リアクション
被害者の治療が終了し、魔術師と対峙した者が帰還するのを待っている間。
「ヒスミちゃん、起きたんだね。大丈夫?」
「大丈夫ですか?」
ノーンと舞花がヒスミのお見舞いにやって来た。
「……何とか」
ヒスミはまだ口の中に違和感を感じながらもから元気な笑顔で答えた。
「ヒスミちゃんはどんな別世界にいたの?」
ノーンは好奇心でヒスミがいた別世界について訊ねた。
「葦原とイルミンどっちにするか迷っていて葦原に入学した世界にいたんだ。それで……」
ヒスミはノーンに別世界について語った。
「妖怪の山で魚釣りしてたらキスミは近くにいるのにどこからかキスミとかいろんな人の声がしてさ、わたげうさぎが出て来たと思ったら巨大な熊が山奥から出て来て襲いかかって来たかと思ったら、すげぇ火事が起きるし、ビキニパンツ一丁の五人組の変な妖怪が追い駆け回して来て」
ヒスミはちらりと横目で近くにいる薫達を見た後、目覚める少し前に起きた事をノーンに話して聞かせた。後半はまさに大災害。
「それでどうなったの?」
「早くここから逃げたいって思ったんだよ。その時、空から強烈で暖かな光が降って来て、何かここは違うと思ったらこっちに戻っていた」
話の続きを促すノーンにヒスミは追いかけ回されてキスミともはぐれて疲れ果てた自分の頭上に降り注いだ光を思い出していた。それはシリウスの放った『オープンユアハート▽』であった。
「……大変でしたね」
「凄いねぇ。でも本当にどこかに違う選択をした世界が本当にあるのかもしれないね!」
舞花は労いノーンは話を聞けた事に満足そうだった。
その時、
「……どこ行ってもお前らは悪戯ばっかりだな」
戻って来た白銀が会話に入って来た。ヒスミの別世界の話をしっかり聞いていた様子だった。続いて北都も現れた。
「……何だよ。今回は何も悪い事してねぇぞ」
ヒスミは白銀と北都を不機嫌そうににらみながら言った。
「これはただのお見舞いで説教はしないから安心して」
北都は穏やかに笑みを浮かべヒスミを安心させようとした。
「それならいいけどさー」
ヒスミは北都の様子から今回は何も無いと知り、表情をゆるめた。
度々、北都達には説教などを食らわされた事があるので自然と警戒してしまうのだ。
「無事で良かったよ。僕も心配していたんだよ。これまで色々迷惑掛けられたけど、キミ達が開発する薬は楽しかったし、役立つ事もあったからね」
北都は平時と違って優しい言葉をかける。
「無事で何よりだ。多少賑やかだったみたいだが」
白銀も素直に無事を喜んでいた。ヒスミがいかにして目覚めさせられたかはもう知っておりいつも通りだという感想を抱いていたり。
「……まぁ、ありがとう」
ヒスミは素直に自分の無事を喜ぶ北都達に礼を言った。
ヒスミ達の元へ戻る道々。
小型精神結界発生装置も使いキスミと吹雪達は無事に情報収集を終えていた。
「……魔力しか感じなかったという事は魔力だけの存在なのかしら?」
コルセアは魔術師と対峙した人からの報告についてふと思いついた推測を口にした。
「……判断するのは難しいでありますな。事件にも何かパターンはあるような気はするでありますが……」
吹雪はコルセアに答えた後、自分達や他人が聞き込みで得た情報について考えていた。パターンが見えそうで見えないのが今の状況。
「だよな。森、執念の願い石、幽霊、人、かぁ。何か生者とか命とか心のようなものに惹かれているかもだっけ?」
キスミも首を傾げながら何か無いかと考えるが、ヒスミが巻き込まれたせいかは事件の不明瞭さのせいか上手く頭が回らない。
「今、はっきりと分かっているのは、色々と大変な事になりそうという事だけね。例の魔術師も対峙した人からは手応えが無かったと報告があったし」
コルセアは現在明確となっている事項だけを口にした。
「……そうだな」
キスミは複雑な顔でこくりとうなずいた。ヒスミを巻き込んだ犯人を捕らえる事が出来なかった事に対して苛立ってはいたが、犯人を知っているだけに仕方が無いとも思っていた。
吹雪達とキスミは急いでヒスミ達が待つ場所に急いだ。
この後、今回の事件は無事に解決され犠牲者は出なかった。
しかし、魔術師が消えた事に関して誰もこれで終わりだとは思ってはいなかった。むしろ、今までよりも厄介な事が起きる予感の方が強くなったという。
新たに手に入れた二冊の手記と魔術師関連の情報は全てイルミンスール魔法学校に渡された。それを確認したエリザベート達は心穏やかではなかったという。
「……これで終わりとはなりそうにないのぅ。自分の正体を暴こうとしている者達をからかおうとでも思ったのじゃろうか?」
アーデルハイトは今回の顛末を聞き、自分なりの見解を述べた。
「……今度こそ思い知らせるですよ〜。資料の確認、新たな情報の収集、手記の復元の続き、出来るなら次の予測、全校生徒に外部の者に使える者は全部使うですぅ」
校長であるエリザベートはご立腹で魔法学校の威信にかけて今度こそ本当の終わりを魔術師にプレゼントしてやるんだと意気込んでいた。
無事に買い物を終わらせ、元気を取り戻した双子はいつもの調子を取り戻し、学校内外を騒がせ、相変わらずの図太さを見せていた。それだけでなく今回の事件に巻き込まれたせいか大人しくエリザベートの命令に従い、手記復元の手伝いやその他の仕事も少しは手伝ったという。
シナリオ担当の夜月天音です。
参加者の皆様ありがとうございました。そしてお疲れ様でした。
皆様の尽力のおかげでヒスミを救う事が出来ました。双子はこれからも元気に悪戯に精を出すことでしょう。図太い神経の持ち主なのでよろしければ生暖かい目で見守ってあげて下さい。
今回は正体不明の魔術師との初対峙と名も無き旅団についての新たな情報の入手とそれぞれ進展するもエリザベートは怒り気味となっております。四度も魔術師にしてられたので仕方が無いのですが。
そして、囚われる別世界についてですが、稚拙ながらも皆様の思い描く別世界を少しでも表現出来ていればと願うばかりです。
ほんの少しでも楽しんで頂ければ幸いです。