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リアクション
【2】
「すみません、ちょっといいかな?
うわ君のその服凄く可愛いね。流行敏感に取り入れてる感じで。今年は柄物と柄物合わせるのもアリなんだってこの間――」
兎に角相手を褒める。褒めまくる。
使い古されたテクニックを駆使しながら普段よりも幾分軽薄な様子でナンパをしている佐々木 八雲(ささき・やくも)を少々遠まきに見ながら、佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)は「やれやれ」とため息をついた。
「(買い物にきただけのこの場所で、おまけに彼女候補が居るというのにワタシの兄は何をしているんだろうねぇ)」
オールバックの髪を後ろへ撫で付けながらぼんやりしていると、アナウンスする声も焦りで上ずった緊急放送が流れる。
――鏖殺寺院のテロが近隣で行われた。この駅にも突入の可能性がある。
ナンパにも「やれやれ」だったが、まさかテロリスト突入の危険が差し迫っているとは「やれやれ」では済まされない。いよいよ買い物どころでは無くなってしまった状況にふっと息を吐き、弥十郎はこの状況でもナンパ相手の女の子に必至にアプローチしている八雲の肩をトントンと叩いた。
「――ナンパどころじゃなさそうだよ」
「美緒! 今の放送――」
走ってきた同輩の桜月 舞香(さくらづき・まいか)へ振り返って泉 美緒(いずみ・みお)は引き締まった表情で頷いた。それぞれ休日を楽しんでいた百合園の少女達が放送によって一堂に会している。
「ええ、トーヴァ様によると恐らくここに来る可能性が高い、とのことですわ」美緒に視線を向けられて、トーヴァ・スヴェンソンは巫山戯たような浮かべて手を前に説明を始めた。
「あくまで可能性、でも100に近い可能性ね。
パートナーが言ってたんだから間違いないって言ってもいい」
「兵器に『改造した』女の子でここでドンパチやらかすみたいっス。ホント酷いスよ。だから男っていうのは信用ならないんス!」矛先を微妙にズラしているキアラ・アルジェントの弁に、舞香は直情的な怒りを表に出した。
「女の子を兵器にですって!? ……信じられないわ、なんて事するのよ。
そんな下種な連中、痛い目にあわせてあげないとね」
「それにここは駅ですよ!」おかっぱの黒髪を振り乱して、桜月 綾乃(さくらづき・あやの)がプンプンと頭から火を噴いている。
「折角の休日にゆっくり電車の写真が撮れると思ったのに、駅でテロなんて鉄道の敵です!」
ハテナと頭を捻るトーヴァへ、「綾乃は鉄道ファンなのよ」と舞香が付け足している。
「アイヤー、テロあるか。駅弁買う暇も無いあるね」少し遅れてやってきた奏 美凜(そう・めいりん)は唇をとがらせていた。こちらは多分鉄道は余り関係無いのだろうなとトーヴァはぼんやり思う。
「許せません、懲らしめてあげます!」
「ならいい方法がございますわ」綾乃の声に美緒は優雅な程美しい笑顔を浮かべて手を合わせた。
*
「す……村主です……。
暇が出来たから出掛けたら、まさかこんな鏖殺寺院絡みの事件に巻き込まれるなんて……。
しかもその……『私も出来る限り応戦しよう』って思って泉さんって人からの提案で……
ビキニアーマーを………………
こ、こんなのいやああああああああ!!」
見事な自己紹介と状況説明をしながら村主 蛇々(すぐり・じゃじゃ)は紺と白のビキニアーマーの胸元へ目をやって、その粗末な成長具合に頭を掻きむしった。
悲しい迄の、まな板具合。
「こんなの披露して誰が喜ぶって言うのよバカーーッ!!」
「そ、そうよ美緒!
こんな作戦に一体何の意味があるって言うのよ!?」赤と茶色が肌の白さを強調しているアーマーを身につけた雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)とのダブル抗議を受けつつも、美緒は「お二人ともとてもお似合いでらっしゃいますわ」と、女神のように微笑んで自覚無く受け流している。
「これで戦うと敵の方が怯んで下さいますし、とても動き易いですし、まさに『一石二鳥』、ですわ」
「美緒、判ってるじゃない。ビキニアーマーは美しい女の最高の戦闘服だってことを!」
ドーンと効果音を背負ってやってきたのはセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)と、(少々呆れた表情の)セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)だった。
「それにしても余りに露出過剰だわ。
撹乱とは言え、ね。
そりゃあセレンは普段から『アレ』な格好で数多くの戦闘に参加していて、いわば『撹乱戦闘のプロ』だけど……」
常日頃からビキニ戦士として活躍する相棒の勇士を頭に思い浮かべながら、セレアナは自分の事を棚に上げて心もとない位にしか存在しないテカテカの素材を摘み胸元を整える。
お揃いのメタリックブルーのアーマーは、美緒が普段付けている例のアーマーと似た様なデザインで、『アーマー』を自称するわりに肝心の心臓を隠す柔らかい胸も、もちっとした臀部もカバーしきれておらず、一体何処を守っているのか怪しいところだった。
