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【祓魔師】災厄をもたらす魂の開放・序章

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【祓魔師】災厄をもたらす魂の開放・序章

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第3章 無策で特攻は危ないのですよぉ!作戦会議 Story3

「視界対策として、ゴーグルはエリザベート校長が手配してくれるんだったよね?」
 砂で目をやられないためのものを、貸してもらえる話だったかとリーズが確認した。
「えぇ、現場でお渡ししますよぉ〜」
「チームに分散する話も出てたよね。どう分担したらいいかな」
「重要なのは、アークソウルを使える人のチーム編成ですよね。探知の範囲がそれぞれ違うようですから」
 限界値が異なるから偏らないように、予め考えておいたほうがよいとミリィが提案する。
「たぶん、この中で一番広いのは…弥十郎さんでしょうか?」
「んーそうなのかな♪」
「シィシャさんの合図のこともありますし、先発の方の探知支援をお願いしてもよいですか」
 彼女が真っ先に狙われると想定して、相手の接近に備えて組んでもらえないか聞く。
「いいよ、囮ってわけじゃないからね」
「近づいてきたら、3人に加速をかければいい?」
「いえ、私は自分の宝石がありますから」
 1時間やそこらで片付くことではないはずと感じ、精神力の負担のことを考えて静かな口調で告げた。
「陣くん、ボクたちはどうする?可視化の術のこともあるし」
「問題はそれだけやない。中で待ち構えているやつもいるだろうし、呪術のこともな」
「うん、でも先にそこは決めておこうよ。ルカルカさんもエコーズリングあるから、別々ほうがいいと思う」
「町のほうも手薄になると、状況が気になっちゃうし…。んー…困ったなぁ」
「外の先発にしないか、ルカ。後々、どちらにでも手助けに向かいやすいだろ?」
 砂嵐の中へ入ってしまったら、町の方面に応援へ行くのは容易ではないと思い、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は“外がよいだろう”と言う。
「むぅー…そうするわ」
「オメガはどちら側へゆくのだ?」
「わたくしは……中のほうを担当しようかと思いますわ、淵さん」
 オメガ・ヤーウェ(おめが・やーうぇ)はどこがよかと悩み、突入するほうを選ぶ。
「なんとっ。かなり危険だと思うのだが!」
 クリスタロスの事件から参加しているとはいえ、まだ日が浅いように感じた夏侯 淵(かこう・えん)は、思わず服の袖を掴んでしまった。
「あ…、あの淵さん?」
「―……っ!すまぬ」
 はっと我に返った彼は袖から手を離した。
「何かあればすぐに駆けつけるゆえ、連絡してもらえるか?」
「と言いましても、わたくし…通信用のものは……」
 さすがにもらったノートパソコンで応援要請するわけにもいかず、どうしたらいいものかと悩む。
「パソコンでは荷物になってしまうからな。うーむ」
「淵、携帯貸してあげたら?」
「うむ。そのほうがよいか」
 いつでも駆けつけられるように、連絡手段があったほうがよいだろうと頷く。
「オメガ、このボタンを押すとルカの携帯にすぐつながる。助けが欲しい時は、遠慮なく押してくれ」
 使い方が分からないのか、不安そうな顔をするオメガに念のため、短縮でかかる方法を教えておいた。
「押すだけでいいのですのね?分かりましたわ」
「そのままかけっぱなしでも構わないが。止める時は、受話器が斜めの形じゃないほうを押せばよい」
「音がでないように、バイブにしておいてあげて。こっちから発信することもあると思うの」
「む、そうだな」
 メロディーが聞こえてしまっては、狙われるかもしれない。
 すぐさま携帯の音をバイブ設定にした。
「ボクと陣くんは、先に突入するってことでいいんだね?」
「てことは、歌ちゃんとも一緒に行くのよね」
「そうだね。術のこともあるし、そうじゃないと困るから」
「エース、オイラたちも突入組みに入ろうにゃ♪」
「勝手に決めるなってクマラ。…っと、クローリスを呼べる人も別れないとな?」
 呪いの対策として偏るとまずいだろうと、会議の参加者たちの顔を順番に見て聞く。
「グラキエス様の負担を考えますと、私としては町のほうがよいのですが。いかがいたしますか」
 暑さでばててしまうことを心配し、町方面なら日陰もあるだろうと考え、グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)に聞く。
「そうだな…確定としてはあまり言えないが。エリドゥの人たちのことを考えると…町がよいかもしれない。逆に、呼ばれたらすぐ行きやすいと思う」
「承知いたしました。さぁ、お飲み物を」
 エルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー)は微笑かけ、アイスティーをカップに注ぎグラキエスに渡す。
 クーラーが動いているとはいえこの人数だ。
 彼が暑さで倒れないように氷雪比翼で抱えるようにしている。
「マスター、私たちもエリドゥで待機しますか?」
「―…まぁそうだな」
 戦友が暑さに負けて倒れるかもしれないし、万が一のことも考えて自分たちもそうするべきかと考える。
「樹たちは?」
「うーむ…。呪いのことありそうだからな、主バカ魔鎧だけは大変だろう」
 突入したい気持ちもあるが、手薄にするのも考え物かと頷く。
「タイチもそっちに行くのよね?」
「あぁ、お袋がそうするならな」
「じゃあわたしも!…って言いたいところだけど。仮定にしておくわ。当日考えるわね、状況を見て突入組みに参加するかも」
 黒フードの者たちは、いずれも簡単に倒されるような相手ではなかった。
 そう考えると判断ミスはできない。
 ミリィやエースが言うように、人が1つのエリアに偏ってしまうのは非常にまずい。
「えぇっと、赤い髪の子供だっけ。それって助ける必要があるってこと?話によっては、またそこで別れることになるんだけど。調査に行ってないから、そこの辺もちょっと分からないのよね!」
「騒がないの、セシル…品がないわよ」
 携帯を閉じたヴェルディー作曲 レクイエム(う゛ぇるでぃさっきょく・れくいえむ)は、大きな声で言うセシリア・ノーバディ(せしりあ・のおばでぃ)に嘆息した。
「だって分からないんだもの。ってヴェルレク、携帯見てたの?」
「ゾディからメールもらったのよ。(…スーツ?いつ帰れるかしらねぇ)」
「ねぇ、なんだったの?」
「アンタ…何見ようとしてるのっ」
 アルテッツァ・ゾディアック(あるてっつぁ・ぞでぃあっく)からなんと送られたのか見ようと、携帯へ手を伸ばすセシリアの手をぺしっと叩く。
 それも、彼女の目に触れたら大騒ぎしかねない内容だった。

