップルの演技だが、こちらはまったく演技というわけではない。
「マ、マスター。近すぎます!」
「近くに寄らねぇと、リア充っぽく見えねぇだろ」
「いえ、しかしこれは…」
「グリュックリッヒ、ニーダーブレンネン…」
「そうだな。リア充は燃え尽きれば…。って!?(グラッジが近くにいるのかっ!!?)」
 魔性を寄せるためとはいえ、緊張しすぎて背後にいる者の探知が遅れてしまった。
「フレイ、グラッジが現れたぞ」
「ぇっ、了解です、マスター」
 ベルクに抱えられ、グラッジから離れる。
「生命を脅かすならば、かなりキツイ仕置きをさせていただきます。マスター、指示をください」
「岩影にいったぞ」
「―…了解」
 不可視のグラッジの姿を見破った彼に位置を教えてもらい、悔悟の章の灰色の重力場で魔性の体力を削ぐ。
 動きが鈍った隙に、哀切の章の光の波で憑依力を失わせる。
「グラッジの可視化はオレらがやる。それまで時間稼ぎよろしく」
「そしたらフレイも見えるってことか」
「うっすらやけどね。そんじゃ、2発目やりますかっと」
 フレンディスとベルクに群がるグラッジを可視化するため、レインオブペネトレーションの詠唱をする。
「ボクらも囮役手伝うよ♪」
「俺があいつらの位置を教えるから、気をひいてくれ」
「おっけー」
 背のトライウィングス・Riesを広げ、空を舞いながらベルクが支持する位置に、祓魔の護符を投下させる。
「フレイ、あいつらを逃走させるな」
 魔性が怯んだ隙に、ベルクはフレンディスに重力の術で体力を削がせる。
「大人しくなりましたか?」
「だいぶへばってるな」
「マスター、雨が…」
「陣たちが術を発動させたようだな」
 黒雲から降りしきる可視化の雨を見上げる。
「見るようになったか?」
「は、はい。…人のような姿をしていますが、やはり人ではないもののような感じがします」
 汚れたような色の服に、血色の悪い白に近い灰色の肌。
 全体的に暗いグレートーンの雰囲気だ。
「コレット。グラッジがティ=フォンに入り込んだぞ」
 どうしてもリア充を絶滅させたいグラッジが、真宵が放置したままのティ=フォンに憑いてしまった。
「オヤブン、御託宣でね。犠牲者は通常スキルと、瓦を一度に五十枚割る程度の力が加わるみたいだよ」
「まともにくらったら大怪我するってことか」
「あっちから人もくるよ」
「気配が感じられんから、憑依されている人やな」
 アークソウルで感知出来ない、と陣がコレットに告げる。
「コレットは詠唱に集中してくれ。その間、この2体は俺が引き受ける」
 一輝は龍鱗の盾を斜めに構え、両手でガッチリ持つ。
 グラッジは器を操り、無遠慮に盾をぶっ叩く。
「おぬし埋まっておるぞ」
 攻撃を引き受けている一輝の足が、受け流そうとした衝撃で砂に埋まっていく様子をジュディが見る。
「助けが必要のようだな。…カティヤ」
「ティ=フォンのほうに術を使えばいいのね?」
「リーズ、アルト、ネーゲル。機械に憑いたやつを引き離すのじゃ!」
「こっちにおいで〜、ネクラっ子♪」
 祓魔の護符を投げつけ、舌を出して挑発する。
「我ら3人でやつを追い詰めるのじゃ」
 ジュディはリーズたちを追いかけるグラッジに酸の雨を降らせる。
「掠っただけのようかのぅ。…カティヤ!」
「あ〜はずしちゃったわ」
「もっとよく狙え」
 悔しそうに頬を膨らませるカティヤに磁楠が言う。
「動きがおかしくなったわ。磁楠の術でパニックになっているのかしら」
「私が追い出します」
 哀切の章を唱えたフレンディスが、ティ=フォンから悪霊を祓う。
「…止まったわね?」
「憑依する力を失ったのでしょう。後は、あちらが終わるのを待つだけですね」
 人の身体を奪ったグラッジと奮闘する一輝に視線を移す。
「コレット、…早く術をっ」
「もっと狙いをさだめなきゃはずしちゃうかも、オヤブン」
 どんどん足が砂に埋まっていくパートナーを心配する暇もなく、コレットは祓魔術を放つタイミングを見計らう。
「よぉし、ここね!……動かなくなったよ?」
 哀切の章の祓魔術を命中させると、器にされた者は突っ立ったまま停止した。
「アークソウルので気配を感じるから、もう離れたようやな」
「陣さん、グラッジが逃げようとしていますっ」
「回復してまた人を襲う気か?フレイ!」
 逃走を阻止しようとベルクはホーリーソウルの光線を放ち、そこへ重力の術を使わせ体力を低下させる。
「はっ。マスター、憑依されていた人が目を覚ましてしまいました」
「毒の人格壊しか」
「リトルフロイライン、解毒材を」
「はい、綾瀬様。腐敗毒じゃない初期症状のようですから、薬草の配合は簡単ですね♪」
 通常召喚モードに戻ったリトルフロイラインは、丸薬を生成して綾瀬に渡す。
「暴れんな、このやろう」
 被害者をベルクが背後から羽交い絞めにする。
「あ、綾瀬様。そこはおでこです!」
「…あら、ではここですわね」
「ち、違いますよ!鼻の穴に入っちゃいますっ」
「もう少し…下のほうでしょうか」
 相手が無茶苦茶に暴れるせいで、なかなか食べさせることが出来ず、ようやく丸薬を口へ到達させる。
「やっと大人しくなったな。さっさと治療を済ませるか」
 薬が効いたのか眠ってしまった町娘を砂浜に寝かせる。
「ふぅ…。憑依から時間が経ってなければ、精神の邪気祓いも早く済むな」
「マスター、この方々をどうなさいますか?」
「うーん。なるべく穏便に済ませたいが、悪さをやめないっていうなら野放しにするわけにもな」
 アイデア術の効果が消えかかり、宝石の力を使わないと見えなくなってきた。
 エアロソウルで不可視の者を見据え、逃がさないように詰め寄る。
「憑いてるだけじゃ楽しくない。友達になればいいんだよ」
 見えなくなる前に説得しようと、ルカルカが彼らの傍へ寄って語りかける。
「この前だってなったもん、リア充って恋人のことだけじゃないし。ルカたちは、魔性さんとも出来たら仲良くなりたいもん」
「コイビト、ダケジャナイッ…テシッテル」
「そ、そうなの?」
「ルカ、それは説得とは違うんじゃないのか?」
「ぶーぶー。いいところなんだからつっこまないでダリル。…それとオメガさんを襲った子とも、…時間をかけて仲良くなっていきたいと思ってる」
 説得しようとするルカルカの言葉に、グラッジたちの答えは…。
 全員口を揃えて、“カンガエル”と告げた。