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第9章 オークション!

「お待たせしました!」
「いよいよ待ちに待ったオークションの!」
「「開催です!!」」
 オークション会場中央のせり上がった舞台。
 司会のタキシード姿の神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい)とバニーガール姿の小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)がポーズを決める。
(あああ、美羽ったらあんな過激な格好で……)
 会場内を警備しているコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)が、美羽の姿を見て顔を赤らめつつも彼女に不埒な視線を向ける者がいないか、もとい、不審人物がいないか警戒する。
 アルバイトでオークションの司会を申し出た二人は、華やかな舞台に相応しい恰好としてそれぞれ上記のような服装を割り当てられていた。
 翡翠は何も問題ないが、美羽にとっては予想外。
 しかしそんな動揺はおくびにも出さず、キックで鍛えた脚線美を晒しつつにこやかに司会を務めるのだった。
「さあ、まずは飛び入りでの出品! こちらの芸術家本人がカットまで施した世界に二つとないダイヤモンド!」
 歓声と共にダイヤモンドを持って舞台に現れたのはアスカ。
(うぅん。ちょっと予想外だけどブローチを落とすためならしょうがないわねぇ……)
 本当は、このダイヤはブローチを落札する際、駄目押しとして付けるために用意したものだった。
 しかし翡翠から現物込みでの入札はできないので、資金作りのために出品してみてはと助言されたのだ。
 鑑定書つきの大ぶりダイヤ。
 しかもアスカがカットした、丁寧な加工のハートシェイプ型。
 見事な飛び入り出品にどよめく会場。
 飛び入り出品ということで、値段が多少抑えめなのも魅力的だ。
「来た! いきなり来たで。どうや、あの品?」
「ふむ。これ位の値段までなら、出しても損はなかろう」
 早速の目玉商品の登場に、目の色を変えたのは大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)
 讃岐院 顕仁(さぬきいん・あきひと)の助言に従い、即座に競りに参加する。
 まだ温まってない会場内では、アスカの名声もそれほど通用しない。
 結果、いち早く動いた泰輔はかなり良い値段でダイヤを入手することができた。
「いや〜、これやから商売は止められんな! こんだけの品なら、後で倍にすることができるで」
「ふ。駆け引きが楽しいのは色恋だけではないからのぅ」
 商いに勤しみ輝く泰輔を、顕仁は酔いしれたように見入るのだった。
「なるほど。これがオークションというものなのですね。面白いものでもあれば競ってみたいと思っていたのですが……さすがにあれだけの品となると、手も足も出ませんねえ」
「まぁ、あんな商品ばかりでもないだろ。でもこーいう所は雰囲気を味わうんだよ、雰囲気を」
 熱くなる泰輔たちとは真逆の様子でのんびり会場の雰囲気を楽しんでいるのは久我内 椋(くがうち・りょう)ホイト・バロウズ(ほいと・ばろうず)
 後に彼らに襲い掛かる悲劇を、椋はまだ知らない……