 -会議の時、シシィを騒がせないように…-

 <ヴェルへ>

 多分シシィは考えることが苦手だと思われます。
 …部屋の片付き様で十二分に推測できますね。
 おまけにかっとなりやすいですし…。

 落ち着いて諭すことができるのは、ヴェル、キミだけになりそうです。
 色々と苦労させることが多くなってしまってすみません。

 Alt

 追伸:任務が終わったら、スーツを一着仕立てませんか?

 考えるのが苦手なセシリアが、収納も考えるのが苦手で片付かないと言いたいのだろう。
 分からないからと騒がせないために、ストッパーとして頑張ってほしいらしい。
「(はいはい、止めてあげるわよ…)」
 アルテッツァに言われるでもなくヴェルディー自身、止めるのは自分しかいないと思っている。
「ヴェルレクのケチッ。…ん?パパーイからのメールだ…ヴェルレク!」
 ぷんぷんと膨れっ面をしてそっぽを向くと、セシリアのほうにもアルテッツァからメールが届いた。

 -慌てず、騒がず…頭から把握しましょう-

 <シシィへ>

 敵陣に攻め入るときには、まずは地形の把握、人員の把握。
 そして、敵の組織体系と練度を推測しなければいけませんよ。

 今までの戦法から、敵の組織や練度ははっきりと分かるはずです。
 後は、嵐が起こっている所の周辺に、地図上では何があるかを確認してください。
 敵が陣形を張るのに、有益なことがあるはずですよ。

 そして、情報は集めてきたモノだけと限定しないこと。
 上官も何らかの情報は得ているはずです…職員会議を思い出してください。
 我々だけが認識していて、生徒には伝えていないこともあるでしょう?
 避難訓練の類が、いい例ですね。

