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梅雨の宴『夏雫』

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梅雨の宴『夏雫』

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3 萌え萌え☆キュン

「お、美味しくな〜れ♪ も、萌え萌えキュン♪」
 恥ずかしがりながらかき氷のトッピングをしているのは白柳 利瑠(しらやなぎ・りる)だ。顔を真っ赤にしてイチゴのかき氷の上に生クリームをかけていく。その姿は何と和風メイド服。その隣ではクロイス・シド(くろいす・しど)のパートナーであるケイ・フリグ(けい・ふりぐ)が、やはり同じ服を纏い、同じセリフを流暢に発音して練乳をかけていた。
「白柳さんはちょっとぎこちないけど、2人共様になってるな! その調子で気張っていこうぜ!」
「でもまさか利瑠が売り子をするなんてねー……。珍しいこともあるんだな」
 クロイスの隣で氷を削っているのは利瑠のパートナーである理堵・シャルトリュー(りと・しゃるとりゅー)だ。この屋台、何とも豪快なことに、氷の山をまるごと持ち寄って、注文を受けるとその一部を削っている。一部は機械に入れられ、客の目の前で瞬く間に氷の粒となっていった。斬新な手法に客はおお、と驚き興味をそそられる。どうやら客の関心を引き付けているのは和風ロリメイドだけではなかったようだ。理堵が感心していると「あ!」と快活な声が聞こえた。
「ここだったんだね、利瑠達の屋台って! メニューあるの? へぇ、一通りのものはあるんだね。じゃあルカはしろくまスペシャル、フルーツメガ盛りでお願い☆」
「ル、ルカ!」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)がにっこりと笑って利瑠達を見ていた。
「そんなメニューはねぇぞ」
「知り合いのよしみでお願い!」
 ルカルカの笑顔に売り子達は降参したようだ。利瑠が答え、クロイスと理堵が氷を削り、ケイに渡す。利瑠は赤面しつつ、ケイは笑顔でトッピングをしていく。
「美味しくな〜れ♪ 萌え萌えキュン♪」
「萌え、萌え」と合いの手を入れるルカルカ。実に楽しそうだ。
 瞬く間にしろくまスペシャル、フルーツメガ盛りが完成し、ルカルカもおおっと感嘆する。しかしルカルカは首を傾げて利瑠とケイを見つめた。
「和装ロリメイド、なかなか可愛いけど何か足りない……。あ! さっき買ったこれを……!」
 と、利瑠とケイの頭にちょこんと猫耳を乗せた。
「おおっ、似合う、可愛い、わんだほー! けど2人だけってのもダメだよね。はーい、そこの笑ってる2人もお揃いね!」
 またまた猫耳を取り出すと、クロイスと理堵の頭にも乗せてしまった。クロイスは驚いて、理堵はそんなクロイスを見て笑っている。
「お、俺の頭にも……何しやがったんだ!」
「っはは……クロイス、猫耳……そりゃ似合わねえって……」
「リトてめぇ!」
「シド、似合ってるよ? 恥ずかしがらないで?」
 ケイが微笑むと、利瑠もうん、とぎこちなく頷いた。
「……だろ、ケイもそう思うよな!」
「うんうん、これでもっと繁盛するよ! 頑張ってね。ルカの助けが必要だったらいつでも言ってね!」
 ぺろりとしろくまスペシャル、フルーツメガ盛りを平らげると、ルカルカがとん、と自分の胸を軽く叩いた。

4 『夏雫』、開幕

「あと30分でございますね」
 白姫が舞台に視線を移してぽつりと呟いた。隣には沙夢、弥狐、ロレンツォが着席している。
「舞いの鑑賞は人それぞれだけど、時には目を閉じて、舞い人の所作や息遣いを身体全体で「感じる」のもよい鑑賞の仕方だと私、思うヨ。自分の五感すべてを働かせ、しっかり実物を鑑賞したいネ』」
「あたし、舞いって初めて観る! どんな感じなのかな?」
「私もよ。どのような内容なのか、今から楽しみね」
 その時、後ろからクロイス、ケイ、利瑠、理堵、ルカルカ、天音、ブルーズが姿を現した。観客席はまばらではあるが続々と客入りしており、席を探すのも一苦労だろう。白姫がおずおずと自分の隣に手を向けて告げた。
「皆様。白姫の隣は如何でしょうか。此処でしたら皆様全員で着席出来ます」
「おお、有難い。じゃあちょいと邪魔するぜ」
 クロイス達が礼を言って着席する。後から会場入りする者はいないようだ。出入り口は封鎖され、舞いの途中での入退場は出来なくなる。
「演目は『夏雫』。けど舞い人の名前はどこにも書いてないな……誰がどれを舞うのか、非常に楽しみだね」
 天音とブルーズが1つのパンフレットを覗き込んで首を捻る。
「屋台は大変だったけど、『夏雫』を見に来れて良かった。どんな感じなのかな?」
「ええと、パンフレットを見ると……一本筋の通った演目らしいです」
「一本筋の通った? それってどういうことだ?」
「普通の舞いとは違った構成になってるってことかな?」
 疑問符を並べるケイ、利瑠、理堵、ルカルカ。そこへ沙夢と弥狐が混ざる。
「1幕が神、2幕が男……なんか、こういう感じの舞台ってどっかで聞いたことあるような気がするわ」
「日本の伝統芸能って奴だっけ?」
「そう。これはジャパニーズ文化の『能』だヨ。ちょっとアレンジが加わってるけどネ」
 ロレンツォが、パンフレットから視線を外して答えた。
「1幕から6幕まで、基本的には異なる演目をするものだと考えておりましたが、一本筋……。おそらく、1幕から6幕通してストーリーとして構成されているということでございます」
 白姫も、こくりと頷いて意見を述べた。
「なるほど、じゃあ1幕からちゃんと見ないと続きの物語が分からなくなるってことだな」
 クロイスがぽん、と手を叩いた瞬間、舞台からぴぃーっと笛の音が聞こえた。続いて小鼓、大鼓、太鼓。観客が息を飲むのが分かった。始まるんだ、伝説の舞いが。

 『夏雫』、開幕。