「え、と、次の出品者は……」
 美羽が、リストを見てその名を言いよどむ。
「フハハハハ! 我が名は悪の秘密結社オリュンポスの天才発明家ドクター・ハデス!」
 司会の紹介を待たず舞台に飛び出したのはドクター・ハデス(どくたー・はです)
 助手の高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)が出品物であるハデスの 発明品(はですの・はつめいひん)を掲げてついてくる。
(ハデスだ……)
(奴か……)
 会場に警戒の色が走る。
 ハデスの持つ歪んだ名声のせいだが、ハデス自身はその反応すら自分の良いように解釈する。
「ククククク、皆この天才の俺の発明品を待ち望んでいたようだな!」
(……来たな。いつでも動けるように準備しておけ。最悪、殺るつもりで)
(了解! はうぅ、壊しちゃいけない物が沢山あって、動きづらい〜)
(大丈夫。私もフォローするわ)
 佐野 和輝(さの・かずき)からの通信に、アニス・パラス(あにす・ぱらす)スノー・クライム(すのー・くらいむ)は警戒を強める。
 彼らはオークションの運営から警備を依頼され、会場内をパトロールしていたのだ。
 その彼らが最大の危険人物として警戒していた張本人。
 それが今、舞台の上に立っている。
「出品する商品は、我が至高の発明品……殺戮の掃除機<カオス・クリーナー>だ!」
 ハデスの声と共に咲耶が発明品を高く掲げる。
 それはどこにでもあるような円盤型の掃除機。
 そこから、複数の脚とアームが伸びている。
「この発明品の機能をご紹介しよう! この発明品は完全自律行動型掃除機であり、スイッチを入れれば、家の中を隅から隅まで掃除してくれるのだ!」
 あれ、普通の掃除機だ。
 会場内の拍子抜けした様子にも気づかず、ハデスは続ける。
「さて、それでは、早速、この発明品のデモンストレーションをおこなうとしよう! 『殺戮の掃除機』よ、お前の性能を見せてやるのだ!」
「命令ヲ確認シマシタ。コレヨリでもんすとれーしょんヲ開始シマス」
 咲耶が発明品を床に降ろすと、発明品は機械音声と共にゆっくりと掃除を開始する。
 アームに持ったハタキが埃を落とし、雑巾が清め、そして本体がゴミを吸う。
「いかがでしょう。このように、汚れた床や天井もピカピカです。さらに、今なら、こちらの高枝切りバサミもセット!」
 咲耶のセールストークも絶好調。
 名前以外は普通の掃除機の様相の発明品に、ほっとした空気が漂い始めた。
 しかし、当然ハデスがこれで終わるはずがない。
「さらに、隠し機能として、この掃除機には『侵入者お掃除機能』が搭載されているのだ!」
「侵入者排除機能ヲ起動シマス」
 発明品のアームには、いつの間にか銃や爆弾が握られていた。
 更にどこからか伸びてくる触手。
「たーげっと確認」
 発明品の触手が伸びる!
「きゃ、きゃああああっ!」
 最初の犠牲者は、咲耶だった。
 触手はぐるりと彼女を一巻き。
 更にはスカートの中に。
「な、なんでこんな所に……いやあっ!」
「次ナルたーげっと確認」
 発明品が狙ったのは、咲耶だけではなかった。
 近くにいた不幸な人物……それは、司会者の美羽だった。
「え……ええっ!?」
「美羽うっ!」
 彼女に伸びた触手が触れる直前。
 美羽と触手の間に割り込む影。
「美羽に、手を出すなあっ!」
 コハクのサイコキネシスが触手の動きを止める。
「もーっ、暴走商品は許さないっ!」
 ごいーん。
 美羽のかかと落としが発明品に決まった。
 動きを止める発明品。
 しかし、次の瞬間。
「たたたたたーげっとヲ複数確認シマシたたたたた」
 ごもおっ!
 発明品からありえない量の触手が伸びた。
 それらは舞台の上だけでなく、会場全体に狙いを広げる。
「させるかあっ!」
 和輝が、動いた。
 一般人に伸びる触手を蹴りあげ、手につかむ。
 その手から電気の光が走る!
 一瞬にして焼き切れる触手。
「ひいっ!」
 別の方向にも触手が伸びる。
 その影から突如現れたアニスが触手を破壊する。
「あ……りがとうございます」
「……っ!」
 礼を言われたアニスは硬直し、慌ててスノーの後ろに隠れる。
「ほら、そんなに隠れてると敵が見えないわよ」
 アニスをたしなめながら周囲に気を配るスノー。
「きゃぁあ!」
「しまった!」
 触手は、予想外の遠方にもその魔の手を伸ばしていた。
 標的となったのは、会場の端で出番を待っていたサニー。
「やはり、あの掃除機は危険でありましたか」
「ね。出品者を見て警戒してて正解だったわね」
 即座に反応したのは、サニーの護衛として張り付いていた吹雪とコルセアだった。
 彼女たちはあらかじめオークションの出品物と出品者をチェックし、警戒すべきものがないかチェックしていたのだ。
 その、最たるものが今回の出品。
 この事態を予想していた彼女たちにとって、サニーの危機を防ぐくらい容易いものだった。
 無駄のない動きで触手を捕え、破壊する。
「あ、ありがとう……」
「問題ありません」
 感謝の表情を浮かべるサニーに、警戒を緩めることなく微笑みを返した。

「うぉおおお……俺の発明品が……」
「ううううう……私の下着が……」
 結局、発明品は破壊された。
 発明品が咲耶から奪い取った下着と共に。

   ※※※

「うわあっ!?」
「椋うっ!」
 触手が、椋の体に伸びる。
 ホイトの伸ばした手をすり抜け、体に巻きつく。
「あ……な……っ」
「椋……椋っ!」
 ホイトの目の前で、触手は椋の体に幾重にも巻き付いていく。
 やがて、身動きが取れなくなった椋の口に、服の隙間に、その魔の手を伸ばしていく。
「やめ……ああっ」
 次第に漏れる切なげな声。
「りょ……う……」
 止めなければいけない。
 椋を、助けなければ。
 そう思いつつも、ホイトは動けないでいた。
 目の前の光景。
 いつもは見せない椋の顔。
 端正な顔が歪むところをもっと見たい……そんな、堪えていた欲望が彼の心を支配していた。
「いや、椋……お前にその顔をさせるのは、俺だけでいい」
「な、にを……」
 やがて、ホイトの手が椋に伸びる。
 それは決して救助のためではなく……

「……という内容の作品がこちらになります。この先の展開が知りたい方は、是非落札を!」
「……ってアーヴィン殿の妄想っ!?」
 ムシミスを連れたアーヴィンが舞台に立っていた。
 嬉々として語るは、かつて作成した薄い本の内容。
「おお、あそこに当時のモデルが」
 椋の声に気付いたアーヴィンがそちらを見る。
「先程の話は主人のピンチにけなげな魔鎧が……」
「待って、待って下さい! 買う、買いますからそれ以上は!」
「いやでも他にご所望の方がいるかもしれないので」
「どんな言い値でも落札しますから!」
「……すごいです、先生! あっという間に買い手がつきましたね」
 必死の椋と余裕のアーヴィンを見比べ、ムシミスは感嘆の声を漏らすのだった。