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第三回葦原明倫館御前試合

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第三回葦原明倫館御前試合

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○第五試合
リンゼイ・アリス(りんぜい・ありす)(葦原明倫館) 対 東雲 秋日子(しののめ・あきひこ)

 秋日子は、右手に銃を、左手に木刀を握った。弾は模擬戦用のゴム弾だ。当たればそれなりに痛くインクが破裂するが、殺傷能力は低い。
 去年はミシャグジ事件のせいで、秋日子もパートナーの遊馬 シズ(あすま・しず)も、御前試合に参加できなかった。それ以前の第一回では、一回戦負け――シズは引き分けで突破したが――している。今年こそ念願の一勝を――そうでなくとも、悔いが残らぬよう一所懸命に戦うのみだ。
 相手は同じ明倫館の生徒、リンゼイ・アリス。ますます負けるわけにはいかない。
 試合開始と同時に、秋日子は引き金を引いた。が、リンゼイは秋日子の動きを読んでいたようだ。いつの間にか秋日子の後ろに回ったリンゼイの木刀が、銃を弾き飛ばしていた。
「何の! まだまだあ!」
 秋日子は左手に残った木刀を強く握り締め、リンゼイの手首を狙った。しかしそこに、リンゼイの姿はなかった。
 リンゼイは大きく飛び上がり、目一杯の力で木刀を振り下ろした。
「それまで!!」
 秋日子の眼前、僅か一寸ほどのところで、木刀は止まっていた。たらりと嫌な汗が秋日子のこめかみから顎へ流れていく。
「良い勝負でした」
 リンゼイは深々と頭を下げた。秋日子は尻餅をついたまま、嘆息した。
「負けちゃったあ……」
 悔しい。泣きたい。だが、人前で涙を見せてなるものか。
 秋日子はゆっくり立ち上がると、尻に付いた土を払い落とし、彼女もまたリンゼイへ向けて深くお辞儀をした。

勝者:リンゼイ・アリス


○第六試合
グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)(シャンバラ教導団) 対 レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)(百合園女学院)

 グロリアーナは試合開始前、用意された木刀や木剣よりもっと大きなものはないかとプラチナムに尋ねた。たまたま近くにいた仁科 耀助(にしな・ようすけ)が、それならばと連れていったのが北門 平太(ほくもん・へいた)の部屋だった。
 工具やネジ、コードやバッテリーが隅に追いやられ、代わりに大きな木刀が所狭しと並べられている。
「これをそなたが?」
「僕じゃなくて、武蔵さんが」
 試合に参加するのは平太ではなく、パートナーで奈落人の宮本 武蔵(みやもと・むさし)だ。彼はどこからか櫂を手に入れて木刀を削り出したのだが、いかんせん、イメージする自身の体格と平太に差がありすぎた。ちょうど良いものを作るのに何本も削る羽目になって、結果、部屋を占領してしまっていた。
「捨てるのももったいないし、焚き火にするにも季節外れだし、よければどうぞお好きなのを持って行ってください」
 グロリアーナは片膝を突くと、一本一本手にし、握りや重さを確かめていった。四本目で彼女の目が鋭くなり、グロリアーナは両手でしっかり握りしめると、それを軽く振った。
「わっ!」
 危うく天井に切っ先が当たりそうになり、平太は咄嗟に頭を低くした。
 埃が舞い上がったが、グロリアーナはふむ、と満足そうに微笑む。
「これを頂こう。お代は幾らかな?」
「いえいえ、お金なんてそんな、別に!」
 平太は慌てて両手を顔の前で振った。
「ただ、一つお願いがあるんです」
「聞こう」
「もし上位に入賞したら、『妖怪の山』へ行かれるでしょう? その時、もし『神さま』に会ったら……」
「神?」
「そういう噂があるんです。何でも願い事を叶えてくれる神さまがいるって。で、もし会ったらでいいんで、僕のパートナーについて訊いてくれませんか?」
 自分が――正確には武蔵だが――勝つとは、全く考えていない平太である。グロリアーナはベルナデット・オッド(べるなでっと・おっど)の話を聞き、頷いた。
「約束しよう。もし優勝して山へ行き、神とやらに会うことがあれば、必ずそなたのパートナーについて尋ねよう」