「でもセレアナ様。特に抵抗の無い方もいらっしゃいますし」美緒が示すのは、普段の彼女が着用している伝説のビキニアーマーとお揃いのアーマーを着込んでこちらへ人差し指と中指を立てているルカルカ・ルー(るかるか・るー)。「似合う?」と首を傾げているので、「ばっちりですわ!」と頷いた。
それに純白に金色の装飾が入った百合な戦乙女のアーマーにハイヒールのサービスを付けた舞香。こちらは美緒のピンクのアーマーに勝るとも劣らない過激な露出度で豊かな胸と美脚を強調したセクシーコスチュームだ。
アイラン・レイセン(あいらん・れいせん)もビッグ過ぎるバストを冷たい鉄で更に盛り上げながら「うん、動き易くはあるね! 寒いけど!」と笑ってみせる。
ハラショー!! つまりここは天国だった。
「恥ずかしくても頑張って着て下さった方もいらっしゃいますし」こちらは人妻ながら美緒の提案に(天然なのか)正義の為なら恥ずかしさも耐えようと真面目に賛同し、見事な肢体を晒している遠野 歌菜(とおの・かな)だ。
「戦闘が有利になるならやらない手はないよ!」
両手でグッと拳を握るポーズがなんとも愛らしいが、今の姿だと谷間が強調されて『愛らしい』よりも『エロい』が先にきてしまう。
「妥協案で別のお衣装を選んで下さった方も……」
綾乃はヘソ出し超ミニのスカートの白のセットアップ――チアリーダーのコスチュームを、美凛はレオタードとミニスカートを組み合わせたセーラー服で何処かの漫画かアニメかドラマかミュージカル辺りで見た感じのする際どい美少女な戦士的デザインで「オヤジ受けもバッチリあるネ!」だった。
女性らしい細やかさというか拘りで塗られたマニキュアとダークルージュで、妖しさまで倍ドンされている。
「それにどうしても嫌な方はお断りになられましたから――」
最後に示された山葉 加夜(やまは・かや)はいつも通りの特注の蒼空学園制服のまま立っている。
「流石にビキニアーマーは無理です。涼司くん……あの、主人に着て欲しいと言われたら考えますけど」今し方病院に見舞ってきたばかりの旦那を思い浮かべ頬を赤らめてのろける加夜は美しく、着てしまえば勿論似合うのだろうが、こんな風に何処迄も清廉な彼女のイメージを破壊しない為にも本人が断ってくれて良かったと言うべきだろう。
「えええッ!? それ有りだったの!?
じゃあ私も脱――」
慌てて更衣室に飛び込もうとする蛇々の背中に向かって、美緒は笑顔のままだが、妙な気迫を背負っている感じがして、蛇々は心臓を跳ねさせる。
「もう着てしまったのですから、手遅れですわ。
一度着てしまったら最後。
その方はその後永遠に『ビキニアーマーの女』や『露出狂』と呼ばれ続けるのですわ」
実感を持って言われた言葉に戦慄する蛇々に、露出過多な女性陣に向かって美緒は静かな声で言った。
「さあ、その姿で、ビキニアーマーで、戦場へ参りましょう」
目の前に広がるパライソに鼻の下を伸びるだけ伸ばした仁科 耀助(にしな・ようすけ)は、きたるべき戦いに供え「イカンイカン」と首を振り、横に立っている物体に視線を移す事で冷静さを保った。
というか……この物体は何なのだろう。
茶色いボール紙の上に、もしゃもしゃっとした緑のアフロみたいなものがのっかっている小さなこれは。
「『木』ですわ!!」
うん、そうだろうな。大体判ってた。でもなお嬢さん、
「聞きたいのはそこじゃなくて……」
「木になりましたの!
相手の奇をてらうんですのよね。
ですが皆さんと同じでは少々面白みにかけてしまいますから……
ふふ、学芸会ではよくこの役をやったものですわぁ」語尾に音符マークを付けているヴェール・ウイスティアリア(う゛ぇーる・ういすてぃありあ)の意外な一面に、冷やそうとしていた頭がどうにかなりそうで耀助は反対隣に視線を移動させる。
そこにはいつも通りの和装に身を包んだ一雫 悲哀(ひとしずく・ひあい)が立っていた。
「あれ、悲哀ちゃんは何も着ないの?」
「え、あの露出度の多い鎧……ですか?」
明らかに困った顔の悲哀のモジモジした様子に、耀助はまた頭がどうにかなりつつあった。
「……確かに、相手の意表をつくという点ではいいかもしれませんが……
私は糸を武器としますので、糸を隠せない服は少し……困ってしまいます。
そ、それに……私の様な醜女がそんなものを着ては、味方の士気を下げかねませ――」
「下がらねぇ!
上がる上がる! 超上がるよッ!!」
勢い肩を掴まれて、悲哀は驚きと、もう一つ別の感情を含んで目を丸くする。
「それに醜女とかそんな自分を卑下するような事言うのやめなって。
悲哀ちゃんは可愛い、すげぇ可愛い! だからどんなもの着ても似合う! 俺が保証する!!」
「そう……でしょうか……」
「そうだよ!
それに何故か皆露出高過ぎなアーマー付けてるからアレだけど、腕とか隠れてるやつなら糸も隠せるだろ?」
「は……はぁ……」
「えーっと、俺のオススメはこれだな。
青と水色の――」
耀助にさりげなく肩を抱かれて防具店に入る悲哀を見つめながら、ヴェール――もとい木は口元へ緑の小さいアフロを持ってきていた。
「あらあら悲哀、上手くのせられてしまいましたわね。
これが惚れた弱みというやつですのね。ふふふふ」
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