 時間が来たので、この辺で。

 Alt

 追伸:砂糖がけのデニッシュをおみやげに買ってきてください。


「―…デニッシュは覚えてたら…っと!」
 部屋を掃除してもらっておいて、手土産1つ渡さないのか。
 セシリアは適当に返事を返した。
「アンタ、酷い子ね」
「こっちのほうが大事だもの。お店に残ってるかわからないわ」
「そりゃそうだけど、ちょっとは考えないの?」
「え、何を?」
 “お土産を買っていく”ことについて言われたのだが、何のことを示しているのか分からず、きょとっと目を丸くする。
「はぁ〜もういいわ」
「そんなことより、ヴェルレク。彼らってどっちかって言うと、ゲリラ戦チックな戦い方ね。全体的な人数は少ないと思うの。ネジロにしている地形の有利な点を考えてみない?」
「それぞれ所在は不定なんじゃないの?発見リスクのこともあるから、目的によって変えてるでしょ」
 包囲されて一網打尽にされないよう、点在しているのではと予想する。
「戦力が1本の線になって集まる様な所とかある?…のかな」
「残念だけど、それもきっとハズレだわ」
「えぇ〜…」
 あっさりとハズレと言われたセシリアは、しょんぼりと項垂れた。
「セシル、集まり過ぎるのはハイリスクよ。長く留まれば、アタシたちに発見される確立が高くなるわ」
 包囲されて一網打尽なんてされるマネはしないだろうと説明した。
「点在だろうが、ポイントを教えてもらえれば早いんだけど。てことで教授さん、アンタたち教員サイドで知っていることとかはな〜い?」
「へっ?何のことかな」
「いつものらりくらり躱しているから、アタシも穿った見方しちゃうのよね〜♪…一応これでも天学で講師やってるのよ」
「拠点のことは、オレたちも知らないからなぁ」
「そう…?まぁいいわ。人にモノを教える立場から、今の段階では危険だと思っている情報を、シャットダウンしている…ってことが、あるんじゃないの?いずれ巡り会うわよ」
 赤い髪の子供の件もシャットダウンしていたことを思えば、伝えれていないことがあるんじゃないかとラスコットに聞く。
「誰のことを言っているのかな。ディアボロスのことかい?」
「それは他の人が聞くでしょ?私が聞きたいのは、奴さんのトップのことよ…」
 ボコールが“ヘッド”と呼ぶ者について、知っている情報があれば教えてもらえないかと言う。
「実年齢も見た目も子供らしいけど。…どうなの?」
「う〜ん。…校長」
 確定として考えにくいところもあり、エリザベートの方へ視線をあてる。
「―……あまり、そうだと思いたくないのですけどねぇ。一時期、魔法学校で保護していたのですけどぉ…。血縁者の“破壊”の本能のせいか分かりませんが、突然いなくなってしまったんですぅ」
 告げるべきか考え込み、エリザベートは重い口を開く。
「地上の人を惑わして死に至らしめる魔性がいてね。封印の檻も破っては人に害をなすやつだったよ。逃走してしまったという子が、それと人間のハーフの子なんだ」
「なんとまぁ、破るってことは相当力のある魔性だったのね」
「まぁね。ただのいたずらで済むものじゃないし、言葉をかけてやめるようなやつじゃなかったね。祓魔対象とするしかなくって、その時に連れられているのを見つけたんだよ」
「酷い親でも、子供によっては親だものねぇ」
 ラスコットが口にした“祓魔”は、滅しなければならないという意味だったのだろう。
 生命を重んじる彼らのことだ。
 かなり悩んだ末の決定だったはず。
 放っておけばどんどん人を殺していくだろうから、見逃すわけにいかないのは分かる。
 しかし、幼い子には衝撃的シーンだったに違いないと考える。
「人間のほうの親に渡さなかったのはなぜなの」
「探してみたけどすでに亡くなっているようだったよ。だから校長と相談して、魔法学校で保護することになったんだ」
「逃走する前は言葉とか喋れてたの?」
「うん、ちゃんと話せるようにはなっていたね」
「彼らは祓魔師について妙に詳しい気がしたし、その子がヘッドって可能性はあるわね」
「でも…でも、とてもよい子だったんですよぉ〜…」
 魔法学校から逃走してしまった子供が、ソレだと思いたくないというふうにエリザベートは瞳を潤ませる。
「破壊本能に目覚めたならありえなくはないわ。保護した理由が、まだ小さい子だったから放っておけなかったのは理解できるわ。まさか、暴走するとは予想できないものね」
 そこに放置してしまえば死んでしまうかもしれないし、地上の施設に預けて目の届かないところに置くわけにもいかなったから、保護の決断をしたのは妥当だったと思えた。
「(破壊…ねぇ。血の影響と考えれば、親の復習するわけじゃなさそうだわ。なんとも…まぁ、厄介だわね)」
 ニュンフェグラールで召喚に応じるような魔性や、言い聞かせれば悪事を止める魔性とも、異なる性質の相手のようだ。
 影響が出てしまう前のことを思うと、血縁者がそれだったことが不運だった。
 血に抗えないことなら、どうしたらよいものかと悩んだ。