 だが、勝利の女神はグロリアーナには微笑まなかった。
「妾の征く、その前に立ち塞がりし勇気は蛮勇と同義ぞ!」
 グロリアーナの大剣が、レキの膝下に襲い掛かる。だがレキは極めて冷静にそれを競技用ランスで跳ね上げた。
「やるな!」
「まだまだ!」
 グロリアーナは切先を後方の地面に付けた。その姿勢から、一気に木剣を斬り上げる。
 だが、レキはそれより速く、彼女の胸をランスで突いていた。
「それまで!」
 プラチナムの軍配が上がる。
「有意義な時間であった」
「こちらこそ」
 二人は握手を交わし、その光景に観客は拍手を送った。
 しかし、とグロリアーナは小さく苦笑した。
 新しき友との約束は果たせなかったな――と。

*   *   *


「負けてしまったでありんすね」
 ハイナ・ウィルソン(はいな・うぃるそん)は、傍らの友――ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)に声を掛けた。
「これで遠征部隊には入れないのかしら?」
「やる気があって実力があれば、大歓迎でありんすよ」
「それは安心したわ」
 ローザマリアはそうでもないのだが、グロリアーナが遠征部隊に大分興味を持っている。これで不可とされたら、少々可哀想だとローザマリアは思っていた。もっとも、そうなったらなったで、実力不足だと窘める他ないわけだが。
 とにかく、やる気はある。そこだけは認めてもらえるだろう。
 ローザマリアはお茶を啜りながら、桜餅に手を伸ばした。
「もっと修行が必要ね……」
と呟きながら。

勝者:レキ・フォートアウフ


○第七試合
リーズ・クオルヴェル(りーず・くおるう゛ぇる)(葦原明倫館) 対 ニケ・ファインタック(にけ・ふぁいんたっく)(葦原明倫館)

 リーズは念入りに柔軟体操を繰り返していた。どれだけ動かしても、手足や指のこわばりが取れない気がする。――緊張しているんだ、と気づくのに然程時間はかからなかった。
 相手のニケは、ヘッドフォンから漏れ聞こえるほどの音量で何か聴いている。それがまた余裕綽々に見えて、悔しい。――いやひょっとして、相手も緊張を解しているのかも?
 と思ったが、ニケがヘッドフォンを外し、
「どうぞ、お手柔らかに」
と、不敵に笑ったのを見て、ますます緊張した。相手はこの手の試合に慣れているようだ……。
 しかし時間切れとなり、リーズは木剣を握り締めた。ニケは模擬弾を使った銃だ。
 リーズが大上段に構え、剣を振り下ろす。だがニケはそれを見極め、僅か一寸ほどのところで避けた。
「まだまだ!!」
 リーズは無理矢理木剣の軌道を変え、ニケの脇腹へ叩きつけようとした。が、眼前に銃口があった。
 パンッ、と軽い音がした。
 リーズは吹き飛ばされ、倒れた。額に青い塗料がついている。本人は脳震盪でも起こしているのか、プラチナムが起こしても目を覚まさない。
「担架を!」
 リーズは救護班行きとなった。

勝者:ニケ・ファインタック


○第八試合
夏侯 淵(かこう・えん)(シャンバラ教導団) 対 ウルスラグナ・ワルフラーン(うるすらぐな・わるふらーん)(天御柱学院)

 淵の武器は少々、他と変わっていた。弓だ。矢の先端は布で覆われており、色がついていた。当たれば、それが相手にくっつくというわけだ。
「遠距離攻撃か……」
 少々やりづらいな、とウルスラグナは思った。
 試合開始と同時に、淵が弓を引き絞る。放たれた矢を、ウルスラグナは木剣で叩き落とした。
「一気に行くぞ!!」
 ウルスラグナは地面を蹴り、淵との距離を縮めた。だが淵は、更に速いスピードで間合いを広げながら、二本目、三本目の矢を放つ。ウルスラグナはそれでも追いすがるが、
「それまで!」
と、プラチナムの声が上がる。
「何!?」
 プラチナムがウルスラグナの膝と胸を指した。それぞれの防具に、青い塗料がちゃんとついていた。
「良き仕合であった。……勝利の軍神を倒したのだ。淵には優勝してもらわねば我の立つ瀬が無いな」
「任せておけ」
 淵はにやりと笑った。

勝者:夏侯 淵