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ぶーとれぐ 真実の館

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ぶーとれぐ 真実の館

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真実の館 2日め

オルフェリア・アリス(おるふぇりあ・ありす) 夕夜 御影(ゆうや・みかげ)  セルマ・アリス(せるま・ありす) ノア・レイユェイ(のあ・れいゆぇい)



怪しい女。怪しい女はどこですか。
オルフェは、怪しい女を探しにきたです。必ずみつけだすですよ。

招待されていないにもかかわらず、自分は招待客の妻である、とか、事件の鍵を握る怪しい女について知っているとか、あれやこれやとまくしたてて、一見、おとっとりとした感じの少女、オルフェリア・アリスは、パートナーの夕夜御影と、真実の館に半ば強引にあがりこんでしまった。

もっとも、招待客の1人であるセルマ・アリスは、たしかに彼女の嫁(的役割をこなしている夫)であり、事件の鍵を握る怪しい女の情報も御影からきかされてはいる。
しかし、オルフェリアの言う事件とは、嫁(的役割をこなしている夫)のセルマの浮気疑惑事件であり、怪しい女というのは、御影がマジェ内でたまたま目撃したセルマの浮気相手(と、オルフェリアが思い込んでいる)ロングの赤毛の女性のことである。

御影から2人の目撃談を聞いたオルフェリアの頭の中では、疑惑がすぶるすこやかに育って、いまや、アンベール男爵に招待されているセルマと謎の女が館で○○している、○○○もしている、が根拠もないままに確信に変わってしまっていた。

「ご主人。みかげが見た女はここにいるにゃー。
間違いないにゃー。
セルマもここにいるにゃ」

「そうですね。オルフェもそう思います。
オルフェがおウチをでる時、セルマはベットで寝ていた気もしますが、あれはたぶん、目の錯覚、もしくはオルフェをだますためのトリックです。
オルフェに小細工は通用しませんよ」

オルフェリアと着物姿の猫の獣人少女、御影は、広い館内の人気のなさそうな場所、セルマと女があいびきをしていさそうなところを手当たりしだいに探して歩いている。

「きっとこのへんにいるにゃー」

「はい。オルフェも予感がしますよ」

嫁(的役割をこなしている夫)の浮気現場をおさえるというシチュエーションにすっかり興奮してしまっている2人は、互いに深く考えず、感情のたかぶりをそのまま口にし、その言葉でさらに気分が盛り上がり、あらぬことを口走るという負のサイクルにおちいっていた。

「絶対、ここです」

「その通りだにゃー」

オルフェリアは己の直感が命じるままにドアノブに手をのばし、ドアが開くと迷わず部屋へ突入した。

「おまえさん。誰だい」

あかりの消された部屋には、甘いにおいが満ちている。
廊下の電灯の光が室内にさしこみ、中の様子をわずかに照らしだした。
長い髪の女性がベットのサイドに腰をかけている。
彼女はパイプを手にしていて、パイプからは線のような煙が立ち上っていた。
どうやら、甘いにおいのもとはパイプからでている紫煙らしい。
女はメガネのレンズ越しの赤い瞳を細め、おもしろそうにオルフェと御影を眺めた。

「なんの御用か知らないが、せっかく、自分のところにきたんだ。
愉快な話の一つでも、聞かせてくれないか、ねぇ」

「オルフェは、怪しい女を探しているです」

「怪しい女だとさ。
それは、自分のことかい。
ああ、自分は自分さ。
おまえさんのことではないつもりだよ」

「自分は自分?
意味はよくわからないのですが、あなたはどなたですか」

「自分はそうだねぇ、ノアとでも呼んでくれればいいよ。
おまえさんは、オルフェだね。
で、オルフェは怪しい女を見つけたら、どうするつもりだい。
その様子じゃ、仲良しってわけじゃなさそうだし、男がらみの因縁でもかかえているのかい。
怖いねぇ。いやだ、いやだ。
男も女も色と欲がからむと簡単に真人間じゃなくなっちまうよ」

オルフェたちを目の前にしながら、独り言のようにつらつらと語るノアに、オルフェも御影も気おされた感じになって、二人は口を閉じた。

この人は、セルマの浮気相手の怪しい女ではないです。
だって、御影ちゃんがセルマの相手は赤い髪の女だと言っていたです。
ノアさんの髪は黒いし、パイプだし、それに、きれいな方ですけど、年の差とか、なんか、とにかく違うと思うです。
オルフェには、セルマとノアさんが○○○してるとことか、想像できません。

「ご主人。この人じゃないにゃー」

御影のささやきにオルフェリアは頷く。

「オルフェも、それは間違いないと思うのです」

「そうだね。
おまえさんたちの探し人は、自分じゃないはずさ。
いや、本当のところ自分には、なにがどうだかまるでわかりゃしないんだけどね。
でも、おまえさんたちと惚れたはれたといがみあうなんざ、たとえ夢の中でもごめんこうむるよ。
こうしていることが、夢ではないのかさえ、自分には自信がないのだけどねぇ」

ううっ。いろいろごめんなさいなのです。
オルフェは、間違った部屋に入ってしまったです。

「すいませんでした。
オルフェが探しているのは、ノアさんではなかったです。
失礼しました」

ぺこりと頭を下げて、オルフェリアと御影はノアに背中をむけた。

「おやおや。もうおかえりかい。
まぁ、いいさ。探しものを放ったままなのはよろしくないだろうからね。
怪しい女をお探しだったねぇ。
それこそ失礼かもしれないが、自分からすれば、いきなりやってきて、すぐに帰ってゆくおまえさんは十分に怪しい女だけどねぇ。
はい。では、また、お会いするまで。ごきげんよう。

ん。

いま、聞こえたのは。
だねぇ。
どれどれ、どうしようか。
あの声の調子じゃぁ、これから腰をあげても、助けにもなりそうはないけれど」