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 現在から数年後。
 穏やかな午後。

 とある家。

「まだ性別分からないのに今悩んでも仕方ねぇだろう」
 台所で食器を洗っている山葉 涼司(やまは・りょうじ)はソファーで寛ぎながら名前の本を読んでいる妻の山葉 加夜(やまは・かや)に声をかけた。
「そうですけど、生まれたその日の内に名前で呼びたいじゃないですか」
 加夜は妊娠10週目のお腹を優しく撫でながら答えた。
「やっぱり、私か涼司くんの名前を一字入れた名前にします?」
 加夜は本を閉じて横に置きながら言った。初めての出産で本や友達に聞いたりと不安と幸せに満ちていた。
「そう言っても何も思いつかないな」
 涼司は困ったふうであった。昔、涼司の身に大変な事があったが今では普通の生活に戻り今では最高の幸せを噛み締めている。
「そうですね。名前はともかく元気に生まれてくれたらいいです。男の子だったら涼司くんみたいにかなりやんちゃかも」
 加夜はほんの先の未来、やんちゃで外を駆け回る男の子を想像する。涼司の遺伝子故に有り得なくはない未来。
「だったら、しっかり躾けねぇと」
 涼司は苦笑気味に言った。
「女の子だったら甘やかしそうですよね。あぁ、もうこんな時間、洗濯物を取り込まないと」
 加夜は娘の言いなりになっている涼司を想像した後、洗濯物を取り込もうと立ち上がった。
「それは俺がやるからお前はそこにいろ。さっきも俺がやるって言うのに昼飯を作るし」
 食器を洗い終わった涼司が身重の加夜を止めようとする。
「大丈夫ですよ。少しぐらい運動した方がいいんですから」
 何かと自分を手伝い、過剰に気遣う涼司を笑って止め、加夜は洗濯物を取り込みに行った。その後、加夜達は互いのアルバムを引っ張り出して幼少の写真を見て楽しんだ。

「加夜は小さい頃から変わらないな」
 涼司は何かの祝い事なのかお洒落をした幼少の可愛らしい加夜を見て一言。
「涼司くんはこの時可愛かったんですねぇ。涼ちゃんとか呼ばれたりとか」
 加夜は外で撮ったと思われる幼少の涼司の写真に顔を綻ばせた。
「……あのなぁ。確かに近所のおばちゃんとかに呼ばれてはいたけど」
「私も時々そう呼んでもいいですか?」
 照れて不機嫌そうに言う涼司に加夜は可愛い笑顔で甘える。
「……勘弁してくれよ」
 涼司は照れてそっぽを向いた。
「ふふ……もう少ししたらこの子の写真を貼るアルバムを買わないといけないですね。そこにたくさんの写真を貼って……ううん、このこの分だけじゃなくて。気が早いですけど、私一人っ子で兄弟にずっと憧れていたからこの子にも兄弟を作ってあげたいから……子供は二人か三人欲しいです。涼司くんも一人っ子でしたよね?」
 照れた涼司に笑んだ後、加夜はお腹を撫でながら一人ばかりの写真を見ながらぽつりと言った。
「あぁ。賑やかになるな」
 涼司は背けていた顔を再び写真に向けた。近い内に賑やかな家族写真でいっぱいになるだろうと想像しながら。
「だからこれからもお願いします、涼ちゃん」
 加夜は幸せそうな笑顔を涼司に向けた。
「……だから勘弁しろって」
 涼司は呼び名に文句を言いつつも表情は緩んでいた。

■■■

 覚醒後。
「……とても幸せでしたね。でも今は……きっと大丈夫ですよね」
 加夜は現在大変な状態である夫の涼司の事を思い、胸が痛くなるも体験した幸せな未来にきっと何とかなると信じた。



 現在から5年後。
 パラミタ。

「月(るな)、今日は楽しみだねぇ」
 清泉 北都(いずみ・ほくと)は手を繋いでいる少女に話しかけた。
 現在北都はパートナーの吸血鬼の貴族の屋敷で執事として働き、恋人は要人警護の任についている。月とは北都と恋人の娘である。娘がいるのに地球、とりわけ日本で同性婚がまだ認め難い状況であるため籍を入れていなかったり。
「うん!」
 3歳の空色セミロングの守護天使の少女は嬉しそうにうなずいた。
 今日は屋敷暮らしが合わず、故郷の獣人村にいる白銀 アキラ(しろがね・あきら)に会いに向かっていた。

 獣人の村、白銀宅前。

「おう、よく来たな。北都、月」
 元気良く白銀は訪問してくれた北都と月を元気に迎えた。
 しかし、
「……?」
 現れた白銀に月は首を傾げ、深海の青色の瞳に疑問符を浮かべる。
 その理由を知った白銀は
「こっちを所望か?」
 狼姿になり、改めて月の訪問を迎えた。
「わぁ♪」
 月は途端にきらきらと目を輝かせて白銀に抱き付き、家に入った。

 白銀宅内。

「本当に月はお前そっくりでもふもふ好きだよな。人の時に気付かれないのがあれだけど」
 白銀は月にもふもふされながら言った。何度も会っているのに獣人姿の時に首を傾げられるのが複雑だ。ちなみに北都も月に負けないほどもふもふ好き。
「……大きくなったら分かると思うよ」
 娘を眺めて和んでいた北都は軽く笑いながら言った。
「で、なんでアイツと一緒に来なかったんだ? 言えば一緒に休む許可は貰えたはずだろう?」
 白銀は改めて人数が足りない理由を訊ねた。
「一緒だと君がのんびり出来ないからさ」
 北都は即答した。
「……のんびりって、今もそれほどのんびりしてはいねぇと思うけど」
 白銀は微妙な感じで答えた。こうして話している時も月のもふもふへの愛を全力で受け止めている。
「そういう意味じゃなくてね。精神的にという事だよ。愛しい娘が自分以外の男に抱きついて喜んでるなんて!! って、不機嫌オーラを君に向ける事になるのは目に見えてるから」
 北都は言葉にした情景を想像しながら言った。
「あぁ、そういう事か。昔からそれ受けてるぞ」
 白銀は北都の答えに納得すると共に昔の事を口にした。月が生まれるずっと前の事。
「昔からというと……」
「そっ、お前がオレをもふってる時、アイツ同じような顔してた。好きなものを取られたって感じでな」
 白銀は北都の言葉が終わらないうちに恋人がまだ北都の特別ではなかった時の事を話した。
「……今ならそれがよく分かるよ。当時は分からなかったけど」
 北都は昔を思い出し、苦笑した。
「本当、お前らは昔も今も変わらねぇな。まぁ、それがいいんだろうけど……というか眠っちまったんだけど」
 白銀はカラカラ笑った後、月が白銀に抱き付いたままいつの間にか眠っている事に気付いた。
「もうしばらく頼むよ」
「仕方ねぇな」
 北都のお願いに白銀は月が目覚めるまでじっとその場に待機する事となった。
「みんなと幸せに過ごせたら同じでも構わないね」
 北都は眠る我が子に優しい眼差しを向けた。

■■■

 覚醒後。
「……あれが僕の明るい未来か」
 北都は体験した未来を振り返っていた。自身の幸せを夢見る事が無いため、少し興味を抱き被験者となったのだ。
「……悪くは無かったな。それほど変わりなかったけど」
 と白銀。立場は変われどもふもふされるのは変わらなかった。