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【琥珀の眠り姫】聖杯と眠りに終焉を

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【琥珀の眠り姫】聖杯と眠りに終焉を

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第六章 祭壇

 キロスたちは、祭壇の部屋の外にいた。この付近には、空峡から移動してきた契約者たちも散らばって警備に当たっている。
 ――祭壇の部屋の外にいた、と言っても、ただ佇んでいるのではない。キロスたちは、その身が洞窟の天井までも届くような大きさのバジリスクと対峙していた。
「まさか、この洞窟がバジリスクの巣と同化していたなんてな……」
 キロスは、ユーフォリアと共にバジリスクの前に立っている。
「この辺りは崩落の危険性があるわ。祭壇への道が塞がれないように、素早く撃退しましょう」
 光術で辺りを照らしているセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)に視線を送った。
「ま、いざとなったら爆破してまた道を作ればいいけどね!」
 セレンはそう言うと、重力を操って壁を走り、バジリスクの頭上へと駆け上がった。
 鎌首をもたげようとしたバジリスクの喉元に笹奈 紅鵡(ささな・こうむ)の撃った銃弾がめり込んだ。
「いくわよ!」
 悲鳴を上げるように口を開いたバジリスクの喉奥へと、セレアナが帯電させた銃弾を撃ち込んだ。
 セレンが銃でバジリスクの目を交互に撃ち、追撃する。たたみかけるようにキロスの剣がバジリスクの上あごを貫いた。
「無事倒せたな。これで眠り姫を目覚めさせられる。洞窟内の調査と戦闘でだいぶ崩落の危険が高まっているからな」
「待って、空賊が入り込んでいるわ!」
 セレアナが異様な気配に気付き、素早く銃を構える。洞窟の入り口の方から、雄叫びが聞こえ始めた。
「ほんっとうにどこまでもしつこい奴らね!」
「私たちが相手をするわ。今回もどこにいるのか、迷惑をかけてしまいそうだし」
 セレンの言葉に返したのは、リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)だ。その頭の上には、シーサイド ムーン(しーさいど・むーん)がカツラのようにして乗っている。
 リカインたちは、同じ姓の英雄ユーフォリアと空賊を敵視して暴走し、何処かへと消えたシルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)を追って来ていたのだった。
「私たちだけじゃない、これだけの数の契約者がいれば撃退できるはずよ。それよりも、洞窟が崩落する前に眠り姫を起こしてあげて!」
 リカインは次々となだれ込んでくる空賊たちを、アブソービンググラブで掴んだ。
 ムーンも、リカインの神の中からギフト用装着ブレードを使って周囲の空賊に攻撃を仕掛ける。
 リカインは空賊たちから吸収したエネルギーを元に、その魔力を練り上げ溜めていく。
 近寄ってくる空賊たちは、ムーンが金髪――ではなく触手で絡めとり、雷術を食らわせて倒していく。
「いくわよ……!!」
 洞窟の入り口で、リカインの咆哮が木霊した。周囲の契約者たちは、すかさずその場を退ける。
 リカインは、フルパワーにまで溜めた滅技・龍気砲を洞窟の外に押し寄せた空賊たちめがけて放った。


 祭壇ではユーフォリアが棺と向き合っていた。既に燭台に囲まれた台座には琥珀の棺が乗せられている。
 その上には、三つの聖杯が乗っている。それらは、底の溝と棺の蓋の溝に上手く合致する場所にはめこまれていら。
「今のうちに、祝福の詞を!」
 洞窟内に入り込んだ空賊と戦いながら、キロスが叫ぶ。
 ユーフォリアは、プレートに刻まれていた詞をそっと口にした。その響きに、どこか懐かしいものを感じながら。
 ――ふと、ユーフォリアの中で失われていた記憶が蘇ってきた。この詞は五千年前、ロレンスと共に歌ったことのある、思い出の唄の詞だ――。
 そう気付いた途端、聖杯から目映いばかりの光が零れ始めた。光は少しずつ聖杯を満たしていき、最後には聖杯の淵から零れる。
 ユーフォリアは、プレートの詞を歌い続ける。聖杯から零れた光が、琥珀の棺の蓋を溶かしていく――。

「ユーフォリアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!」
 はっ、とユーフォリアは口を閉ざした。振り向きざまに、槍で不意打ちの攻撃を受けようと構える。
 ――そこにいたのは、失踪していたシルフィスティ本人だ。しかし、シルフィスティの攻撃は、ユーフォリアのガードをかいくぐる。
 シルフィスティが棺の中に素早く手を差し入れると、眠り姫ヴァレリアの抱える陶器の瓶を奪い、そのまま地に打ち付けた。
 瓶の割れる音を聞いて、シルフィスティは勝ち誇ったように笑った。
 そのまま、シルフィスティはユーフォリア目掛けて22式レーザーブレードを振り上げる。
 ユーフォリアは、その渾身の一撃を槍で受け止める。
「これで……これで、英雄様にも空賊にも報いてやったのよ!」
 空賊の相手を終えたキロスが駆け寄り、シルフィスティを素早く掴んで離した。
 周囲には、続々と契約者たちが集まっていく。皆、空賊を追い払い終えて、眠り姫の元へと集まってきたのだった。
「これ……当時私の好きだったお酒の瓶です」
 唐突に、ユーフォリアはが割れた陶器の破片を拾い上げて呟いた。
「お酒?」
 キロスとシルフィスティは目を丸くする。
「不老不死の妙薬――じゃあなかったのか?」
「ええ、この瓶と香りに覚えがあります。いつの間にか、不老不死の薬なんて噂にすり替わっていったのかもしれませんね。
 きっとロレンスは私のために入れてくれたのでしょうけれども、飲めなくてもその気持ちだけでも本当に嬉しいですね」

 その時、ヴァレリアが僅かに身じろぎをした。琥珀の眠り姫は、静かに目覚めたのだ。
「こ、こは……?」
 ヴァレリアは焦点の定まらない目で天井を見上げ、呟く。五千年の眠りから覚めたことは、大きな負担のかかることでもあるのだろう。
 閉じそうになる目蓋を押し開けようとしながら、ヴァレリアは体を起こそうとした。
 ――しかし、体に力が入らないのな、上手く起き上がれずにいる。
「無理はしなくていいのよ。まだ、意識がはっきりとはしないでしょう。私もそうでしたから……」
 ユーフォリアは、ゆっくりとひとことひとことを言い聞かせるように、そう言ってヴァレリアの頬に触れた。
「お話も聞きたいけれど、今は屋敷に戻って休みましょう」
 それ以上は何も言わず、ユーフォリアはヴァレリアを棺から起こした。

 ヴァレリアはユーフォリアと契約者たちに連れ添われて、洞窟の外に待つ飛空挺へと向かっていく。
 その後ろ姿を、いつまでもキロスが見送っていた。

担当マスターより

▼担当マスター

八子 棗

▼マスターコメント

 初めましての方は初めまして。そしてこんにちは、八子 棗です。
 もうそろそろ春になりますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。

 今回で【琥珀の眠り姫】シリーズは完結となります。
 また、今回はシリーズのラストということで全員に称号をお渡し致しましたので、ご確認下さい。

 皆さんが目覚めさせたヴァレリアも、今後他のシナリオでNPCとして出会うこともあると思います。
 その時はどうぞよろしくお願い致します。
 何か一つでも思い出に残りましたら、嬉しく思います。
 それでは、また他のシナリオでお会いする機会を楽しみにしております。