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リアクション
第4章 無策で特攻は危ないのですよぉ!作戦会議 Story4
「エリザベート校長。あまり思いつめないほうがよいですよ?」
元気付けようとベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)は、カラメルソースをかけたカスタードプリンをエリザベートに差し出した。
「あくまでも可能性の段階ですから」
幼い校長の年を考えると、魔性と人間のハーフの子を保護してから、何年も経っていなさそうだった。
年下の子ということもあって、ものを教えたりして接していたため情があるのだろう。
いなくなってしまったことを思い出したエリザベートは酷く沈んでいた。
「もし仮にそうだったしたら、最悪な状況にならないうちにですね…」
「―…甘いな、ベアトリーチェ。決断する可能性もあるんだぞ」
壁に寄りかかり黙って聞いていた磁楠が口を開いた。
「そ、それは…。ですが、相手はまだ……」
「子供だからと言いたいのか?指令してやらせているとすれば、投獄刑は確定だな。たとえ子供だろうと、相応の罰は受けるべきだ」
直接手を下していないにしても、牢屋行きは致し方ないだろうと磁楠が告げる。
「まぁ今は、どこにいるか不明な相手よりも、今回の相手のことだな」
「はい…。ディアボロスの目的を止めることですよね」
「そういうことだ」
「砂嵐に突入する方法ねぇ…。バーンと一箇所、風穴を開けて、通っちゃうのがいいんじゃない?皆でフレアソウルを使って、ドーンと数秒開けば、エターナルソウルとフレアソウルで加速して、皆で突入出来ると思うの」
「まったく…何を無茶なことを」
力強く突破案を言うカティヤ・セラート(かてぃや・せらーと)の姿に、呆れた様子で眉間に皺を寄せた。
「ちょ、ちょっとぉーっ。せっかく考えたのに、あっさり却下しないでよ、磁楠!」
「皆…という時点で無理がある。扱えない者もいるだろ。それに、私は使っている魔道具は、スペルブックだが?」
「まさか、使える人だけのことよ?持ってない人は、後ろからってこと」
「だとしても…だ。無理に突入すれば、警告の掠り傷ではすまされないぞ」
「試しに石投げてみると、スパパパァアーンッかもよ?」
進入させないためなら、そこまでやるだろうとドレスが想定する。
「先に、術の行使者を減らすとかしなきゃね」
「ん〜…そうなの?」
「カティヤ、強行突破は強引すぎるだろ。確実に目立つからな、全員位置を把握されては困る」
「貴様、敵を取り逃がしたらどうする?やつらは引き付け役を残し、他は生贄に使う子供も連れて逃走するはずだ。愚か者め、その程度も分からんのか」
リオンはトカゲのしっぽ切りの要領で、さっさと離れるだろうというふうに言い、カティヤをキッと睨みつけた。
「ふぇえ〜ぇん、そこまで言わなくたっていいじゃないの」
「フルボッコだな」
「うぅ、羽純〜」
「大丈夫だ、カティヤ。女神として輝け、そして目立て。ただし、突入後な」
へこむ女神を月崎 羽純(つきざき・はすみ)がなぐさめるが、明らかに棒読みだった。
「そ、そうよね!私、頑張っちゃうからね♪」
「立ち直り早いな…。ただのおと…いやなんでもない」
「羽純くん、そのつもりなんでしょ?」
「よくわかったな、歌菜」
女神でなく“囮”として使おうとしていることが、すぐにバレたが幸いカティヤの耳には届いていなかった。
「やつらの目的が、生贄で何かをしようとしているなら、目立つのはまずいってわけだ。“女神”を暴れさせるならその方面へ行くやつらとは、行動できなくなるってことだな」
カティヤを“目立つ囮”として使うなら、救出するチームとは別行動したほうがようさそうだと告げた。
「あ…確かにね」
「陣たちも俺らと一緒にやるか?」
「やるって囮を…?2人も宝石使えるし、その辺はちょっと考えさせてくれんか」
アイデア術を発動させたらひとまず、別でもよいんじゃないかと悩む。
「いったん別れて、術の効果が切れたり危なさそうだったら、呼んでもらうとかにしたらいいよ陣くん」
