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ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと) 



マジェスティックで起きた3つの殺人事件。
それらの真実をあきらかにするために、アンベール男爵は事件の関係者たちを自分の別宅へと招待した。

男爵に今回の件のホスト的役割をまかせられたのは、自称神父のルドルフ・グルジエフ(愛称ルディ)である。

ルディは、本人の説明によると自分自身の信じる神様を信仰する神父であり、自分の母親以外の全女性をのぞいたすべての人の幸せのために日々、祈っているのだった。

双子の兄で自称ロックスターのニトロ・グルジエフと、グルジエフ兄弟の共通のパートナーで男装少女セリーヌの3人で、マジェスティックの廃教会を住居にしているルディは、男爵の希望におうじて、この館にやってきていた。
が、まだ、事件関係者全員が集まっていない初日の深夜(早朝)のこの時点で、すでに悩み苦しんでいる。

私のこの悩みを話せるのは、やはり、あの天使しかいない。
天使ならば、きっと、私の心を癒してくれるはずです。

普段通り黒のスータン(神父服)に身を包んで、血の気の失せた青白い顔をしたルディは、頼りにしている天使の部屋を訪れた。

「わぁ。ルディおにいちゃん、さっそく、どうしたですか? 悪い人にやられちゃったですか。
そこに横になるです。
すぐにボクが手当てしてあげるですよ」

「ありがとう。天使、ヴァーナーよ。
だがしかし、いま、私をむしばんでいるのは、治療可能な肉体の損傷ではなく心の傷なのだ」

「いったい、なにがあったですか。1人で苦しむのはよくないです。ボクが聞いてあげるですよ」

ルディが天使と呼ぶヴァーナー・ヴォネガットは、百合園女学院の学生で、以前からルディを慕ってくれている、公正明大で博愛精神に富んだ、上品で、おしゃれで、かわいらしい少女(だとルディは思っている)だ。

今回の一件もどこかから聞きつけて、自ら志願し、会合の期間中をふくめた1週間、このアンベール男爵の別宅で住み込みのお手伝いをしながら、ルディをフォローしてくれることになっている。

もっとも男爵も事情を考慮してか、ヴァーナーはいちおう、お手伝いさんという扱いにはなってはいるが、館内の仕事をさせられることはほとんどなく、自由に館内を歩き回ってお掃除をしたり、困っている人を助けたりしているのだ。
自前のピンクのナース服を着た、ツインテールの小さなお手伝いさんである。

「ほら。ボクがついてるです。元気をだすですよ」

ベットに横になったルディの頭を優しくなでて、ヴァーナーはキャンディーを一つ、ルディの口に入れてくれた。

「ルディおにいちゃんは、マジェスティックの神父様として毎日、いろんな人の悩みを聞いてお疲れなんです。
ボクは天使じゃないですけど、おにいちゃんを元気づけてあげるですよ」

「ヴァーナーよ。私の信仰は間違っていたのかもしれません」

「なんでですか。おにいちゃんは、神父さんとしていつもがんばっているですよ」

「私自身はそのつもりでしたが、しかし、やはり、私は間違っていた」

だから、私の信仰が神様に届いていなかったから、こんなことに。
「悪い方にものを考えるのは、よくないです。
どうして、そんなふうに考えてしまうのか、理由を教えて欲しいです」

天使よ。私は。
かたわらにいるヴァーナーの小さな手をルディは両手で握りしめた。

「ついさっき、私は、会ってしまったのです。私のママンに」

「おにいちゃんのお母さんがここにきているですか。落ち込んでいる場合じゃないです。
お母さんにがんばってるところをみせるですよ」

「いえ、しかし」

「お母さんもルディおにいちゃんががんばっている姿をみれば、きっと喜ぶですよ。絶対です」

ヴァーナーもまた両手でルディの手を力強く握り返し、緑の瞳をきらきらと輝かせる。

「天使、ヴァーナーよ。
ママンは本当なら天国にいるはずなんだ。
天国で神様のもとで幸せに暮らしているはずなのだよ。
私はいつも神様のもとにいるママンが幸せにいるように祈りを捧げている」

「じゃぁ、お母さんは天国からルディおにいちゃんに会いにきてくれたですか。
あれ。
なんかおかしいですねぇ」

ヴァーナーが首を傾げると、ルディは深いため息をついた。

「そうなのです。
私のママンは、以前に、亡くなっている」

「えーっ。
それじゃ、ルディおにいちゃんが会ったのは、お母さんのオバ」

叫びかけたヴァーナーの口をルディは手の平でふさぐ。

「私の信仰心のたらなさが、このような事態を引き起こした原因だと思うのです」

かなしいけれどそれが事実だ。受け入れるしかないだろう。

「ママン。ごめんなさい。ぼくを許してください」

「ルディお兄ちゃん」

ベットにあおむけになって、まぶたを閉じたまま、ルディは涙を流す。
しばらく、あ然としていたヴァーナーはやがて、ルディの髪をなではじめた。