「あーそうやね、リーズ。そんじゃ、そうすっかな」
応援要請があれば羽純たちと合流することにして、ファーストアクションは赤い髪の子供の救出のほうへ回ることにした。
「刀真さんは、どこ担当するか決めたの?」
「いや、まだだリーズ。助けに行くやつもいるだろうから、手薄になるかもしれないよな。逃走者を逃がすわけには…、うーん…外の先発にするか」
中で囮として引きつける者がいるとしても、目立つわけだから何人かは逃走する可能性があると想定する。
1人でも多く捕縛するために、外サイドを担当することにした。
「どうしても緊急の場合は合流するけど。手が足りていたら砂嵐から出てきたやつを、捕縛するほうに回ろうかと思う」
「分かった、取り逃がさないためだよね!」
砂嵐が弱まったとしても、待機している者がいなければ、容易く逃走されるのは同然だと頷いた。
「セレン。私たちはどうするわけ」
「正直、町のほうも気になるのよね。異変などがあれば駆けつけやすいし外にするわ」
「了解よ。…で、まだ決めてない人いない?」
担当エリアを選んでいない者がまだいるはずだと思い、セレアナは仲間たちへ顔を向ける。
「僕たちも砂嵐に入る人に協力したいけど、ちょっと悩みどころだね。仮定で外にしておくよ」
清泉 北都(いずみ・ほくと)はパートナーと顔を見合わせて、ひとまずその方向で行動すると告げた。
「呪いの対処もあるから、また2人にいてもらえると嬉しいんだけど。…いいかな?」
やはり今回も呪術を使ってくるはずと想像し、クローリスを呼び出せるクリストファーたちに頼む。
「フフ…構わないよ。誰かは残っていなきゃいけないから、中や町のほうへはいけないけどね」
「いつもありがとうね」
「状況を見て、清泉くんたちも生贄救出のほうに向かったほうがよいかもしれないよ?」
「もしそうするなら、先にいった人の後からいくかも。必要なら様子を見て合流するかな」
目立たずに接近するなら、それもよいかと考えてみる。
「その時は、妾たちも同行するのじゃ」
「いいの?嬉しいな、ありがとう」
「はいはーい!私とベアトリーチェも救助のほうに参加するわ」
「み、美羽さん。いきなり目立つことはひかなきゃですよ?」
「えぇっそうなの!?」
“目立ってはいけない”というワードに驚いた顔をする。
「私たちもそっちを担当しようかしら。生贄の子を守りながら戦うのは大変でしょ?ボコール相手ならサンクチュアリでも守れると思うの」
「ワタシ外側なんだよね。ん〜、必要な時に呼んでもらえるかな、フレデリカさん」
「その時は、連絡するわ」
「定期連絡でテレパシーを送る予定だ。俺から伝えようか?」
携帯などで時間をロスするよりも、テレパシーのほうが早いだろうと言う。
「そうしてもらえるなら助かるわ。…終夏さん、まだ決めてないならスーちゃんと一緒に来てもらえる?術のこともあるし、こっちにクローリス使いがいないの」
「うん、一緒に頑張ろう!(サンクチュアリかー…、使うのだいぶ久々かな?)」
長屋とエリドゥの方面で別行動だったため、結界術の発動は火山の時以来だった。
「囮の人が心配だよ、オヤブン」
「担当する者がすくないな。仕方ない…、コレット俺たちもそっちへ回ろう」
突入後は7人でもいったん離れたら3人だけになってしまう。
さすがにそれでは呪いの餌食にされかねない。
「探知してもらったポイントにペイント弾を撃つ。そこを狙ってもらえるか?」
「神速のスキルで動かれそうよ。その点は考えてるの?」
「ポイントの床には、扇状の虹を描くのだけど…どうだろうか。判別しづらくならないように、同じ色は使わない」
「声で教えるとなるとワンテンポ遅れちゃいそうだわ。声の合図はナシのほうがよいわね」
「それと、もしもペイント弾で命中させたら、アークソウルで色指定できないだろうか」
ペイント弾のカラーを色指定して大雑把な位置でも、把握してもらえないかと言う。
「さぁ…私は宝石使いじゃないから。歌菜、羽純…できそう?」
「残念ですけどそこまでは…」
「俺のほうもそういう使い方はしてないからな。色別やっているのは、弥十郎しかいない」
アークソウルの宝石に集中して、色別までやっているのは彼のみだった。
「ごめんね、そっちに回れそうにないんだよね」
「あぁ、気にするな…。となると、地面にポイントのカラーを描くくらいか」
色指定の把握は諦め、アイコンタクトなどで位置を教えてもらばよいかと考えを絞る。
「後は呪いの対策か」
「わたくしとノーンでよろしければ、お供いたしますわ」
天城 一輝(あまぎ・いっき)たちに協力しようとエリシアが挙手する。
「ぜひ頼む。囮のほうでもうしわけないが…」
「細かいことは気にしなくってもいいですのよ」
エリアは違えど目的は同じなのだから、協力し合うのは当然と笑顔を向けた。
「私たちはフレデリカさんたちと組もうか、ミリィ」
「最初に進入して、生贄の子供を探すチームですよね?お父様」
「そうだね、外側のほうも考えてみたいのだけど…ディアボロスもいると考えるとね」
外のほうも気にかかるが、サポートは多めのほうがよいと判断してのことだった。
「テスタメントも行くのですよ!」
「あなたはプリンの恨みってわけ?マイナス感情は魔道具の力が低下するわよ」
「はっ!そうでした、真宵」
食べ物の恨みに燃えていたテスタメントは、パートナーの言葉にあっさり鎮火した。
「ねぇねぇ、綾瀬は?ルカと組んでほしいな」
「途中で離れるかもしれませんが、それでもよろしければ」
「分かってる、呼ばれたら仕方ないもの。そうだ…!エコーズリング持ってるのって、ルカだけ?」
「だと思いますよ?」
所持している者が他にいないか確認するルカルカに綾瀬が言う。
「ルカルカ・ルー。それは…?」
細い指にはめているリングをエリシアが見つめる。
「これがあれば1人でも、使ったことないアイデア術も使えたりするのよ。劣化版なのは仕方ないかな…、該当する魔道具がなければ発動はできないわ。あと使い魔が含まれている場合は、呼び出せる人のみね」
「花嵐も使えるってことですのね。わたくしの場合はニュンフェグラールとビバーチェということになりますの?」
クローリスが呼び出せれば、スペルブックなどなくてもよいのかと聞く。
「うん、持っていればだけどね」
「ほう…興味深いですわ」
銀色ベースのリングを興味津々にじっくりと観察する。
「校長さん、地図なんかはあるかしら?」
周辺だけでも把握しておきたいヴェルディーは、地図はあるのかエリザベートに言う。
「ないですよぉ〜」
「わたくしが作ってきたからあげるわ」
こんなこともあろうかと、真宵は配布用に夜なべして完成させた地図を配る。
「あら、ありがと」
「可愛いイラストつきですかぁ〜♪」
「砂嵐の周りは、何にもなさそうだわねぇ」
「予め自分たちの位置情報は銃型HCに、周りの地図データを入力しておいたほうがよくないか?」
「んと、容量が足りないと思いますよぉ〜、刀真さん」
「そうか…」
“限界容量”というボス敵がいたかと残念そうに俯く。
「ディアボロスの顔は分からないってことね」
目撃者による特徴の情報をまとめ、描かれたイラストをヴェルディーが見る。
黒いフードを深く被っているせいで、顔までは見えなかったらしい。
「ぱっと見ると細身の女かしら?背は描いた人と同じくらい…と。ふむふむ…、赤紫色の短めな髪型なのね」
「喫茶店の店員の態度を観察してたけど、怖がっている様子とかは見られなかったわ。顔はどうか知らないけど、人らしい姿みたい」
デスクの上の用紙に、皆の担当が分かりやすいようにイラストを描きながら言う。
「んもぅ!用紙が丸々んだけど…。テスタメントも手伝いなさいよ」
片側は魔道書を文鎮代わり置いているが、もう片方からくるくると巻きもどってくる。
「むるん、ふぎむにも紙をおさえておいてちょうだい。―……っ!こら、むるん!!爪とぎしないのっ」
パリパリ音が鳴るのが面白いらしく、爪とぎを始めるむるんを叱る。
「それにしても、スタイルがよく真宵よりも…。……はぁ〜」
「う、うるさいわねっ」
またしても比べたれた真宵は、恥ずかしそうに小さな声で言いテスタメントを睨んだ。
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